俺、藤丸立香には前世の記憶がある。
それに気が付いたのは小学2年生くらいだったと思う
信じられないことだが、前世、俺は世界を救った英雄となった。世界を救った後はサーヴァント達と楽しく余生を過ごし 何事もなく一生を終えたのだ
終えた、のだが····
俺は今、高校1年生として過ごしていた
転生というのだろう。新たに生を授かって居た
だがしかし、運命とは不思議なもので
名前は前世と同じ藤丸立香、目は青く、くせっ毛の髪も以前となんら変わっていなかったのだ。違うとすれば、右手にあった令呪がないという事くらいだろうか。
そして記憶が戻った時、真っ先に思った
もしかしたら、皆も居るのでは。
自分と一緒で転生してこの世に居るのではないのか。
そう思ってすぐにネットで名前を検索したのだが何も出て来なかった
出てくるのは歴史上の人物達の名前のみ。
そう上手くはいかないよなぁ····
信じていたものがなかった時のガッカリ感が強く、項垂れたものだ。
自分がいるからといって彼等がいるとは限らない、分かってはいるが堪えてしまう
昔、というか前世にダ・ヴィンチちゃんからサーヴァントの記憶は残らないと聞いた。
記憶がないから違う所で出会ったとしたら全力で逃げようね、なんて笑顔で言われて鳥肌が立ったのを覚えている。
もし居たとしても記憶が無いのなら接することも難しい。諦めるしかないのだろうか、
「立香ー聞いてるかー?」
「あっごめん何?」
考えると周りが見えなくなるのも困りものだ。家に遊びに来ていた友達が呆れた様に此方を見ている
此奴は高校で初めて出来た友達で、好きなゲームが一緒だと言う点で仲良くなった。
自分から話し掛けたのだが、後に聞くとコミュ力すげーよお前。と褒められた。褒められたんだよな?褒められたと思っておこう
その時はもうカルデアの事を思い出していたので、多分その時の経験が生きているのかもしれない。
沢山の英雄達と話したのだ、それなりに度胸もコミュ力もつくというもの。
あの頃は臆してなんか居られなかったし怖気づく暇もなかった
そう思うと今の平和さに変な感じがしなくもない
「ちょー俺今手放せねぇから飲みもん持ってきてくれね」
友達は早々に俺が死んでしまったオンラインゲームが接戦になってきたようで、必死に画面に食いついて居た
「仕方ねぇな、立香様に感謝しろよ」
ありがたやーという感謝の気持ちが全く感じられない口調を背にしつつ席を立つ。
キッチンに行くとテレビの音が思ったよりも大きかったようで、聞こえてくる
今日は幸い両親が居ない日なのでまぁいいかと思いながら冷蔵庫を開けるとジュースは無く、茶や牛乳パックなども切らしていた
ここからコンビニは約5分程。
ゲームに熱中した友達がそうすぐにゲーム機を手放さない事は知っている、急いで行けば2分とかからずに帰って来れるだろう
財布をポケットへ入れ家を出た。
一応、友達に「買ってくる。」と連絡は入れて置いた
そろそろ春となる時分であるが頬に触れる風はまだ冷たい。マフラーぐらい巻いてくれば良かったなぁ、なんて後悔の念を抱きつつ走った
コンビニに着く頃にはいい具合に体は温まっており、なんならちょっと暑いくらいだ
早足でコンビニに入り飲み物の置いてあるスペースを目指す
炭酸と牛乳を持つと明日の朝ごはんも無いことに気付く。無くても困る訳ではないが、どうせなら買ってしまった方が楽だろう
パン4つも加えると何やら割引になっている菓子を見つけた、自分の好きなものだ。
お前が今日の晩飯だ!
心の中で叫び取ろうとすると横から伸びた手によって目当ての物は無くなってしまった。
なんてこと·····俺の晩飯が··なんてこと、
呆然としていると、横から申し訳なさそうな声で話かけられた
「これ、御前さんも欲しかったか?悪ぃな、俺もこれがねぇとやってけねぇんだわ」
慌てて気にしないで下さいと言おうと相手を見て、その姿に思わず目を見開いた。
黒く艶やかな髪を一括りに縛り、黒いマスクを顎に掛け見えた口元、薄い黄金色をした瞳の美人の男。
思わず声が漏れた、漏れてしまった
燕青
その名を言った瞬間、目の前の男から殺気が溢れた。
しまった。
直感的にそう思った、ダ・ヴィンチちゃんの言葉が脳裏を過ぎる
もし、もしもこの世界でサーヴァントが居るとしたらそれは、自分と同じ様に転生している場合だけだと高を括っていた
しかし今ならもう1つの選択肢が思い浮かぶ。
それは
この世界で聖杯戦争が起きている場合。
その結論に至ると全身から冷や汗が噴き出す
「御前、それを何処で知った?」
地を這うような声。
やばい、これはやばい。これは俺の知っているあの一途な男じゃない
俺の為に尽くしてくれた燕青じゃない。
すいません、人違いでしたごめんなさい。
自分の声が遠くで聞こえる。心臓の音が耳のすぐ傍で聞こえる。
早く逃げなければ、背を向け早足でレジへと向かうがその間 ずっと視線が突き刺さっていた。
お金を払いちらりと店内を見ると燕青は居ない。それにほっと息をつき店舗を出た
そして右に曲がった目に入ったのは店の明かりに照らされながら此方を見ている男。燕青だった
そして男は目元を袖で拭いこう言った
「会いたかったぜ、マスター」