独占欲を思い知る(槍弓・キャス弓)
槍弓・キャス弓で槍とキャスの二人が入れ替わってキャスター(見た目は槍)が弓に色っぽくちょっとえっちなちょっかいをして、きーきーしている槍(見た目はキャスター)のお話。
リクありがとうございました。楽しかったです!
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昨日もランサーと言い合いになってしまい、今朝はランサーが食堂に来ていたのは見ていたが、それっきり顔を見ることはなかった。
毎日のように会っていたのに、と思い、気がついた。
ランサーが会いに来てくれたから会えていたのか。
ランサーが会おうと思わなければ、英霊の増えたカルデアではレイシフトで同じチームになることもなければ会うこともないのかと、胸が苦しくなった。
「アーチャー」
その声にハッとして顔を上げると、キャスターがこっちへ来いと手招きしていたので、アーチャーは素直にキャスターのところへと向かう。
ランサーに指摘されてそんなことはないと言ったが、確かにキャスターには素直かもしれない。
ああ、そうだ、それで昨日言い合いになったのだ。
「今から時間あるか?」
「ああ。今からなら特に用事はない」
アーチャーがしたいからしていることならたくさんあるが、必ずやらなければならないという用事はなかった。
「じゃあちょっと今からオレの部屋に来てくれ」
そこでアーチャーが断ることはなく、キャスターに手を引かれるままについていく。
こういうところが、ランサーに怒られるところなのだろうなとぼんやり思いながら。
「また槍のオレとケンカしたみてぇだな」
「そうなんだ」
しゅんと落ち込むアーチャーを見て、キャスターが笑う。
「お前さんは、何だってそんなに落ち込むのにケンカするかね」
キャスターのベッドの上で二人で座り、アーチャーは迷うことなくキャスターに寄り掛かって大人しく頭を撫でられている。アーチャーが落ち込んだり元気がなかったりする時は、こうやっていつもキャスターが甘やかしてくれるのだ。
そうするようにキャスターに慣らされたのだが。
「私だってしようと思ってしているわけじゃない」
「槍のオレと経口摂取の魔力供給はする仲なのにな?」
ビク、とアーチャーが大きく反応した。それをキャスターがニヤニヤして見ているので、アーチャーはぷいっと顔を逸らす。
「それとこれとは別の話だ」
確かにランサーとは経口摂取の……つまりはキスをする仲ではある。
あくまで魔力供給ではあるが。
以前、ランサーと一緒だったレイシフト先で魔力不足に陥ったアーチャーに、ランサーが魔力供給をしたのが始まりだ。
『テメエはマスターには言えねぇんだろうが。魔力不足で足手まといになるつもりか?』
ランサーが言うように、このままでは足手まといにしかならないと受け入れたのだが、それからなぜか何度もするようになった。
これは魔力供給ではないのでは? と思うような時は何度もあったが、アーチャーから断ったことはない。
「オレとはうまくやってんのに」
アーチャーの頭を撫でていたキャスターの手が動き、アーチャーの唇に触れる。それに大きく身体を揺らし、アーチャーは固まってキャスターを見つめた。
「キャスターとはうまくできるというか、君はやさしいから。いや、ランサーがやさしくないというわけではないが、その、ランサーにはつい反射的に余計なことを言ってしまうんだ」
「そんなに反省するなら、もっと素直になりゃいいのにな」
「それができたらしている」
今回、ランサーは味方だ。
そうでなくともランサーはアーチャーにとって憧れの英霊である。
アーチャーだって仲良くできるものならしているのだが、素直でない自分ではうまくできなくて、結果、ランサーを怒らせることになってしまうのだ。
「ま、お前さんが落ち込むほど槍のオレを気にしてるってことだな。そんなに想われて羨ましいがね」
「君のことも気にしているが」
キャスターが目を細め、アーチャーの唇を指先で押したり摘んだりして遊んでいたが、その指を止める。
それは嘘偽りのないアーチャーの心からの言葉だった。
そんなこと知っているだろうに、とアーチャーがキャスターを見ていると、キャスターは苦笑いを浮かべた。
「何だってお前さんはそういうことをまっすぐ言ってくるかね」
「ダメだったか?」
「いいや、大歓迎さ。ま、それを槍のオレにも言えばうまくいくんだがなぁ」
「そんなことはできない。大体、君は私だけが悪いように言うが、ランサーだって」
キャスターは最後まで言わせてくれず、流れるようにアーチャーをベッドの上に押し倒した。
どさりとベッドの上に横たわり、自分の上に覆いかぶさってくるキャスターへと目を向ける。
「はいはい、じゃあお前はオレと気持ちよくなろうな」
「き、君はすぐそうやって」
「嫌か?」
嫌と言われるとは少しも思っていないくせに、キャスターはそんなことを聞いてくる。
いつもこうやって流されてしまうのだから、本当に自分はランサーの言うようにキャスターには甘いのだろう。
「嫌ではない」
アーチャーが目を瞑ると、キャスターがアーチャーの唇に口づけを落とした。
***
「テメエばっかりアーチャーといちゃつきやがって」
くそっ、とランサーが吐き捨てると、キャスターが軽く肩を竦めた。
「お前だってアーチャーとキスしてんじゃねぇか。同じだ同じ。オレもキスしかしてねぇよ」
「同じじゃねぇだろ! っつーかテメエ、その口振りじゃ、近い内にアーチャーを抱くつもりだろうが」
キャスターは「さてな」と笑っているが、これは絶対にするつもりだ。
同じクー・フーリンだからわかる。
「あのヤロウ、オレにはすぐ憎まれ口叩きやがる」
「お前に甘えてんだろうよ」
「は? 甘えてる? どっちかっつーと甘えてんのはオレにじゃなくてテメエにだろうが」
