七十八話 秘跡は召喚・発動の時のみ適応される




 監獄ジェイルと呼ばれるデッキタイプがある。

 大まかな分類上アーキタイプはコントロール、デッキタイプとしてはめっちゃ邪魔ハードロック気味のうざいソフトロック

 Lifeとはまた別の日本国産のTCGトレーディングカードゲームで提唱されたデッキタイプである。


 その設計思想ゲームプランは置物系を主導に、いわゆる秘宝や付与魔法、魔石などで相手の動きを阻害し続けて、自分の勝ち筋を通すこと。


 迷宮はその中でも特徴的で、偏執的な》だ。


 迷宮の作り方は単純だ。

 まずクリーチャーは殆どいらない。

 何故ならLifeの華である派手なクリーチャーによるバトルを端から捨てている。

 40枚のメインデッキに入っているクリーチャーは<ブラットブラッドブランド>の2枚だけ。

 ダメージ源などたった1つあればいい。

 何故ならLifeは勝手に毎ターンライフをすり減らしていく消耗戦なんだから。

 最終的にたった1点――打ち消すついでにライフを回復する<精還元>なり<変換吸収>でライフを増やせばいいし、<辺境への流刑フロンティア・トゥ・エグザイル>でクリーチャーの一体でも除外ついでにライフを削ればいい――で上回ればいい。

 そうすれば先に相手が死ぬ。

 そのために詰め込んだのは、確定した打ち消し、不確定なデメリットを背負う代わりに軽量な妨害や打ち消し、耐性で防ぎにくいが時間稼ぎにしかならないバウンス系、攻撃を阻害してダメージを通さないロック系の置物、徹底的に時間を稼ぐことを前提に組み上げる。

