私自身が多岐川の存在を意識したのは、NHK大河ドラマ「風と雲と虹と」(76)からだったと思う。加藤剛演じる平将門の心を奪う、物語に華を添える重要な役どころだった。デビュー間もない多岐川の体当たりの演技が高い評価を受け、和服の似合う楚々とした女性の役が増えてきた。時代劇のみならず、「芝生は緑」(79)や、「七瀬ふたたび」(79)では他人の心が読めるテレパス能力を持ったヒロイン火田七瀬で人気を博し、CMでも見かけるようになった。
本当に綺麗な人だと見惚れたのが、カゴメの「トマト&レモン」のCMだった。「シャツのボタン……」と本人の歌う「酸っぱい経験」のメロディとともに、鮮やかなオレンジ色の「トマト&レモン」を持った多岐川が囁くような声で、「酸っぱいこと、したい」というたった一言のセリフなのだが、多岐川の活き活きした表情と美しさが際立ちインパクトが強かった。もちろん着ているのは白いシャツ。小悪魔的で、年下の男性を翻弄するような大人の女性を、多岐川にしか出せない独特の空気感でいっぱいだった。
作詞の三浦徳子は、70年代後半から80年代のアイドル全盛期、そしてJ-POPの黎明期にかけて数々のメガヒットを飛ばした。メロディが先にあって、そこに言葉をパズルのようにはめ込む作詞のスタイルだったと言われている。松田聖子のデビュー曲「裸足の季節」から「青い珊瑚礁」「風は秋色」など初期の代表曲、八神純子の「みずいろの雨」、沢田研二の「おまえがパラダイス」、「6番目のユ・ウ・ウ・ツ」など代表曲として挙げるには少なすぎるが、一瞬でその情景が目に浮かぶような詞が聴く者の想像力をかき立てるのが特徴だ。
多岐川は、「酸っぱい経験」、「あいつの残影」の他にも、「愛しのララバイ」(80)、「濡れてさよなら」(80)、「彼女と彼」(81)、「セクシー・キャット」(81)、「黒のオートバイ」(82)、「マイタイとため息」(82)、「神戸メランコリー」(83)、「あいたいよ」(83)、「ADULT」(84)、「恋、爛漫」(87)などシングルを12枚とオリジナルアルバムも、6枚リリースしている。来生えつこ・来生たかおのコンビや、安井かずみ・加藤和彦コンビ、阿木燿子、森田公一、竹内まりやなどのヒットメーカーたちが、楽曲を提供している。
さらに、渡哲也と「めぐり逢い しのび逢い」(82)、中村泰士と「あぶない2人」(86)、高田純次と「19番のタンゴ」(92)といったデュエット・シングルもリリースしている。意外や意外、新鮮な感動を覚えた。多岐川裕美の歌手としての魅力は、女優ならではの表現力、佇まいを融合させ、自身のキャラクターを活かした世界観をつくり、歌いこなしていることだろうか。
女優の役柄ではテレビ史に残る、二代目中村吉右衛門主演の「鬼平犯科帳」(89~16)シリーズで、主人公・長谷川平蔵を支える妻の久栄役を28年間にわたって演じた。平蔵を深い愛情で支える久栄役は、はまり役だった。
雑誌のインタビューで、これからは、コメディ系の役や、年相応のお婆ちゃん役をやってみたいと言っていたが、きっと色気のあるお婆ちゃんになるだろう。まだまだいろいろな役を演じて活躍して欲しいし、新しい曲も聴きたいものである。
文=黒澤百々子 イラスト=山﨑杉夫