思い出しても腹が立つが、それは事実だ。
アーチャーはキャスターには素直だ。つい先日は、「すまない」とアーチャーが謝っているのを聞いて、ランサーは耳を疑った。
アーチャーはランサーにはあんな風に簡単に謝罪などしたことはない。
したとしても、きっちり皮肉のスパイスをきかせてくる。
なぜオレには素直になれん。
考えるとイライラしてくる。
「お前と言い合ったからって落ち込んでたぜ?」
「オレにはそんな素振りも見せんがな」
「だが、お前もわかってるんだろう? アーチャーは素直じゃないからな」
そうだ、そんなことはキャスターに言われずともわかっている。
アーチャーが言い過ぎたと思って気にしていることは気がついていたが、だからといってこちらから折れてやる気にもなれなかった。
時間も経ち、今やそれほど怒りはないし、思い返すとそう怒るようなことでもない。
だが、どうにもアーチャー相手だとダメだ。
もっと自分らしく、すっぱりと割り切りたいのだがどうにもうまくいかなかった。
「オレにもたまには素直になりゃいいのによ」
「お前に素直になれねぇとこが、かわいいじゃねぇか」
「そりゃテメエだから言えんだよ。オレに対するアーチャーの態度をちゃんと見てんのか?」
キャスターへの態度とはまるで違う。
いつでもケンカしているわけではないので、他愛ない話をする時もあるし穏やかな時間がないわけではない。アーチャーが素直でないことはわかりきっているし、言い合いするのも楽しくはあるが、それにしても素直じゃなさすぎる。
誰にでも、いや、クー・フーリン相手以外にそうだというのなら我慢もできるが、キャスターには素直になれるのだから、ランサーにもできるはずだ。
「そこがかわいいんだろうよ。アイツはオレにはあんな態度はしねぇ」
「そりゃそうだろうよ」
「お前への態度もアイツの気持ちを考えるとかわいいもんだし、いいもんだがな」
「アイツの気持ち? なんだそりゃ」
「お前が大好きで素直になれねぇってところだ」
キャスターの答えにランサーは顔を思いっきり顰めた。
「テメエ、バカにしてやがんのか?」
何を言ってやがる。
オレのことが大好きだと?
どこにそういう要素がある。
そりゃまあ、嫌われているとまでは思っていないが。
「してねぇって。お前は全くわかってねぇな」
「ぜんっぜんわかんねぇ!」
「お前がオレになりゃわかるさ」
「本当かよ」
疑わしく見るランサーに、キャスターが「本当だ」と笑って返す。
ランサーが知らないだけで、キャスターの言うようにランサーへの特別な態度、というものがあるのかもしれない。
「じゃあ、見てみるか?」
「は?」
「入れ替わろうぜ」
「アーチャー」
振り返ったアーチャーは、驚いていた。
そりゃそうだろうな、とキャスターの姿になったランサーは、隣にいる笑顔のランサーに若干引きつつも笑顔を浮かべていた。
「え、あ、ど、どうしたんだ?」
ランサーの姿をしていたキャスターが、キャスターになっているランサーを軽く肘で突いてきたので、「よお」と声を掛けると、アーチャーがほっとしたように「キャスター」と顔を綻ばせた。
おい、お前誰だ。
マジで、誰か言ってみろ。
今はキャスターの、中身はランサーが固まると、「どうした?」とアーチャーが心配げに見てくるのに唖然とする。
ランサーが、こんな風にアーチャーに見られたことは一度もない。
じわじわと悔しさが込み上げてきて、気分が悪くなってくる。
「……お前、いつもこうなのか?」
「何がだ?」
「いや、何でもねぇ」
アーチャーはランサーをキャスターと思っているのだ。
聞かずとも、キャスターへの態度はいつもこうなのだろう。
くそ、おもしろくねえな。
「調子が悪いのなら少し休んだ方がいい。よければ何か飲むか? ああ、そうだ。君からもらったハーブティーなんだが、あれは本当に気持ちが落ち着いてゆっくりできる。よければそれを淹れるが」
キャスターの奴、自分のブレンドしたハーブティーをアーチャーに渡してやがんのかよ。
そういうことをされるのにアーチャーは弱い。
ちら、と隣のキャスターを見ると、目を細めて楽しそうにしている。
自分のそんな顔を見てランサーの顔が強張ったが、アーチャーに更に心配そうにされたので、笑顔を取り繕った。
「あー。いや、それより、お前さんの飯が食いたいんだが」
「ああ、そういえば今朝は姿を見掛けなかったな」
アーチャーはキャスターのことをよく見ているようだと、その返事から窺い知る。
「今日は朝色々忙しくて、お前の飯を食い損ねたからな。な、いいだろ?」
にかっと笑うランサーの姿をしたキャスターに、アーチャーは戸惑いつつ、えっと、と目を逸らす。
「それは構わないが、その、今からか?」
「おうよ。で、色々お前と話がしてねぇんだがな」
キャスターは狼狽するアーチャーに気づいているだろうに、それを気にせず笑顔だ。
どうしたんだ、とアーチャーがキャスターであるランサーに助けを求めてくるように見てくる。
あー、やっぱりおもしろくねえんだが。
すーぐキャスターに甘えてきやがって。
だがオレはキャスターじゃねぇから助けてやらん、とふてくされた気持ちで表面上笑みを作るランサーに、アーチャーは戸惑いながらも答えた。
「わかった。だが、今から作るので、少し時間が掛かる。よければ部屋で待っていてくれれば持っていくが」
「お前が作ってるのを見て待ってたいんだが、邪魔か?」
今度はキャスターではなく、キャスターの姿をしたランサーがアーチャーに近づいて尋ねる。
ランサーが言ったなら、おそらくアーチャーは皮肉を混ぜてくるだろうが、キャスターには違った。
「そんなことはない。君達がいいなら私は構わないよ」
アーチャーがふんわりとやさしく微笑む。
何でお前はキャスターのオレにはそんなに素直でかわいい態度見せやがるんだ?
