第5回脳性まひと知的な遅れの私 テクノロジーと合理的配慮で得た学ぶ喜び
近年、「DO―IT Japan」には、知的障害のある中高生からの大学進学の問い合わせが増えている。そのパイオニア的存在が、2021年度スカラー(選抜者)で愛知県出身の森田康生(こうせい)さん(22)だ。
愛知県の中部大学人文学部歴史地理学科の3年生。キャンパス内の学生寮ではリーダーを務める。
脳性まひで生まれつき体のバランスがうまく取れず、車いすを使う。発話はできるが、慣れた人でないと聞き取りにくい。
幼少期は、絵カードで言いたいことを周囲に伝えていた。知的な遅れを指摘され、小学校は6年間、特別支援学級に在籍した。
指先が震えるためノートを取ることは難しかった。文字を目で追うことも苦手なため、小学生のころは、母に教科書や問題を読み上げてもらって勉強した。
障害や病気の子どもたちを社会的リーダーに育て、インクルーシブな社会の実現をめざすプロジェクト「DO-IT Japan」が、2026年度に20期生を迎える。学校や進学での壁をどう乗り越えたのか。連載「インクルーシブ教育@Japan」の第4弾では、スカラーたちの歩みを追う。
中学は、病気の子を対象とした県立特別支援学校に進学。少人数で、パソコンでの読み書きが認められたが、自分に適した学び方はなかなか見つからない。
「環境が整えば学び続けられる」
学習法を探すうち、障害者の生活や学びを変える支援技術を伝えるイベント「ATAC(エイタック)カンファレンス」を見つけた。そこから音声教材を集めたオンライン図書館「AccessReading(アクセスリーディング)」や「DO―IT Japan」の存在を知った。
森田さんは「困難を抱える子たちがテクノロジーを活用して学んでいることを知り、そういう環境で学びたい」と強く思ったという。
実は、小学生のころから歴史好きだった。小6のころ、NHKの大河ドラマ「真田丸」を見て夢中になり、自由研究に取り組み、中学でも研究を進め、日本城郭協会の「城の自由研究コンテスト」で優秀賞に輝いた。
高校入試では、問題・解答用紙の拡大や、別室受験、時間延長、小論文はパソコン入力などの「合理的配慮」を申請。第一志望の進学校、県立岡崎高校の定時制課程に見事合格した。
「環境が整えば学び続けられる」。「DO―IT」の先輩たちの姿にも確信を持った。
「大学に進んで歴史を学ぶ」という目標がはっきりとできたため、自分の困難さをきちんと周囲に伝え、必要な支援を得る方向に転換した。
歴史・地理の学べる中部大のオープンキャンパスに、高2から毎年通って、自分の特性を説明した。
異例の入試方法「リスピーク」で大学合格
その姿を見ていたのが中部大の学生サポートセンターの可児(かに)由香課長だ。
森田さんの受験前から、学内の教員らに情報共有し、入試や授業でどんな配慮や態勢が取れるか相談した。
森田さんの志望学部の総合型選抜には、グループディスカッションがあった。明瞭な発話が難しい中で、どんな方法があるか模索した結果、森田さんの発言を、同席する支援者が繰り返して他の参加者に伝える「リスピーク」という異例の措置をとった。
「学科の先生方は、一緒になってあれこれ工夫をしてくれるので、ほとんどのことは本人と教員のやりとりで解決できて助かっています」と可児課長は言う。
森田さんは多くの人に支えられてきた。
高校時代、音声教材では学習が難しい古文の授業では、先生が音読の前に合図をくれて、音読を録音して学ぶことができた。
ジェットコースターに乗ってくれた校長先生
修学旅行でユニバーサル・スタジオ・ジャパン(大阪市)に行き、ジェットコースターに乗りたかった時は、友達と校長先生が一緒に乗ってくれた。
降りた後、顔面真っ白で言葉が出ない校長先生を見て、心から申し訳なく感じた。同時に、生徒の思いをこんなに大切にしてくれる高校で学べて良かったとも思えた。歴史能力検定も配慮申請をして合格できた。
森田さんは、幅広く歴史学を学んだことで、いま、「歴史学とは、今を生きる人の悩みや課題を解決するために役立つ学問である」という歴史学者の言葉を実感している。
「一人ひとりの経験を周囲の人々と共有して積み上げていく社会には、多様な工夫と知恵が生まれる。その積み重ねが社会を豊かにすることにつながる」
いつか大学院でも学びたい。
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