三重県の一見(いちみ)勝之知事が情報漏えいの恐れを理由に、県職員の「国籍要件」を復活させ、外国人の採用取りやめを検討していると明らかにした。ただ、そもそも外国籍の住民が公務員になるには制約があり、自治体の共生施策の中で国籍要件も廃されてきた経緯がある。知事は「秩序ある共生が大事」と強調したが、日本人以外の住民を一律に疑う姿勢は、昨今の排外主義をあおりかねない。(山田雄之、太田理英子)
◆「三重には差別解消条例もあるのに…寝耳に水」
「情報漏えいの観点から、見直した方がいいと思っている」。外国人の一般事務職などの採用を巡り、三重県の一見知事は昨年12月25日の記者会見で、1999年度から撤廃していた国籍要件の復活を検討する方針を表明した。
約6万7000人の外国人が暮らし、総人口に占める割合が3.84%と全国4位の三重県。人権尊重を掲げ、外国人の社会参画を推進するため、獣医師、航海士、建築などの5職種を除く44職種で国籍要件を廃止。許認可、徴税など権力行使に関わる業務や管理職には就かせない条件で、外国人を採用してきた。
これまでの共生施策からは、逆行するような三重県の方針。「三重には差別解消条例もあるのに。寝耳に水だ」。津市の公益財団法人「反差別・人権研究所みえ」の松村元樹事務局長が、困惑を語る。
◆1月下旬から「県民1万人へのアンケート」実施
なぜ見直しが必要なのか。一見氏は会見で、県民の個人情報、伊勢神宮参拝での要人の動線、橋やダムなどインフラ施設の強度、種苗開発データを挙げ、「地方公務員が取り扱う情報には、機微にわたる情報もある」と述べた。
加えて念頭にあるとみられるのが、中国が2017年に制定した「国家情報法」だ。国内外の中国人や企業に対し、国家の情報活動への協力を義務付ける。一見氏は特定の国名を出さなかったが、「他の国でもそうした法制度を作られる可能性がある。地方公務員の守秘義務とその国の法律とのはざまで苦しむ人が出るなら制度全体を見直した方がいい」などとして、国籍要件の必要性を主張した。
今月下旬から実施する日本国籍の県民1万人へのアンケートに「引き続き、外国籍職員の採用を続けるべきだと思いますか」との質問を盛り込む。「皆さんの意見をうかがって、最終的に判断したい」として、早ければ新年度に実施する採用試験から適用する。
◆「職業選択の自由を侵害する過剰な制約」
記者から「外国人共生を後退させるメッセージにならないか」と問われると、「排外主義、排他主義はとらない。外国人に対する差別や中傷は許すべきではない。秩序ある共生が大事」と強調。公務員の人材確保が難しい状況と認めつつ、「日本は日本人がつくってきた国なので、日本人に働いてもらうのがまず第一義的に考えるべきこと」と述べた。
もっとも記録が残る2005年度以降、県が採用した外国籍職員は9人にとどまり、現在は医療職に1人のみ。県の担当者も「実態として多くない」と話す。
名城大の近藤敦教授(憲法)は国籍要件の復活について「現状での必要性は認められない。情報漏えいの恐れがある職務には、懸念のある国の人を配置しない運用で対応できる。職業選択の自由を侵害する過剰な制約だ」と指摘し、こう続けた。「外国人はスパイ予備軍だ、という排外主義的なメッセージを全国に広げる恐れもある。政府が進める『スパイ防止法』の制定に向けた空気を醸成したいのだろうか」
◆伊賀市の稲森稔尚市長「公務員希望の若者の意欲も奪っている」
足元からも、三重県の方針に反対の声が上がる。
「日本国籍の有無を理由にして一律に『安全を脅かす存在』と決めつける論理には、いかなる客観的根拠もありません。リスク管理を属性の問題にすり替える手法は、行政の知性の放棄というべき人権軽視です」
同県伊賀市の稲森稔尚市長は、一見氏の会見を受け、検討の撤回を求めるコメントを市ホームページに公表した。同市は2025年度の職員採用試験から、永住外国人らを対象にした「多文化共生推進枠」を設けた。
「こちら特報部」の取材に対し、稲森氏は「県内各地で長年にわたり、多文化共生を推進する地域づくりが官民一体で進められている。市でも窓口対応など外...
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