凍り豆腐は万能ヘルシー食材です!

「さて、ここに持ってきましたのは今日のメイン食材です!」


 ドンッ、と食膳処の大きな調理台に置いた豆腐に、女官達は「ほう」と上体を乗り出して、表面が軽くざらついた白い物体を眺める。


「巫女様、これはなんですかい?」

「豆腐です」


「え」よ、沙応さんが白い物体――豆腐を指でつつく。

 食膳処でもらった豆腐は絹ごしではなく、いわゆる木綿豆腐だ。


「なんかアタシの知ってる豆腐の感触じゃないんですけど……」


 豆腐を指でつついても、豆腐は崩れることなく沙応さんの指をはじき返していた。


「ええ、雪雌様に頼んで、凍らせてもらってましたからね」


「豆腐を凍らせる!?」と沙応さん含め、女官達は声を合わせて驚いていた。

 まあ、そりゃ水分をたっぷり含んだ豆腐を凍らせたら、なんかヤバいことになりそうなイメージはあるよね。カチカチでとても食べられないだろうって思っちゃう。

 けれど、実際はそんなことない。


「豆腐を凍らせると含んでいた水分だけが抜けて、ギュッと凝縮されるんです。固くなるっていうより、固めの敷布みたいな……弾力があってでもふわっとしてるっていうか」


 う~ん、説明が難しい。スポンジなんて、この世界にはなさそうだし。

 ちなみに、木綿だけでなく絹ごしでも冷凍できる。味や食感は変わってしまうが、栄養はそのままだし、むしろひとつで色々な食感や使い方ができるお得な食材でもある。


「雪雌様から受け取って時間が経ったんで、中で凍って残っていた水分も全部抜けた状態です」


 こうして説明している間も、豆腐の底から調理台にじわじわと水が広がっている。


「それで、この凍らせた豆腐はどうやって使うんですかい? さすがにこれだけの固さがあるとなると、そのまま食べるってわけにもいかなそうですし」

「そうですね、これで二品作るんですけど……ひとつ目がしみしみジュワワ~なチリ卵と、ふわっと軽い唐揚げです!」

「へえ、豆腐で……楽しみです」


 さすが料理人。沙応さんの目がギラリと光った。





 それじゃ、唐揚げは揚げたてを食べてほしいから、先にチリ卵から作ることにする。


 用意するものは、ひと口サイズに切った薄目の凍らせた豆腐――凍り豆腐に卵、玉葱、そしてアカナスことトマトだ。


 さすが、後宮の食事を一手に担う食膳処だ。頼んだ材料は、その都度女官の人達が「はいっ」と気持ちいい返事をして、シュバッと食材が保管してある倉庫に行っては持ってきてくれる。その速さといい、なんか言ったものが即座に揃う爽快感がある。


 ちなみに、部屋の隅でひとりの女官が筆と冊子を手に佇んでいるのだが、私が何か喋ると彼女の筆が動く。


「じゃあ、まずは下拵えだけどアカナスの皮を……」


 チラッと様子を窺えば、サラサラと筆が動いている。


「湯剥きして~」


 サラサラ。


「賽の目に切ってもらって~」


 サラサラ。


「……………………ぴょえっ」


 サラサラ。


「いや、今の書き留めなくていいよね!?」


 女官さんは、ハッとしたように手を止めていた。下手したら、今の言葉も書こうとしていたかもしれない。きっと、沙応さんの指示だろう。集中しすぎて怖いけど、メモを取るという学びの姿勢はとても素晴らしい。料理人の風上に置いておきたい。


 玉葱をみじん切りで用意して、卵も器に溶いておく。

 たくさん料理人がいるおかげで、同時進行できて実にスピーディーだ。まあ、このくらい早く作業をこなしていかないと、後宮の料理はまかなえないのだろう。


「じゃあ、切った凍り豆腐をぎゅって搾って、残りの水気も全部抜いていきます。しっかり水気を切ったら、合わせ調味料の中に漬けます」





――――――――

一昨日が、サポーターさん限定SS投稿の日だったので、近況ノートに哮天犬視点での日常をUPしております。久しぶりの哮くんです。皇后様出てきますが、出て来るたびになんだか可愛く愉快な性格になっていきます。個人的に、この皇后様の後宮ならそんな暗い事件は起こらないだろうな~スキ! とか思ったりしながら書いてました笑

ぜひ、お楽しみください。


そして、近況ノートでお知らせしたとおり、②巻の発刊が決定しました!

皆様のおかげです、ありがとうございます!!!!!

本編がドドンと4割変更されております。後半ストーリー総取っ替えです。本編に関わるストーリーがWEB版と分岐します。(どうしよう……)詳しくは近況ノートで。



そして、そのWEB版ですが、お料理回です! 美味しいの作るのでぜひ楽しんでください!

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