その運命に固執する
没ネタ供養のため尻切れトンボです。
カルデアにうまく馴染めない弓とそんな弓を心配するマスターと、そんな中召喚された槍の話。
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しまった、と。気づくにはもう手遅れだった。
カルデアでの生活が定着してからはや数カ月。己の現状を顧みてアーチャー・エミヤはがっくりと肩を落とした。
古今東西、ありとあらゆる時代から召喚される英霊たち。人類の未来を取り戻すための戦いに最初こそ胸躍らせたもの、時が経つにつれ別の問題が浮上し始めた。
端的に言おう。話し相手……あるいは、友人と呼べるような存在がいない。
どこを見ても周りは華々しい英雄譚に綴られた英傑揃い。それこそ、幼い頃に憧れた英雄だっているのだ。どう考えても守護者風情が話しかけていい相手ではない。
周りと自分の差に腰が引けてしまい距離を置いていれば、いつの間にか自分ではもうどうしようもないほどの壁ができてしまっていた。
自身の調理スキルを活かしてキッチンで裏方仕事をすればあるいは、と思っていたが、既にブーティカやタマモキャットといった面々が活躍している中、今更自分が重宝されるとも思わなかった。
唯一会話をするのはマスターとの事務的なやり取りくらいだろうか。
その時にマスターから「エミヤって……孤高なイメージあるよね」と褒めてるのか貶してるのか分からないレッテルを貼られたのは記憶に新しい。
もちろん、こちらから声をかければ、話してくれる者はいる。
マシュは礼儀正しく、どんな小さな雑談にも真面目に相槌を打ってくれるし、ダ・ヴィンチは冗談混じりにあれこれ話題を振ってくれる。
だが、それはあくまで、マスターのサーヴァントとしての対応だ。
その人間性に惹かれて、自然と隣に立ちたくなるような、そんな関係性ではない。
「友人」と呼べるほど、誰かと心を通わせた記憶がない。
抑止の守護者としてあらゆる人間を救うよう仕向けられた自分が、いまさら誰かと友情を築こうなど、おこがましいにもほどがあるのだ。
それでも、と。
羨ましく思う自分がいるのは、否定できなかった。
食堂で笑い合う騎士たち。訓練場で肩を並べて競い合う英霊たち。
酒を飲み交わしながら夜更けまで語り合う英雄たち――。
それを横目に、食器を片づけ、黙って食堂を離れることの、何と多いことか。
このまま、ひとりでいいのか?
そんな疑問が頭に浮かんでは、その疑問をすぐに外へと追い出す。
孤独は、楽だ。誰にも期待されない、誰にも踏み込まれない。
……でも、寂しくないとは、言えなかった。
かくして、孤高な守護者になってしまったエミヤの目下の目標は、話し相手を作るところからだった。
・
とは思い至ったものの――。
今から友人を作るとなると、相当なハードルの高さなのではなかろうか。
何しろエミヤがカルデアに召喚されてから数カ月。その間、ほとんど誰とも親しくなっていない。
今さら他の英霊と仲良くなろうなど、とてもじゃないが無理がある。
他の英霊たちは、同じ故郷や時代を共にした顔なじみ同士で自然と輪ができている。
こちらはその手が全く使えない。何せ、未来の英霊なもので。
ならば、同じ日本の英霊に声をかけてみようかと考えてみるも――逆に緊張して無理だった。
「もしかしなくても、私の付け入る隙なんてないのでは……?」
まさか、と笑い飛ばしたくなるが、実際はまるで笑えない。
“誰かと話したい”――そんなささやかな欲求が、いつの間にか胸を圧迫するほどに膨らんでいた。
そうして難しい顔のまま廊下を歩いていると、ふとマスターの部屋の扉が少しだけ開いているのが見えた。
中からは、笑い声。
聞き慣れた声がいくつか混じっている。モードレッド、アストルフォ、そして――マスター。
軽いお茶会でもしているのだろうか。
特に作戦の前後でもない、ただの日常のひととき。
エミヤは足を止め、音を立てぬように耳を澄ませる。
賑やかで、軽やかで、けれどどこか心地よい、そんな声の重なり。
――別に、入ったって構わない場だ。
彼らは拒まない。拒まれるようなことをした覚えもない。
ただ、自分には縁のない空気だと、そう思い込んでいるだけで。
一歩、踏み出しかけて――やめた。
入り口の前で立ち尽くす自分が、滑稽に思えた。
まるで、声をかけてもらえるのを待っている子供のようじゃないか。
それが嫌で、逃げるように背を向ける。
あの温度の中に飛び込むには、自分は少し、冷えすぎていた。
廊下を離れながら、紅茶でも淹れようかと頭を切り替える。
たかが一歩。されど、一歩。
そんな一歩すら、未だにうまく踏み出せないのだと、自嘲気味に笑った。