 そして、


 この迷宮の目的コンセプトはただ1つ。

 相手の思考コントロールを破壊すること。

 破壊といっても嫌がらせや、ルール違反じゃない。

 ただの処理情報を増やすだけ。

 そう、ただ。

 <大酸化事変>でカードコストが偶数か奇数か意識するようになり。

 <不規則な通路>で戦闘を防御と攻撃させるかの数を意識させるようになり。

 <ブラットブラッドブランドBBB>を押し付けて殴り返すか、それともさっさと処理するかどうか悩ませて。

 <浅い泥溜まり>で行動済ステイになったクリーチャーが-1/-1修整受けて弱体化の計算をするようになり。

 <二度寝>での永眠カウンターでレディするのが1ターン遅れて、リーサル計算に誤差が生じていく。

 そんな繰り返しを、相手が死ぬまで繰り返す。

 陰湿で、後ろ向きで、面倒くさい。

 計算上18ターンに渡って思考の読み合いを要求するコントロール偏執狂のためのコントロールデッキ。

 今までこれを使わなかった理由がある。

 まず1つ。


 ――


 ラビリンスはテーブルファイト――普通にテーブルを挟んで、カウンター用のダイスをじゃらじゃら用意して、カードを並べてゲームするためのデッキである。

 制作者のあいつだってそう考えるだろう。

 TCGは知的対戦遊戯だ。

 それ以外には便利にしたって構わない。

 例えばパワー/タフネスステータスの変動に、カードの上に10面や20面ダイスを2個乗せる。

 昏倒カウンターのマーカー代わりに小さなプラスチックのコインなりチップなりをカードの上に乗せる。

 そうするだけで処理する情報が簡単になる。

 盤面がわかりやすくなる。

 理解が出来る。

 なにも暗算する必要はない、電卓だって用意していい。そろばんはやめとけ。

 プレイヤー同士で了承があれば、そうやって互いに理解出来る盤面に整えて、その上でしのぎを削る。

 言うなれば不要な手間を省いた頭脳とカードの切り合い、思考力の比べ合いが出来る。


 けれど、ボードでのファイトではそれが出来ない。


 クリーチャーに乗せられたカウンターは視覚で見てわかる、管理しているライフもわかる、だが範囲サイズが大きい。

 立体的に拡大されて投影されたクリーチャーに、自分の盤面しか見て取れない不透明性。

 本来ならテーブルの上を見て深く読み取るべきものを、見比べて、大きく見渡して想像しなければいけない。

 使い慣れているデッキの保有者ならともかく、初見で相手をするファイターにそんなものを求めさせる。


 ゲームファイト


 勝つためだけならこんなデッキじゃなくてもいい。

 エニグマでも、この世界だとまだ必須パーツが禁止されてない高速コンボでも、奇跡と偶然でもオカルトでもなんでも使ってかき集めたトップメタのデッキでも使えばいい。

 己の記憶にある限りの未来のデッキの能力なり、アイデアなり書き記して、カードの制作会社にでも持ち込みでもすればいい。

 それが実現可能かどうかはともかくとして、勝ちたいだけなら、好き放題したいだけなら、いくらでも手段は選べただろう。

 だけど、俺はそれをしなかった。出来なかった。

 だってそうだろう?


 それの何が楽しいんだ。

 それの何が対戦ゲームなんだ。

 それの何が遊戯ゲームなんだ。

 それの何が趣味救いになるんだ。

 カードで食っていくプロならともかく、趣味で、紙でしばきあうだけの交流をするだけなのにそんなものをやる必要がどこにある。

 そんなくだらない世迷い言を叶えることに何の意味がある。

 ……ああ、わかってる。

 強くなる。

 紙で強くなる、カードゲームが社会を支配している世界なら、そんな生ぬるいことなんておかしいだろう。

 もっと必死になるべきだろうとは、理性では考えている。

 もっと暴れるべきだと、何の因果か知識を、人生の延長線をやってる、まともに学生なんてやってる自分がおかしいんだっていうのもわかる。

 だからこんなふざけた名前、誰かの主人公になんて成れやしない文字通りの茂札モブみたいな生き方になっているんだろう。


 本当に馬鹿。

 死んでもまるで成長していない。

 俺から僕になっても変わっていない愚か。

 だからこんな本来なら首を突っ込む必要もないのに。

 レガシーなんて持ってもいないくせに。

 闇のファイターどころか化物だろお前どこの生物兵器? みたいな奴とカードで殺し合いをしてる。

 本当に賢く生きることなんて出来ていない。

 自分が怪我するリスクも考えずに通り魔から友人を庇って、自分がああこれまじで死ぬわっていう怪我してるのに流れ作業で子供連れを襲おうとしたカスをぶち殺しに行った時からまるで成長していない。

 いや、成長していないどころか。


 むしろ俺は――…………



「ターンエンド」



 無駄な思索を打ち切り、手番を終える。

 バトルフェイズを終えてのメイン2,かけた時間は2秒と瞬き1回分。

 意識的に、間を開ける。

 そうすることでこちらの手札がまだ動ける要素がある――と、


「ろろロろロ炉RORO……」


「そちらのターンです」


 相手のうめき声に返事を返す。


「ロス……ろ、Su……GO露す!」


「そちらのターンです」


 相手のうめき声に返事を返す。


「たた、ターン!」


 相手のフェイズ確認を無視した発言とドローする手つきを見る。

 たくさん無駄にある目。

 その大多数が光を失った白濁したものだが、それがギョロギョロと動きながら盤面を見る。


 ――手札より先に盤面を見た。


 動きはもう決めているな。


「通常魔法<魂啜の謝肉祭>ヲ発動! 墓地にアる<魂啜の謝肉祭>は2枚! さラに<魂啜の唇噛羊>は墓地に置かれている時、【謝肉祭】の名前を持つ! <ほの暗く穢れた烙印ブラットブラッドブランド>に、5点ダメージ!」


「そして、5点回復する」


 もはや死に体だったライフをわずかばかり回復する。

 先のターンで引いた<貪欲の牙箱ミミック>を使ってでも増やした手札の1枚で出した単体除去。

 カスの手札は残り2枚。

 片方は魔石か呪言、残り1枚のメインカードで切り込んでくるか?


