第4話:不良品の水晶板と、王立魔法学園
ピキッ……パリンッ、パァァァァァンッ!!
わしが右手を乗せた瞬間、頑丈そうだった魔力測定用の水晶板が、内側から弾け飛ぶように粉々に砕け散った。 眩い光と共にガラス片が宙を舞い、周囲にいた衛兵たちや通行人が一斉に悲鳴を上げる。
「な、なんだ!? 敵襲か!?」 「テロだ! 曲者を捕らえろぉぉっ!!」
衛兵たちが慌てふためき、ガチャガチャと槍の穂先をわしに向けてきた。 (い、いかん! わしが魔力を抑え込みすぎたせいで、逆に水晶がエラーを起こしてしまったのか!? このままでは青春どころか、お尋ね者になってしまう!)
わしが両手を上げて弁明しようとした、その時だった。
「――随分と、ポンコツな魔導具を置いているのだな?」
地を這うような、凄まじい低音の凄声。 振り返ると、アリアが一歩前に出て、衛兵たちをねめつけていた。彼女の全身から放たれる殺気は、先ほどの魔神をも凌駕するほどに濃密だった。
「た、ただ触れただけで壊れるような不良品を置き、あまつさえ罪なき通行人に槍を向けるとは。……貴様ら、シゲオ様を愚弄しているのか?」
ゴゴゴゴゴ、と幻聴が聞こえそうなほどの威圧感。 ビキニアーマーの美少女が放つ本気の殺気に、衛兵たちの顔からスゥッと血の気が引いていく。
「ひぃっ! も、申し訳ありませんっ! き、機器の寿命でございました!」 「ど、どうぞ! お通りくださいませぇっ!」
衛兵たちは慌てて槍を引き、綺麗な直角のお辞儀をして道を空けた。
(おお……! アリアちゃん、この街で顔パスがきくほど有名人だったのか! すごいな!)
彼女の重すぎる忠誠心を完全に勘違いしたまま、わしは「ありがとう、衛兵さん(イケボ)」と爽やかに笑いかけ、堂々と正門をくぐった。
街の中は、活気に満ち溢れていた。 レンガ造りの街並みに、ローブを着た魔法使いや、鎧を着た冒険者たちが行き交っている。
「シゲオ様。このような俗物どもの街に、一体どのようなご用件が?」 「うむ。実はな、わしは『学園』に行きたいんじゃ」 「学園、ですか?」 「そうじゃ。人がたくさん集まる場所で、普通の若者らしく……そう、学びと青春の日々を送りたいんじゃよ」
アリアは数秒ほど目を丸くした後、またしてもハッと息を呑み、プルプルと震え始めた。 「……神が、わざわざ人の学び舎へ……。なんという慈悲深さ! 愚かな人類を導くため、自ら教壇に……いえ、生徒として我々の目線に立ってくださるのですね!」 (ちがう。わしはただ、放課後に一緒に買い食いとかしたいだけなんじゃ)
訂正する気力も湧かず、わしはアリアの案内で、都市の中心にそびえ立つ『王立魔法学園』へと向かった。
ちょうど今日は、一般からの編入試験の日だったらしい。 わしは「平々凡々な村の若者」を装い、実技試験の会場である闘技場へと足を踏み入れた。
「ちょっと、そこのアナタ」
不意に、背後から高く澄んだ声を引き留められた。 振り返ると、そこには金髪をツインテールに結んだ、小柄で可愛らしい少女が立っていた。仕立ての良い制服を着こなし、手には立派な杖を持っている。
「はい? わしのことかな?」 「アナタ以外に誰がいるのよ。……見たところ、魔力を微塵も感じないわね。ここは王立魔法学園よ? アナタみたいな魔力ゼロの凡人が、冷やかしで入れる場所じゃないわ」
フンッ、と鼻を鳴らし、腕を組む少女。 (おおおおっ! これじゃ! 孫のラノベで読んだ『ツンデレ』というやつじゃな!? 典型的なアキバ系ヒロイン! 青春の匂いがプンプンしてきたぞ!)
わしは内心でガッツポーズを決めながら、穏やかに微笑んだ。 わしの魔力がゼロに見えるのは、周囲の気圧を乱さないように極限まで内側に抑え込んでいるからなのだが、彼女にはそう見えなかったらしい。
「ふふ、まあそう言わずに。わし……いや、俺も少しは魔法の心得があるんだ」 「強がるのは勝手だけど、怪我をしてからじゃ遅いわよ? 私は首席のリナ。いいわ、私が直々に、アナタと世界の格の違いを教えてあげる!」
かくして、わしは入学早々、首席の天才魔法少女と闘技場で決闘を行うことになったのだった。