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研究員の視点 | NHK放送文化研究所

メディアの動き 2025年07月08日 (火)

選挙報道はどう変わるのか③~報道機関が共同でファクトチェック~【研究員の視点】#587

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メディア研究部(メディア情勢上杉 慎一・秋元 宏美

選挙報道はどう変わるのか③

去年秋の兵庫県知事選挙などを教訓に選挙報道の見直しに取り組むメディアについて、シリーズでお伝えしている「選挙報道はどう変わるのか」。今回は報道機関が連携して取り組むファクトチェックについてです。

読売新聞と佐賀新聞、時事通信、日本テレビの4社は6月4日、インターネット上に流れる選挙に関する情報を対象に、共同でファクトチェックを実施すると発表しました。6月22日に投開票が行われた東京都議会議員選挙から実施しています。この取り組みを呼びかけた読売新聞東京本社の松永宏朗編集局次長に実現までの経緯や狙いを聞きました。

Q:今回実現した4社共同のファクトチェックは、もともと読売新聞が日本新聞協会に提案したのがきっかけだと聞きましたが、どのような経緯があったのですか。
A:去年、兵庫県知事選挙をめぐって、真偽不明の情報が飛び交って大混乱が生じたということがありました。この中には報道機関や記者への攻撃も含まれていました。それを踏まえて、新聞協会で、選挙報道のあり方を見直す協議を始めようじゃないか、不当な攻撃を受けた記者を守る方策を考えようじゃないかということになりました。読売新聞としては、メディアを超えてファクトチェックに取り組むことで訴求力も倍増すると判断して、加盟社に対し新聞協会としてファクトチェックを一緒にやりませんかと提案しました。各社にも真剣に受け止めてもらい、議論も本当に真剣にしていただいたのですが、抗議や訴訟があったときに、誰が責任を持つのかという問題が出てきました。最終的には賛同できないという社もあり、日本新聞協会としてファクトチェックを実施することはできなくなりました。

Q:そこで賛同してもらえる有志のメディアでやろうとかじを切ったわけですね。
A:ファクトチェックをみんなで協力して実施して、それぞれのメディアで一緒に流していけば、すごく効果がでるのではないかと訴えたら、賛同してくれる社が結構あったわけです。そこで、新聞協会ではできなくても、賛同できる社だけでもできないかと個別にお声がけをした結果、読売新聞と佐賀新聞、時事通信、日本テレビの4社で協力して実施することになりました。報道機関が一緒にファクトチェックをやるのは、日本ではおそらく初めてのことだと思います。

読売新聞東京本社 松永宏朗編集局次長読売新聞東京本社 松永宏朗編集局次長

Q:ファクトチェックの対象は、ある程度絞っているそうですね。
A:今回のファクトチェックでは、選挙に関する言説で、SNSをはじめインターネット上に流れている情報に対象を限っています。国会議員がぶら下がりで述べた発言をファクトチェックする報道機関もありますが、私たちは、あくまで去年の兵庫県知事選挙を踏まえてSNSへの危機感があったものですから、まずSNS上に流れている情報に限定しました。

Q:具体的な進め方を教えてください。
A:4社の枠組みでは、各社の編集権や意思を最大限尊重するという大前提があります。また、ファクトチェックの検証方法や判定基準については、日本ファクトチェックセンター(JFC)※1 の協力を得て、この団体のガイドライン※2 に基づいて実施しています。
まず、何をファクトチェックするかについてです。1つの社が問題だと思った情報があれば、ほかの3つの社に伝えます。次にその情報がファクトチェックの対象としてふさわしいかどうかを日本ファクトチェックセンターと協議します。そのうえで各社が合意できた場合にファクトチェックを実施します。
実際の検証作業は、ファクトチェックをやってみたい、あるいは、やる余裕があるという社が実施することになっています。検証結果は4社すべてに共有し、すべての社が納得したら、4社のファクトチェック結果としてそれぞれの媒体で公表します。

