- 1二次元好きの匿名さん26/05/17(日) 23:35:21
- 2二次元好きの匿名さん26/05/17(日) 23:36:45
(注意)
この先日下部さん・日車さん双方にとって非常に辛く、残酷な描写が続きますが今は比較的良いENDに進んでいってる途中です。
今後もう一度分岐がありますが、どちらに進んでも本SS内におけるBADENDにはなりません。
ただし、その過程には救いのない描写や、人によっては強い不快感を覚える展開が含まれます。 - 3二次元好きの匿名さん26/05/17(日) 23:37:53【閲覧・CP注意】 「お前の人生はハッピーエンドにはならねぇと思ってた」|あにまん掲示板それでもできうる限りの幸せを与えてやりたいと思ったんだ……※初心者のSSです※安価など有り、ダイスもあり※END分岐やその他の分岐がありますが、一度END分岐が出てても話の展開によってはさらに追加でE…bbs.animanch.com
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【閲覧・CP注意】 「お前の人生はハッピーエンドにはならねぇと思ってた」|あにまん掲示板それでもできうる限りの幸せを与えてやりたいと思ったんだ……※初心者のSSです※安価など有り、ダイスもあり※END分岐やその他の分岐がありますが、一度END分岐が出てても話の展開によってはさらに追加でE…bbs.animanch.com前スレ
- 4二次元好きの匿名さん26/05/17(日) 23:42:57
スレ立て乙です
辛い展開だけどめちゃくちゃ引き込まれる - 5二次元好きの匿名さん26/05/17(日) 23:43:47
スレ画が……!
- 6二次元好きの匿名さん26/05/17(日) 23:44:39
スレ画の変化が…日車が小さくなってるのと日下部の口元が見えるようになった
- 7二次元好きの匿名さん26/05/17(日) 23:54:43
立て乙
これからどうなってしまうんだ - 8二次元好きの匿名さん26/05/17(日) 23:56:17
立て乙
そしてここで日車が小さくなるスレ画…いよいよって感じだな - 9二次元好きの匿名さん26/05/17(日) 23:58:21
前スレの暴力に怯え過ぎて暴力禁止の領域展開しちゃうのすごくよかった発想がすごい
- 10二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 00:02:12
- 11二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 00:13:30
- 12二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 01:02:16
パート3の頭からサラッと読んでしまって、展開何も知らないまま読みたかった…って自分はめっちゃ後悔したから興味を持ってくれたなら真っ先にパート1を読んできてほしい
11が言う通り今のところCP要素はあんまり見られない
謎が謎を呼ぶスレって感じだ
ジャンルとしてはホラーに片足突っ込んでるんだけどまた別の薄暗さがあるっていうか…
読む前に一旦「ゴア」の意味も調べた上で読んでみると心の準備はできる
あんまり酷な描写はwriting挟むし、writing読まなくてもあからさまな描写を避けて物語は分かるようにしてくれてるからそこまで警戒するほどじゃないかもだけど一応ね
説明下手ですまん
とりあえずパート1から行ってらっしゃい!
