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「ついに、マンション価格の急落が起きる?」

2020年春、新型コロナショックで景気動向指数がリーマンショック級の落ち込みを示す中、エコノミスト兼マンション投資家の竹中正治氏は独自の分析をもとにそう直感した。手元には、物件売却で厚くした資金。千載一遇の買い場が訪れるはずだ、と。

しかし、マンション価格はほとんど下がらなかった。そこで理由を探った竹中氏は、独自の分析モデルを精緻化することにつながる「ある変数」を発見したという。

リーマンショック時とコロナショック時のマンション価格の動きを分けた決定的なポイント、そして、外れた市況分析を踏まえて修正した新たな分析モデルについて、竹中氏に詳しくひも解いてもらう。


プロフィール:竹中正治(たけなか まさはる)
1956年生まれ、東京大学経済学部卒、1979年東京銀行(現三菱UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、米国ワシントンDC事務所長、国際通貨研究所チーフ・エコノミストを経て、2009年龍谷大学経済学部教授に就任、2012年京都大学博士号(経済学)取得、2025年定年退職、同名誉教授に就任。エコノミストとしての本業の傍ら、マンション投資から国内外株式・債券投資まで個人投資家として実践、著作多数。

不動産投資の総額は約4億円で、区分マンション11戸を購入し6戸を売却済み。現在の残債は約2200万円。

公式サイト:https://masaharu-takenaka.jp/


物件売却で手元資金増やし、「買い場」に備えた

前回の記事では、2015年に保有6物件を新規設立法人に移して「法人化」したことを語った。その後、2015年から2019年まで東京のマンション価格は、穏やかな上昇基調が続いた。

国土交通省の「不動産価格指数(住宅)」をみると、この間、東京の区分所有マンション価格は年率平均5.4%で上昇している。一方、住宅の地価と戸建て住宅は、下がりはしなかったものの横ばいに近い僅かな上昇にとどまっていた。

また、東京23区のマンション賃料の上昇率は年率平均2.3%(アットホーム株式会社「マンション賃料インデックス」)で、価格上昇率の半分に満たなかった。その結果、前々回紹介した私の計算するPRR指数(マンション価格賃料倍率指数)は、2000年代以降の高水準で推移していた。

当時私が目にした限り、不動産投資分野の論者の多くは「マンション価格の上昇も、とりあえず2020年の東京オリンピックまでだろう。その後は晴海フラッグなどの供給増で値下がりリスクが高い」と予想していた。

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私自身は先行きにあまり予断を置かず、もし再び景気後退でマンション価格の目立った反落局面があれば、金融レバレッジを効かせて数物件仕込むつもりでいた。そのために法人保有に移行した6物件のうち2物件を2019年までに売って、手元の資金を約6300万円増やした。

そして2020年春。コロナショックで内外株価は急落し、景気は落ち込んだ。日経平均株価指数は直近の高値から32%、米国株価指数S&P500は同34%の急落だ。私は「少し遅れてついにマンション価格の急落が来る!」と直感した。

マンション価格の70%は「3つの変数」で説明できる

いや、これは単なる直感ではなかった。当時私は、本シリーズで度々引用している中古マンション価格指数(不動研住宅価格指数<東京>)の前年同月比(%)の変化が、マクロ経済・金融の3つの変数で、70%以上説明できることを掴んでいた。

これは重回帰分析といって、今日の社会・自然科学の実証的な分析で一般に使われる手法で、因果関係があると考えられる複数の変数の過去データから、変数間相互の関係性を抽出するというものだ。

具体的に見ていこう。2006年以降の中古マンション価格指数(東京)の前年同月比(%)の変化は、(1)在庫/販売件数比率(東京)(12カ月移動平均値)、(2)景気動向指数の前年同月比(%)、(3)日経平均株価指数の前年同月比(%)の3変数で、70%以上説明できたのだ。

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1つめの「在庫/販売件数比率」は、東京の中古マンションの売り物件数を月間の成約件数で割ったものだ(データ:(公益財団法人)東日本不動産流通機構)。当然、在庫倍率が上がる時にはマンション市況は不振で価格は低下し、在庫倍率が下がる時には価格は上がる。ただし、月次のデータは振れが大きいので12カ月移動平均値を使用した。

2つめの「景気動向指数」は、内閣府が公表している複数の経済・金融データを合成した統計データであり、景気変動の山と谷を示す。マンション市況も景気全般の好不況を反映して変動している。

3つめの変数は「株価」である。上昇局面ではマンション需要も強くなり、価格は上がりやすい。つまり、株価とマンション価格には正の相関があり、株価下落時にはマンション価格も下がりやすい。

この3変数(要因)の構成は、市場の需給関係、実体経済(景気)、金融資本市場を代表するものとして、バランスよくできている。

図表1でまず、中古マンション価格指数(青線)と、景気動向指数(赤線)の前年同月比の推移を見ていただきたい。

図表1(データ:不動研住宅価格指数、内閣府、厚生労働省)

2008~2009年のリーマンショック時には、景気動向指数が前年同月比でマイナス30%も落ち込むと同時に、中古マンション価格指数も10%低下した。価格指数の変化は、多数ある物件価格の変化の平均値のようなもので、個別物件では、20%下落するものもあれば、もっと下落幅の小さいものまで分布する。

回帰分析の便利なところは、過去のデータに基づいて対象となる変数(ここでは中古マンション価格指数の変化)の推計式を得られることだ。説明要因となる変数をそれぞれ動かすことで、「在庫倍率や景気、株価がこのくらい変化したら、対象の変数はこのぐらい変化する」というシミュレーションが可能になる。

そして2020年春のコロナショックで、景気動向指数は再びリーマンショック時に近い鋭い落ち込みを示した。日経平均株価指数も直近の高値から30%超の急落で、前年同月比でも10%を超える下げ幅になった。

しかしマンション価格は下がらず…なぜか?

