【連続追及!京大JIP論文】調査委員会の人選は「公正」だったのか? 「不正矮小化」疑惑の裏側に迫る
5月12日から3日間にわたり配信され、大きな反響を呼んだ本連載。第2回、第3回では、京都大が設置した調査委員会が1件の改ざんを認定した一方で、論文の肝と言えるマウス実験の深刻な疑義を不問に付すなど、不正が矮小化された疑惑があることを報じた。
JIP論文の調査体制に問題はなかったのか。調査委のメンバーの顔触れを調べると、学外委員3人のうち1人は、JIP論文の筆頭・責任著者である小田裕香子教授、さらに小田氏のJIPに関する共同研究者と深い関わりがあり、もう1人もこの共同研究者と過去に同僚だったことがわかった。
須田桃子(科学ジャーナリスト)
調査委員会のメンバー構成を調べてみた
京都大学によるJIP論文の調査は、この調査のために2024年3月4日付で設置された部局調査委員会と、大学本部に常設された研究公正調査委員会の2段構えで行われた。
京大によると、部局調査委員会の役割は、実験ノートやデータなどの資料の精査や関係者のヒアリングなどにより実質的な調査を行うことだ。その後、研究公正調査委員会が部局調査委の行った調査について検証する。
京大の研究不正の調査要項では「委員の半数以上は学外者の委員とし、そのうち1名以上は法律に関する専門家でなければならない」と定めている。JIP論文の部局調査委では、学内委員3人(1人は途中で交代)、弁護士1人を含む学外委員3人の計6人で構成された。
小田氏の共同研究者との親しい関係
最も気になるのは学外委員の1人、大澤志津江・名古屋大教授の人選だ。
大澤氏は、小田氏とこれまで学会活動をたびたび共にしている。小田氏が所属する京大生命科学研究科の井垣達吏教授とも、約18年間に及ぶ関わりがあり、共著論文も多数ある。
井垣氏は研究科長として小田氏を同研究科に招き入れ、JIP論文に関する共同研究も行っている人物だ。大澤氏、井垣氏、小田氏の3人で一緒に撮った写真もあり、親交は深いとみられる。
(井垣研究室のHPより)
大澤氏と井垣氏は、時期は異なるものの大学院時代に同じ研究者から指導を受けた。井垣氏は2007年に留学先の米国から帰国し、神戸大に最初の研究室を構えるが、その翌年に最初の博士研究員(ポスドク)として採用したのが大澤氏だった。
大澤氏は、井垣氏が京大に転出後も井垣研に所属し、講師から准教授へと昇進、2019年に名古屋大に教授として移籍した。井垣氏との共著論文は10本以上に及ぶ。
不正調査中も小田氏と同じ学会の役員
学会活動については、2019年ごろ、日本細胞生物学会の存続や発展に向けた方策を話し合う「将来計画委員会」の委員長を井垣氏が、委員を大澤氏と小田氏が務めた。井垣氏が2022年6月~24年6月に同学会で会長を務めた際は、大澤氏が理事、小田氏が会計幹事だった。
通報を受け、JIP論文の予備調査が行われたのは2024年1月~2月、本調査が始まったのは同3月なので、同時期に学会役員だったことになる。
井垣氏が会長を退任した24年6月以降も、大澤氏、小田氏はともに理事を務めていた。ちなみに理事の中には、JIP論文の共著者であり、発表当時に小田氏が助教として所属していた研究室の主宰者(PI)、豊島文子・東京科学大教授もいる。
ただし、26年4月上旬、学会の役員ページから小田氏の名前は突如消えた。学会事務局によると、小田氏は京大が研究不正を公表した3月31日に辞任届を出し、理事を退任したという。
JIP論文撤回は井垣氏の研究にも影響
小田氏と井垣氏の関係は深い。
連載第1回で紹介したように、研究不正の疑義で通報がなされた2023年12月当時、小田氏は京大iPS細胞研究所の准教授だったが、本調査開始の直後の24年4月、井垣氏が研究科長を務める生命科学研究科に教授として栄転した。また、小田研究室の助教の1人は井垣研の出身だ。
井垣氏は現在、日本医療研究開発機構(AMED)の補助金による老化に関する研究課題(2022~27年度、これまでの総配分額1億7556万円)で研究代表者を務め、この課題の中で小田氏とJIPによる老化の人為的な制御を目指す共同研究を行っている。
(ハイライトは編集部による)
仮に、共同研究のきっかけとなったJIP論文が撤回に至れば、この研究課題への影響も大きいとみられる。
また、同学会や日本生化学会では、小田氏とともに同じセッションの共同オーガナイザー(企画・運営責任者)を複数回務めている。
井垣研究室のホームページに掲載されたアルバムには、井垣氏、小田氏、大澤氏、あるいは井垣氏と小田氏、井垣氏と大澤氏が少人数でともに写っている写真が複数ある。
JIP論文の調査終了は2025年6月18日だが、その翌月に名古屋市内であった学会でも、3人で写真に納まっている。この学会は、井垣氏が大会長を務める第77回日本細胞生物学会大会と、大澤氏が大会長を務める第58回日本発生生物学会大会の合同学会だった。
名古屋市内であった第77回日本細胞生物学会・第58回日本発生生物学会合同大会で撮影
(井垣研究室のHPより)
もう一人の学外委員との関係は。この調査委員会の構成を京大はどう説明するのか。識者はどうみてるのか。取材はさらに続きます。
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