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旅路 (12/27追加)/Novel by 妹尾アキラ

旅路 (12/27追加)

20,393 character(s)40 mins

成長士郎と弓主従の旅の話。

novel/5569070の内の2作と同じ世界観の、士弓主従旅の短編まとめです。
旅と言いつつだいたいアメリカ辺りに居そう。

4p、5pは別離ネタなのでご注意くださいませ。

(12/27 追記)

6pに前日譚の士郎とセイバーの話、
7pにクリスマスイブの二人の話を追加

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just let go


 両腕にタトゥーがびっしりと入った不機嫌そうな店員の前に、コーラを二本とスナック菓子とチョコレートを一つずつ並べる。チラリと俺の顔を一瞥すると、投げるようにレジを通して、無言で合計金額を指差した。ポケットから紙幣とコインを取り出して支払い、習慣のように礼を言って店を出ようとすると、店員が少しだけ怪訝そうに目線をこちらへと向けて、すぐに逸らした。
 やはりまだ、俺の英語の発音がぎこちなかったり訛っていたりしたのだろうか。


 買い物袋を手に下げて、店の駐車場のはずれに向かう。
 端の方に停めてある黒いセダンのボンネットを開けて、エンジンルームに頭を突っ込んでいる男に声を掛けた。

「ご苦労さん。……直りそうか?」

 男は俺の声掛けに目線だけ寄越すと、トルクをレンチできつく締めてから全体を乾いた布で軽く拭い、結果に納得がいったかのように一人で頷くと身体を起こした。

「掛けてみろ」

 言われたとおり、運転席に行ってブレーキを踏みつつイグニッションキーを回す。キュキュキュキュ、という高い音の後にブルンと滑らかにエンジンが回り出した。
 おお、最近の不調が嘘のようだ。

 エンジンを止めて運転席から出ると、白髪の男が満足そうにエンジンルームを眺めてからボンネットを閉めた。妙に機嫌よく、工具の片付けを始める。
 こいつ本当にわかりやすいなぁと思うけれど、指摘したら途端に不機嫌になるからやめておこう。


「お疲れ、さすが修理すんの早いな」

 そう言いながらコーラを手渡そうとするも、受け取ろうとした男が自分の手が黒く汚れているのを見て、両手を広げて首を竦めた。仕方なしに、ペットボトルのキャップを外して男に近づくと、飲み口を口元に持っていってやる。
 ぱちりと瞬いて上目遣いで俺を見返したが、素直に口をつけてコクコクと飲み始めた。飲みやすいように少しずつ傾けてやりながら、目の前の少し汗が滲んだ褐色の肌と上下する喉仏は、なかなかに目に毒だ。
 見惚れているに近い状態で奴に飲み物を給餌していると、くい、と顎をあげて満足の意を示された。慌ててペットボトルの傾きを変えてやるが、少しタイミングがズレて、つう、と口の端から垂れる。

 コノヤロウ、こいつ立て続けに。

 動揺などしていませんといった何食わぬ顔で、タオルを取りに立ち上がろうとしたら、おもむろに肩を動かしてシャツの端で乱雑に拭った。

 ……こういう、艶かしさとあどけなさが自然に同居している姿は、大層心臓によろしくない。
本人が無意識にやっているから余計に。

 心を落ち着かせる為に大きく息を吐いて、当てつけのように奴に与えていたコーラに口をつけて一気に呷る。間接キスだとか何だとか、そんなことを考えるのは俺の方だけだってわかっているけれど。
 うん、喉が乾いたんだ。そういうことにしておく。


「しかしまたコーラか……最近そればかりだな。妙なところでアメリカナイズされおって」
「冷えてるのが飲みたかったんだよ。コーラかセブンナップか、あとすごい鮮やかな色のよくわからない甘そうなサイダーしか見当たらなくって。常温の水ならまだあったろ?」

 俺の言い分に少しは納得したように片眉を上げると、工具の片付けを再開し始めた。必要に迫られて購入したはずの工具箱の中身に、見覚えのないスパナやレンチが増えている気がしたが、奴に出所を問うてもニヤニヤしながらはぐらかされるだけだろうと、見なかったことにした。きっと大元を辿れば俺の魔力から発生したものなんだろうし。
 あの赤く錆びた世界の隅の方には、工具やら日用品やらが転がっているに違いないと、目の前の男の剣の丘に思いを馳せる。


「ああそうだ。できる限りは直したが、長距離走行時や気温条件でのオーバーヒートまでは避けられんからな。
中古だから経年劣化も進んでいるし、国境付近までが限界だぞ」
「だよなあ……そろそろ無理があるとは思ってたんだ。もう少し大きな都市に着いたら、一度徹底的に直して売っぱらうか。それを元手に別の車に乗り換えよう」
「その方がいい。次は丈夫そうな日本車にしてくれ。やはり慣れたものの方が構造把握の精度も高いし直しやすい。
そもそも何でこんな中途半端に古いセダンを選んだんだ」

