【Fate】記憶喪失系槍弓の続き【五次槍弓】
いなか様(user/3864256)の書かれた記憶喪失系槍弓(novel/1070446)の続編として書かせて頂きました。ついったで、続き書くから書いてくださいよ!とか言って無理やり書かせて早2か月…仕事の多忙さでお待たせしてお待たせして本当に申し訳ありません。そしてやっと書きあがった結果がこんなんで本気で申し訳ない。実はかなり勢いで書いてます、疾走感半端ないです。結末としては私的にはこれはこれでハッピーエンドかなと思って…、や、止めて!石を投げないで!!こういうの好きなんです。受けが攻めに依存しているというか、今回の場合は負い目なんかも付属してしまって抜け出せなくなってしまっています。 えっと、実は、この先本当の意味でのハッピーエンドも用意してるんですけど、見たい、です?見たいなら頑張ります。 最後に、だから私を「生の人」っていうのやめないか!!うわぁん!!
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この話は、いなかさんの書かれた記憶喪失系槍弓の続編として書いています。
いきなり読むとさっぱりぽんです。
先に前のお話を読むことをお勧めします。(というか前の話が素晴らしすぎてこれ続編でいいのかよ、状態)
そして、これはやるせない終わり方してます。
ハッピーエンドが良いんだよ!!って方は、私にやる気をください、ハッピーエンドにしてやります。
それではどうぞ。
他人の部屋の中だというのに、酷く見慣れた部屋を見渡し、クー・フーリンは微かに目を細めて微笑んだ。
「こんなもん、だな」
足元に置かれた袋の中には、自身が愛用していたものが詰め込まれている。もうこの部屋には、何も残っていない。
それに満足して呟かれた言葉ではったはずだというのに、その表情にはただ悲しみだけが浮かんでいたことは、誰もいないその部屋で、クー・フーリン自身も知ることはないのであった。
「明日退院なんだってな」
いつものように現れた彼は、当たり前のように定位置になった椅子に腰かけ、いつもと変わらない笑みを浮かべて何でもないことのようにエミヤに問いかけた。
その言葉に小さく頷けば、そっか、と小さく呟いた。その時に見せた彼に表情は、今まで見てきたものの中の、どれにも当てはまらず、僅かばかりに胸がざわついた気がしたが、エミヤはその感情を見なかったことにして、手元の荷物の片づけを続けていく。
「これで退屈ともおさらばできると思うと、清々する」
「ははっ、仕事馬鹿だもんなぁ、お前」
わざわざ病室にいるというのに彼はエミヤの片付けの見守るだけで片付けを手伝おうという気はないらしい。とはいえ、下手に手伝われても迷惑になるだけど、話しかけてくる声に応えるだけで終わってしまっている。
そうして、いつものように他愛のない言葉を交わし合って、またいつものように、面会の時間は終わりを迎えようとしていた。
「それじゃあな、エミヤ」
「あぁ」
扉の前に立ち振り返った彼は、やはり綺麗に笑っていて、窓から照らされた夕日が彼の白い肌を映し出していた。眩しさに目を細めているうちに何でもないように病室の扉を彼はそっと閉めていく。
きっとまた明日も来るのだろう。いつもと変わることなく、あの笑みを浮かべて。そうしてきっと一緒にこの病院から出るのだ。何でもない会話をして街の中を彼と歩くのだろう。
今まで一度もそうした記憶はないというのに、そうすることが簡単に想像できてしまったことがおかしくて、小さく笑ってしまった。そうしたことがあるのだろう、親友だと言っていたのだから、当たり前だというのに。
そうやって懐かしさを感じるたびに、彼を知っているのだと思い知らされて、悲しくて、少しだけ、嬉しかった。それを口にしたことは、一度としてなかったけれど。
しかし、そんなエミヤの思い浮かべた明日は、結局来ることはなかった。
エミヤを迎えに来たのは親友である凛だけで、毎日のように来ていた彼は、今日は忙しいから来られないのだと言われてしまったのだ。