- 13二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 02:59:05
既にある説明に捕捉するとCPはスレ画の通り日下部と日車
- 14二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 07:08:21
このレスは削除されています
- 15二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 07:10:29
「ねぇ!! コレいいんじゃない?」
殺風景な病室に何か飾ってやろうと、見舞い前に虎杖と雑貨屋へ立ち寄ると、虎杖がずいっと目の前に手を差し出してきた。
差し出された手を見ると、小さなクリアケースの中に、とぼけた面した黒猫の人形が入っていた。
日下部「なんだこれは」
虎杖「最近流行ってんだって、釘崎が言ってた。こう、握ると気持ちいいらしくてさ。リハビリにもなるし、癒やされるかなって」
日下部「へぇ……」
適当に相槌を打ちながら、まじまじと猫を見返す。
なんとなく、日車に似ている気がした。
本人に言ったら絶対に嫌な顔をして、「目が腐ってるのか?」などと宣っただろうが、やたら大きな目だとか、不貞腐れたようなへの字の口だとか、たまに見せるきょとんとした間抜け面が、かわいいんだか不細工なんだか分からねぇ、その黒猫にそっくりだった。
日下部「……コレは俺が買うわ」
虎杖「えっ! いいよ! 俺が買うって!」
日下部「違ぇよ、俺が個人で買うっつってんの。日車にはこっちの方がいいだろ」
同じ棚に並べられている別の猫を指差す。
間抜け面したピンク色の猫が、気持ちよさそうに仰向けに寝転んでいた。
日下部「お前に似てる。こっちの方が喜ぶだろ」
虎杖「えっ!! 日下部先生、俺のことこんな可愛く見えてんの!!」
日下部「だ、れ、も、お前が可愛いなんて言ってねぇだろ!! 能天気に緩みきった面が似てるって思ったんだよ!!」
虎杖「ひでぇ!! 俺、こんな風に思われてたの!!」
ぶつくさと文句を唱える虎杖を横目に、俺はもう一度黒猫のケースを見下ろした。
むすっとした顔のくせに、どこか気の抜けた面をしている。
日車のそんな顔が、好きだった。
そんな面から出てくる、わりと口が悪いところとかも気に入っていた。堅物ぶった振る舞いの中で、時たま見せるガラの悪さが妙にツボで見ていて飽きなかった。
最近は、もう見れていないが…… - 16二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 07:46:38
- 17二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 10:45:45
- 18二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 10:55:14
- 19二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 11:29:26
虎杖猫かわいい!
窮屈な空間を思い出させるか…なっ中身だけ取り出して渡すわけにはいかないか? - 20二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 16:00:06
あかん(あかん)
- 21二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 16:57:50
このレスは削除されています
- 22二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 16:59:32
虎杖「でもこの猫、目が閉じてるね。なら、日車にあげてもいいかも」
虎杖は猫の入ったケースを片手に、いそいそとレジへ向かう。
日下部「? 今は普通に見れてるだろ」
虎杖の後を追いながら、俺は首を傾げた。
初めて虎杖を病室へ連れてきた時、日車は突然現れた虎杖を見て、嘘みてぇに目を丸くして、そのまま柔らかく目を細めた。以前みてぇに視線を逸らすことも、気まずそうに俯くこともなく、ただ穏やかに、眩しいものを見るみてぇな目で虎杖の姿を見つめていた。