「ライフヲ回復! さらに3オドで<魂啜の唇噛羊>ヲ召喚して、ターんエンド!」


「……」


 ――まただ。

 ……噛み合わない。


 


「こちらのターン」


 延命作業に入ったらしい化物の宣言に、顔色を変えないように気をつけながら返事を返す。

 これだ。

 これが、俺の迷宮ラビリンスを使えない理由。


 俺の技量プレイングが足りていない。


 ラビリンスは決して強いデッキではない。

 はっきりいうと、デッキパワーだけならトップメタに何段階も劣る。

 レアカードもろくに入っていない、必須だろうパーツカードもないこれならなおさらだ。

 ダメージを与え合うことで使えるコストが増えるLifeというシステムで、ただこちらからダメージを与えないことで可能な限り落としてはいるが、切腹加速だってある。

 ただ考え無しで打ち消し、妨害し、時間を稼いでも殴り切られるだけ。


 それでも勝ててたのは使い手が天才だったからだ。

 迷宮を造り上げた誰もが認める天才ビルダー。

 どんなデッキでも作れるし、使おうと思えば使えるだろうが、あえていうならコントロールが好きだという生粋の犯罪していないだけの詐欺師。

 プロにならなかったのはただの趣味だろう雌狐。


 今野イマノ 雪吹季フブキ


 皆コンノって読み間違えて、コンさんだのコン子ちゃんだの言われる度になんかキレてて、訂正するのもすぐに諦めるもやしの雌狐。

 けど、あの雌狐のタクティクスは天才だった。

 というか頭がめっちゃよかった、性格は捻くれていて本当に本当にめんどくさかったけれど

 俺のプレイングが100だとすると、あいつは多分500……いや460……480ぐらいだろ、脳死アグロデッキでぶん殴り倒したことあるし。

 この底意地の悪いポテンシャル、細かい連動、相手の誘導、その動きに対する備え、それを出せるとしたらあいつだけ。

 これを普通に使う、その全てを使い切るのには俺の技量の全てを費やしてようやくトントンだろう。

 100の点数を出して、ようやく八割ぐらい引き出せる。


 ――今の俺だと足りない。


 


「レディ」


 相手の行動を読む鋭さが、想像力が足りていない。


「アップキープ」


 自分の目線、カードを切る判断の速度、読み合い。


「ドロー」


 そして、なによりも【強い動きが敵に出てこない】

 息を短く吐く。

 ゲームファイトに集中していないのが何よりも証拠だ。

 たくさんの、たくさんの、出てくるだろうデッキの仕込みも、張り巡らされてるだろうコンボを、こちらの何を警戒しているのか読み取るための観察も、二重三重に走らせているだろうゲームプランも、ケアして、ケアして、ケアして、神経を張り巡らせながら動いてるのに。