今まで毎日のようにエミヤの見舞いに来ていたことの方が不思議だったくらいだ。自分の生活もあるのだろうとその言葉をエミヤはあっさりと受け入れ、病院を後にした。
そして、病院を退院してからは、忙しい毎日の始まりだった。仕事の内容は覚えているけれど、書類に書かれた人物の顔が思い出せず、誰に書類を回していいか、誰に指示を仰げばいいか分からなくなり、そのせいで仕事が滞った。更に、取引先の相手も分からないなどという失態まで犯す始末。
お陰で、社内全員の顔と名前を覚えるところから一からやり直し、ただでさえ入院で遅れていた仕事は、更にエミヤに対して負担を強いることになっていた。
慣れない作業をこなしながら、更には殆ど物の位置も覚えていない自室で1人での生活を送る、そんな毎日に、エミヤは一日一日を過ごすことだけで手一杯になってしまっていた。
そうしているうちに、いつの間にか、姿を現さなくなった彼の存在など、気にかける余裕はなくなってしまった。気が付けば病室でしか会うことのなかった彼は、エミヤの日常生活の中からゆっくりと消え去っていた。
けれど、それを疑問に思う暇もないエミヤには、それが当たり前となり、いつしか、唯一無二の親友は、遠い過去の人へと、姿を変えていた。
忙しい中でも、エミヤにはこの記憶喪失騒動はある意味では転機を迎えるきっかけになっていた。何もかもが真っ白になったエミヤにとって全てが初めてのこと。そんな中で出会った自分を支えてくれていたとある女性と、いつしか恋愛関係になっていたのだ。
また、日ごろの努力の成果か、仕事もおおむね良好。むしろ前よりも人間関係に置いて愛想が良くなったらしく、好感が上がったそうで、取引先や仕事場で、エミヤはとても重宝されるようになっていた。
私生活、仕事、共に他の同世代と比べれば順風満帆と言われるほどの生活を、送っていた。
なに一つ不満はない。むしろ周りが見れば、幸せだと言われるほどの毎日。
エミヤ自身も、そんな毎日に、満足していたはずだった。
親友である凛は少しだけ悲しげな顔をしていたが、エミヤを咎めることもなければ、祝福することもなく、ただそう、とだけ漏らしていたが、それを除けば、この日々になんら問題はなかった、はずだった。
カーテンから差し込んだ光がエミヤの目元を照らし、その明るさに瞼を震わせる。覚醒し始めた意識はその眩しさに耐えられず、その光を避けるように寝がえりを打った。
その瞬間、隣に誰もいないことに違和感を覚えた。おかしい、何処へ行ってしまったのだと、眠たい頭で考える。いつものように先に目を覚まして朝食でも作っているのだろうかと、眠たさに重たい身体をゆっくりと起こした。
目元を擦りながらベッドから降りて立ち上がると、気崩れた寝巻を気にすることなく裸足のままキッチンへと向かった。
気持ちが早っていたのかもしれない。ベッドに一人取り残され、らしくもなく寂しさを感じてしまったのだ。きっとその姿を見れば安心するに決まっている。
覚醒しきらない頭は何か大切なことに霧をかけたかのように思考を不鮮明にしてくる。けれど、今のエミヤに思考は必要なかった。ただ、本能的にその存在を求めた。
キッチン、リビングへと続く扉を開ける。その先に、“彼”がいると信じて、疑うことなく、エミヤはリビングへと足を踏み入れた。
「くー…?」
寝ぼけた頭は瞼すらはっきりと起こしてはくれないらしい。しょぼしょぼとした目を邪魔なものを排除するようにもう一度擦った。
そうでないとおかしいのだ。リビングには、望んだはずの相手が、いなかったのだから。名前を呼んだというのに、返ってくることはなかったのだから。
辺りを見渡して、その姿がないことに眉を寄せる。
おかしい。エミヤの頭はそんな疑問で埋め尽くされていく。昨日は確か一緒に寝たはずだと、頭が告げてくる。では、勝手に帰ってしまったのだろうか。それはない。彼がエミヤと過ごした日に勝手にいなくなったことなど一度としてないのだから。
ならばきっと家の中のどこかにいるのだろうと、未だに霞のかかったような思考のまま、エミヤは彼を探し始めた。
「クー…?クー…どこだ…」