日車は虎杖の前では、できるだけ弱った姿を見せたくないのだろう。俺と二人きりの時みてぇに泣くこともなく、比較的気丈に振る舞っていた。体を起こして、ベッドに腰掛け、虎杖と顔を合わせて笑い合う。そんな光景は俺には与えてやれねぇものだった。だから時間がある時は、虎杖に見舞いへ来てもらっていた。少しでも多く、日車の笑顔が見たかったのだ。
虎杖「うん、今はね。だから辛れぇの」
だからこそ、虎杖の言ってることの意味が分からず眉を寄せた。日車が笑ってんのに何が不満なんだと。虎杖は少し視線を落として、手の中のケースを軽く握る。
虎杖「……ずっと見れなかったのに、目を合わせようとすると逃げることだってあったのに、今はちゃんと目が合うんだよ」
振り返った虎杖の顔はどこか困っているみてぇだった。
虎杖「それがさ、日車が……変わったみたいで辛いんだ」
……俺は何をしてんだ。
笑った顔が見たかった。だから日車が笑えるようになったことを喜んで、虎杖を連れてきて、少しでも穏やかに過ごせる時間を増やそうとしていた。それは、本当に日車のためだったのか。違う。虎杖を連れて行けば、日車が笑う。それを見て安心したかっただけだ。
少し考えれば分かることだった。日車は虎杖と目を合わせられねぇ、それが普通だった。だから今は……今の日車は……
日下部「……虎杖」
虎杖「なに? 日下部先生」
日下部「今さらだが無理しなくていいぞ、辛かったら見舞いに行かなくても」
虎杖「えっ?」
……虎杖のことも考えてやらなきゃならねぇ。まだ学生だ。己の願望を叶えるための出汁に使うのは違う。視野が狭くなっていた。虎杖にとっても日車は大切なやつだったはずだ。虎杖だって傷ついている。 - 23二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 19:19:15
虎杖「違うって! 見舞いに行くのが嫌なんじゃなくて!」
日下部「平気じゃねぇよ……平気なやつなんていねぇ、だから無理するなよ」
そんなことを、言われると思っていなかったのだろう。虎杖は泣き出すのをこらえるように、目頭を押さえた。
虎杖「……でも、会いてぇんだよ」
ぽつりと落ちた声は、小さかった。
虎杖「怖ぇなって思う時もあるし、前の日車と違うって感じる時もある。でも、それでも会わなくなる方が嫌なんだ」
虎杖「日車、頑張ってるから」
何も返せなかった。
頑張ってる。
その一言で片付けていいほど、あいつが受けたキズは軽くねぇ。だが、それでも虎杖は、今の日車から目を逸らさずにいようとしている。変わってしまったかもしれねぇ現実ごと、受け止めようとしている。……俺は受け止めきれてねぇのに……俺より、よっぽど強ぇガキだ。
日下部「そうか……なら会ってやってくれ。あいつ、おまえのこと大好きだからな」
虎杖「いや~、そこまで言われると照れるわ」
日下部「事実だろ」
虎杖「いや、事実でも……事実なのかな? 照れるもんは照れるって」
虎杖は誤魔化すように目元を袖で乱暴に拭った。
虎杖「早く買って行こう、そろそろ時間が来そう」
日下部「そうだな、早く行ってやらねぇとな」 - 24二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 22:03:44
あまりにも分かりやすい変化だ
それを虎杖は気付いて日下部は気付いてなかったんだ
みんな苦しんでるね…
こんな形で目を見られたくなかっただろうな - 25二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 22:15:32
虎杖と目が合うようになったのって
精神的なものじゃなくて
視力が弱っているからだったりするのか? - 26二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 23:18:57
虎杖の目を見られない方が通常運転で正気の証拠みたいになってんのちょっと面白いけど起こったことが凄惨で笑えない
- 27二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 23:41:15
虎杖の目が見られるってことはこの時点でもう記憶が失われてきてるのかな
- 28二次元好きの匿名さん26/05/18(月) 23:53:20
酷い目に遭いすぎて何を失っててもおかしくない、でも日車のことだから全部覚えてそうなんだよな
そこにおかしくなったままの精神と肉体が作用して行動にバグが起きてそう
そのバグをなくすために不要な記憶を封じたとか?
…結局何で日車は幼くなったんだ、本当に幼くなったのか - 29二次元好きの匿名さん26/05/19(火) 00:23:40