 う……いつかは文句言われると思っていたけれど、修理後にジト目で訴えられると言い出しにくい。事情が事情っていうか、絶対バカにされそうっていうか。
 たっぷり時間を掛けて思い悩んだ後、あいつの様子を伺いつつ、恐る恐る話し出す。

「……レンタカーだと金掛かるし、最初から中古車を直して乗るつもりだったんだけどさ。どうせだったらアメ車でハイウェイをかっ飛ばしてみたかったっていうか……その、ロマンを優先したというか…………」

 予算の都合上、オールドカーでもなんでもない、ものすごく中途半端なただの中古車なんだけれど。
 うっ、案の定こっちを見るあいつの目線が氷のように冷たい。

「ミーハーか、馬鹿者が。それで故障によるメンテナンス費と燃費の悪さでガソリン代を余分に掛けているようでは世話ないわ」

 ハン、と鼻で笑って片付け終わった工具箱を俺に押し付ける。トランクを開けるために車の後部に向かって歩きながら、まあ、気持ちはわからんでもないがな、とボソリとつぶやいた。

 ……意外にも、奴に男のロマンは理解して貰えたらしい。いや、俺が憧れるんだから、あいつにもそういう部分があるのは当然なんだけど、なんだかんだ効率の方を重視するイメージがあったのだ。そういう『無駄な部分』も許容して貰えるようになったのなら、喜ばしいことだと思うけど。


 工具箱をしまっていると、奴はトランクに入れていた洗浄用の油を染み込ませた布で手を拭って、おおよその手の汚れを落としていた。後は石鹸で手を洗えばいいだけ……という状態なのに、何故だか店の外のトイレを睨みつけながら、ちょっと迷うような素振りをみせる。

「? どうしたんだよ。手、洗ってこいよ。さっき使ったけど、注射器も落ちてないしそんな荒れてなかったぞ、あのトイレ」
「っ、うるさい。昨日の今日でよくそんなに無神経でいられるな、おまえ」

 そう言いながら、ほんの少しプルプルと震える。

「昨日……って、ああ。昨晩のアレか」

 思い当たった事象に、ようやくこいつの態度に納得がいった。
何か、案外繊細というかなんというか。

「いや、昨夜のおまえ可愛かったけどな」
「やめろ、その誤解を招くような表現はやめろ。クソ、無神経で朴念仁な上に、無意識にそういう発言を垂れ流すとか最悪だなおまえ」

 キャンキャンと子犬のように噛み付いてくるが、正直そのセリフはおまえが言うなとしか返せないぞ。

「バーのトイレでその筋の方に声掛けられてる俺に、颯爽と助け舟を出したつもりで、『アラ、よく似てるわね。双子ちゃん? でもアンタの方がこ・の・み♡』って言い寄られただけだろ?
うん、俺の背後に隠れてガタガタ震えてるおまえなんて、滅多に見られたもんじゃないなとは思ったけど」
「言い寄られただけじゃなく尻も掴まれたわ! クソッ、元はと言えば貴様が童顔のアジア人モロ出しでフラフラしている所為で声を掛けられたのが悪いんだ……!!」

 童顔のアジア人に関してはおまえも人のこと言えないからな、という文句は、今言っても火に油を注ぐだけなのでとりあえず飲み込んでおく。

「うまく躱すスキルを磨けっつってたのは何処の誰だよ。手を洗うだけなんてすぐだろ? そこまで治安が悪い訳でもなし、真昼間の店のトイレで何か起きる方がコトだよ。それともおまえ、どうしても俺と連れションしたいのか?」

 ここぞとばかりに挑発してやると、ぐぬぅと心底悔しそうに唸った。

「……チッ、致し方がない。しかしこれだけは言っておくがな、士郎。人の愛の形は人それぞれとは言え、死んでも性指向というヤツは変わらないんだ。変えられないんだ」

 セクハラ、ダメ、ゼッタイ。
 うっすら目の端に涙を浮かべつつ訴えて、意を決してトイレへと向かおうとする。頑張って来いよ、という思いでそれを見つめながら、ふと思い当たったことを、口走ってしまった。

「ってことは性指向は変わってないのに、俺とは魔力供給でセックスできるんだな、おまえ」

 それも結構積極的に。

 いや嬉しいといえば嬉しいことだけど、と考えていると、トイレに手を洗いに行くはずだった男が、油切れのロボットのようにギギギと振り向き、その壮絶な殺気にようやく己の失言を悟った。


「待て!今のは俺が悪かったって!謝るって!!」
「うるさい死ね! オレはおまえを殺すと決めたんだ!!I am the born of……」
「いやホント落ち着けよおまえ!!!!」

 沸点の低い相棒を何とかおさえて、この場は向こう脛へのローキックで事態を収拾したのだが、この件の後で“魔力供給”が言い出せなくなったのか、ギリギリまで枯渇してから俺の上に飢えた顔でのし掛かってきたのは、
 ……まあ、こいつの不器用で可愛いところだと思ってる。


Comments

  • †ああああああ†
    August 20, 2016
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