「監督生ってさ、此処とは全然違う世界から来たんだよな?」
混雑する大食堂でホットドックにかぶりつきながら、エースは何気なく話を振った。話を振られた少年は咀嚼していたパスタを飲み込むと、縦に頷いた。同じパスタを食べていたデュースが不審そうにエースを横目で見る。
「急にどうしたんだ。今更な話を振って」
「いやさ、もう俺達が入学して、監督生がこの世界に来て三ヶ月じゃん?面倒くせぇ寮長達がオバブロしたりさー」
「おい、口を慎めエース!思っててもこんな大衆の前で言うなよ!」
「お前の声も響いてるぞ、デュース」
そしてフォローになってねぇ。そう言いながら同じ一年のジャックが監督生と呼ばれた少年の隣に座った。それで?と、話を促す。
「俺達にとっては魔法って日常で使えて、生活に欠かせないものじゃん?でもさ、監督生は魔力無いし、魔法って少なくとも身近じゃねぇモンなのによく此処で生活できてるなって思ってさ」
「確かに、色々な事件が起こったがそこまで驚いた様子も無いな」
「順応性が良すぎる気がする」
「オレが喋った時も驚いて無かったんだゾ」
成程、今更此方にとってこの世界の常識が普通では無いのではと疑問を持った訳だ。少年は手を合わせ、ご馳走様、と呟きクラスメイト達と向き合う。
「うん、俺、全然魔法が使えない訳じゃ無いから」
「「「…はい?」」」
「いやね、闇の鏡?が言っていた事は間違ってないと思うんだよね。実際、俺には魔力は無いから」
「でも魔法が使えるって言ったんだゾ?」
「正確には魔法ではなく魔術なんだけど」
「そういえばこの前の歴史学で出てきた気がするけど全く覚えてねぇ!」
「うーん、簡単に言うと俺は魔力を肩代わりしてもらって、魔術を使ってたんだ」
「…それはお前が元にいた世界の話か?」
「そうだよ。俺は沢山の人に助けられて生きていたんだ」
ふと、右手の甲を触りながら少年は続ける。
「旅をしていたんだ。色んな人に会ったし、色んな魔術も見てきたからね。だから見慣れてるというか…この学園生活も刺激的だけど、すっごく驚く事はない、かな?」
「ふーん」
「…何、拗ねた顔してるの、エース」
「べっつに」
「さて、そろそろ午後の授業が始まるから移動しよ。みんなは飛行術だろ?俺は参加できないから、グリムの事よろしくね」
「おー」
じゃあね。大食堂を出て少年だけが別の方向へ歩いていく。ひらりとローブを翻すその姿を見送った。漆黒で中が臙脂色、この学園の付属の物ではない、この世界に来た時に身に付けていたローブを少年は今でも羽織り続けている。
「おい、エース。お前が話振ったクセに何だよ最後の態度は」
「ジャックの言う通りだゾ!」
「まぁ、俺は何となく分かる…」
「アイツ凄ぇ楽しそうに話やがって…、俺達とだって充分楽しい学園生活送ってるじゃんよ!」
「面倒くせぇなお前ら…」