ランサーがムッとすると、アーチャーが表情を曇らせた。
「今日はどうしたんだ、キャスター。なんだかいつもと違うようだ。やはりどこか調子が悪いのでは」
「いや大丈夫だ。お前がオレにやさしいなと思っただけだ」
「君を心配してはいけないのか?」
「まさか。うれしいぜ? ただ、槍のオレには随分とつれないのになと思っただけさ」
ランサーがおもしろくない気持ちを隠しながらキャスターを装って笑顔を見せると、アーチャーがちょっと困ったような顔をして目を伏せた。
「オレは気にしてねぇって。だから、ほら、お前も気にすんな!」
ランサーの姿をしたキャスターがアーチャーに微笑むと、アーチャーは少し考えてから、キャスターに目を向ける。
「先日は、言い過ぎてしまってすまなかった。あれは、私が悪かった」
「いいって。オレも頭に血が上ってたしな」
「いやでも」
「オレがいいって言ってんだからいいんだよ。そう思ってくれてんなら、オレにおいしい料理を食べさせてくれ。な?」
ぱあっとアーチャーの雰囲気が明るくなり、「了解した」とうれしそうに言ったのにランサーはびっくりした。
今のランサーはキャスターの姿で、キャスターはランサーになっている。
だからあの表情は、ランサーに向けられたものだ。
ランサーがあんな風に笑ってもらえたことなど一度もない。
だが、アーチャーはランサーにも笑えるのだ。
ランサーは、アーチャーに自然に寄り添って歩き出したキャスターに、冷静になった。
アーチャーはランサーにだから冷たいわけではなく、キャスターにだからやさしいわけではない。
オレがうまくできなかっただけだ。
ランサーは悔しくなりながら、キャスターとは反対側のアーチャーの隣に立ち、アーチャーの手を繋いだ。
アーチャーは恥ずかしがりはしたが、それでもその手を外そうとはしなかった。
食事を終えた後、とりあえずキャスターであるランサーはいったん部屋にこもるということになった。ランサーになったキャスターが、アーチャーに話があるからとランサーの部屋にアーチャーを誘ったのだが、アーチャーは断らなかったし、それどころかどことなくうれしそうに見えた。
先回りしたランサーは自分の部屋でキャスターとアーチャーが来るのを待った。ルーンで姿を消しているから、アーチャーには見えていない。
『お前はもっと客観的にアーチャーと自分を見てみろよ。オレがおもしろくないくらい好かれていることがわかるぜ?』
キャスターにそう言われたので、疑わしく思いつつも部屋にあるベッドに座り、部屋に入ってきたキャスターとアーチャーがソファに座って話をするのを見ていたが……
アーチャーの言うことのかわいいことといったらなかった。
キャスターはアーチャーにランサーのことをどう思っているのか直球で聞き始めた。
最初は素直に言えなかったアーチャーだが、キャスターが落ち込んで悲しそうな顔を見せると、慌て出し『今のは違うんだ!』と弁明してきた。
ランサーはすごい、かっこいい、キラキラしてる。
一緒にいたらドキドキする、どうやって接したらいいのか距離がわからない。
だからつい憎まれ口を叩いてしまう、そうすればランサーがいつも通り言葉が返ってくるから、などなどかわいらしい顔でかわいいことを言うのだ。
お前今までそんなこと思ってたのか。
これを知っていたからキャスターの奴は、時々オレに冷たかったのか。
今までキャスターがランサーに対して痛烈な言葉をぶつけてくることがたまにあったのだが、これは仕方ないなと思うほどにアーチャーはランサーを褒めた。
いや、褒めていると思っていないだろう。ただ、思っていることを言っているだけ、という感じだ。
何だよお前、そんなかわいいこと思ってやがったのか。
「そうか、そんな風に思っててくれたんだな」
「すまない。あの、素直になれなくて……」
「いいって。お前がそんな奴だってことはオレも知ってるからな」
笑顔のキャスターに、アーチャーが「ランサー」とうれしそうに笑みを返すのを見たランサーの胸はきりきりした。
アレはオレに向けられるモノだぞ!
