世界シェア過半の日の丸「淡水化膜」を中国が猛追 東レは現地化で対抗
中東協力センター参事の生田創氏は「サウジでは地域本社の設置や現地人材の雇用、現地製造比率が入札結果に影響を与える」と指摘する。現地拠点や技術サービスの有無は、設計・調達・建設(EPC)企業や事業運営者の評価に直結し、部材の調達先決定にも響く。東レは価格だけでは比べられない供給体制で、サウジ市場の牙城を守ろうとしている。 ●東洋紡エムシーは上流から攻略 東洋紡エムシーが強みとするのは「中空糸膜」だ。一般的な平らな膜ではなく、細いストロー状の繊維を束ねる構造で、汚れで目詰まりしやすい海域でも施設の運転を続けやすくなる利点がある。中東の海域は狭く閉ざされている。汚れがたまりやすく、塩分濃度が高いため、中空糸膜の強みが生きる。交換を減らせば、長期コストで優位に立てる。サウジに限れば、同社は2割のシェアを握る。 だが、技術力だけでは市場は取れない。東洋紡エムシー・アクア膜営業ユニットの枡本信行氏は「技術力はあったが、営業力という点ではかなり弱かった」と振り返る。 転機になったのが三菱商事との連携だ。同社出身で東洋紡エムシー東京支社長の辻野浩司氏は「うちの膜を使った方が得だと、上流から決めにいく。それが三菱商事流の営業スタイルだ」と話す。 施工会社に売り込むだけではない。政府関係者など意思決定を担う世界の権威者と直接会話し、プラント全体の設計に入り込む。技術を持つだけでなく、採用される構造をつくる戦略だ。同社は交換需要を狙い、汎用性の高い膜も投入する。サウジの大型案件としては約10年ぶりとなる連続受注も勝ち取った。 ●再生膜で勝ち筋を探る日本勢 とはいえ、各社が経営努力を重ねても、新品膜では中国勢の追い上げを避けきれない。ならば、使い終えた膜を再び使い、価格競争とは別の市場をつくれないか。日本勢は膜を長く使い切る仕組みで、次の勝ち筋を探り始めている。 RO膜は一定期間で交換される。だが、日本製や欧米製の高品質膜は、洗浄すれば性能が一定程度戻る。工業用水や農業用水向けなら再利用できる可能性もある。この事業化で期待を集めるのが、福岡市の水処理会社、ゼオライトだ。使用済みRO膜を引き取り、薬品や温度を管理しながら洗浄する。性能を評価したうえで、主に海外向けに再販する。 ゼオライトの嶋村謙志社長は「価格面が魅力になり、大手の総合商社などからの引き合いが増えている」と話す。処理能力はすでに上限に近く、洗浄装置の増設を計画している。 追い風もある。日本勢が主導することで、使用済みRO膜の再生・再販についての国際基準も生まれた。品質を国際規格で示せれば、中古の再生膜を市場に広げやすくなる。課題は市場の小ささだ。中古の再生膜市場はまだ世界的に立ち上がったばかり。コストの妥当性を顧客に納得させる必要がある。それでも、欧州連合(EU)などの環境規制や中東の投資動向によって、再生膜市場は拡大する可能性を秘める。 技術で勝てば、市場も取れる。そんな時代は終わりつつある。中国勢は安値攻勢に加え、国際ルール作りにも踏み込む。日本企業がRO膜で優位を保つには、性能を磨くだけでは足りない。戦う市場を選び、現地化や営業力で採用される仕組みをつくり、規格戦にも関与する必要がある。水をつくる膜の競争は、製品単体の優劣から、市場を設計する力の勝負へ移り始めている。
佐藤 斗夢