あーだから高専の廊下で会ったときに目を見れない日車を見て感慨深い気持ちになったのか
それはそうだよな仕方ないよ
一年以上ぶりだもんな - 30二次元好きの匿名さん26/05/19(火) 06:44:44
PRSD関連で精神退行ならわかるんだけど日車の場合は大人としての記憶はありつつ特定の記憶だけ封じられてるんだよね
一部の記憶に蓋をする&一定期間経過したらループって高度な術式使ってるのも凄いけど、なんで身体を幼児化したのかがわかんないんだよなぁ
メインの術式の副作用的なものなのか?それとも反転術式で治せないレベルの傷跡ができてしまったから傷そのものをなくすのではなく幼児化を…いやそれなら小学生レベルにせず20歳くらいとか、それこそ死滅回遊前くらいに戻しさえすればいいわけだもんな…
わっかんね〜〜!! - 31二次元好きの匿名さん26/05/19(火) 12:12:59
結論から言うと、ピンクの猫の人形は気に入ってくれたようだった。
雑貨屋で俺にしてみせたように、虎杖が「みてみてコレ!! 可愛いっしょ?」と元気よく猫の人形を日車の目の前へ差し出すと、日車はいささか困惑したように目を瞬かせた。
虎杖「俺に似て可愛いって日下部先生が選んでくれてさ!!」
そして虎杖が語弊のありすぎる台詞を続けると、日車は小さな瞳を揺らしながら、まじまじとケースの中のピンクの猫を見つめ、もごもごと口を動かした。
その視線は、猫の人形を見ているというより、透明なケースの奥に閉じ込められた何かを見つめているみてぇだった。
虎杖「日車? どした?」
日車「虎杖に、似ている……」
虎杖「あっ、日車もそう思うの?」
日車「虎杖……こんな狭い所に……」
虎杖「日車?」
彫りの深い眼窩が、今にも泣き出しそうに歪んだ。日車は差し出されたケースに手をかけると、引っ掻くように蓋を探る。
日車「出してやらないと……君を……」
酷く切実に震える声に、脳裏へ嫌な光景が乱反射する。
白々しい蛍光灯の光。
傷ついた肉体。
鎖に繋がれ、地下室へ閉じ込められていた日車の姿――。
虎杖「待って日車、俺じゃない、俺はここに……」
日車「出し……出して……」
日下部「日車」 - 32二次元好きの匿名さん26/05/19(火) 12:14:04
低く名前を呼ぶと、日車の肩がびくりと跳ねた。焦点の合わねぇ目が、ゆっくりと俺を映す。呼吸は浅く、ケースを掴む指先は痛々しいほど震えていた。
日車「あっ……あぁ……いた……どりが」
日下部「そうだな。こいつにそんな狭い所は似合わねぇわな。出してやろうか」
日車の手に触れ、一本ずつ指を剥がしていく。力はほとんど入ってねぇはずなのに、ケースへ縋りつくみてぇに指が固まっていた。
日車「あ……」
俺はできるだけゆっくりとケースを取り上げ、中のピンクの猫を取り出して日車の掌に乗せた。
日車は呆然とそれを見下ろし、壊れ物へ触れるみてぇに、そっと両手で包み込んだ。
日下部「虎杖が買ってきてくれたんだからな、ちゃんと大事にしろよ」
日車「……そうだな。大切にする、虎杖。ありがとう」
虎杖の様子を伺い見れば、その顔は痛ぇほど強張っていた。そりゃそうだ。ここまで混乱して日車を見るのは初めてだったはずだ。それでも虎杖は、数秒後には無理やりみてぇに口元を上げた。
虎杖「そんなに気に入ってくれた? 良かった〜。これプニプニして握る……少し揉むと気持ちいいらしいから、気が向いたら癒されてよ」
日車「ああ、君を撫でて癒されよう」
虎杖「そういう言い方されると、さすがにハズいよ」
日下部「いいじゃねぇか、可愛がってやれ」
虎杖「も〜、日下部先生まで!!」
虎杖は照れ隠しみてぇに大袈裟な声を上げながら、ベッド脇の椅子へどかりと腰を下ろした。その勢いに、さっきまで重く沈んでいた空気が少しだけ緩む。
照れ隠しもあんだろう。だが、無理して自分を鼓舞しているのも分かった。虎杖も辛いんだ。それでも、日車を元気づけようとしている。学生に任せず、俺も日車を支えてやらないと。
カバンに入れた黒猫の人形を思い出した。家に帰ったら、そいつも解放してやらねぇといけねぇ。
たかが人形だ。だが、日車に似た黒猫が狭いケースへ閉じ込められていると思うと、妙に息が詰まった。 - 33二次元好きの匿名さん26/05/19(火) 13:09:16
やっぱりおかしくなってる…
精神的に不安定とかじゃなくて人格そのものが変質してる気がする
あと退行も入ってそうだな?
