四次マスター】アンリミテッドブレイドニャークス・その2【猫化】
四次マスター:猫 四次サーヴァント:常連客 五次弓:店主 五次槍:バイト
という猫カフェパロディ設定のお話二本目。
一作目こちらになります。店で働くマスター猫たちの詳細もこちらです。novel/1092144
前回のアンケートにご回答いただきありがとうございます。コメントも拝見させていただきました。ブクマコメ、評価もあわせて、御礼申し上げます。「むしろ店主狙い」がダントツ過ぎてびっくりでした。二人の馴れ初めについて考えたところ「槍が物騒な連中に追われているところを弓がかくまった」的な。猫カフェとは思えない血なまぐさい方向に転がったので一旦自粛しました。次点のウェイニャーたんprpr話は次に書く予定です。
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UBN(アンリミテッドブレイドニャークス)。
七匹の猫と、紅茶とケーキを楽しむ店。
いわゆる「猫カフェ」と呼ばれる営業形態をとっているその店には、従業員が二人いる。一人は店のオーナーだ。キッチンから接客、猫スタッフの体調管理まで何でもこなすオールマイティであり、具合が悪い猫がいれば自宅へと連れ帰りこまめにケアをする気遣いの人である。浅黒い肌に色素の抜けた白髪という無国籍風の風貌に、百八十センチをこえる長身と鍛え抜かれた体は「猫カフェ」という単語から連想される甘く柔らかな印象とは正反対とも言えたが、二十台前半という外見年齢に対し不相応とも言える落ち着き払った気配はアンティークな装飾が色濃い店内にしっくりと馴染んだ。艶やかな浅黒い肌に、糊のきいた白いシャツ。水仕事のために肘まで袖をまくり、ギャルソンエプロンを着用した姿は、エキゾチックな異国のカフェに迷い込んでしまったような錯覚を見る者に対し与える。開店当初はケーキのように作り置きのできる甘味しかメニューに存在しなかったが、バイトを雇った現在では、サンドイッチやパスタのような軽食から、芸術的な飾りつけが施された季節のパフェまで、注文できる料理の幅が広がった。当初はバイトを雇う余裕などないとぼやいていた店主だが、メニューが増え、客層が広がり、客単価が上がった事により、収支はバイトを雇う以前と比較して大幅な黒字に転じている。
UBNで働くもう一人、ホール担当の従業員は、青い髪に赤い目の、店主以上に国籍を感じさせない風貌の持ち主だ。しなやかな筋肉を纏うバランスのとれた長身の持ち主で、白いシャツに黒いベストというウェイター姿が実によく似合う。彼は常連客の立場から、半ばごり押しでバイトの身分に収まった異色の経歴の持ち主だ。以前にもカフェでバイトをしていた経験があるらしく、勤務開始当初から接客に関しては完璧だった。店主がこだわる紅茶にも理解があり、客の大半を占める女性の扱いもスマートだ。少数ではあるがUBNの根強いファンでもある男性客に対し気さくに話しかけるコミュニケーション能力の高さは特筆すべき美点だろう。店主は彼を雇い入れる時こそ難色を示したが、店に馴染んだ現在となっては欠かせぬ戦力であると認識している。雇用主とバイトという上下関係こそあるものの、年齢が近く、また、彼と知り合った経緯が特殊な状況下であったために、二人は互いを、同じ職場で働く「仲間」として認識していた。
「次はこれを五番に頼む」
「了解」
カウンターに置かれた皿を受け取り、指定の席へとサーブする。本日のおすすめケーキセット。桜風味のスコーンとレアチーズケーキのラズベリージャム添えだ。深い赤色のジャムが、真っ白な皿に刺激的なアクセントを添えている。注文した客はそれを見て、にっこりと嬉しそうに目を細めた。
