『史上最大のヒモ 濡れた砂丘』(©東映)
『史上最大のヒモ 濡れた砂丘』(©東映)

川谷拓三の初主演作

さて、東映である。完成後しばらく寝かせたのち、74年の12月21日に『史上最大のヒモ 濡れた砂丘』を公開。『OL日記』に対して『史上最大のヒモ』と、同じ事件でも男主体であることを宣言する。東映京都撮影所の大部屋俳優として死体役からはい上がり、「仁義なき戦い」シリーズのチンピラ役で注目を集めていた“拓ボン”こと川谷拓三の初主演作となった。

川谷拓三の初主演映画『史上最大のヒモ 濡れた砂丘』(ラピュタ阿佐ヶ谷にて7月5日~7月12日上映/©東映)

さけんだりわめいたりの殺られ役で頭角を現した拓ボンだが、『史上最大のヒモ』では意外にも落ち着いた二枚目ぶりを披露。陰気でナイーブな焦燥感、ストリップ劇場から出てきた踊り子に声をかけてすげなく振られるあたり、まるで『タクシードライバー』のロバート・デ・ニーロだが、本作のほうが2年早かった。運ちゃん仲間と車内でバクチに興じるという細部も光る。

そして「こんな男に9億円も……」という現実の事件さながら、貢ぎ貢がれての展開がスタート。とことん情交と賭博しかない「欲望」の往復で、競艇、競輪、競馬と別作品のフィルムを流用しつつギャンブル映画の高揚感が続く。

わずか53分、通称「500万ポルノ」と呼ばれた低予算作品ゆえ、とても億単位のカネを横領しているドラマに見えないという難点はあるが(銀行のシーンも少なく、職場の全景すら映らない)、あっという間の破滅までジェットコースタームービーとしての資質は十分だ。

横領犯の「北野明子」役は小島恵子、これまた東映育ちで期待のスター候補時代を経て脇に回っていたが、体を張って主役の座を手に入れる。みずから「おばあちゃん」と自虐するくたびれた日常から、男にのめり込んで生気を取り戻す変貌が見事。こってり情事を重ねるごと、憑き物が落ちていくかのよう。

アダルトビデオのハメ撮りに先駆けた男性主観のベッドシーンも見ものだが、そこでカメラを見つめ返す小島恵子の「眼」がすばらしい。残念ながら『史上最大のヒモ』が最初で最後の主演作となり、まもなく女優を引退した小島は郷里の金沢に戻り、ご当地ロケの東映ニューポルノ『玉割り人ゆき 西の廓夕月楼』ではノンクレジットの方言指導を担当、奇しくも『OL日記』の中島葵と交わった。

-AD-

監督の依田智臣は1973年に『処女かまきり』でデビューし、東映ニューポルノを次々と発表。松竹の大部屋俳優出身という異色キャリアの中途採用契約者であり、60年代後半の東映異常性愛路線の現場において社員助監督たちがボイコット事件を起こしたのち、彼らに代わってエログロの現場を支えた。その功績もあっての監督抜擢、エリート意識の強い一部の同僚からは蔑まれたが、大部屋俳優や現場スタッフの信頼は厚かった。それまでの監督作でも主要な役で川谷拓三を起用しており、絆の深さがうかがえる。

おすすめ記事