おいたわしい… - 34二次元好きの匿名さん26/05/19(火) 13:19:31
このレスは削除されています
- 35二次元好きの匿名さん26/05/19(火) 14:40:58
- 36二次元好きの匿名さん26/05/19(火) 15:16:22
- 37二次元好きの匿名さん26/05/19(火) 15:42:19
受け取った瞬間にこんなに取り乱すなんて思わなかった…虎杖も辛かっただろうな…自分で選んだものが元気づけたかった日車のトラウマを呼び起こすきっかけになっちゃったんだから…
- 38二次元好きの匿名さん26/05/19(火) 15:52:59
眩しいからってのは建前で実際は顔を隠すためにサングラスをかけさせたんだと思った
- 39二次元好きの匿名さん26/05/19(火) 16:04:21
- 40二次元好きの匿名さん26/05/19(火) 22:39:16
前スレの135で
日車「っ!! 虎杖!! まて!! 自分で歩ける!!」
抱き上げられたと気づいて抗議するも軽々と片腕に収められてしまう。
虎杖「日車いっつもそう言うね。小さいんだから甘えなって」
って会話があったから最初は補助だったのが段々抱き上げか普通になってきたのかもね。
皆が日車を甘やかしたい気持ちあるのは、こういう過去があったからと思うとなんともいえない気持ちになるな…
- 41二次元好きの匿名さん26/05/20(水) 02:05:41
自分はなんやかんやスレ画の通り身体も幼児化してるんだろうな派だったけどスレ民の考察見たら確かにそう認識してるだけの可能性あるな…って思えてきた
楽しい - 42二次元好きの匿名さん26/05/20(水) 02:13:35
実際に子供の姿にはなってると思ってる
ただ、幼児化ではないんじゃないかなって予想してる - 43二次元好きの匿名さん26/05/20(水) 02:17:20
幼児化ではない、というと…?
- 44二次元好きの匿名さん26/05/20(水) 06:49:30
俺も理屈は不明だけど身体自体はなんらかの理由で縮んでいると思う(認識云々じゃなくて)
その理由が本当に全く分からんけど… - 45二次元好きの匿名さん26/05/20(水) 12:05:36
日車が目覚めて数ヶ月が経ち、今では蝉が鳴いていた。
日車の容体は安定していた。身の回りのことも、今ではある程度一人でできるようになっている。
精神の方はまだ本調子ではないものの、以前のように虚無的な様子ではなく暴れることもなくなった。呪符は相変わらず巻かれているものの、拘束自体は外されている。
ただ、上の連中は日車を退院させることへ難色を示していた。また非術師を巻き込み、術式を行使する可能性を危惧しているのだろう。
それでも、いつまでも入院させておくわけにもいかねぇ。そろそろ日車の処遇を真剣に考えなければならなかった。
日下部「日車、話がある」
日車は読んでいた本から顔を上げた。
以前のような怯えた様子はもうない。本を読んでいる姿だけ見れば、ただ静かな入院患者にしか見えなかった。
日車「どうしたんだ、改まって?」
日下部「……今後のことだ、退院の話が出てる」
日車「……退院、か」
日車は小さく復唱すると膝の上へ本を伏せる。驚いた様子はなかった。むしろ、いつか来る話だと分かっていたようだった。
日車「それで、上層部は何と言っている?」
日下部「まぁ……渋ってる。おまえがまた無差別に術式を使う可能性があるってな」
日車「当然だろう。信用できる要素がない」
率直に伝えると、日車は薄く笑った。怒っているわけでも、落ち込んでいるわけでもない。ただ事実を並べているだけの調子が逆に胸へ刺さる。
日車「それで? 監視付きでどこかへ隔離でもされるのか」
日下部「まだ決まっちゃいねぇよ。ただ……俺は、おまえをこのままずっと病院へ閉じ込めておくべきじゃねぇと思ってる」
