第24話 モブ貴族の俺、悪役令嬢に教えてもらう
「なんだよ、侍女のことって。アンタんところの侍女か?」
ベロニカ嬢の侍女は確か4人ほどいて、結構手際がいい。彼女が俺の部屋にいた時にささっとシャワー室の手入れをしていたし、着替えや食事の準備もコレ! というタイミングで行っていた。
どこかの家のお嬢さんの修行かと思いきや、彼女たちはプロである。出自は知らないし、この学園で侍女をしている人たちがその後どうなるのか俺はよくわかっていない。
なにせ、ついさっきまで中級貴族だったのだからな。
「違うわよ、貴方が今後住む場所に雇う侍女のこと」
「あぁ、あれって雇ってるんだ?」
「そうよ。そもそも公爵家以上の令息や令嬢には基本的に侍女がついているもの。まぁ、ご令息を心配して『じいや』にするご家庭もあるけれどね」
「なるほど、寒いから中に入ろうぜ。娯楽室に戻るか?」
「いや、貴方のお部屋で話しましょ」
「へいへい」
俺とベロニカ嬢は男子寮、俺の部屋へ戻った。このホテルのスイートルームみたいな部屋ともさよならかと思うとちょっと寂しいな。
ベロニカ嬢は当然のごとく、俺の部屋のベッドに座る。外から帰ってきたばかりでベッドに座られるの気になるタイプなので、ソファーにしてほしい。
「侍女のこと、いいかしら」
「いいけど、ウチは実家に何人かメイドさんがいるが……侍女って感じではない」
「そう、年齢が?」
「うん。ベテランが多くてまぁ俺は『ばあや』って呼んでた」
俺の家は伯爵家だが、父が倹約家なのでこじんまりとしている。メイドもベテランさんが数人とシェフが一人。庭師が二人。その程度だったし、両親の教育方針には子供には「なんでも経験させる」というものがあり、俺は一通りなんでもやったことがある。その上、転生者なのでまぁ前の世界の知識もある。
「家から連れて行く侍女がいないなら、学園が用意する侍女を使うことになるんだけど」
まぁこの「人を使う」という貴族ならではの価値観、俺はまだ慣れないなぁ。前の世界の価値観じゃあり得ないことだったし。
「それで? 学園で働いている人ってことだよな?」
「便宜上はね。でも、侍女はそうね……基本的にお世話をするのよ。その、あっちのお世話も」
彼女はそういって俺の下半身を指差した。
「お下品だぞ、お嬢様」
「あら失礼、でも事実なのよ?」
「一個気になってるんだけどさ、いいか聞いても?」
「いいわよ。公爵家の先輩として教えて差し上げるわ」
「侍女が全員、妊娠とかしたら……どうすんだよ」
ベロニカ嬢は「ふっ」と鼻で笑い、哀れな動物を見るような目で俺を見下ろした。
「ごめんなさいね。やっぱり、本当に今までモテなかったのだと思って。ふふっ」
「笑うなよ、仕方ないだろうが」
「そうね、ごめんなさい。大丈夫、妊娠のタイミングは女性が決めるのよ。そもそも、避妊に関してはワタクシたちレディは魔法をかけていただいているの」
「魔法?」
「えぇ、学園や王宮、最近では一般の回復術院でもできるわ。避妊の魔法ね。この魔法を万が一に備えてレディの日が始まったらかけておくの。それで、妊娠をしても良いタイミングで魔法を解く。魔法を解くのはレディ本人しかできないの」
俺は妙に合点が言った。
だから、ニクドロスは俺が妊娠を持ち出した時、「二人が両思いだ」と確信して焦ったんだろう。自分の黒い権利欲が揺らいだんだろうな。
「なるほど、じゃあ侍女にもってことか」
「えぇ。貴方は見たことがないわね。その魔法がかかっている印があるのだけれど、そのこの辺にね」
彼女は臍の下あたりを指差した。
そんなところに?! えっちすぎますね!
「だから、貴方が予期せぬ妊娠に怯えることはないのだけれど。でも珍しいわね。他の貴族の男の子たちは逆よ? 侍女を何人も妊娠させて子孫を残したがるのに」
「へ、へぇ……上級貴族ってすごいんだな」
「えぇ、もちろんそういうのが苦手で……それこそ先ほどのアサードリン・ジンマ殿下みたいに一途な人もいらっしゃるけど」
「アンタたち上級貴族は庶民を人とは思ってないもんな。言っとくが、俺は庶民だろうが身分の低い貴族だろうが妊娠させて捨てたりはしないぞ」
「なら、ちゃんと避妊の魔法がかかっている子にしましょうね」
——なんでそうなる。
俺は時折、まったく彼女の脳内が理解できないんだよな。俺自身がわりと堅実な中級貴族の生まれかつ、転生前は貴族なんてよくわからん一般市民だったからか?
だからこう、身分がどうとかそういう感覚がやっぱり疎いんだろうな。
「でもさ、その人たちは俺のこと好きでもなんでもないんだよな? じゃあさ、俺に抱かれるとしてそれは苦痛じゃないか? アンタだって嫌だったろ、怖かったろ? アサードリン・ジンマ殿下のところに嫁に行けって言われた時。好きでもなんでもない男に抱かれるの想像したろ……?」
「でも、侍女は基本的に庶民や下級貴族よ?」
「関係ない。庶民だから怖がらせていいとは俺は思わん」
彼女は一瞬びっくりしたが、俺をみて「仕方ないわね」とばかりに息を吐いた。さすがは悪役令嬢である。そして、結局俺はどうしたって自分の中の正義感を捨てられない性分らしい。貴族なんだから庶民の女をやり捨てし放題なのに、やっぱり罪悪感が邪魔をするのだ。
「いい、侍女は厳しい審査や試験を経た志願制よ。何も知らない女の子を連れてくるわけじゃない。貴族の殿方の世話をしたいという人がくるの。彼女たちにとってそれがステータスでありキャリアになる。たんまり報酬をもらって、貴方のような良物件と夜を共にして自身の性欲をみたすことだってあるのよ」
ベロニカ嬢は「選ばれるのは貴方のほうよ」とクスクス笑った。
「俺が侍女に選ばれる側……」
「えぇ、そうよ。アナタはワタクシを抱くにふさわしい男になるために、夜のおテクニックを磨くの。わかる?」
まさか、そんなことになっていたとは。俺は自分の童貞卒業が日に日に近づいていることを肌で感じるのだった。
*** あとがき ***
本妻(?)と一緒に侍女探し編スタートです!!
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