 何もしてこない。


 もっと殺意の乗った仕掛けプレイがこない。

 痛み程度、食いしばって我慢すれば痩せ我慢できる程度のリアルダメージで満足しているだけの動き。

 相手に殺意が足りていない。

 もっとカードに。

 出す動きに。

 死に物狂いで考え込むような動きが来ない。

 自分の想像しなかったような、驚愕するような、見落とすような動きがない。

 丁寧に、真剣に、気を配って警戒しても、それが意味がない。

 ケアしたおかげで助かったような経験が、ろくにない。

 だからしなくてもいいんじゃないか。

 だからしても意味がないんじゃないか。

 そんな衝動に駆られる、もっと気楽にやりたくなる、息苦しい。

 それでも出来る限り自分でも考えられる限りはケアし、強く握っているはずだけど見落としが幾つもあるだろう。

 前世の俺だったらしなかったような稚拙なプレイミスが。

 隙を突いてくるような殺意の応酬があまりにも足りていない。

 この迷宮だってそうだ。

 迷宮には幾つものパターンが有る。

 <大酸化事変>をメインプランにしているこの迷宮は、一番簡易的シンプルなものだ。

 毎週のように、下手すれば対戦ごとに違うギミックを主軸にした迷宮デッキを組んできたあいつの迷宮シリーズ。

 他の迷宮で必須なカードがこの世界だとレアだったりして手に入らなかったのもあるが、これが一番説明が簡単で、思考リソースの処理が楽で、今の俺でもなんとか扱える。

 だけど、本来の使い手だった雌狐ならもうとっくに相手に詰ませているだろう。

 特にあの


「メイン」


 手札を視界の端で確認する、盤面を見直す、相手の墓地を見る、相手の手札を見る。

 相手が馬鹿なら馬鹿に応じたプレイをするだろうし、俺が3秒も考え込むような盤面でも瞬き1回で流すだろう。 


「さて」


 俺は弱い。

 弱くなっている。

 だけど、それでも。



 こいつ程度には十分だったようだ。


 ――手札に握った【コイツ】の出番はないだろう。






 合図が来た。


「己もゴー。バトルフェイズ。1オド支払い、<カミレイサテ>の1グループで攻撃」


「1オド、<魂啜の唇噛羊>Deブロック!」


 こちらが変容色彩で払った1オドに対して、”101人目”は基本色彩で2オドを出す。

 ……空打ちしないのか。

 誘導したとはいえ、ここまで気付かないのかと呆れが生じる。


「羊のタフネスは2。結果、姉妹たちの7点から5点貫通ダメージ」


 <不規則な通路>による攻撃・ブロックの解除能力は、クリーチャー自体に与えるもの。

 (1)オド支払えば、自分が参加できるようになる。

 しかし、


「GGIe、痛いイタイ!」


 ……ブロックしないで能力のために使うと思ったが、延命したか。

 残った相手のライフは10を切った。

 次のこちらの攻撃で消し飛ぶだろう、あれだけ膨大にあったライフが嘘のような削れよう。


「メイン2に移る、こちらはない」


 <喰手 頭蓋王餓クラウン・オーガ>も墓地に落としたあと、回収しようとした魔法を打ち消して除去した。

 そこからだ。

 こいつは明らかな延命――遅延行動に移った。


「メイン2、俺もない。エンドだ」


 ライフを回復し、出したクリーチャーを盾に、生き足掻く。

 こっちのライフが尽きるような祈り。

 いや。


「ではこちらもターンエンド」


 次がある前提の動き。

 これまでの。

 こいつのあり方そのもののようなファイト。


「だから、覚悟したほうがいい」


 だから。



 伝えるのはここだろう。


「? まだDA! まだ負け手ナァイ!」


 ”101人目”が首を振り、わざとらしい身振り手振りでそう叫ぶ。

 その目の多くの光が消えているが、まだ残っているのはそれだけ奪ってきた他者の精命力の象徴だ。


「”101人目”。貴様はこれまで多くのファイターを始めとした人間の尊厳を奪ってきた」


「ロスロス、不滅HAな! 命は失わレル、悲しいが、生姜☆ナイ」


「そんなお前を誰もが倒そうとしてきた。勇気あるファイター、教会の聖伐者イレイザー、貴様に狙われた犠牲者たち、時には闇のファイターでさえも。そう、教授プロフェッサーでさえも……だが、お前はまだ生きている。何故だ」


「――それハワタシ我レイガイだから!」


 先程まで痛がっていたはずなのに、それまでの態度から一転して両手を大仰に広げる。


「僕は不滅! オレHA不死! 何度でモ立ち上ガリ、お前たちダケが失わレル!!」


 どうせ敗北は避けられない。

 だが、ここで負けても次がある。

 だからここで開き直る、そんな見え透いた態度が見える。

 怪物ではなくもはや人間でしかない、そんな”101人目”に。


「いいや、お前は不死でも不滅でもない……”101人目”、お前は


 着けていたサングラスを外して、奴を見た。

 同時に、構えていた彼女たちも同じ方角に目線を向けた。


「…………? ? ナニが???」

 

 だが。


「お前程度の闇ノファイターなど一々憶えテない、捨ててしまったロスロスロス!」


 嗤う。

 嘲笑う声を上げて、震える。

 ああ、そうだろう。貴様の、闇のファイターの性根なんてそんなものだ。

 己を含む外道共には相応しい人間性。


「――


「ッ」


 笑い声が止まる。


「多くの人間から精命力を奪って溜め込んでいる。それはネームド共ならよくあることだが、お前はより陰湿だ」


 堕悪ダークカード。

 それを所持するダークファイター。闇のカード使いにおいても最底辺、人間性を捧げた果てのエゴの怪物共。

 それらはどれもかれも数十、百年単位で敗北しない限り他者の血を啜りながら生きている化け物ども。



「アンティ、その身代わりに【自分の血族を捧げている】」


 そして、”101人目”はその中でも最悪。


代償ペナルティ


 負ける度に、活動を休止している間に何をしているか?


