世界シェア過半の日の丸「淡水化膜」を中国が猛追 東レは現地化で対抗
中東最大級の市場であるサウジアラビアに深く食い込む東レを筆頭に、日本勢は海水淡水化施設に欠かせない「逆浸透膜(RO膜)」で存在感を示す。中東の淡水化は圧力で海水から塩分や不純物を取り除くRO膜が主流だ。膜技術に詳しい造水促進センター専務理事の大熊那夫紀氏によると、日本製RO膜の世界シェアは現在も5割を超える。米デュポン、東レ、日東電工、東洋紡エムシー(大阪市)の4社で世界市場の9割強を握る。だが、その牙城を中国勢が揺さぶり始めた。日の丸膜メーカーは、新たな攻防に直面している。 【関連画像】使用済みRO膜を再生処理する様子(写真=諸石 信) まず表れているのが、価格を巡る攻防だ。日本製の膜は性能でなお強みを持つが、中国勢は安値を武器に市場を切り崩そうとしている。国有企業もいる中国勢は、ある程度の赤字を前提に低価格攻勢を仕掛けてくる可能性がある。経済産業省の幹部は「中国企業がRO膜で追い上げており、日本企業が危機感を持っている」とみる。 ●中国勢が規格戦にも踏み込む しかも、攻勢は価格だけにとどまらない。海水淡水化に使う膜の規格について話し合う国際会議の場にも及び始めている。 膜の性能は水温などの条件で大きく変わる。中国勢は自国企業に有利な条件を盛り込もうと、国際会議では欧米が各国1人程度、日本も数人にとどまるのに対し、中国は20人超の専門家を送り込んでくる。ただ、大人数で存在感を示す一方、曖昧な提案も多いとされ、大熊氏らが出席した会議では「その数字はおかしい。根拠がない」と理詰めで反論すると、中国側はあっさり引き下がったという。規格次第で膜の評価はゆがむ。技術で勝っても、ルールで不利になるリスクは残る。日の丸水技術は今、新たな競争の局面に入っている。 ●日東電工は同じ土俵で戦わず 日本企業も手をこまねいているわけではない。太陽光パネルや家電で日本企業が経験した負けパターンを、海水淡水化向け膜では繰り返さない。各社は価格競争とは別の土俵を探る。 1976年に膜の製造を始めた日東電工は、国内でもいち早く膜に着手した企業の1つだ。滋賀県草津市の事業所を製品開発・生産の中核に据える。加えて、市場の成長を見込み、87年という早い段階で買収した米子会社ハイドロノーティクスの製造拠点や営業・技術サポート網も生かしてきた。 だが、現在は海水淡水化向け製品の比重を下げ、付加価値の高い工場排水の処理・回収向けに軸足を移す。民需の工業用途では、膜の性能だけでなく、納入実績や運転時の技術サポートへの信頼が重視されるためだ。担当者は「半額に近い安値を武器にする中国メーカーとは同じ土俵で戦わない」と強調する。 技術流出への警戒も消えない。「中国市場では展示会で類似品が出回る例もあり、模倣品や技術流出への警戒を緩められない」(同担当者)という。 東レはサウジアラビアで現地化を進める。「海淡の東レ」を標榜し、現地の有力企業と組んで東部の都市ダンマンにRO膜部品の大型製造拠点を構える。2025年には現地で新工場の稼働開始も発表した。