まずはカリカリに仕上げよう

 この合わせ調味料は、塩豚を茹でてできたスープ、大蒜、醤を混ぜ合わせたものだ。元々塩豚は食膳処が作っているものだ。氷室が戻って、再び塩豚作りも再開したようだ。


 ただの豚肉よりも使い勝手が良いんだよね。お湯と一緒に茹でるだけで、濃い豚エキスが出たスープになるんだから。しかも塩気もあるからそれだけでお手軽一品になる。白瑞宮でも何度もお世話になっている。


 その合わせ調味料に、凍り豆腐投入する。

 高野豆腐ほど頑丈じゃないし、水分が抜けてるわけでもないから、味が染みこむまで少し時間が必要だ。

 待っている時間は、別の下拵えに使う。


「じゃあ、この間に唐揚げのほうの下準備もしていきましょう」


「はいっ」と女官達の活きの良い返事が重なる。皆しっかりした人達だなあ。なんだか、体育会系部活のコーチになった気分。


「今度は、包丁じゃなくて手で凍り豆腐をちぎっていってください。そうですね、ひと口大よりもちょっと大きめで。二口くらいで食べられる大きさに」


 同じように「はいっ」と返事があった後、皆、無言凍り豆腐をブチブチと千切っていた。わかる。単純作業ほど熱中しちゃうよね。


「巫女様、こちらの千切った凍り豆腐も、同じ下味をつけるのでしょうか?」


 手元の凍り豆腐をちぎり終わったひとりの女官が、尋ねてきた。


「違う味ですよ。醤、砂糖、酒、大蒜、生姜の合わせ調味料です」


 さくさくっと調味料を混ぜ合わせ「これにお願いします」と、その女官に鉢を差し出したのだが、顔にどこか見覚えがある。


「もしかして、菜明のお友達の……」

「まあ、覚えていてくださったんですね、嬉しい! そうです、鈴々と申します」


 嬉しそうに自己紹介をする鈴々に、私は『そうだ』と人差し指を立てた。

 そうだそうだ、鈴々だ。


 彼女は、元は宮女だった菜明が侍女になる時、同僚の宮女達から色々と嫉妬じみたことを言われるのを、やめろと言って守ってくれた宮女だ。そして、今回の氷室の件を最初に伝えてきた人でもある。


「そういえば、菜明から鈴々さんが女官試験に合格して、尚食局で働いてるって。頑張ってるんですね」

「菜明が頑張ってるんだから私もと……巫女様に褒めていただけるなんて光栄です。ちょっぴり照れますけど」


 彼女は面映ゆそうに顔をクシャッとして笑っていた。やっぱり菜明の友達だし、ちょっと話しただけでも良い人なんだなってことがわかる。

「そういえば」と、鈴々さんは厨房内を見回した。


「その菜明ですが、姿が見えませんね。いつも巫女様と一緒にいると思っていたんですが……」

「いや、さっきからちょくちょく食膳処にやって来てはいるよ。すぐに出て行くから姿が見えないだけで」

「えっ、な、何をしに?」

「菜明には特別任務を与えてるんだよね。氷室と厨房の往復っていう」


 私が雪雌様にもらった凍り豆腐の量は、せいぜい三丁程度だ。白瑞宮で使うのなら、充分な量だけど、こうやって尚食局の女官達に教えながら、彼女達にも作らせるとなると心許ない量でもある。


 だから、雪雌様には運び入れる豆腐を、爆速で遠慮無く凍らせてくれるよう頼んだのだ。そして、その豆腐を運び入れ、凍った豆腐と交換して食膳処に持ってくるのが菜明の任務である。


『ご利用は計画的にの』という子牛の声が、頭の中で聞こえた気がした。


 料理を教えることは分かってたけど、まさかこんなに尚食局の女官がいるだなんて思わなかったんだって。沙応さんと何人かだと思ってたんだって。

 菜明の努力のおかげで、他の調理台でも同じ作業が同時進行でできていた。

 全員に行き渡ったようだし、そろそろ菜明の任務も終わりかな。


「菜明が戻ってきたら、菜明も一緒に作りますよ。いつも手伝ってくれて、今じゃとっても有り難いんです」

「それは良かったです。これからも菜明をよろしくお願いしますね」

「はい、しっかりお預かりします」

「何をやられてるんですか、冬花様」


 鈴々さんと向かい合って深々と頭を下げあっていたら、呆れ顔の菜明が隣に立ってた。


「いやぁ、菜明は良い娘さんですねって話を」


 菜明は「もうっ」とばかりに、頬を赤くして腰に手を当てていた。





「さて、それじゃチリ卵のほうの下味が染みこんだところなので、調味料から引き上げた凍り豆腐に小麦粉をまぶしてください」


 調味料から出した薄凍り豆腐は、しっかりと淡色に染まっていた。薄味の麦茶みたいな色をしている。ちゃんと出汁を吸ってくれたようで何より。


 そこから、今度は吸った水分を抜かないように、サッと全面に小麦粉をはたいていく。木綿豆腐よりも固めだから、水分を吸っても扱いやすい。


「そして、余分な小麦粉を手で軽くはたいて落としたら……」


 油を敷いた熱々の丸底鍋に投入!


 丸底だから、縁から滑らせるように入れると中央に凍り豆腐達が集合する。小麦粉を付けているから、真ん中の油だまりに到着した先から、バチバチバチッっと小さな気泡を破裂させながら焼かれていく。揚げ焼きだ。



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