七十七話 オーナーとはカードの所有者であり、コントローラーとは限らない




 パンパンパンと音が鳴る。


「はーい、全員一旦休憩。ファイト中でも手札はそのままで」


「それぞれノートに自分と相手の出したカード、記録してなぁ。終わったあと、見直しするからしっかり書くんやで」


『はい!』


 手を叩きながら告げるジグ部長とリナさんの声に、威勢のいい返事があちこちから上がる。

 うーん。

 本当にLife部も変わりましたね。


「なんや、ドア。そっちはもう終わったんか?」


「あ、リナさん。はい、私のファイトはちょっと中断になりまして」


「中断?」


 他の子たちの指導に区切りがついたのだろう。

 声をかけてくれたリナさんに頷いて、目線を向ける。


 そこには崩れたデッキを拾い直す部員。


「デッキ破壊かっこ物理かっことじかいな」


「時間制限で焦っちゃったみたいです」


「まあしゃあない。ドアとのファイト、


 そうなのである。


「ドアのファイトは、相手が悩みがちですから」


 部活の時間は限られている。

 だけど、ドアのファイトはデッキのスタイルもあって時間がかかりやすい。

 ドアが幾ら早く判断をしても、相手の子が長考してしまって時間がかかってた。ジグ部長やリナさんならさっさと決めてくれるけど、他の部員の子は五分以上もかかるのがざらだったり、何も考えずに出してたのが丸わかりだったり。

 一回の部活で多くて二回、一回しかテーブルファイトをこなせなかった。

 だから試合でもない一回のファイトは30分以内と決めて、お互いの持ち時間は15分。

 一回のターンで使えるのは3分まで、と将棋用の対局時計と手で押せるストップウォッチを用意してる。

 最初に始めた時は慣れなかったものだけど、今ではコツを掴めてきてるのかみんなカードを切る判断が早くなってる。

 まあ多少手癖で切って思考停止してるのが混じってるのは改善点だけどおいおい指導していけばいい。


「やっぱりフツさんはスゴイです」


 この訓練方法を提案してくれたのは茂札普夫フツオさんだ。

 お店に遊びに行ってフリープレイした時に相談したら、この形式を提案してくれたのだ。

 おかげでドアもある程度ファイトの回数をこなせるようになった。

 ……まあ何故か部員の皆がドアとファイトする前に冷感シップを額に張ったり、砂糖たっぷり入れたミルクコーヒーがぶ飲みし出したけど。


「はいはい、ごちそうさまやで。この調子で冬まで磨けていければええんやけど」


「フツさんが入ってくれれば安心なんですけどね。やっぱり難しいかなぁ」


「あれ? うちかジグがナチュラルにレギュラー外されそうになってへん?」


「みんな少しずつ強くなってますけど、冬までには間に合いそうにないんですよねぇ」


「ぉーぃ、否定せんのかーい」


 冬のエレウシス。

 そこに出るには選手層が今のLife部はちょっと薄い。


 エレウシスは各学校ごとに出られるチームは3チーム、1チームが3人だから合計9人送り込めるけれど殆どが各地方大会で潰れて残るのはそれぞれの1チームだけ。

 夏のあれから新しく入ってきた部員たちもいるけれど、ファイト強豪校でもないうちの学校ではやっぱりそんな強いファイターはいない。

 殆どが地区大会も突破出来ずに敗退してしまうだろうことがわかる。


 そしてなにより、ドアたちも盤石の強さというわけじゃないのだ。


 まだまだ腕を磨かないといけないのに、顧問の先生はあくまでも立場上で手続きをしてくれるだけで、ファイトの専門家ではない。

 だから他の子たちの指導にかなりの時間を喰われている。

 ジグ部長の指導の腕は間違いないし、リナ先輩も面倒見がいいけれど、訓練の時間が取れていない。

 ある程度形が決まったら、MeeKingいってフツさんたち相手に調整をしてるとか相談をしてもらってはいるけれど……


「指導員が欲しいですよね……せめてフツさんぐらいに強くて、色々教えられる人が」


「無視されとる? されとるなぁ、これ」


「難しいですよね?」


 というわけで聞いてみた。


「うわぁ、いきなりこっちに返事すんな! ……まあ難しいと思うで」


「その心は?」


「関西の人間がどいつもコントと大喜利得意なわけじゃないで?? まあぶっちゃけていうとやな、ウチらのレベルの問題や」


 レベル?


