美しい姿から「清流の宝石」とも呼ばれるカワセミ。きれいで澄んだ川に生息するイメージが強く、一時は環境汚染が進んだ東京都心から姿を消したが、近年はコンクリートに覆われた都心の河川に戻ってきた。5月22日は「国際生物多様性の日」。都会の環境をしたたかに利用し、たくましく生きるカワセミの姿を紹介する。
すぐ近くを人が通っても…
3月から5月にかけて、文京区や新宿区、目黒区を流れる河川で複数のカワセミを撮影できた。
歩行者が行き交う橋から見下ろすと、カワセミは川面から数メートル上を高速で飛行していた。時折「チーッ」という鳴き声も聞こえる。止まる場所は木の枝ではなく、河川点検用の手すりや階段など人工の構造物。そこから狙いすまして川に飛び込み、魚やエビを捕まえていた。
すぐ近くを人や犬が通っても、カワセミは動じる様子が全くない。カワセミがとても小さいからだろうか、行き交う人達もその存在に気づくことはなかった。
カワセミは全長17センチほどで、スズメくらいのサイズ。体の大きさの割にくちばしが長いので、視覚的にはスズメよりも小さく見える気がする。
そのくちばしで水中にいる小魚やエビ類などを捕獲する。狩りの巧みさから、英語では「Kingfisher」と呼ばれている。
何より特徴的なのは、鮮やかに輝く羽色だ。背中側のコバルトブルーと腹側のオレンジの美しさは、バードウォッチャーだけでなく多くの人々を魅了している。
古くは「古事記」にも記述があり、昔から日本人に愛されてきた鳥だ。
思いがけない場所を巣に利用
国立科学博物館自然教育園(東京都港区)で長年カワセミの研究を行ってきた矢野亮名誉研究員(82)は、「現在の(東京都心の)個体数は、はっきり分からない」とした上で、「餌になる魚やエビが十分に生息しており、確実に定着していると考えられる」と話す。
カワセミはかつて都心にも生息していたが、戦後の高度経済成長で下水が河川に排出されたり、川が埋め立てられたりしたことで水生生物が激減。カワセミも生息地を奥多摩地方まで後退させたという。
その分布が昭和45年ごろから徐々に都心方向に回帰しはじめ、矢野氏が勤めていた港区の自然教育園では平成5年から連続して繁殖が記録されるようになった。
矢野氏はカワセミが都心部に戻ってきた理由について、①カワセミの餌になる、モツゴやアメリカザリガニなど汚れた水で生きられる生物が増えた ②農薬が規制された ③カワセミが都市部の環境に適応した—などを挙げる。
本来カワセミは土がむき出しになった崖に横穴を掘って営巣する。都市部に暮らすカワセミは、河川の横壁に設けられた水抜き用の穴を巣として活用している例も確認されているそうだ。
目黒区内の川では、実際にカワセミが穴に出入りしている姿を確認できた。
コンクリートの壁に囲まれても
観察した川には空き缶から自転車までたくさんのゴミが投げ捨てられていた。鳥の目線で水面から見上げると、そびえ立つようなコンクリートに囲まれていることだろう。そんな都心の川を人工の「渓谷」に見立てて暮らすカワセミ。橋の上から眺めていて、その力強さに感銘を受けた。
「川せみの ねらい誤る 濁(にごり)かな」 正岡子規
いつの時代も人を惹きつける美しき魚捕りの名人。カワセミがハンティングを失敗しないように、美しい川を私たち人間が守り続けなければならない。(文・写真 鴨川一也)
鴨川一也
平成24年入社。編集局水戸支局を経て現職。令和6年、「ローカル線の底力」で東京写真記者協会の国内企画部門賞を受賞。茨城県出身。