それを悔しく思いながら見ていると、キャスターが隣にいたアーチャーを引き寄せ、アーチャーの肩をやさしく叩く。
そうすると、アーチャーがうっとりとして目を瞑った。
あの口は、皮肉しか紡げないのかと思っていた。
それが今は素直なもので、キャスターが望めばいくらでも素直な言葉が出てくる。
おい、そいつはオレじゃなくてキャスターだぞ!
そう声を掛けそうだ。
今のアーチャーは第二再臨の姿で前髪が下りているので、いつもより幼く見えてかわいらしい。それに軽装で、露出度が高い。
キャスターはやさしくアーチャーの頭を撫でてからその手を移動させ、やんわりと顎を掴んで自分へと向けさせる。アーチャーがゆっくりと目を開けた。
ランサーの姿をしたキャスターと目が合うと照れて頬を赤らめそっと目を逸らし「そんなにじっと見るな」と恥ずかしそうに言ったのを見て、ああ、とランサーは思い知った。
オレのこと大好きなんだな。
はっきりとアーチャーはランサーのことが大好きと口にしたわけではないが、それでもアーチャーがランサーを好きなことは伝わってきた。
アーチャーに嫌われているとは思っていなかったが、そんなにも好かれているとは思っていなかった。
おそらく、今回の入れ替わりを知っても、アーチャーはキャスターのことは許すだろう。
それはキャスターと入れ替わる前から思っていたが、どうやらランサーのことも許してくれそうだ。
それくらいにはアーチャーはランサーのことを好いている。
話を聞いた限りでは、本当に今までそんな素振りを見せなかったので気がつかなかったが、アーチャーはかなりランサーのことが好きなようだ。
全然わからなかったぞ。お前、もうちょっと素直になりやがれ。
おかげで、いらぬ嫉妬をしていただろうが。
キャスターばかりがと思っていたが、キャスターになってみてランサーが特別扱いされていることはわかった。キャスター側に立つと、それがおもしろくないという気持ちになるほどに。
「なあ、アーチャー。いいか」
「いい? 何がだ」
「いいと頷いてくれたらうれしいんだが」
不思議そうに首を傾げたアーチャーは、かなり油断している。
ランサー相手にだ。
この数時間ですっかり心を許している。
いや、まあ元からアーチャーはランサーのことを好意的に見ていたのだから仕方ないといえば仕方ないのだが。
そいつはオレじゃねぇぞ。
おもしろくねぇな、と思ったランサーは、アーチャーに好かれているということはわかったし、アーチャーに種明かししようとキャスターを見ると、キャスターが小さく呟いた。
「っ!」
途端、ランサーの身体が固まったように動けなくなる。
キャスターが『そこで黙ってみていろ』と口を動かし、にんまりとしたのが見えた。
何をする気だあのヤロウ……!
焦る気持ちに身体を動かそうとするが、動けない。
何だ、どうやって解除するんだ?
ランサーが焦っている間も、キャスターがアーチャーへと迫っていく。
「アーチャー、頷いてくれるよな?」
まだ頭が回っていないだろうアーチャーは、素直にとこくりと頷いた。
にやにやと笑ったキャスターがアーチャーの胸元を弄ると、アーチャーの眠気は吹っ飛んだらしく、慌て出す。
「え? あ、ちょ、何っ」
「何って、いいと頷いただろう?」
「そ、そうだが」
「お前な、ちゃんと話を聞いて頷かないとダメだぜ?」
「そう思っているのなら、手を動かさないでくれないか!」
アーチャーがうろたえながらキャスターに言ったが、キャスターは「ダメだ」と告げてにっこりと笑った。
「ランサー!」
「かわいいなあ、お前は」
キャスターはアーチャーを抱き寄せて、頬を擦り合わせ、アーチャーの背中から前に回した左手の指先で、ぴっちりとしたアーチャーの黒のアンダーシャツの上からいやらしく胸を弄る。
それにもぞもぞと動いてアーチャーがキャスターの手を軽く叩くが、キャスターの行動の意味がわからず強く出られない様子で、キャスターに困惑の表情を向けた。
キャスターがじっとアーチャーを見ていると、アーチャーの視線が泳ぐ。
「どうした、アーチャー」
「そんな、まっすぐに見ないでほしい」
「なぜだ」
「私は君の顔が好きだと言ったじゃないか」
ランサーは知らなかったのだが、さっき、アーチャーのランサー大好き語りを聞いている時に言っていたことだ。
アーチャーはランサーの顔が大好きらしい。
つまりはキャスターのこともだが。
それでじっと見ているとよく目を逸らしてたのかと、ランサーは今日初めて知った。
今までは、そんなことを知らなかったランサーがなぜ目を逸らすのかと指摘すると、アーチャーはもっともらしい理由をつけてきてランサーを腹立たせる言葉を言っていたわけだが。
そうか、あれはオレの顔が好きだったからか。
そうと知ると、今までの態度が全く違ったものに見えてくる。
「ランサー!」
「アーチャー、ほら、顔を背けようとするな」
「嫌だ」
そうは言いながらも強くは出ず、アーチャーはふてくされたような幼い態度を見せてくる。
っとにこのヤロウ。
キャスターにそんなにかわいい態度見せやがって。
それは、ランサーのオレへのものだろうが!