「ウチらはまがりなりにもエレウシスを優勝したんや。あの優勝すれば実質百命ハンドレッドスターズ入りも夢じゃないと言われてるあの大会を、や」


 ふぅと遠くを見るような表情で、息を吐いてリナさんは言葉を続けた。


「実際、あの決勝戦出てきた連中はどれもこれも百命候補言われてたバケモン共やったしな」


「たしかに」


 あのエレウシス本戦に出てきた人たちはどれも手強かった。

 けれど、とりわけ決勝戦に出てきた三人は記憶に残っている。

 リナさんが戦った――狂気のバーン使い。

 ジグ部長が戦った――童話死神使い。

 そして――……


「今更そこらへんのファイト塾だの、講師だのひっぱってきてもなぁ。教わることがあるかどうか、そもウチに、ジグに、ドアも全員スタイルが違うやろ? 1つのスタイルだと教わることないで」


「うーん」


 難しい問題です。


「ある程度強くなりすぎると、こういう問題も出てくるから困ったもんやで」


「リナさんも、孤高の狼やってましたもんね」


「チクチク痛いで! 過去は過去や!」


 最初出会った時はいかつい革ジャンに、ガム膨らませてた不良スタイルだったんですよねえ、リナさん。

 まあ戦える相手がいなくて、大会にも出られなくて、鬱憤が溜まっていたというのは今ならわかる。

 自分が最強というわけでもないのに、強さを磨ける、試行錯誤をぶつけられる相手がいない孤独感は少し前のドアにもあった。

 なんだかんだで大会に出ることになって、無我夢中で勝ち残っていって、優勝するまでは考えもしなかった苦しみ。

 ドアは運よくリナさんや、ジグ部長、そしてなによりドアに勝ってくれたフツさんという強者がいるから解放されているのが幸いだ。


「あのードロシーさん。1つ聞いてもいいですか?」


 そんな事を考えながら、これからどうするかリナさんと話していた時だった。


「はい? なんでしょうか」


「ドロシーさんて、今まで戦って一番強かったファイターってなんですか?」


 部員の一人に、好奇心だろう質問をされたのは。


「一番強かったです、か?」


「はい。私も強くなりたいので、エレウシス優勝したドロシーさんが強いっていう人がいたらそれを見習ってみたいんです! ……その殆好奇心だったんですけど、だめですか?」


