- 1二次元好きの匿名さん26/05/22 22:32:05
- 2二次元好きの匿名さん26/05/22 22:33:27
部屋を見渡してみるが、静まり返っており、彼の姿はどこにもない。
キッチンに目をやれば、食卓の上には彼が使っていたと思しき、飲みかけのマグカップがぽつんと置かれている。
「悠仁……?」
声をかけてみたが、返事はない。どこへ行ったのだろうか、と少しの間思考を巡らせる。だが、すぐに納得がいった。
ああ、そうか。きっと急な任務が入って、高専の仲間たちに呼び出されたのだろう。あの子は昔から、頼りにされると断れない性質だからな。まあ、夕方までには「ただいま!」と元気な声を響かせて戻ってくるに違いない。そうやって、一人で容易に自己完結した。
姿は見えなくても、この部屋に満ちている生活の痕跡のすべてが、彼と過ごす日常の温もりを雄弁に物語っていた。
「……幸せだな」
ぽつりと溢れた言葉は、静かな部屋に優しく溶けていった。 - 3二次元好きの匿名さん26/05/22 22:36:42
ソファから立ち上がり、キッチンのカウンターへと歩み寄る。今日はダージリンでも飲もうかと何気なく目をやった棚の上、そこに置かれたある一つの小道具に視線が留まった。
それは、ガラスと金属でできた、少し特殊な形をした砂時計だった。
ドイツの老舗紅茶ブランド、ロンネフェルトのティータイマー。
通常の砂時計とは違い、中のカラフルな粒が重力に逆らうように、下から上へと昇っていく不思議な仕組みをしている。
「ああ……」
俺の口元に、自然と微かな笑みが浮かんだ。
時間の流れさえも歪めるように、下から上へと昇っていく不思議な砂の粒。それを見つめているうちに、記憶の底から温かい濁流が押し寄せてくる。
そうだ。彼と付き合うきっかけになったのは、これだったな――。 - 4二次元好きの匿名さん26/05/22 22:37:46
ワクワク
新しい日車スレだーー(歓喜) - 5二次元好きの匿名さん26/05/22 22:43:30
10まで保守したい
- 6二次元好きの匿名さん26/05/22 22:45:51
日虎か?虎日か?ワクワク
関係ないけど※見切り発車ってついてる日車スレなんとなく多い気がする - 7二次元好きの匿名さん26/05/22 22:48:02
悠仁呼びだし付き合ってるしがっつり【CP有】なんだな
胸糞注意ともあるからキャラ崩壊や認識改変系もあるか?続き楽しみ - 8二次元好きの匿名さん26/05/22 22:53:28
んー保守するか
- 9二次元好きの匿名さん26/05/22 22:53:37
CPの左右は一旦置いとくけどそれはそれとして胸糞展開大好きなので助かります!!
- 10二次元好きの匿名さん26/05/22 22:54:55
既にガッツリ付き合ってるなら伏せても描写から左右滲み出そう
楽しみ - 11二次元好きの匿名さん26/05/22 23:14:18
「あのさ、日車。アフタヌーンティーとか興味ねえ?」
高専の敷地内で、少し決まり悪そうに頭を掻きながら言われた言葉に、俺は思わず瞬きを繰り返した。三十路を過ぎた男の人生において、最も縁遠い単語の一つだったからだ。
「……アフタヌーンティー。それは、その、あのアフタヌーンティーか」
「え、他にあんの? アフタヌーンティー」
「ないな」
「だろうな~……」
詳しく話を聞けば、事の顛末はこうだった。
もともとは釘崎に「どうしても行きたい店がある」と拝み倒され、彼女が執念で引き当てた超有名ホテルの限定アフタヌーンティーだったらしい。完全予約制で、数ヶ月待ち。虎杖も「美味いスイーツがいっぱい食える」と唆されて楽しみにしていたそうだ。
しかし、あろうことか当日の朝になって釘崎に急遽、一級案件の任務が舞い込んだ。 - 12二次元好きの匿名さん26/05/22 23:16:06
「釘崎のやつ、『呪霊祓ったら秒で戻る』ってキレながら引きずられてったんだけど、どう考えても間に合わねえんだよ。超予約制だから直前キャンセルとかできないし、何よりキャンセル料がバカ高くてさ……もったいねえじゃん!」