「そう」


 それがこれだ。



 何も知らぬ家族に、或いは適当な相手に寄生し、その家族に自分の子残機だという呪いを注ぎ込む。

 身体を奪われ、寄生された女性が、男が、その家族に呪われた血を与える。

 それは世界中に撒き散らされた呪いの因子。

 全ては自分の生贄にするために、呪いの苗床をばらまく邪悪。

 ”101人目”の因子を継ぐ女性だけがペナルティを背負う。

 それは歴史上何度も行われた理不尽な巻き添え。

 突然発狂し、突然狂い出し、何も知らぬところで死に、痛みに悶えて、尊厳を奪われる彼女たちはこう呼ばれて、迫害された。


「自分の身代わりである残機――”魔女”を生み出している」


 闇の因子、闇のカードに魅入られ、あるいはそれを生み出しかねない呪いを背負う少女たち。

 かつて世界中で起きた魔女狩り、その原因を生み出した怪物。



「”101人目”――百度の魔女狩りでもなお現れる魔女バーバヤガー



 もはや忘れられたその名前――《忌み名》を告げる。


「それが貴様だ」


 それに”101人目”――否、バーバ・ヤガーは肩を震わせて。


「ソレで?」


 嗤った。


「ソレは私の名前ではナイ。よく調べたケド、無意味。無駄、ワタシの顔も姿も喪失ロストしている。私は喪失者ロストマンなのダカLA」


「ああ、そうだな。名前も過去も全て消し去った貴様を名指しでアンティの対象にすることは出来ない、選べるのは敗北者か勝者という曖昧な顔指しだけ。」


 それすらも打ち砕く強力なレガシー……<神格ミュートロギア>でもあれば別だろうが。


「だからお前の一部残機として判定される者に代償を押し付けることが出来る、これが貴様の不死身のギミックだ」


「そう! 爽! DAから無駄、無意味、その抵抗は無価値ロストスル!」


「……6年も前か」


「?」


「お前が教授と戦い、多く敗北したのは。


「? 何故ソレを知ってイル……いや、教授プロフェッサーから聞いタノか」


「聞いてはいない。その現場にいただけだ」


「現場?」


 そう、何も憶えていない。

 わかりもしないのだから、説明なんぞする必要はない。


「ところで」


 貴様に与える慈悲はない。


「――


「何処……?」


 ギョロギョロと目を動かす、動かす、そうしてやがて2つの方角に目が止まった。

 それは盤面に出ている2つのグループ。


「……マサカ」


 正確には6人の少女たち。


「己が今使用しているデッキは40枚全てがクリーチャーだ」


 今もなお果敢に、バーバ・ヤガーを睨みつけている彼女たち。



「まSAカ」


 そう、これこそ己の罪。

 己が護れず、仇と付け狙った我が師――教授プロフェッサーが引き起こした悲劇。


「――カード化シタ魔女ダけでデッキを組ンDA!?」


「貴様の身代わりを食い止める手段はない。少なくとも人の手では、だがしかし、お前が自分で負けを与えられたら?」


 我思う故に我在り。

 とある哲学書、自我を証明するために引用される有名な言葉だが。


分身魔女から与えられたものを、貴様はどうやって否定する?」


 己が掲げたものを、己だけは否定出来ない。


「彼女たちから与えられた敗北だけは否定回避出来ない」


 そう、サレンダーが如何なるカード効果を持ってしても止められない権限を持つように。


「チェックメイトだ」


 これは止められない。

 約束された結末だ。





 ◆




 なにを。


「…………ロス?」


「お前のターンだ」


 何を言っている?