「今日はまた、格別に美しいですね。この真紅の美しさ。まるで新鮮な血液のようです」
骨ばった長い指でフォークを摘み、ケーキを食する人物は、近所の住宅街にアトリエを構えている芸術家だ。勤め人ではないという利点を生かし、客の少ない平日昼間の時間帯にふらりと現れる事が多い。青白い肌に彫りの深い顔立ち、肩口まで伸びた髪に猫背という、一見して恐ろしげな風体をしているが、言動は紳士的で、猫と接する態度は穏やかだ。聞けば彼は、以前猫を飼っていた経験があるのだという。
「おや、リュウノスケ。今日もまた、私と遊んでくださるのですか?」
遊び上手な茶虎猫のリュウノスケが、ケーキを食べている客の足元にちょこんと座り、小首を傾げてにゃあ、と鳴いた。とりたてて美しい猫、というわけではないが、リュウノスケが見せる愛嬌のある仕草は天下一品だ。この店を訪れる客の中で、彼に「遊ぼう」と誘われて否と言える者など存在しないだろう。猫は魔性というが、その魔性を自覚した上で思う存分活用するのがリュウノスケである。客は二つ返事で彼の要望に応じ、ケーキをさっさと片付けると、プレイスペースへと移動した。バイトの店員は客の移動に合わせて、飲み物を窓辺に運んだ。
「すいません。玩具の持ち込みをしたいのですが、チェックをお願いしてもよろしいでしょうか?」
原則として、この店では猫と遊ぶ際、店内に備え付けの道具を使う決まりになっている。市販品に関しては新品に限り持込可能としているが、彼が持参する道具は、新品ではあるものの市販品ではなかった。手先が器用な芸術家らしく、彼は猫用玩具を自作して持ってくるのだ。これに関しては、安全性を考慮して店主がチェックし、許可が出た物のみ使用可能となっている。
「おーい、エミヤ。いつものチェック頼むわ」
「勤務時間中は名前で呼ぶな。オーナーと呼べと何度言ったらわかる」
「二人しかいねぇのにオーナーもクソもねぇだろ?いいじゃねぇか、エミヤはエミヤで」
「君はよくても私は嫌だと言っている」
勤務時間とそうでない時にめりはりをつけたいタイプの店主は、店の中で名前を呼ばれる事を嫌がるのだが、小言を言われたバイトの店員はそしらぬ顔で客から玩具を受け取り、店主の目の前にそれを翳した。うねうねとした触手と海洋生物もどきが絡み合った造詣は、端的に表現するならばグロテスクだ。B級のホラー映画から抜け出してきたモンスターのようなそれをしげしげと眺めながら、店主はほんの少しだけ眉根をよせてぼそりと呟いた。
「……毎度のことながら、何ともいえない形をしているな」
「リュウノスケは気に入ってるみたいだぜ。このシリーズ。最後はいつもより念入りにズタズタにするけどな」
「中身までよくできているというか、引き裂かれることを前提に腸まで作りこんであるのが何とも言えんな」
「あー。確かにありゃあ完全にスプラッタで見てるこっちはドン引きだけどな。それで、チェックの結果は?」
「問題はなさそうだ。使ってもいいだろう」
「OK」
店主の許可が出たことを伝えると、玩具を持参した客は嬉しそうにリュウノスケと遊び始めた。リュウノスケは人懐こい猫だが、客の中でも特に彼を気に入っている節がある。彼が持参してくる玩具が大のお気に入りで、最近は、顔を見るなり飛びつかんばかりの勢いで接客に向かうのだ。ひとしきり遊び終わり、いつものお約束で自分が狩った玩具を貰い受けると、使用済みのそれらを解体するのは後回しにしてお気に入りの客と一緒に日向ぼっこをする。日のあたる窓辺で大きなカウチにすわり、紅茶を飲みながらリュウノスケを撫でる客の横顔には、慈愛と同時に、近寄りがたい神聖さすら感じられた。リュウノスケは客の時間が許す限りお気に入りの膝上でゴロゴロと甘え、帰るときは店のレジまで見送りに来るのが通例だった。