日車の指先が伏せた本の表紙をゆっくり撫でる。
日車「外へ出れば、誰かを傷つけるかもしれない……それに、情けないが、まだ外自体が恐ろしい」
日下部「……まぁ、そりゃそうだろうな」 - 46二次元好きの匿名さん26/05/20(水) 12:17:24
胸が重かった。今の日車が恐れているのは、上の連中でも、自分の処遇でもねぇ。
誰かを傷つけること。そして、外の世界そのものだ。
病院の外へ出るだけで、知らねぇ人間とすれ違う。物音がする。視線がある。普通なら意識もしねぇようなことが、今の日車には恐怖として積み重なっていた。
日下部「無理に今すぐ退院しろって話じゃねぇよ。ただ、そろそろ考えなきゃならねぇ時期に来てる」
日車は黙って、本の角をなぞっている。
日車「……高専に行くのか?」
日下部「その案も出てる。高専だと監視は必要になるだろうが、少なくとも今よりは自由に過ごせる。虎杖たちも、おまえが戻ってくるの待ってるしな」
ぴくりと、日車の指先が止まった。
日車「……高専は、嫌だな」
日下部「なんでだ?」
問い返すと、日車はすぐには答えなかった。伏せた本の表紙を閉じて枕元に置き、それから小さく息を吐く。
日車「虎杖が気を使うだろう?」
そこんところは俺も考えた。だが、日車には今は自分の心配だけをしていてほしかった。
他人を気遣う余裕なんてないだろうに、それでもこいつは自分より先に周囲のことを考える。そういうところが、どうしようもなく痛々しくて、腹立たしかった。
日車「虎杖は優しいから、俺がいるとずっとこちらを気にかけてしまう。まだ子どもなんだ、高専で友人たちといる間は俺のことなど気にすることなく過ごしてほしい。俺の顔色を窺いながら生活するべきでは……」
言葉は途中で途切れたが、続きは言われなくても分かる。つまり、重荷になりたくない。自分がいることで、虎杖の日常を歪めてしまう。それが嫌だと日車は言っているのだ。 - 47二次元好きの匿名さん26/05/20(水) 12:24:40
日下部「……気にすんなと言ってやりてぇが、正直俺もそこら辺のことは考えた」
日車「だろう?」
日車は自嘲気味に鼻で笑い、わざとらしく肩をすくめた。
日車「そもそも俺は術師として扱われるのか? 外に出ることすら恐れているんだぞ? 術師としてどうなるか先の見通しが立たない者が高専で厄介になるのは流石に迷惑だろう……」
そうやって、自分を厄介者みてぇに扱う態度には苛立ちが募る。だが同時に、会話の調子が以前と同じように戻っていることへ、少し安心している自分もいた。
日下部「……そんなに高専が嫌なら俺んとこ来るか?」
日車「………………は?」
理解が追いついていないみてぇな、間抜けな声だった。
日車「……今、なんと言った?」
日下部「だから、俺んとこ来るかって言ったんだよ」
日車が高専を拒むことは、まぁ想像がついていた。だから、ひとつの案として先に上層部へ話は通してある。
日車は優秀な術師だ。現場へ戻せる状態じゃねぇとはいえ、燻ぶらせておくには惜しいだろう。だからこそ、下手に上の連中へ判断を任せれば、どんな扱いを受けるか分からなかった。
――日車の意思を無視して利用しようとするんじゃねぇか。呪具を使うなり術式を掛けるなりして、人格を奪ったまま無理やり働かせようとするんじゃねぇか。そんな意見が出れば流石に楽巌寺さんが止めてくれるだろうが、それでも可能性は捨てきれねぇ。俺は、そこまで上層部を信じきれていなかった。
――だから、手元へ置いておきたかった。少なくとも、自分の目が届く場所に。そんな俺の提案に、日車は眉を寄せながら、「正気か?」とでも言いたげな顔をした。
日車「君の家に……俺が?」
日下部「あぁ」
日車の表情がますます固まり、しばらく言葉を失っていた。それから、ようやく現実味を取り戻したみてぇに額へ手を当てる。
日車「なぜ? えっ? どうし……えっ?」
日下部「……冗談だよ」