「ほら、口をあけな、アーチャー」
戸惑いつつもアーチャーは大人しく口を開く。
素直すぎねぇか? アーチャー!
その様子はかわいいが、自分にもこんな風に素直な態度にさせてやると心に誓う。
キャスターは誘われるようにアーチャーの唇に吸い付いて舌を絡める。ちゅくちゅくと吸い付くとアーチャーが身体を跳ねさせて反応を見せるのがかわいらしい。
気持ちよさにうっとりとしたアーチャーに、キャスターも気持ちよさそうだ。
ランサーは何度も解除のルーンを試すが、なかなか当たりが出ないことに苛立っていた。
ああ、くそ、落ち着け。
焦ってもいい結果にはならない。
名残惜しげにアーチャーの唇を舐めて離れたキャスターは、「アーチャー」とやさしく声を掛け、自分の右手の指先でアーチャーの唇に触れた。
「舐めてくれ」
「え?」
「ダメか?」
キャスターが一心に見つめていると、アーチャーは逡巡した。
中身はキャスターだが、ランサーだってお前思ってんだろうが!
お前、オレにもそんなに素直になれんのかよ。
今まで我慢できずに突っ掛かって待てができなかった結果、アーチャーと言い合いになることが多かったが、こうすればよかったのだ。
ランサーだからうまくいかなかったわけじゃない。
オレが、ちゃんとアーチャーの気持ちを汲み取ってやればよかったのだ。
それは反省すべき点だ。
アーチャーが素直じゃないのはわかりきっているのに、アーチャーの態度に腹が立って食って掛かればうまくいかないに決まっている。
「アーチャー」
ビクンと震えたアーチャーがおそるおそるキャスターの手を取って、手のひらに唇を寄せる。
それからキャスターの指先に戸惑いながらもひと舐めしてから、ぺろぺろと舐めたり口に含んだりしてくる。それに気をよくしたキャスターが、アーチャーの口内に入った指先で軽く頬の裏側や舌先を弄ると、キャスターに涙目を向けた。
卑猥だな。
ただ指先に口づけて舐めているだけというのに、エロい。
アーチャーがキャスターの指先をぺろりと舐め、カリとキャスターの人差し指を甘噛みした。
それにゾクリとする。
ああ、たまんねぇな。
自分がされているわけではないのに、アーチャーの様子にランサーはごくりと喉を鳴らした。
アーチャーは頬を赤らめ、瞳を潤ませてかわいらしくも艶っぽい表情を見せていて、何ともうまそうだ。
アレはオレのなのに。
なぜ、オレがそこにいない。
なぜオレではなく、オレの姿をしたキャスターにやらなきゃならん。
頭の血管が切れそうなくらい、血が滾る。
キャスターが顔を近づけると、キスをされるのを待っていたとばかりにアーチャーが目を瞑りキャスターからのキスを受けた。何度も啄ばむように口づけられたアーチャーは、くすぐったそうにしてキャスターに自分から口づける。ちゅ、と触れ合うだけのかわいいものだ。
さっきまでの壮絶な色気といやらしさのギャップに、キャスターもたまらなくなったようで、アーチャーの唇に噛み付くように口づけてからぢゅうっと舌を吸う。
「……っ、んっ」
「アーチャー……」
「ふっ……ランサー」
アーチャーの腕がキャスターの首筋に回り、キャスターはアーチャーの背中に腕を回した。
バチッ! と大きな音がしてアーチャーが振り返る。
「キャスター! どうしてここに?」
解除に成功したランサーは、怒りの形相でキャスターとアーチャーに近づくと、キャスターからアーチャーを引き剥がした。
「テメエ、さっきから見せ付けやがって、ふざけんなよ!」
「ほら、見たか? アーチャーはオレのことが大好きだってよ」
「見てたよ! くっそ、テメエばっかりおいしいことしやがって! アレは、全部オレのモノだったんだぞ!」
アーチャーからキスされるのも、アーチャーに指を舐められるのも、縋るように抱きつかれるのも、全てランサーのものだったのだ。
アーチャーは驚きに目を瞬かせ、ランサーとキャスターを交互に見る。
「え、あ、キャスター、ランサー……? どうなっているんだ?」
混乱しているアーチャーを引き寄せたキャスターがよしよしと頭を撫でてやると、アーチャーは落ち着いたらしくキャスターの腕の中で大人しくなった。
「アーチャー! お前、どういうつもりだ?」
「何がだ?」
「何でソイツにそんなに甘えてやがる!」
「甘えてない!」
「甘えてんだろうが! 見てたぞ! お前が自分からキスしたのも甘えてしなだれかかったのも、好きだ好きだと言うのもな!」
アーチャーの顔が赤く染まり、パクパクと口を動かすが声になっていない。
