閉山期の富士山 山梨県の長崎幸太郎知事「救助費自己負担案」に注目 危険認識の欠如問題

直球&曲球 野口健

アルピニストの野口健氏

山梨県の長崎幸太郎知事が閉山期の富士山での救助費用などについて、遭難者へ負担を求める条例案を年内にも県議会に提出する意向を表明した。以前から同県富士吉田市や静岡県富士宮市など富士山麓の首長たちから、遭難者の増加に対し、悲鳴のような訴えが上がっていた。軽装備のまま冬山に踏み込む「無自覚登山者」による遭難が相次ぎ、レスキュー体制の維持が困難になる。隊員の疲弊は二次遭難のリスクにもつながり、増大する救助費用も行政に重くのしかかっている。

以前、レスキュー隊員から話を聞いたことがあるが、悪天候の中、背負って担ぎ下ろしても遭難者からは感謝の一言もなかった。「命を救うのが仕事ですから当たり前のことをやっていますが、気持ちが折れそうになりました。そもそも閉山期の登山道は通行禁止になっているのに…」と嘆いていた。

また、山頂付近から「救急車を呼んでほしい」という連絡が入ったことも。無論、救急車が向かえる現場ではない。事態の根本には「助けてもらうのが当然だ」と考える登山者の意識の問題があろう。

富士山から下山してきたある登山者が「富士山は日本国民のものだ」とメディアで話したことがあったが、必ずしもそうとは言い切れまい。

日本の国立公園内には生活圏も含まれ、私有地が多い。富士山の8合目より上も浅間大社の私有地であり、土地所有権は浅間大社にある。以前、那智の滝(和歌山県)に無断で立ち入った登山家が逮捕されたのも、熊野那智大社の私有地への不法侵入が理由だった。富士山でも、仮に浅間大社が閉山期の立ち入りを禁止すれば、摘発の対象になるだろう。

われわれが学生の頃の厳冬期の富士山は「山屋」の世界だった。それがいつの間にか、雪と氷に覆われている富士山の危険性を認識しない登山者が増えてしまった。この危険認識の欠如こそが問題の本質だろう。

長年のテーマであった富士山の入山規制や入山料の義務化を実現させた長崎知事の「新たな富士山改革」に注目している。

野口健

のぐち・けん アルピニスト。1973年、米ボストン生まれ。亜細亜大卒。25歳で7大陸最高峰最年少登頂の世界記録を達成(当時)。エベレスト・富士山の清掃登山、地球温暖化問題など、幅広いジャンルで活躍。著書に『父子で考えた「自分の道」の見つけ方』(誠文堂新光社)。

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