カルビー対応に官邸「売名行為だ」 中間製品まで含めナフサ充足強調

森岡航平 福地慶太郎

 20日の党首討論でも高市早苗首相が言及した石油化学製品の原料「ナフサ」。長引く中東情勢の混迷で、供給が滞る事態を見越し防衛策に走る企業も出てきた。一方、高い支持率に寄って立つ政権は「総量は足りている」と繰り返し、社会不安の沈静化に神経をとがらせる。政府と現場の振る舞いに、ギャップが生じている。

白黒パッケージ発表のカルビーに「過剰反応だ」

 党首討論でも、首相が総量としては「足りている」との姿勢を崩すことはなかった。中道改革連合の小川淳也代表が、資材の入手困難や価格高騰などの苦境を挙げ、供給サイド(企業側)への支援を訴えた際も、首相は「様々な現場で目詰まりが起きている。足りているはずのナフサが手元に届いていない。その状況は十分に把握している」と述べ、解消に取り組む姿勢を示した。

 政府が強く警戒するのが、資源不足への不安が社会に広がり、国民生活や経済に悪影響を及ぼすことだ。国民の高い支持が政権の大きな推進力となっているだけに、「不満が広がれば、矛先が政権に向かいかねない」(政権幹部)と事態の長期化に焦りといらだちを募らせる。

 特に、食品大手カルビーの対応は、政権中枢に衝撃を与えた。主力のポテトチップスなど計14商品のパッケージを、ナフサを原料とするインクの調達が不安定になったとして白黒にすると12日に発表。一報に接した官邸幹部は「売名行為だろう」と強い言葉でインク不足を否定した。

 政府は12日、カルビーから状況を聞き取った。政府関係者によると総量としては必要な量があるとカルビー側に説明したという。首相周辺は「カルビーは過剰反応だ。報道されて他社も不安になる」と波及を懸念するが、カルビーは「商品の安定供給のための対応」(広報担当者)と方針を変えていない。

政府、沈静化に躍起 供給網に異例の介入

 政府は、資材の供給不安を抑えようと、個別企業のサプライチェーン(供給網)の調整に直接乗り出す異例の対応を続けている。

 4月には、ナフサ由来の溶剤の調達が不安定になったとしてユニットバスの新規受注を一時停止した住宅設備大手TOTOに対して経済産業省がすぐに調査に乗り出した。調査後、TOTOは段階的に新規受注の受け付けを再開した。

 だがホルムズ海峡の事実上の封鎖の長期化に伴い、対応に乗り出す企業は着実に増えている。政府からは「モグラたたきになりつつある」(経産省幹部)という嘆きも漏れる。

 政府としては現時点では、生産・流通過程の川上に必要な分だけ資材はあると繰り返し発信して供給の偏りの解消に取り組み、社会不安を抑えつつ中東情勢の好転を待つ構えだ。経済に冷や水を浴びせ、国民に我慢を強いるような節電要請や需要抑制策に踏み切る考えはない。

 原油の代替調達先の拡充などに手を尽くす政府だが、現状が続けばどこかの時点で限界が来かねない。「十分な量を確保している」という政府の声は、徐々に行き届かなくなりつつある。

政府は「全体では足りている」 現場の認識とはギャップ

 政府が「足りている」というのに、企業にはなぜナフサ不足への危機感が広がるのか。政府の説明の根拠をひもとくと、そのギャップを生み出す構造が浮かび上がる。

 普段の国内のナフサ供給量は、月約280万キロリットル(2024年平均)。①中東からのナフサ輸入が約120万キロリットル②国内でのナフサ精製が約110万キロリットル③中東以外からのナフサ輸入が約45万キロリットル、で賄ってきた。

 しかし、ホルムズ海峡の封鎖で①(中東から)が激減。そこで政府は②(国内生産)について、放出した石油備蓄の活用などで約110万キロリットルを年明けまで維持し、③(中東以外)についても米国やペルーなどからの調達で5月には135万キロリットル超に拡大・維持することを見込む。

政府、ナフサ由来の中間製品もカウント 代替は難しいが…

写真・図版

 加えて政府は、民間にあるナフサ由来の製品の在庫をカウントに入れた。対象は「川中製品」と呼ばれる、ナフサ由来の中間製品の在庫だ。これを合算してナフサに「換算」し、月量「1・8カ月分ある」と説明する。

 ②(国内生産)と③(中東以外)が維持できて、在庫を崩していっても、年明けまで供給可能と考えているのだ。

 ただ、中間製品は特定の用途で作られ、代替が難しい。そのため在庫には製品ごとのバラツキがあるといい、均等に「1・8カ月分」在庫があるわけではない。

 エネルギー経済社会研究所の松尾豪代表は、川中製品の在庫は内訳が示されていないため、「一部の製品が不足するリスクがある。そうした要因で混乱が起きている可能性もある」と指摘。ナフサ換算の在庫量と実際の在庫量の「差」が、政府発信と現場のギャップにつながっている可能性がある。

 在庫が少ない製品では、在庫を多めに抱えるなどの事象が発生しやすい。供給に不安があれば、在庫を多めに抱えるのは企業の合理的な行動で、それが「川下」の最終商品にしわ寄せが及んでいる側面は否めない。政府は「川下」の状況をすべて把握できているわけではないという。

 そもそも平時の供給量は在庫を含まず、ナフサのみ。経済産業省幹部も「ナフサ自体の供給量が減っているのは事実。ホルムズ封鎖前と現在は状況が違う」と認める。

 さらに、政府の説明にはナフサの価格要素が抜け落ちている。世界的な争奪戦で価格は上昇し、製品の値上げが見込まれる。手元の在庫量が減っていく中、「全体では足りている」と繰り返す政府の姿勢が、企業が防衛的な選択を取る要因となっている可能性もある。

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この記事を書いた人
森岡航平
政治部|首相官邸担当
専門・関心分野
国内政治
福地慶太郎
経済部|経済産業省担当
専門・関心分野
原子力、福島第一原発事故、生命科学
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    明石順平
    弁護士・ブラック企業被害対策弁護団
    視点

    「一報に接した官邸幹部は「売名行為だろう」と強い言葉でインク不足を否定した。」 →本当にこんな発言をしたのだろうか。信じがたい愚か者である。 ナフサが足りていれば白黒にする必要は無い。 総理の目先の支持率維持のための現実逃避をいつまで続けるつもりだろうか。 どんなに口を塞ごうとしても、ナフサが足りない現実は動かない。 もう世界全体が未曽有の不景気に突入することは確定している。 それをふまえ、せめて被害を最小限にする努力が必要とされている。 しかし、総理は決して現実を見ようとしない。部下もそれに従わざるを得ない。 最悪の事態に最悪の総理が重なってしまった。 今回の事態を招いた一番の原因はトランプだが、それによって発生する被害を最大限に広げようとしているのが高市総理である。

    2026年5月20日 21:44