検証作業の流れ

Q:東京都議選からスタートしたということですが、検証できた実例はありますか。
A:「投票の際、鉛筆を使うと書き換えられる」という言説がSNS上でかなり広まっていたので検証しました。実際に検証を行ったのは4社のうち読売新聞と佐賀新聞で、それぞれが記事を書きました。結論はもちろん同じですが、記事の書き方などは若干違うものになりました。※3

Q:実際にやってみて、課題は出てきましたか。
A:選挙期間中の忙しい時期に異なる報道機関どうしで意思を通じ合わせるのは大変だということが、やってみてよくわかりました。もちろん、実際に顔を突き合わせて作業するのではなく、メールやコミュニケーションツールを最大限活用して、意思形成を図るようにしているのですが、より負担がなく、かつ迅速にできる意思決定の方法はないかと考えています。

Q:ファクトチェックを進めるために、社内ではどのような体制を組んでいるのですか。
A:読売新聞の場合、複数の部から記者を指名してチームを作っています。ただその記者は専従ではなく、本来業務をやりながらファクトチェックもやるという体制になっています。

Q:ファクトチェックをめぐっては、これまでマスメディアの取り組みがなかなか広がっていないという指摘がありました。マスメディアがファクトチェックを行う意義についてはどのように考えていますか。
A:ファクトチェックは公開されている情報の真偽を明らかにする、しかも、根拠を示して第三者が検証できるようにするものです。一方、新聞社が記事を書くプロセスでは、匿名ソースへの取材をもとに真実かどうかを洗い出していきます。 実際、一般の読者から記事に書いていることはウソだろうと言われることもあるのですが、匿名ソースの情報だと、真偽の根拠を明らかにできないケースが多いのです。ある意味、それが今までの報道の限界だったと思います。ファクトチェックという手法をとることで、新聞社の報道に対して、別の意味で大きな信頼性を獲得できるのではないかと考えています。

読売新聞東京本社 松永宏朗編集局次長2

Q:冒頭、不当な攻撃を受けた記者を守る方策を考えるという話もありましたが、ファクトチェックとも関係しているのですか。
A:去年の兵庫県知事選挙では、SNS上でいわれのない誹謗(ひぼう)中傷を受けるなど不当な攻撃を受けた記者がいました。攻撃された記者が他社の記者であっても、攻撃の根拠となっている情報の真偽を他のメディアが協力して検証することができれば、事態が沈静化したりカウンターになったりするのではないかと思っています。

Q:ひとまず4社でスタートしたわけですが、将来的にはどのように考えていますか。
A:もともとは日本新聞協会※4 を通じてみんなでやりませんかと提案していますので、この枠組みが拡大していけばよいと思っています。ただ、まだいろいろ見えてない問題もあるでしょうから、議論を重ねて課題を洗い出していく作業をこれから続けなければならないと考えています。


※1 日本ファクトチェックセンターのHP https://www.factcheckcenter.jp/

※2 JFCファクトチェック指針 https://www.factcheckcenter.jp/guidelines/

※3 【ファクトチェック】都議選の投票で鉛筆を使うと書き換えられる?
(読売新聞・2025年6月20日)
https://www.yomiuri.co.jp/election/togisen/20250620-OYT1T50129/
<ファクトチェック>「投票で鉛筆を使うと書き換えられる」 X(旧ツイッター)上で 拡散された投稿を5段階で評価、結果は...?
(佐賀新聞・2025年6月22日)
https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1489627

※4 日本新聞協会では加盟各社のファクトチェックを後押しするため、6月12日から、加盟旧ツイッターのXに新たに新聞協会のアカウントを開設して、選挙をめぐる各社の「真偽検証記事」を紹介している。
アカウント名:選挙情報の真偽検証_新聞協会 https://x.com/senkyo_kensyo



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【上杉 慎一】
1990年入局。大阪局、福岡局、報道局ネットワーク報道部、デジタルセンターなどを経て、2020年から現職。主な関心領域はデジタルジャーナリズム、ソーシャルメディアなど。


【秋元 宏美】
2010年入局、奈良局、大阪局、報道局ネットワーク報道部を経て2023年8月から放送文化研究所。