「それではリュウノスケ、暫しのお別れです」
レジで会計をすませた客が、猫の前で恭しく礼をする。まるで姫君に対する騎士のような仕草だが、まるきりの異邦人である彼にはそんな仕草が不思議と似合っていた。リュウノスケは、にゃあん、と寂しそうにひと鳴きし、けれど次の瞬間には、また会えるのを楽しみにしているとばかりに猫尾をふわりと揺らし幸せそうに笑った。人間と同じように、猫も笑うのだ。客はそんなリュウノスケの笑顔をじっと見つめ、瞼にしっかりと焼きつけた後に、店の扉を潜り外に出る。
「いつもありがとうございます」
どれほど忙しくとも、店の外まで店主が見送りに出るのがこの店のスタイルだ。頭を下げた店主に対し、客は穏やかに微笑み首を振った。
「こちらこそ。私はいつも、この店で彼に癒されているのです」
彼、というのはリュウノスケを示しているのだろう。アニマルセラピーという言葉があるように、動物には人間の心の傷を癒す力がある。確かに、来店当初は幽鬼のように沈んでいた客の気配は、日が経つごとに明るくなり、最近ではこうして笑顔を見せるようになっていた。
「もしかして、以前、猫を飼っていた経験がおありですか?」
「……おわかりになりますか?」
「ええ。リュウノスケは天性の狩人だ。彼を飽きさせず、かといってヒートアップさせすぎることもなく、じゃらす手腕は大したものだ」
「実は、かつて、同じ屋根の下で暮らしたことがあります。ジャンヌ、という名前で、それはそれは気高く美しい猫でした。私はいまだかつて、彼女ほど美しい生き物を知りません」
そこで客はふと、言葉を切った。
レジの横にちょこんと座り、こちらを見ている茶虎の猫に視線を向けて微笑む。その瞳には隠し切れぬ寂しさと、傷ついた色があった。
「けれど私は、彼女を失った。心無い人間の手により、彼女の命は奪われたのです。私はそれをひたすらに呪い続け、同時に悔やみ続けました。もう二度と猫は飼うまいと、心に決めたのもその時です。けれどこの店に来て、リュウノスケと出会い、私は変わった。リュウノスケは、私にとっての救い主なのです」
それでは、またお会いしましょう。ごきげんよう。
そう言って、客は猫にしてみせたよう大仰な仕草で礼をし、アトリエがあるという住宅街方面に向かい歩いていった。その背を見送り、店内に戻った店主は、未だレジ脇でじっとしている猫を抱き上げ鼻先に顔を寄せてささやいた。
「なんて顔をしているんだ、君は。まるで恋人の背中を見送る彼女のようだぞ」
店主の声に、リュウノスケは気のない声で鳴いた。客に対してはわけへだてなく愛嬌をふりまくが、店主に対しては店中で最も素っ気無い態度を見せるのがこの猫の特徴である。
「いいじゃねぇか、猫が人間に恋をしたって」
「いきなり腰を掴むな。離せ」
店主は茶虎猫を床におろすと、いつの間にかすぐ背後に来ていたバイトの腕を無造作に振り払った。
「神話の中じゃ犬や猫が人間を娶る話だってあるんだぜ。もちろん、その逆もある。せっかくの恋路を邪魔してやるなよ。馬に蹴られても知らないぜ」
「ならば君は猫と恋をすればいい。私に構うな」
「お前は猫みたいなもんだろ?」
「……猫ではない!」
「はいはい。悪かったって。そんなに怒るなよ」
バイトの店員にしてみれば、視線で威嚇すると同時に、牙と爪を油断なく誇示して見せる店主の姿は紛れもなく猫科の獣のそれなのだが。それ以上言えば店からたたき出されかねないと判断し、今日のところは大人しく詫びて引き下がるのだった。