「んー」


 強い、強いかぁ。

 直近で負けたのならやっぱりフツさんにしてやられた唯一無二だけど、あそこの店員のサレンさんにも勝ったり負けたりしてる。

 マリカちゃんには打ち消せない秘虎出されると明確に不利入るし、ユウキちゃんも引きが異様に強いから最後まで油断が出来ない。


 ドアよりもまだまだ強いのはたくさんいるけれど、あえていうなら。


「一番強い……かどうかはちょっとわからないけれど、二度と戦いたくないファイターはいるかな」


「たたかいたく、ない?」


「うん。凄い楽しかったけど、出来れば本当に二度と戦いたくないデッキがあった」


 そう。

 ちょうど思い返していたからこそ、すぐに頭に浮かんだ。


「辛うじて、あの時は勝てたけど今でも実力で勝てたとは思っていない相手」


「! それってもしかして」


「うん。あの人――……”絶対女帝”」


 思い出すだけで、ラムネを齧りたくなる彼女のデッキ。



「――【迷宮ラビリンス】 あれとだけはもう二度と戦いたくないですね」







 ◆




 <不規則な通路>秘宝と共に現れたのは艷やかな鉱物で出来た球体だった。

 ほの暗く、血のような赤い火を纏った宝石が浮かびあがっている。


「……クリーチャー?」


 <大酸化事変>はクリーチャーを場に出していると生贄に自壊なってしまう。

 だから出すはずのないものだったのに、出されたそれにソレは僅かに警戒する。


「<ほの暗く穢れた烙印ブラットブラッドブランド>の説明をします。これは


「2オドDe3/3??」


 明らかに払ったコストに見合わないステータス。


「秘宝のほうはあとでわかる。俺の行動は終了です」


「己も動かない、終了だ」


 案山子ジャマと”闇狩り”がメインフェイズを終える。


「――バトルフェイズに移行。この時から<不規則な通路>の効果が意味を持つ」


「イミ?」


変容色彩CCを起動、


「色彩を起動。2オドで、


「……?」


「不規則な通路の効果は単純だ。全てのクリーチャーは攻撃に参加出来ない」


「参加デキなE?」


「ただし、これはバトルフェイズ中にそれぞれ1オド支払うことで参加可能に出来る。バトル、解除した<ブラットブラッドブランド>で攻撃」


「こちらも解除した<カミレイサテ7/4>と<スルラビワイス《3/5》>の2グループで攻撃!」


 新しいクリーチャーと雌共2体、合計3体の攻撃。

 こちらでブロックに使えるのは1体、<魂啜の逆蜘蛛3/3>だけ。

 新しいクリーチャーは所詮3/3、蜘蛛で受ければ殺せる、が。


「<逆蜘蛛>デ7点ヲブろック!」


 ――


 レガシーの攻撃ほどではないが、”闇狩り”のクリーチャー雌共の攻撃は何故か身体に染みる。

 こちらより格下とはいえ闇のカードの影響か、だからそちらを選んだ。

 それにまだまだライフは残っているが、無駄に大きいダメージを受けるイミはない。

 パワーとタフネスを逆転して判定させる逆蜘蛛で、大きい方をブロックを命じ……


「ヌ?!」


 動かないことに気付いた。


「ああ、言い忘れました。不規則な通路は。クリーチャーのテキストをどうぞ」


 逆蜘蛛の詳細文面効果テキストを確認する。


――――――――――――――――――――――――――――――

(1):このクリーチャーは攻撃に参加する。

    この能力はバトルフェイズでしか発動できない

(1):このクリーチャーはブロックに参加する。

    この能力はバトルフェイズでしか発動できない

――――――――――――――――――――――――――――――


 逆蜘蛛にそんな文面が追加されていた。

 ブロックにも同じ制限がかかる、そういう効果。


「やや孤死イ! 1オド使って、ブロックする!」


「コストバーンで1点!」


「ぐギィ!」


 肉体から命が弾ける。

 だが、<大酸化事変>の対応はもう憶えた。

 あれでコストオドが増えるのは基本的な色彩だけ。それ以外の変容土地や魔石、魔法などで増やしたオドで払えば自傷コストバーンはしない。

 今回のデッキ、自分のメインデッキは黒の単色のため変容色彩を入れてなかったが、次にいれて差し替える。

 それだけで克服出来る!


「こちらをブロックしないのか……戦闘開始。ブロックされない<ブラッドブラッドブランド>は素通しで3点」


「GA?!」


 燃える火の玉となって飛び込んできた宝石、それを手で受ける。


「カミーユたちは【貫通】があり、1点貫通! さらにスールたちの3点で合計4点」


 さらに壁にした肉壁を越えて、痛みが生じる。

 この身体にダメージを受ける。


「ぎ、GIGいぃいいGIぎぎぎ!」


 これまで溜め込んできた精命力が削れる痛み、痛み、痛み。

 だが。


「だめチェッ苦!! 呪言<焼畑>! <焼畑>! 色彩6枚戻シ、ライフを回復福福ふく福フクフクフク!」


 削れた分、ライフデッキから呪言が発動する。

 解放感。

 溜め抱えていたライフの発散はたまらなく心地よい。

 何度も何度も奪って、啜って、溜め込んで、流すエクスタシー。


「……ダメージを1に抑えたか」


「さア、これだけ戻シテもま駄色彩はたくSANあル。TURNを終わレ! その秘宝モENDダ」


「――いいえ、まだ終わりません。自分の場を見てみろ」


「NN?」


 気づく。

 自分の場に、見覚えのない赤い光が浮かんでいることに。


「<ブラッドブラッドブランド>は対戦ファイターに戦闘ダメージを与えた場合、


 それも。



 より強く、より鮮やかな光を放っている。

 まるで血を啜った剣のよう、あるいはバスタブに漬け込んだ肌のようで。


「愚かオロかオろカ!! デメリットくりーちゃーを出す愚行!」


 納得した。

 こんなデメリットがあるならあのステータスも納得だ。

 たった2点で、3/3の速攻・貫通のクリーチャーなんて都合が良すぎる。

 相手のクリーチャーと相打ちしてもらうためにだけにしか撃つしかない。


「ロスロスロ「ターンエンド」スロスロス「エンドフェイズに移行します」ロス!」


 妨害しか脳がないスピリットもない、共鳴の兆しもない人間ではこの程度!