不安が胸を渦巻く。何故か恐怖すらエミヤは感じてしまっていた。愛しい彼を見つけなければ、その不安が消えることはない。本能的に察してエミヤは彼を捜し出す。
寝室にはいなかった。リビングもいない。ならば、キッチンかと覗いてみるも、やはりその姿はなく。あとは洗面所と、トイレ。けれど、何処へ行こうとその姿は見つかることはなかった。
それどころか、更におかしなことに気が付いてしまった。
彼の置いていたはずの私物が、何処にも見当たらないということ。愛用していた櫛や、歯ブラシ、本棚にあったはずの本や、壁にかけてあった絵。それら全てがみつからない。
その代わり、見覚えはある、しかしどうしてそこにあるのかが思い当たらない、女物の品々が目についてきた。
「クー…、クー!」
狭いはずの室内が、酷く広く感じられる。暖かな日差しが降り注いでいるはずだというのに、どうして此処はこんなにも寒いのだろうか。
必死に名前を呼んだ。不安と恐怖に、気付けば頬には涙すら伝っている。
本当は、気が付いていた。この部屋に彼がいないということに。自分が記憶を失くしてしまっていたという事実に。そして、思いだした記憶の中に、彼の姿がないということに、気が付いていた。
それでも、信じたくなかった。エミヤにとっての記憶は、昨日愛しい男と愛し合い、共に眠ったところまでが本当で、その先の、記憶を失くし、彼のいなくなった生活が、夢のようにしか感じられなかったのだ。
「嘘だと、言ってくれ…!クー…!!」
すがる思いで携帯へと手を伸ばした。ともかく声が聞きたかった。あの優しい声で、大丈夫だと言って欲しかった。
けれど開いた着信の履歴の何処にも、彼の名前を見つけることができず、突きつけられる現実にエミヤは必死で否定するように首を振った。履歴になければと開いたアドレス帳には、彼の名前を見つけることは、出来なかった。
焦りに落ち着かない身体は、気付けば彼の家へと走り出していた。
会いたい、ただその想いだけが頭の中に駆け巡る。最後に彼を見たのはいつだったか、それすら思い出せないというのに。
彼の住むアパートを見上げて、酷く懐かしさを感じた。どれほど長い間きていなかったのだろうかと思わされるほどに、遠く感じてしまう。
走ってきたせいで呼吸は落ち着かないどころか、額には汗が浮かんでいるが、それすら今は気になることはない。乱暴に額に浮かんだ汗を拭えば、彼の住んでいた部屋の前に行き、インターホンを押す。
はやる気持ちが抑えられない。走ってきたから、というだけではない不自然な胸の鼓動を落ち着けるように深呼吸した。
通い慣れたはずの、もう何度繰り返したか分からない行為だというのに、今日は酷く緊張してしまう。
しかし、反応はいつまで経っても返ってくることはなく、ふとみた郵便受けには、ガムテープで口がふさがれていた。
それはつまり、此処には今誰も住んではおらず、管理人によって広告が入らいないようにされたあと、というわけだ。それを見た途端、エミヤは眩暈がするのを感じた。運動をしたからではない。
彼は、愛しいクー・フーリンは、エミヤを置いて、何処かへと行ってしまった。その事実を、突きつけられたから。
フラフラとおぼつかない足取りで自宅へと戻った。どうやって帰って来たかなど覚えていないが、今自宅にいるのだから、どうにかして戻ってきたのだろう。
呆然と自宅のソファに腰掛けて天井を見つめていた。迷子の子どもは、こんな風に不安になるのだろうかと、他人事のように考える。
外は青空が広がり、晴れ渡っているというのに、感じられるのは絶望だけ。
彼と最後にあったのはいつだっただろうかと、改めて考え直して、記憶を失くし、退院する前日だったような、そんな気がする。彼は最後になんて言っただろうか、それもあまりちゃんとは覚えていない。
彼はどんな顔して笑っただろうか、やはり思い出せない。
退院してからだというのなら、もう、1年以上経ってしまっている。そして、今になって彼が居ないことに気が付いた。それだけで、エミヤはクー・フーリンを探そうという気力を奪われてしまった。