「おっと、そんなに恥ずかしがらせるなよ。なあ、アーチャー。アイツ、ひでえよな、恥ずかしがってるお前を追い詰めるなんて」
「あ、いや、キャスターはそんな……やさしいし」
「そうか? やさしいか?」
ランサーの姿でキャスターがうっとりとして聞くと、アーチャーが「……やさしいぞ」と呟いた。
それにカチンときたランサーがアーチャーに手を伸ばしたが、アーチャーを抱き締めたままキャスターに避けられた。
「そうか。そうだな。じゃあ、キャスターのこと、好きか?」
「ランサー、どうしてそんなにうれしそうなんだ?」
戸惑うアーチャーに、キャスターが「聞かせてくれよ、な?」と畳み掛けてきて、あろうことかアーチャーの耳朶に噛み付いた。
「あっ」
甘やかな声が上がり、真っ赤な顔をしたアーチャーにキャスターが陶然として「早く」と急かすと「好きだ」とか細い声で答える。
「キャスター、テメエ! さっきから何なんだ!」
「キャスターはお前だろう?」
「ふざけんな! もう遊びはやめろ!」
「んー、でもコイツはオレのだからな」
キャスターがランサーの姿でちゅ、とアーチャーの頬にキスを落とすと、ランサーが顔を引き攣らせた。
「あぁ? テメエ、ケンカ売ってんのか」
「まさか」
「ど、どうしたんだ。キャスター、君らしくないぞ」
アーチャーにはキャスターが怒っているように見えているだろう。
いつもとは反対だ。
アーチャーがキャスターにばかり甘えて気に入らないと思っていたが、そうじゃなかった。
アーチャーはランサーのこともちゃんと気に掛けているし、甘えてくれるのだ。
それができるのにせずにアーチャーとケンカして言い合って、じゃれついているくせにふてくされていたランサーが、キャスターにはさぞかしおもしろくなかっただろう。
「キャスター、こりゃテメエの意趣返しってことでいいか?」
「さて、どうだろうな」
「なるほど、オレはお前に一杯食わされたってことか」
「そう取るならそう取ってくれて構わんぜ」
手を伸ばし、キャスターの姿をしたランサーは、キャスターからランサーを奪い取るようにして両肩を掴み、アーチャーの首筋に噛み付いた。
「痛っ……キャスター!」
噛まれたアーチャーはキャスターが、中身はランサーがなぜ怒っているのかわからず、さぞかし動揺しているだろう。
アーチャーから見てキャスターは温厚でやさしく穏やかに見えていたはずだ。
だが、実際は違ったがな。
ランサーに対して静かに嫉妬の炎を燃やしていたというわけだ。
ランサーの姿をしたキャスターは、アーチャーを力ずくでキャスターの姿をしたランサーから取り戻した。腕力のステータスは、ランサーの姿であるキャスターが今は上回っている。
そのままキャスターはアーチャーを自分の腕の中に閉じ込めた。
「ランサー!」
よかった、助けてくれたというように安堵したアーチャーのキラキラと輝く瞳は、キャスターに向けられたものではない。
本来はランサーが向けられていたものだ。
「アーチャー」
「ひっ! な、何をそんなに怒っているのだね、キャスター」
キャスターがいつもと違いすぎて、アーチャーは戸惑い、怯えている。
そりゃそうか、とどこか冷静な部分でそう思うがだが、これはいただけない。
おもしろくねえよ。
ランサーがアーチャーに触れようとすると、その手をキャスターに叩き落とされたのでぎろりと睨みつける。
「キャスター、テメエどういうつもりだ」
「今のオレはランサーだ。そうだろう?」
「アーチャーがオレのことを嫌ってねぇどころか好きだっつーのはわかったがな、誰があそこまで許した? アレは全てオレのだっただろうが」
「そうだな。そりゃ腹立たしいだろうな。オレもお前だったら腹立たしいぜ」
キャスターがそれを認めると、ランサーの眉がピクリと動く。
「だが、アーチャーがあまりにかわいくてな。お前だってオレがアーチャーに少しも手を出さないと思っていたわけでもないだろうが」
ランサーとキャスターの基本的な思考は同じだ。
「誰がここまでしていいと言った? こんなのを見せられてへらへら笑っていられるとでも思ってんのか?」
「キャスター、ランサー……」
戸惑うアーチャーをキャスターは抱き寄せ、背中をやさしく叩いてやると、アーチャーがキャスターの背中に腕を回して縋りついてきた。
それがかわいくて仕方ないとばかりにキャスターが頬を緩ませ、顔中にキスをするが、アーチャーは恥ずかしそうにしながらもそれを受け入れる。