 ここまで上手く立ち向かってきた”闇狩り”の足手まとい。


 さあ、そろそろ相手の動きも見えてきた。

 あの大酸化事変魔石も自壊する。

 奥の手を引き出すための反撃を始め「エンドフェイズ、俺の場に【コントロールクリーチャーはない】ため<大酸化事変>は維持される」る?


「さらに<ブラッドブラッドブランド>の最後の効果が発動する!」


 案山子が手袋を嵌めた手を上げて、首を掻っ切るように「」振り抜いた。



「そのコントローラーは(3)支払う、そうしなければ



「ま多カよォォォ!! 3オド!」


 色彩を2枚起動する。


「コストバーンだ」


「GAあ!」


 1点余ったロス分がダメージになる。

 鬱陶しい鬱陶しいうざいうざいうざい。

 なんとでもなるが、鬱陶しい。


「WぁTAしのターン!!」


 苛つきながら叫ぶ。

 これでいいのか、これで終わりなのか。

 これがお前らの底地なのか。


 それなら、それだけならばこの程度で諦めろ。

 どうせ。


「ドロー! 色彩ィをセットぉ」


 最後にはワレが勝つのだから。


「来タレ、蹂躙ノ冠。6オド――<喰手 頭蓋王餓クラウン・オーガ>を召喚!」


 


 誰もソレには勝ちきれない。






 ◆



「バトルゥ! <喰手 頭蓋王餓クラウン・オーガ>To<ブラットブラッドブランド>デ攻撃! 2オドォ!!」


「ストップ。その2体が参加可能になった瞬間タイミングで、4オドで瞬間魔法<潮流>を2枚発動。王餓とブラットブラッドブランドをオーナーの手札に戻す。王餓は再生があっても、バウンスには耐性はない」


「!? <ブラットブラッドブランド>が何故、お前のトコロに」


「これの所有者オーナーは俺だ。そして、自分がオーナーのオブジェクトを戻したため1枚追加ドローする」


「うざイうざいうざいウザい!」


 地団駄を踏む”101人目”。


「バトルフェイズは終わりだな」


「ま駄だ!  <喰手 頭蓋王餓クラウン・オーガ>を再び召喚スル!」


 再び呼び戻されるのは手札がある限り、不死身の喰手ハンドグールの王。

 教授も切り札にしていた最強の喰手。

 場に存在している限り相手の引いたカードドロー、さらに対戦相手が通常のドロー以外でカードを引く度に連動してカードを引くことが出来る。

 まさに共鳴率殺し。

 余りの強さに現存するのも限られているはずだったものを、奴は手にしていた。

 しかし。


 ――無駄だな。


 もはやあいつには無意味だろう。

 既に……奴は


「GuRUロロロる……」


「酸素のロスはやめてくれませんか? 限りある資源がもったいない」


 少年の口撃トークに、半分近くの眼光が消えた”101人目”が不愉快な唸り声を上げる。

 はたして奴は自覚しているのだろうか。


 ……


 少年のデッキは恐ろしい。


 そのデッキを構築するカード1つ1つは注目するものではない。

 たった2枚を除いて出されたのは全てアンコモンとコモン。

 資金と時間さえあれば誰でもかき集めることが出来る凡庸的なデッキだ。

 問題は目的コンセプト、そしてその設計ビルド


 自分は事前程度説明されていて、調


「本当に恐ろしいものだな」


 偶数コストでなければ発生し続ける<大酸化事変コストバーン

 持ち得る限り命を奪い、無視できないダメージを与えてくる<ほの暗く穢れた烙印クロック

 さらに攻撃と防御にコストを要求する<不規則な通路ロック

 的確に重要なものだけを打ち消す妨害カウンターに続く妨害ソフトロック

 1つ1つだけならばなんとでもなる妨害、障害、行動を組み合わせて、それは目を潰し、耳を封じ、鼻を潰し、足元すらもおぼつかない。

 一歩一歩踏みいるはずの、ゴールまでの距離すらも測れなくなる。

 情報処理の過負荷を積み重ねられていった相手はミスをする。


 即断で、少年の【ブラットブラッドブランドクリーチャー】と相打ちするべきという判断も選べなかったように。


「あのデッキは」


 その名は――


迷宮ラビリンスか」


 そう呼ばれるに相応しい。










――――――――――――――――――――――――――――――――――


 手にするものに不幸を与える

 手にするものに栄誉を与える

 血に塗れた手から手へと渡り歩くほど、価値が出る。


                 ――ブラットブラッドブランド





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