痛ましい事故だった

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 基地建設反対運動が続く沖縄県の辺野古沖で3月16日、抗議団体「ヘリ基地反対協議会」が運航する小型船2隻が転覆。研修旅行で乗船していた同志社国際高校2年生の武石知華さん(17)と船長が犠牲となる痛ましい事故から2か月が過ぎた。

【動画】辺野古ボート転覆事故・反対協幹部が中国共産党“宣伝機関”配信動画に登場 中国人記者を船に乗せて周辺海域を案内し、当局から警告を受けていた

 団体側の対応に批判が集まるなか、新事実が発覚した。同団体の事務局長が、中国共産党の宣伝機関の記者を船に乗せ、辺野古基地の周辺海域を案内していたのだ。中国事情に精通する紀実作家の安田峰俊氏が、その全貌を伝える。【全3回の第1回】

制限区域にカメラを向けた女性記者の正体

「私の後ろに見えるのが辺野古海域です。米軍基地の建設により、広大な海は埋め立てられ……」

 昨年12月下旬に撮影され、今年2月26日に公開された中国語の報道動画。辺野古の海を背景に、長い黒髪の女性記者が話している。動画の発信元は、中国共産党中央に直属する人民日報社の傘下紙『環球時報』だ。

 同紙は2020年6月、アメリカ国務省によって、党体制の「プロパガンダ機関」と認定されたいわくつきのメディアだ。米国務省は同紙を通常の報道機関としては扱っておらず、その海外支局は、中国の在外公館に準じた警戒対象となっている。カナダや豪州でも、政府機関がこうした中国メディアの情報工作を懸念するリリースを出している。

 では、そんな『環球時報』の動画は何を伝えていたのか? 画面はやがて、辺野古基地前でトラックの土砂搬入に反対する抗議団体と、門に入る車列を映し出した。さらにシーンが切り替わる。

「はい。フネ、フネ!」

 中国訛りの日本語。先程の女性を含む3人の記者らが、基地工事現場の対岸にある汀間漁港から白い船に乗り込んでいる。

 約3か月後に事故を起こす小船舶「平和丸」「不屈」とは異なり、しっかりと船室があるグラスボートだ。船底のガラス窓から海中を観察できる、観光客向けの船である。

 舵を握る男に「現地の漁民」とテロップが付いた。彼の操船のもと、船は海上の臨時制限区域(基地の埋め立て工事周辺の立ち入り禁止水域)に進んでいく。民間船舶の侵入禁止を示す黄色いフロートが海上に広がりはじめた。

「ここで写真撮ってもいいですかね?」

「向こう(=警備側)も撮ってるから! 自由に撮っていいよ!」

 男の許可を聞き、女性記者が基地工事現場の方向にレンズを向けた。警備にあたる当局のゴムボートから響く警告音声。動画はその様子を撮影し続けている。

「何を話してるんですか?」

「危険ですから出ていってくださいって」

 男が答えた。動画が切り替わり、過去に抗議船や抗議カヌーが制限区域に不法侵入した際の動画が、勇ましいBGMに合わせて次々と紹介されていった─―。

 実はこの映像のなかで、中国人記者たちを案内した人物は、普通の「漁民」ではない。辺野古抗議団体「ヘリ基地反対協議会」(反対協)の事務局長で、現役の名護市議(4期目)でもある東恩納(ひがしおんな)琢磨氏(64)だ。

記者を乗せたのは抗議船ではなく比較的安全な船

「事故当夜の謝罪会見の際、高校生らが乗った小船舶2隻の運航について(学校側は謝礼を支払ったと説明しているにもかかわらず)『ボランティアだった』と主張していた団体幹部が彼です」

 当時の会見現場を取材した、全国紙の記者はそう話す。東恩納氏は過去30年近く、日米両国を相手に抗議運動を続けてきた環境活動家だ。

 2000年からは、現地で環境団体「じゅごんの里」を運営。こちらは反対協の構成団体・関連団体の筆頭に挙げられている団体である。

『日本経済新聞』(2015年6月30日付)によると、年間600人程度の修学旅行生らを毎年受け入れ、希望校には「基地問題をめぐる資料を事前送付」するという、エコツアーや平和教育をおこなってきた。

「3月に高校生を乗せて転覆した『不屈』『平和丸』の2隻は、反対協の "抗議船"。海保船とやり合うためにスピードも出る、不安定な船です。対して、中国人記者らが乗ったグラスボートは、普段から『じゅごんの里』で観光用にも用いられています」(同)

 こちらの船名は「ゆがふ世(ゆ)」。辺野古新基地建設反対などの抗議活動を支援する辺野古基金からの約1000万円が購入に充てられ、2016年1月に反対協が県内マスコミ向けに公開した船だ。現在は東恩納氏の個人名義で運輸局(※沖縄では沖縄総合事務局運輸部)に事業の届け出が出されている。

「昨年1月、同船のプロペラが潜水漁をおこなう地元漁師の(酸素)ホースを巻き込み、死者が出かねない事故を起こした」(県内治安筋)

 そうした話もあるが、長年の旅客受け入れ実績を持つ観光船だ。

 実際に出航場所を取材しても、抗議船が人の乗降に適さない防波堤から荒海に出るのに対して、「ゆがふ世」は水の穏やかな漁港内から、埠頭にしっかり固定されたハシゴで乗り込む形である。

 東恩納氏らはなぜ、中国人記者に比較的安全な環境を提供しておきながら、拒むすべを持たない高校生たちを危険な抗議船に乗せていたのか?

「答えません! 何も話しません!」

 名護市内にある自宅を訪ねると、対応した同氏の夫人にいきなり怒鳴られた。屋内からは、東恩納氏らしき男性の小さな声も聞こえた。

「『環球時報』が、中国共産党のプロパガンダ媒体なのはご存知ですか?」

「帰って! 警察を呼びます!」

 運動の場では公権力を批判しているのに、取材対応の際には警察に頼るようだ。

 その後、中国人記者を乗せた理由や、修学旅行生を抗議船に乗せた理由などを改めて文書で尋ねたが、期日までに回答はなかった。

 反対協の代理人弁護士にも同様の文書を送ったが、こちらも「当職において回答できることはありません」とすげない返事である。

「ボート転覆事故の件も同様で、反対協の行動は誰が責任を持つ立場なのか、なかなか見えてこない。捜査当局の側も頭を悩ませていると聞きます」(地元紙記者)

 団体側から一貫して漂う、説明責任の放棄と無責任体質。彼らはこうした姿勢のまま、アメリカ政府が名指しで警戒する中国共産党のプロパガンダ機関に結果的に協力。安全保障上の問題の種を増やしたことになりかねない。

(第2回に続く)

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【プロフィール】

安田峰俊(やすだ・みねとし)/1982年、滋賀県生まれ。立命館大学人文科学研究所客員協力研究員。『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』(KADOKAWA)で第5回城山三郎賞、第50回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『戦狼中国の対日工作』(文春新書)など著書多数。近著に『民族がわかれば中国がわかる』(中公新書ラクレ)がある。

※週刊ポスト2026年5月29日号