今さら、どんな顔をしていいかも分からない。ただ、愛された記憶だけが昨日のことのように思い出されるのだから仕方ない。昨日まであの腕に抱きしめられて、優しく愛を囁かれていた。エミヤの中の記憶はそこで止まってしまっているのだから。
目を閉じて、ソファの背にもたれかかる。ぎしりと、重みを感じたソファが音を立てた。
『エミヤ?なんだ、疲れてるのか?』
「え?」
途端、耳に届いた声に、エミヤは身を起こす。隣を見れば、クー・フーリンが苦笑しながらエミヤを見ていた。
そっと手を伸ばされ、額を撫でられる。
『熱は、ねえな?また働き過ぎたんじゃねえのか?』
「クー…」
『しょうがねえな、お前は。仕事も大変だろうけど、大概にしとけよ?』
にかっと、快活な笑みを浮かべたクー・フーリンに、エミヤは目を見開いて、そしてその開かれた目から、ポロリと涙をこぼした。
帰って来てくれたのかと、朝からのことは全部ウソで、最初から彼は此処にいて、そもそも、記憶を失くしていたこと自体が長い夢だったんだろうと。
ゆっくりと、クー・フーリンに手を伸ばす。彼に触れようと。けれど、伸ばした手はなににも触れることなく、空を切った。その瞬間、目の前にいたはずのクー・フーリンの姿も跡形もなく消えてしまった。
こぼした涙は幾筋にもなって頬を落ちていく。
もう自分の傍に、あの美しい青はいない。
空はあんなにも青いのに、焦がれる色とはあまりにも似ていなさ過ぎて、余計に憎らしくて、カーテンを閉めた。
思いだしたことを誰にも告げず、彼との記憶を胸の中にしまいこもうと決めた。
きらきらと輝く宝物のように、誰にも見せないように、大切に、大切にしまいこんで。そして、その宝物を胸に、生きていこうと、エミヤは決意したのだった。
恋人とは、意外とすぐに別れられた。クー・フーリンとのことを思い出したエミヤは恋人に対して誠実ではいられなくなってしまったのが原因だった。
記憶を取り戻す前には確かに愛していた。けれど、それ以上の存在を思い出した今、彼女を一番に愛することができなくなってしまったのだ。それは向こうにも気づかれたらしい。
別れを切り出した時に、何かを察したように笑って、何も聞かずに別れた。
そんな彼女だから愛していたのだろうと、だからこそ、愛せなくなった自分より愛してくれる誰かと幸せになって欲しいと、願った。
それでも、誰もエミヤが記憶を取り戻したことに気づくことはなかった。それまでと変わらないよう演じたからだ。元々舞台が好きだった、あの壇上で生きる役者のように、生きればいい。そう難しいことはなかった。
それと、全てがなくなった部屋に唯一残された、彼に借りた小説と、彼から送られたしおりがエミヤの心を支えていた。
借りたまま返せないままになった小説は、しおりをはさんで、常に持ち歩いていた。それだけで、彼が傍にいるように感じられて。
宝物は鍵をかけたまま、大切に大切にエミヤの中で色あせることなく仕舞われたままだった。
あれから、一緒に見に行こうと約束していた舞台の再演を知った。チケットを2枚買って1人で見に行った。
ハッピーエンドのその話を見て、涙が止まらなかった。隣の空席が、酷く寒かった。
それでも、まるでそこにクー・フーリンがいるかのように、エミヤは笑うのだった。
そうして生きていくのだと決めた。
エミヤは今、誰にも気づかれないけれど、幸せをかみしめていた。
クー・フーリンと共にあった頃の幸せを抱き締めて、その記憶に縋りついて。
そのいびつさに気づくものは、誰ひとりいなかった。
誰よりもエミヤの幸せを願っていた、クー・フーリンすらも。傍に居ないのだから当然だろうが、そんなものを願ったわけではないというのに、エミヤはそれにすら気付かない。
エミヤは誰よりも幸せだった。
そうして今日も、誰もいない部屋に、いってきますと、ただいまと告げる。
誰も食べもしないのに、二人分の食事をつくる。
そうして、幸せだと笑う。
クー・フーリンといれて、幸せだと。彼を愛しているのだと。
誰も知らない幸せを噛み締めて笑うのだった。
おしまい?
ハッピーエンド…読みたいです(>ㅁ<` )