骸灯百鬼堂
ダークな世界観が映えるいい作品に仕上がったと思ってます。
一番古い記憶は大の大人が泣き叫び、血しぶきを上げている姿だった。
誰がやったのかなんて明白。もちろんオレだ。
普通のガキが「喋る」とか「歩く」とか、生きるための手段を覚えていく頃、こんなこと知りもしないオレが手に入れた手段は「殺し」だった。
「もしもし、暮?終わったよ。そっちの調子は?」
一切の人気のない倉庫の中。オレの通話音だけが静かに響く。
人に会えず、人肉にもありつけず、路地裏で腐肉を漁っていたオレを、暮は面白半分で拾った。あの人が来てくれたのは幸運だと思う。
「うん...うん...うぇー!また仕事?最近人使い荒くない?」
「ぐ...ゴパッ...き、貴様...!」
ふと気づくと足元に先ほどまでオレを切り刻んで来ようとしたおっさんが血を吐きながら足にしがみついている。確実に臓器は数個持って行ったのに、コイツ堅いな?
「『誰のおかげで仕事が』って、ちょっとまってね?何?今電話中だから静かにしてくんない?」
「だ、だれの差し金だ?『蜘』か?『蟒蛇』か?」
「んー、どっちも不正解!確か一般の人だったよー。ん?あぁ、ごめん!死体がうるさくってさ...」
「一般人だと...?」
「うん!あ、そろそろサツが来そうだし、勝手にしゃべる口があると困るんだ。言いたいことなんてないよね?」
通話を切るついでに、おっさんの首を刀で両断する。
「オリャ、ギロチンキーック!」
胴と泣き別れになった不細工な頭を、積み上げた死体の山の中に蹴り飛ばす。
オレは鼻歌を歌いながら、倉庫の表口から大通りへ出る。
「怪談大国日本」
これはオレ個人の見解ではなく世界各国から見た日本のイメージだ。
「妖怪」「幽霊」「まやかし」「呪い」
これらの日本古典的な奇譚が、50年くらい前から現実になり始めたらしい。それに呼応して国の人たちも奇術を使い始めた。一応オレにも備わってる。
そうすると裏側の人間たちは、それを利用しはじめた。んで表に住んでるのにそんな奴らに迷惑をかけられた人間たちの依頼を受けるのが...
「あの...血...大丈夫...ですか...?」
「ん?あぁ!問題ないですよ!全部返り血なんで!」
オレ達「骸灯百鬼堂」だ。
.........
......
大通りをまっすぐ進み、路地裏、マンホール内、地上に上がって、ビルの屋上へ。そうやって進んでいくと多くのうん十階建てビルが立ち並ぶ中、一箇所だけ二階建ての古ぼけた建物。そのまま落下し建物正面へ。
「久樂 廻、ただいま帰宅しまシター」
入口には傘立て。まあ「刀立て」って言った方が正しいか。そこに刀を突っ込む。内装は暮がよく見てるドラマに出てくるザ・事務所って感じ。
だが天井のLED以外の以外の灯りは、ところどころに浮かぶ小さい提灯。染み付いた線香の香りとあっちこっちに落ちてるお札。異様っちゃ異様だね。
そして、そんな異様の中に場違いなくらい普通の女性がいる。暮が電話で言ってた依頼人かな?
その向かいでは、長い黒髪を雑に結んで、緩い着物を着た暮がソファに沈んでいた。髪が少し湿っている。先にシャワーでも浴びたらしい。
「お疲れ様。どうだった?」
「イヤー別に大して?ってカンジ。生臭いしシャワー浴びてきまーす。」
「水だしっぱにするなー。水道代もバカにならん...」
.........
......
あーきもちィィー...
たくさん人殺してきたし、血の臭いにも、人を殺す感触にも慣れた。
でも、返り血が肌にへばりつく気持ち悪さは嫌いだし慣れない。
排水口に薄赤い水が吸い込まれていく。
今日のおっさん変な奴だったなぁ。腹抉っても喋るし。
(ってか「蜘」と「蟒蛇」って何のことだったんだろ?)
「...まァ、後で暮に聞くか♪ ♪~...」
..........
......