私は千載一遇の買い場がまた来ると思った。当時信頼できると感じていた不動産仲介会社の担当者に電話し、こう伝えた。

「少し遅れて都心のマンション価格も下がると思う。そうしたらレバレッジを効かせて数物件は買うつもりだからよろしく!」 

すると先方も「私もそう思います。よさげな物件が出たらご紹介します!」とノリノリだった。

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しかし、マンション価格は、思惑に反してほぼ下がらなかった。私の回帰分析による推計値は、中古マンション価格指数が前年同月比で2%程度下がると示しているのに、実際の市況はそうならなかったのだ。

飛びつきたくなるような割安な物件も出てこない。「なぜだ? 何が違うんだ?」と自問自答したわけだが、理由はすぐに分かった。2020年のコロナショックでは、失業率の水準が低く、悪化(上昇)の幅もずっと小さかったのだ。

図表1に黄色線で描いたのが失業率の推移である。目盛りは右に逆目盛りで描いてある。リーマンショック時には、失業率が3~5%台半ばまで悪化したが、コロナショック時は2%台前半~3%前後までの小幅な悪化にとどまっている。

図表1(データ:不動研住宅価格指数、内閣府、厚生労働省)

失業率上昇が小幅にとどまった理由は、2000年代よりも日本経済全般の人手不足が強まっていた(労働需給が逼迫していた)ことに加え、雇用維持のための企業への助成金や資金繰り支援のためのゼロ金利融資、全国民への一律10万円の給付など、コロナショックに対応するために政府の財政・金融政策が総動員され、効果を上げたためだ。

景気後退で中古マンション価格が下がるのは、例えば失業した賃借人が退出し、すぐに新しい賃借人が入らない時に、ローンを抱えたオーナーが財務的に脆弱だと返済が継続できなくなり、安い価格で売りに出るからだ。あるいは住宅ローンで買って住んでいたオーナーが失業でローンの
返済に窮し、売りに出る場合もあるだろう。

新たな「4変数モデル」で推計精度80%を実現

もっとも1人のエコノミストとしては、日本の失業率の悪化が回避されたことは喜ぶべきことだが、1人の個人投資家としては空振りしたと言える。

ストックとして日本全国に存在するマンション戸数700万戸以上に比べると、流通市場の中古マンション取引件数は年間10~12万戸程度と推測される(正確な統計はない)。つまり全体の1~2%と極めて僅かな部分が売買され、流通市場での価格を形成しているに過ぎない。

しかし、その僅かな部分が需給や失業率、金利の変化、株式など他資産市場の影響を受けて変動しているわけだ。こうした事情は株式を含む他の資産市場についても同様であり、本シリーズの初めに述べた、流通市場での資産価格と資産の本源的な価値の乖離を生み出す。

さて、以上の教訓に基づき、中古マンション価格指数の変化を説明する要因として、景気動向指数に換えて「失業率」を採用し、さらに国土交通省のマンション(RC集合住宅)の工事原価指数を加えた4変数で回帰分析を修正した結果とその推計値を図表2に示した。

図表2(不動研住宅価格指数、厚生労働省、国土交通省、東日本不動産流通機構、Yahoo!ファイナンスのデータで筆者作成)

推計式:Y=30.918+0.234X1-1.470X2+0.0201X3-1.474X4
Y: 中古マンション価格指数(東京)(前年同月比%) 

X1:工事原価指数(前年同月比%)、X2: 在庫倍率(12カ月移動平均値)、X3: 日経平均株価指数(前年同月比%)、X4: 完全失業率%

図表2の下に記載したのが、回帰分析で得られた推計式だ。マンション価格について、例えば「在庫倍率(X2)が1ポイント上がると、約1.5%下がる」「失業率(X4)が1ポイント上がると、約1.5%下がる」といった関係性を式にして示している。

新たに加えた工事原価指数は、2020年代になってから顕著に上昇し、近年のマンション価格急騰のひとつの要因になっているのだが、この点は後の回で取り上げよう。

図表2を見ると、中古マンション価格指数の実績値の変化(前年同月比%)(青線)を、推計値(水色線)がよくなぞっている。この推計値の説明度は約80%とかなり高い。また2020年のコロナショック時には実績値はマイナスにならなかったが、推計値も前年比でほぼゼロ近傍にとどまったのが分かる。

さらに、在庫倍率の推移をグラフに重ねて示した(黄色折れ線、右逆目盛り)。在庫倍率は、マンション価格指数と変動の波の山と谷がよく重なり、非常に連動性の高い変数だと分かる。

細かく見ると2020年4~5月だけ買い控える動きがあり、月間成約件数の半減で在庫倍率は一瞬だけ上がったが、その後は成約件数が回復し、在庫倍率も低下した。

さて、最後に私のマンション投資に戻ると、かくして2020年には期待したような物件に遭遇することはできず、大空振りに終わった。声をかけていた仲介の担当者からも「春に下げそうな気配がちょっとだけありましたが、その後はあっという間に消えてしまいました」と残念な連絡しかなかった。

そして年が明け、2021年になると、この担当者から「ちょっと特殊なんですが、面白い物件があるんですけど…」と連絡が入った。その件については次回ご紹介しよう。

竹中正治