必死に身振り手振りを交えて語る彼が健気で、俺は少し笑ってしまった。重い呪術の宿命を背負わされているはずの彼が、今はキャンセル料という極めて俗世的で、年相応な問題に頭を抱えている。そのギャップが、どこか愛おしい。
なら、もう一人の同級生はどうしたんだ、という疑問が当然浮かぶ。
「いや、同級生がいるだろう。伏黒はどうしたんだ?」
「伏黒もさっき伊地知さんに拉致られた。十種で対処したほうがいい呪霊が出たとかで、今頃どっかの山の中。だからマジで誰も捕まらなくて……」
本当に困り果てた顔で、彼は俺の顔を覗き込んできた。
行き場をなくした琥珀色の瞳が、救いを求めるように俺を捉える。
「だから……その、日車。もし今日、予定空いてるなら、俺と一緒に来てくんね?」 - 13二次元好きの匿名さん26/05/22 23:19:56
超有名ホテルのアフタヌーンティー――その単語を聞いた瞬間、忘れたと思っていた記憶が不意に脳裏を掠めた。
まだ弁護士になって間もない頃、付き合っていた女に半ば強引に連れて行かれた高級ホテルのラウンジ。
当時は法廷の書類仕事に追われ、心の余裕など一欠片もなかった。場違いな空間、繊細すぎる調度品、男一人では到底お腹がいっぱいになりそうにない三段のティースタンド。居心地の悪さを隠せない俺の横で、彼女は楽しそうに紅茶の種類やスコーンの食べ方を説明していた。
『せっかくなんだから楽しみなさいよ、寛見』
呆れたように笑う声まで、妙に鮮明に思い出せる。あの頃の俺は、そんなささやかな贅沢や、彼女が提供してくれようとした「丁寧な日常」を、どこか冷めた目で見ていたのかもしれなかった。正義だ、社会的責任だと、頭の固い理想ばかりを追い求めて。 - 14二次元好きの匿名さん26/05/22 23:21:34
その、かつて切り捨てたはずの「まっとうな幸福の象徴」のような場所に、今、呪いの渦中にいるこの少年と行くことになる。その奇妙な因果に、胸の奥が少しだけ揺れた。
記憶に引きずられるように、俺は目の前の青年へ視線を戻した。虎杖は、断られることを半分覚悟しているような顔でこちらを見ている。気まずそうに、けれど微かな期待を捨てきれない目で。
「もちろん、急にこんなの変だよな!いやでもマジでキャンセル料高くてさ……」
「君はさっきからそればかりだな」
思わずそう返すと、虎杖は「だってもったいねえだろ!」と眉を下げた。
あまりにも真っ直ぐで、打算がなくて、だからこそ調子が狂う。普通なら、三十路を過ぎた男と十代の少年が連れだって行くような場所ではない。自分の人生にはあまりに不釣り合いだ、とブレーキを踏む理性が働く。
だが、困ったようにこちらを覗き込むその目を見ていると、どうにも突き放せなかった。この少年が、呪いの一級任務だの人の生き死にがなんだのという重荷から解放され、ただの「食いしん坊な17歳」として過ごせる時間を、俺の都合で潰してしまうのは、酷く勿体ないことのように思えたのだ。 - 15二次元好きの匿名さん26/05/22 23:22:48
「……まあ、今日は特に予定もない」
「え、マジ!?」
「ただし、俺はそういう店の作法には期待するな」
「あ、安心して。俺も全然わかってねえから!」
それでいいのか、と呆れ半分で息を吐く。だが、彼の顔にぱあっと花が咲くように笑みが広がったのを見て、俺の胸の奥の、重く凝り固まっていた何かがすとんと落ちた。
虎杖は一瞬だけ目を輝かせ、それから慌てたようにスマートフォンを操作し始めた。
「じゃ、決まり!えっと、店ここだから……あ、服とかってやっぱちゃんとした方がいいのかな」
「ホテルなら最低限は整えて行け」
「うわ〜〜〜伏黒連れてくればよかった……」
「任務中なんだろう」
「あ、そっか」
虎杖はけらけら笑うと、スマートフォンの画面をこちらへ向けた。画面には、洗練されたフォントで書かれたホテルのロゴと、集合場所の地図、そして2時間後の時刻が表示されている。
「じゃあ、あとでここ集合な!遅刻すんなよ、日車!」
そう言って、まるでこれから遊びに行く中学生のような軽やかさで駆け去っていく背中を見送りながら、俺は小さく息を吐いた。
彼が去った後の、少し静かになった高専の廊下で、俺は自分のクローゼットにある一番仕立ての良いスーツのシワを伸ばしに行こうと考えながら、踵を返した。