「馬鹿ナ」


「お前の最後のターンだ」


 ありえない。

 これが最後のターン。


「負ケル? アリエナイ。ナイナイない」


 だってそうだろう。

 これで負けたら本当に負けるなんて。


「E?」


 手札を見る。

 ――残り1枚、役に立たない魔石が1枚だけ。

 盤面を見る。

 ――こちらのクリーチャーはゼロ、色彩はたくさん、魔石もあるが、手札にあるのと同じで意味がない。

 最後に自分のライフを見る。

 ――あと2つ、”闇狩り”のクリーチャー共に殴られたら消し飛ぶだけの風前の灯。


「え?」


 え、これって詰んでる。

 負け確定で。


「ない」


 ありえない。

 ない。

 ナイ。

 ありえない。


「なななな無NAナなな無NAナなな無NAナなな無NAナなな無NAナなな無NAナなな無NAナいいいいいいい!」


 負けるなんてありえない。

 ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!


「い夜DA! そんなの、許されナイないナイ!!」


 考える。


「お前のターンだ」


 考える。


「お前のターンだ」


 考える。


「お前のターンだ」


 必死に考える。

 何倍も、何個も、取り込んだ脳で、自我で、フル稼働させて考える。

 たくさんの目で盤面を見渡す、見落としているものがないか考える。

 たくさんたくさんたくさんたくさんたくさんたくさんたくさんたくさんたくさんたくさんたくさん考える。

 だけど。

 駄目だ。

 負ける。

 このままだと。


「お前のターンだ」


 うるさい。


「お前の「ダマレぇEE!!」」


 騒音ノイズを黙らせる。

 デッキに手を掛ける。

 力を集中させる。

 奪った共鳴率をかき集める。

 己が堕悪カード<暴食の魂啜グリード・カーカス>では駄目だ。

 性能が足りない、この窮地を脱せない。


墜ちろコロス堕とすコロスコロス落ちろ


 デッキを闇で覆う。

 今のものでは勝てない。

 ならば、奪われるのか? 失うのか。


「殺ス!」


 いやだ、失うのはワタシ以外でいい!

 デッキを染め上げろ。

 より闇に。


「ア゛あ゛!」


 産み落とせ。

 ワタシの未来を産む。


「――ダぁク」


 無限の。


「ねス」


 未来を!


「ドロぉおおお!!」


 ――――――――――――――――――――――ぎだ!



――――――――――――――――――――――――――――――――

 <混沌の投影> (黒)(黒)(黒)(1)

 アバターのクリーチャー

 ※/※

 秘跡


 このクリーチャーが召喚された時、選んだ数の色彩を生贄に捧げる。

 このクリーチャーは生贄に捧げた数に等しいパワーとタフネスを持ち、捧げた数に等しいライフを得る。


 (黒)(1)、ライフ2点支払う:カードを1枚引く


 秘跡(このカードは打ち消されない)


――――――――――――――――――――――――――――――――



 手にしたのは、まさしく未来だった。

 このどす黒い輝きは間違いなくレア、それも最上級。

 神格にすら届いているかもしれない、世界を歪める1枚。

 ソレが世界を歪めた我欲による結晶。

 世界を歪め、まさしく願った通りのカードが手に入った。

 私はカードを創造した。


「勝っダ!」


 出した瞬間、勝利する。

 まさに最高最善のカード。

 奴らはもはや死に体、あと3ターンも放置すれば勝手にくたばる。

 そして、これは打ち消されない。

 ライフカードを引き抜き、私は勝利を宣言する。


「<混沌の投影>ヲ召喚す」


 はずだった。



「ドローは終わったが、ドローフェイズは終わっていない」



「る?」


「終了のタイミングで瞬間魔法<侮蔑>をプレイ。通りますか?」


「ル?」


「通るならその手札を見せて、クリーチャーなら捨ててください」


 なにを。


「これ、ハ、打ち消されない!」


「それは宣言プレイした時だろう?」


 淡々と、それまで目を向けることもなかった奴が。

 今でさえスピリットの欠片もないただのモノにしか見えない人影が言った。


「手札にある時はただのカードだ」


 その言葉に、カードが滑り落ちる。


「あ」


 握っていたはずの指から滑り落ちて。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 墓地へと落ちた。


「迷宮の先に出口があるとは限らない」




「さあ」「では」


「「これにて詰みだ」」




 活路は閉ざされた。







――――――――――――――――――――――――――――――――


 混沌はあらゆる可能性を萌芽する。

 全ては混沌から生み出され、なにも残らない。



              ――<混沌の投影>

                



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