中国製GPUは本当に使えるのか。自作PC好きなら一度は思い浮かべ、そして数秒後に打ち消してきた問いだ。がDirectX 12非対応のまま市場に出て失笑を買ってからというもの、中国産GPUは「動作保証なし」の代名詞だった。は、その前提を初めて崩した製品として登場した。TSMC 6nmプロセスで製造され、DirectX 12と 1.3に対応し、100タイトル以上でクラッシュなしが確認されている。中国企業として初めてMicrosoftの認証を取得し、ゲーミングGPUとして正式に動く製品になった。ただし3,300人民元という価格に何を期待するかによって、その評価は180度変わる。

AD

WHQLとは何か:なぜ中国GPU初の認証が意味を持つか

Microsoftの「Windows Hardware Quality Labs(WHQL)」認証は、ドライバーが一連の互換性・安定性テストをすべてパスしたことを証明するお墨付きだ。認証を持つドライバーはWindows Updateを通じて自動配布される仕組みが機能するため、ユーザーが手動でドライバーを探しにいく必要がなくなる。GPUに例えるなら、国際市場への「パスポート」に相当する。

この認証を持つGPUメーカーは、これまでNVIDIA・AMD・Intelの3社だけだった。Lisuanは史上4社目として、中国企業で初めてこの列に加わった。WHQLを取得するには設計段階からMicrosoftの仕様に準拠した実装が求められるため、認証はドライバーアーキテクチャが一定水準に達している証明でもある。

Moore Threads MTT S80はドライバー完成度の低さから、DX12・Vulkanゲームの互換性がほぼ皆無という状態で市場に出た。そのコストをユーザーが払ったことで、中国産GPUへの信頼は地に落ちた。Lisuanはその教訓を設計の起点に据え、ドライバー成熟度の確保を最優先課題とした。100タイトル以上をローンチ時点でプレイ可能にし、大規模なクラッシュを回避したとされる事実は、この方針転換が機能した証拠だ。

実測ゲームパフォーマンス:RTX 4060の半分が現実

 

中国のテスター「潮玩客」(BiliBili)が計測したゲームベンチマークでは、1080p解像度での主要タイトルにおける実力が数字で出た。

タイトル LX 7G100 RTX 4060 Arc B580 RX 6600 XT
Cyberpunk 2077 88 fps 232 fps 243 fps 220 fps
Black Myth: Wukong 56 fps 115 fps 81 fps 98 fps
Forza Horizon 5(Low) 48 fps 228 fps 240 fps 262 fps
Counter-Strike 2 130 fps 532 fps 449 fps 495 fps
RTX 4060比(総合) 38〜53% 100% 上回る 上回る

※ゲームタイトルによって差異は21〜55%の幅がある。Arc B580・RX 6600 XTはいずれもLX 7G100を大きく上回る。

3DMark合成ベンチマークでは、RTX 3060と同等かわずかに下回る水準が出た。最適化された条件下でもRTX 4060の「半分以下」というラインに近い実態は、ハードウェア構成の設計選択を反映している。7G106 GPU(6nm、192-bitバス、12GB GDDR6、225W TDP)という仕様は帯域幅では競合を上回る部分もあるが、帯域幅の広さが性能に直結するシナリオは限られた。

ドライバー面には未解決の制約が残る。オーバークロックの動作が不安定とされ、モニタリングサポートも限定的。ハードウェアレイトレーシングには非対応で、Lisuanは第2世代GPUでの対応を示唆している。ゲームが「動く」ことと「快適に動く」ことの間には、相応の距離がある。

AD

RTX 5060 Tiと並ぶコストの問題

RTX 5060 Tiは$489から入手可能で、16GB VRAMを搭載している。LX 7G100の3,299人民元(75,000円から78,000円相当)と並べると、性能差が倍以上ある2製品が同じ値札を付けている構図になる。RTX 5060 TiのVRAM優位は、将来的なゲーム対応でさらに拡大する方向に動く。中国国内市場でも輸入GPU市場との直接対決を価格で回避する余地がなかった点が、LX 7G100の置かれた状況を難しくしている。

PCMagのJon Martindaleは「発売時点でリアルなゲームが遊べる中国製GPUであり、数年前と比べれば大きな前進だ」と評しつつ、「あと数年でNVIDIAやAMDと軽いゲームで直接競争できる中国製GPUが登場する可能性を示唆している」と述べた。前半の評価は妥当だが、後半の「数年後」という見通しは現在の価格設定がそのまま続いた場合には成立しない前提だ。

TechSpotのRob Thubronは「マイルストーンとしては印象的だが、ゲーマーが買うべき製品ではない。競合する前に競合するかのような価格を付けた」と評した。Founders Editionの初回限定1,000台という出荷規模も、市場投入というより技術実証と受け取るべき数字だ。

Moore Threadsの失敗から学んだ教訓:ドライバー戦略の転換

Lisuanは2021年設立の上海拠点のGPU企業だ。創業者3名はS3 Graphicsの元社員で、独自のTrueGPUアーキテクチャを採用し、命令セット・コンピュートコア・ソフトウェアスタックを独自開発したとされる。2024年には経営難に陥り、Dosilicon(合肥睿科微電子)から3億2,800万人民元の出資を受けて立て直した経緯がある。

Moore Threads MTT S80はドライバー更新を重ねてようやく一部ゲームが動作するようになったが、プロセスが遅すぎた。リリース時点でのDX12・Vulkan非対応という状態が、中国産GPUへの信頼を根本から傷つけた結果だ。Lisuanがドライバー成熟度を設計の起点に据えた判断は、この失敗を直接の反面教師にした結果と考えられる。

世代比較でも前進は数字に表れている。LisuanのG100(前世代)はNVIDIAのGTX 660 Ti相当にとどまっていた。LX 7G100はそこからRTX 3060相当まで引き上げ、PCIe 4.0 x16・DisplayPort 1.4a × 4・FreeSync対応・最大8K60Hz HDR出力という現代的な仕様を備えた。GTX 660 Ti水準からRTX 3060水準への跳躍は、中国GPU開発の加速を数字として示している。

ただし、この「前進の速さ」は裏返せば「まだ追いついていない距離の大きさ」でもある。性能差を価格で埋める戦略が機能しない以上、第2世代での設計判断が一層問われることになる。

AD

次の課題:第2世代が試される3つの壁

Lisuanが公言している第2世代GPUの最大の目標はハードウェアレイトレーシング対応だ。現代のゲームタイトルでレイトレーシングが標準機能になりつつある以上、この機能なしで$400〜500帯の競合と並ぶことは年々難しくなる一方だ。

地政学的な文脈も第2世代の重要性を高めている。中国政府はNVIDIA RTX 5090D v2の輸入許可を拒否するなど、国内GPUブランドを保護する方向の規制を強化しつつある。その保護が機能するには、LX 7G100の次の製品が「選択肢になれる価格と性能」を達成している必要がある。輸入規制が厳しくなるほど国内メーカーへのプレッシャーは減るように見えるが、実際は逆だ——選択肢が国内製品に絞られた消費者が性能と価格に敏感になるため、誤魔化しが効かなくなる。

Moore Threadsも第2世代製品MTT S90の開発を進めているとされており、Lisuanとの国内競争も本格化する見通しだ。両社が同じ顧客を奪い合う構図では、WHQL認証の有無よりも実際のゲーム性能と価格設定が決定的な差になる。LX 7G100が示した「動く製品を作れる」という事実は確かな一歩だが、第2世代が$300台でRTX 4060に肩を並べる水準を実現できるかどうかが、中国産ゲーミングGPUが本当の意味で「選択肢」になれるかの試金石となる。