濡れた髪をタオルで拭きながら事務所へ戻る。
依頼人の女は、さっきと同じようにソファへ小さく座っていた。
湯飲みの茶にはほとんど手が付けられていない。
オレは暮の隣へ適当に腰を落とす。
「んで、だれ殺せばいい?」
女の肩がビクリと跳ねた。
暮は煙草の煙を細く吐きながら、依頼書を机に滑らせる。
「廻、もうちょい言い方ってものがあるだろ?この人はオレ達を信用してこの依頼を相談してくれているんだ。せめて不安にさせないよう...」
「あ、信用はしてないです...最後の砦だってだけ...」
「...。」
「だってよ?」
「ン゛ン...それじゃ本題だ。一応こいつにも説明お願いしますね?」
「...はい」
「重い話じゃないといいなぁ。」
そのあと暫くオレは依頼人の身の上話を聞いた。
いわく、その人には大事な夫とかわいいかわいい娘が居たそうだ。ある日、ヤクザ者に絡まれている女性を助けたらしい。そしたらその次の日から、毎日知らない宛名から刃物入りの封筒を送られるようになったと。夫と娘に知られたくなくて、そのことを隠していたようだ。そして数日後、職場で夫が急にいなくなり、家から娘が消えたらしい。警察にも相談し調査が始まる丁度その日、だれかの生殖器官がお送られてきたそうだ。まあ...
「DNA鑑定の結果...夫と娘の,,,う゛ぅ...」
だよねぇ...というか暮はこの話二回目なんだよね?こうも表情崩さないもんかなぁ...と考えていると暮が口を開いた。
「...しばらく一人になりますか?」
彼女はその言葉にうなずいた。そして俺らは部屋を後にする...
「随分悪趣味な奴らだと思わんか?」
「オレもそう思った!裏のノリを表持ってきたって感じ!許すまじ!ってやつ?」
「そうだな。それにこの件かなりでかい組織が加担している。早めにつぶすに限るな。」
「そうなの?もしかして「蜘」とか「蟒蛇」ってやつら?」
「...なんだ知ってたのか?」
「さっきの依頼で殺したおっさんがその名前言ってた。」
暮がしばらく考えるとオレに小声で話しかけてきた。
「...奴らはここ最近、奇術絡みの件で裏を騒がせてる。もともと術自体は使える奴らではあったがここまで表に顔を突っ込んでくるような奴らじゃなかった。まず敵対関係だったし。」
「そうなの?」
「あぁ、だからより怪しい。奴らが同時期、同じ縄張りで活動し始めてる。後ろに何者かが潜んでるとみていいだろう。」
「メンドーだなー。こういう時、その何者かってやつ大体ずっと隠れっぱなしだからなぁ...ンー」
メンドーだし重い話。一番嫌いな奴だ。依頼人も暮も変に気負っちゃって、こっちとしては空気が硬くて嫌になるよ。オレは体を伸ばしながらそんなことを考えていた。
.........
......
「依頼人さん、ほかに情報あったりする?こいつが特に気になるとか?」
オレは扉を開けながら中に入り、依頼人の女性に聞いてみた。
どうやらだいぶ動揺も引いたようだ。少しばかりお茶が減っている。
「気になる...と言いますと?」
「チンピラに絡まれてる人助けたときか、二人が居なくなった日に近くで見た人とか、コイツ怪しいなーって見当がある人ってこと。いる?」
彼女はその言葉を聞くと、うつむき考え始めた。
そしてしばらくしてハッとした表情を浮かべた。
「いるんだ?」
「...はい、追い払ったヤクザ、アイツ事件の日にマンションの帰り道にいたんです...蜘蛛柄のタトゥーを顔にびっしりつけたアイツ...!夫が居なくなったって聞いて、その時は慌てていて、全然気づかなくって...」
まあ、そいつだろうなー。表に出しゃばってくる奴らって変に相手に因縁つけて絡んでくるし...
「...ねぇ、依頼人さん。」
「...はい?」
「ソイツ、殺したい?」
「...え?」
彼女はオレに聞き返してくる。
「だからそのまんまだよ?そいつが犯人だったら真っ先に君は殺したいって思う?ソイツのこと。」
この質問は依頼人には必ずしてる。こういうのが決まってると殺し残しもなしにできるし、なによりそういうゴールが決まってるほうが楽しい。
「...ッはいっ...グス...思いますッ...私の大切な人たちをっ、奪った、ヤツを、殺してやりたいッ...ですっ...」
彼女はしばらく黙った後、嗚咽を漏らしながらそう答えた。
...決まり♪
「♪、かしこまりました!」
連載にするか、短編にするか...
悩む悩む、ムムムのム...