ガン、とランサーが壁を殴ると同時に、パッとアーチャーが顔を上げてランサーを見た。
決定だ。
これはどうやら、キャスターの奴は前々からオレの態度が気に食わなかったらしい。
「テメエ、文句あるなら言えよ」
「言ったところでお前は気がつかんだろう? 特別に想われているくせにそれに気がつかずにアーチャーを傷つけて、それでも気にされて好かれて、そりゃあオレがおもしろくないと思っても仕方ないと思わねぇか?」
ランサーは言い返せなかった。
今、散々見せ付けられたように、アーチャーはランサーに実際のところとびきり甘かった。
「キャスター? 君、さっきからどうしたんだ。いや、君もランサーもどこか変だ」
「もうお遊びは終わりだぜ、キャスター」
「おお、そうか? オレは結構楽しめたが。まあでもそろそろいいか」
「アンタな、なんだかんだ楽しんでやがっただろう」
「お前に対しておもしろくないのは確かだが、まあ、お前がそういう態度だったおかげでアーチャーといちゃつけたわけだからな」
「チッ、ちゃっかりしてやがる」
「年の功だな」
にやりと笑うキャスターにランサーは舌打ちした。
まあ、これからは気持ちを入れ替えりゃいい。
遅れは絶対に取り戻してやる。
キャスターが入れ替わりの解除をすると、一瞬ランサーとキャスターが発光し、パッとお互いの姿が元に戻った。
ランサーはランサーに、キャスターはキャスターに。
驚いて状況についていけないアーチャーが二人を何度も見返している。
アーチャーが混乱している間に、ランサーはアーチャーをベッドに連れて行って流れるようにアーチャーを押し倒し、アーチャーの顔の両脇に手を置いて上から圧し掛かった。
「アーチャー」
「は? な、何」
「オレの部屋でキャスターといちゃつきやがって」
「私は何がなんだかわからないのだが!」
「オレ達、入れ替わってたんだよ」
キャスターがアーチャーに教えてやる。
「じゃ、じゃあ、さっきのランサーはキャスターで、キャスターがランサー?」
狼狽するアーチャーはまだ頭の中で整理がついていないだろうに、ランサーはそれに構うことなくアーチャーの唇にキスを落として、至近距離で目を合わせた。
「ランサー……、あの」
「これからはやさしくするつもりだが、まあ、でもさっきのは許せねぇな」
「私のせいじゃない!」
全くもってその通りだが、ランサーは聞き入れるつもりはない。
「もういい、黙れ」
アーチャーに襲い掛かろうとするランサーが、キャスターの存在を思い出し「出て行け」と冷たく言い放つが、キャスターに出て行くつもりはないようだ。
「いやいや、そりゃねぇだろ。オレもアーチャーといちゃつきてぇからな」
「あぁ? テメエはオレの姿で色々したんだろうが」
「変なことはしてねぇって。大体、するなら自分の姿でしてぇしな」
キャスターと目が合い、一瞬の間の後、「そうだな」とランサーは納得した。
するなら自分の姿がいいに決まっている。
「だが、今のオレは結構むしゃくしゃしてるんでな。だから、出て行け」
「出て行くわけねえだろうが」
「邪魔だ」
「まあ、いいじゃねぇか」
「いいわけあるか」
言い合っていると、アーチャーがその間に逃げ出そうとしていたので、ランサーが両腕を、キャスターは両脚を掴んだ。
「ランサー! キャスター!」
「ここで逃げ出そうとするなんざ、いい度胸してやがんな」
「オレ達がお前を逃がすわけねぇだろうが」
笑みのないランサーと、にんまり笑うキャスターに、アーチャーは凍りついた。
「こうなったのは君達のせいであって、私のせいじゃない!」
アーチャーの言うことは正論だ。
だが、今、その正論が通じるはずもなかった。
***
ランサーとキャスターが入れ替わりをした後から、どうにもランサーの様子がおかしい。
「ランサー、あの」
「じっとしてろ」
ランサーは、事あるごとにアーチャーを抱き締めてくるようになった。
しかも、拒否は許さないという強引さだ。
あれからランサーはなんだかやさしいというか、あまりケンカをしないようになったというか、相変わらず言い合いはしているのだが、変な表現だが大人になったような感じだ。
今までも決してランサーは子供だったわけではないのだが、落ち着いて大人になったというか、とにかくアーチャーが面食らうことが多くなった。
「ランサー、何か怒っているのか?」
「怒っているんじゃなくて、拗ねている」
「拗ねている?」
ランサーが?
いや、それよりも、何か拗ねるようなことがあっただろうか。
今日を振り返ってみるが、今日も特に変わったことはしていない。
本日はキャスターがレイシフトに出掛ける時に少し話しただけで……いや、前からスキンシップは多かったのだが、前以上に多くなって頬にキスされるようになったが。
魔力供給でも何でもない接触が増えて、アーチャーとしては戸惑っている。
「お前がドルイドのオレといちゃついてたからな」
「いちゃついてない!」
「今日もキスしてたな」
「アレは、キャスターがなぜか知らないがするようになって」
「嫌じゃないんだろうが」
「私がキャスターを好ましく思っていることは、君だって知っているだろう!」
何度もランサーには『キャスターとはうまくやってるみてぇだが、アイツが好きなのか?』と聞かれていたのだ。
その度に、アーチャーは『キャスターのことは好ましく思っている』と答えていた。
ランサーはキャスターのことを今までだって聞いていて知っていたのに、何を今更。
だが、ランサーはおもしろくないといわんばかりに不機嫌さを見せている。
困った。胸が騒ぐ。
ランサーにこういう表情をされると、どうにもそわそわするというか、慰めたいというか、何でもしてしまいたくなる。
「オレのことがわからなかったのが気に入らねぇ」
「君な、わかっては困っただろうに、私が悪いみたいに言わないでくれ。アレは君達が悪いんだぞ」
「わかっている」
だが、とランサーはアーチャーの額に自分の額をぶつけ、間近で見つめてきた。
アーチャーはランサーの顔が大好きで直視できないくらいなのに、こんなことをされると顔を逸らすこともできないし、ときめきすぎて心臓がどうにかなりそうだ。
それを知っていてこんなことをするランサーはひどい。
拗ねているというが、だからといって……ああ、ずるい。
「だが、もっとオレのことを理解して、ちゃんと見分けろ」
「無茶を言わないでくれ」
あれを見分けるのは至難の業だ。
大体、わからないようにしていたくせに。
アレはランサーとキャスターが悪い。あんなことをされて、どうして私が責められなければならないのか。
おかしいだろう。
だが、そんなことは言えない。
なぜなら、ランサーの眼差しが真剣で、アーチャーの胸をときめかせてくるからだ。
うう、胸が苦しい。
キャスターもランサーも、アーチャーの心を簡単に揺さぶってくるから参ってしまう。
「ランサー、君、少しわがままになった気がするんだが」
「嫌か?」
まっすぐに聞かれて、アーチャーは口ごもる。
「い、嫌じゃない」
「オレが好きか」
「いや、あの」
「こないだ、キャスターがオレになっていた時はすぐに好きと答えてくれていたのに、なぜ今は言えない」
責められるように言われたアーチャーは、トンと軽くランサーの胸を叩いた。
「君の雰囲気が違うから」
あの時はもっと言いやすいというか、その好きというのに深い意味はないような感じだったのだが、今の好きという言葉は、もっと深い意味を持つように聞こえるのだ。
「嫌か」
「だから、君のことは嫌じゃない」
「じゃあ好きなんだな」
早く言え、とランサーがアーチャーの腰を抱いてぐっと自分に引き寄せてくる。
これは好きと言わないと離してもらえそうにない。
「……もちろん、好きだ」
少し前レイシフトに行くキャスターを見送ったばかりだ。
その後すぐにランサーの部屋に連れ込まれてランサーの腕の中に閉じ込められてしまい、今、アーチャーは動けずにいる。
「そうか。じゃあオレを癒して慰めろ」
「ランサー、あの、どうしたんだ? 何か、傷つくようなことがあったのか?」
癒して慰めろとは、アーチャーが知らないだけで何かあったのだろうか。
アーチャーにできることがあるならば、何でもするつもりではなるが、何かできることがあるだろうかとランサーを見つめると、ランサーがハァと深い溜息をついた。
「キャスターのオレばかりに心を奪われるな」
「そんなことはない! 先日の入れ替わりのことだが、アレはっ」
「お前が、あそこまでかわいいところを見せるとは思わなかったんでな。いくら似ているといっても、キャスターのオレはオレじゃない。ということは、いつもと違うオレ、つまりはキャスターのオレに何か惹かれるところがあったんだろうよ」
「いや、あの」
何だかランサーの中で勝手に話が進んでいるが、アーチャーを抱き締める腕に力が入ってきて、身体が痛くなってきた。
「それがおもしろくないと思って何が悪い?」
「もちろん、君は悪くない」
ランサーに睨むように見つめられたアーチャーに、悪いなどと言えるはずもなかった。
「オレは大人げもなく拗ねてお前にあたっているわけだが……そんなオレは嫌か?」
「何度聞くつもりだ。私が君を嫌になるはずがない」
「そうか」
ランサーは呟き、そこでやっと笑みを見せてくれたので、アーチャーの胸が軽くなる。
よかった、機嫌がなおったようだ。
アーチャーにとって、ランサーは太陽のような眩しくて明るい、温かな存在だ。
怒っているよりもずっと笑顔が似合う。
「じゃあ、今日は今からオレにつきっきりでお前はオレを甘やかしてくれるんだな」
「えっ? あ、いや、いつそんな話に?」
「アーチャー」
ダメだ、無理だ。
そんな真摯に見つめられては、とてもではないが断れない。
「わ、わかった」
君が言うなら何でも。
アーチャーが頷くと、ランサーはアーチャーの唇に吸い付いた。
ちゅうっと音がして恥ずかしがるアーチャーを逃がさないとばかりランサーがぎゅっと抱き締めてくる。
ああ、胸が痛くて本当に困った。
ここ最近のランサーはこうやってアーチャーをわざと恥ずかしがらせたり困らせたりしてくる。
それを楽しんでいるのだとキャスターから言われたが、しかし、だからと言ってアーチャーにランサーを拒否することはできない。
腐れ縁でケンカばかりで言い合いし、戦闘では頼りになってかっこよく輝いているランサーも大好きだけれど、今の嫉妬深くて意地悪なランサーもアーチャーは大好きなのだ。