第75話 ペット②
俺は
だから俺は彼女の頭を撫で、あえて軽く受け流すように言った。
「はいはい、のどちゃんは俺の可愛いペットだよ」
「……なんか適当に流そうとしてない? 私は本気なんだけど」
和花は真剣な目をしたまま、頬だけをぷくっと膨らませた。
いや、いくらなんでも本気でペットになりたいなんて、誰が思うんだよ。
「いや、その……俺が言い出したことではあるんだけど、あくまでプレイの延長というか。本気でそういう関係になりたいって意味じゃないんだ」
「じゃあ、私が猫みたいだから飼ってみたいって言ったのも嘘なの? 本当は全然可愛くなくて、そばに置くのも嫌ってこと?」
「いや、極端すぎだろ……」
「なら、私がペットになるって言っても、そのまま受け入れればいいじゃない。何の問題もないでしょ?」
問題しかないんだけど。
和花の目があまりにも真剣で、何を言えばいいのか全く見当がつかなかった。
正直、好きな相手だからって、ここまで極端な発想にたどり着くものなんだろうか。
「一応聞くけど、彼女じゃなくてペットになりたい理由は?」
「むしろ私の方から聞きたいんだけど。あんた、私のこと嫌いじゃないわよね? ……好き、でしょ?」
「まあ……。そりゃあな」
そもそも嫌いな女の子とラブホになんて来ない。
「でも、あんたがずっとためらってるのは、先輩と二股をかけることになるからでしょ?」
「……悩んでるんだよ。どう考えても普通とは言えないし」
「だから、その負担を私が減らしてあげるって言ってるのよ!」
和花が自信満々に叫んだ。
「二股じゃなくて、私はペット、先輩は奴隷にすればいいじゃない! そうすれば、周りから二股だって後ろ指を差されずに済むし!」
「……」
なんか、ものすごくおかしな結論に着地してないか?
女の子二人をペットと奴隷扱いしている男のほうが、二股よりよっぽどヤバいだろ。
「それに、私からしても彼女になるよりいいところあるし」
「どんなところが……?」
「基本的にペットはむやみに捨てちゃダメじゃない? でも彼女はフラれることがあるでしょ。結婚しても離婚するかもしれないし」
「つまり俺がお前をペットにする代わりに、死ぬまで面倒見ろってこと?」
「まさにそれ! やっぱり蓮、頭いい!」
和花がうんうんと頷いた。
発想が豊かなのは知っていた。
けれど、まさかこんな場面でまで全開にしてくるとは。
柔軟というより、もはや暴走だ。
「も、もちろん責任だけ取れって言ってるんじゃない。ちゃんとペットとしてご主人のちょ、調教とかも全部受けるから。ペットなんだからご主人の好きなように何でもしていいわよ」
俺の上に跨がった和花が、もぞもぞとお尻を動かしながら、徐々に下半身の方へすり寄ってきた。
やがて、旅館の時に俺の体の変化に驚いて逃げ出したあの位置まで辿り着いた。
彼女が上気した顔で俺の片手を掴み、自分の胸の方へ引き寄せた。
ブラの中央の穴からではなく、下から直接手を差し入れさせ、自分の胸をまるごと包ませた。
「ご、ご主人様と交尾するのも、ぺ、ペットの義務だから」
「ただの動物虐待なんだけど」
「もう、雰囲気ぶち壊すようなこと言わないで!」
和花が拗ねた表情を見せたかと思うと、突然、自らの唇で俺の口を塞いできた。
これ以上の反論やツッコミは聞きたくないとでも言うように。
今回は俺がリードするはずだったのに。これじゃ、完全に約束と違う。
(……そういえば、猫は飼い主を選ぶって言ってたな)
正直、ここまで真っ直ぐに好かれて、嬉しくないはずがなかった。
和花の気持ちを前に尻込みしているなんて、傍から見れば罰当たりにもほどがあるだろう。
実際、この突拍子もない提案だって、優柔不断な俺のために、必死にひねり出してくれたものなのだ。
(俺も覚悟を決めなきゃな)
そもそも女の子をラブホに連れ込んでおいて、手出しする気はない、なんて言う方がおかしい。
結局のところ、俺はあれこれ言い訳を並べているだけなのだ。
今まで和花や愛理を含め、いろんな人を救おうとしてきた。
そのたびに、手を差し伸べるかどうかで、ここまで悩んだことがあっただろうか。
ただ勇気がなかっただけなのだ。
(ああ、踏み出さなかったことだけは後悔したくない)
それに、和花と愛理となら、どんな困難だって一緒に乗り越えられる気がした。
俺は和花に応えるように、彼女のリードを短く握り、ぐっと引き寄せた。
そしてただ、男の野性に従うままに手と舌を這わせた。
「んっ……!?」
和花は短く声を漏らして目を丸くしたが、すぐにまた目を閉じ、こちらに応じてきた。
やはり彼女も初めてなのが丸わかりの、ぎこちない舌使い。
それでも、最大限努力してくれているのが伝わってきた。
(この前は愛理ともしたし、なんだか現実味がないな)
この夏休みのあいだに、二人の女の子と舌を絡めることになるなんて。
この事実だけでも、妙に背徳感を覚えた。
しかも二人の方から先に誘惑してきたわけだし。
「んっ……!」
当然だが、俺の体もすぐさま正直な反応を示した。
和花が一瞬ビクッと身を震わせた。
唇を離し、息を整えてから尋ねた。
「今回は逃げないの?」
「に、逃げないわよ! その……。予習してきたから」
「予習?」
「せ、先輩が最近色々ゲームとか漫画とかおすすめしてくれて。なんかすごくエッチなやつ」
「……もしかしてそこにペット絡みのことも出てきたの?」
「う、うん」
なるほど。和花の突拍子もない提案は、愛理が貸したエロ漫画やエロゲーの影響だったのか。
いったい愛理は、和花に何を教え込んでいるんだ。
和花はそっと体を後ろへずらし、うつ伏せになるような体勢で俺の脚にピタッと体を密着させた。
まるでズボンがどれくらい膨らんでいるか確認でもするかのように、顔を近づけた。
「あ、あのね。最近全然その……。ぬ、抜けてないんでしょ? 先輩がいつも隣の部屋にいるからって」
「……言い方」
「聞いたわよ、男の子は抜かないと体に悪いんだって」
「いやまあ、死にはしないよ」
まあ、勝手に処理される仕組みもあるにはある。
「だ、ダメよ! 私がちゃんと健康的に、ぬ、抜いてあげるから!」
「俺の健康のためにってことね」
「そ、そうよ! ご、ご主人様の体を健康に保つのもペットの義務なんだから!」
そうだっけ……?
違うような気はしたけれど、今さら否定して断る理由もない。
俺もとにかく覚悟を決めなきゃいけない。
「分かった。じゃあ頼むよ」
「う、うん!」
和花が嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
◇
和花と一緒に家へ戻ると、愛理は和花の周りをぐるりと一周し、じろじろ観察し始めた。
まるで空港の保安検査官のようだ。
クンクン、と匂いまで嗅いだ。
「これ、ヤッたわね」
「ど、どうして分かったんですか!?」
「蓮くんの匂いがぷんぷんするから」
「シャワー浴びてきたのに!?」
「蓮くんの匂いなら、百メートル離れてても嗅ぎ分けられるから」
いや、犬かよ。
……それとも、俺の体臭がキツいって遠回しに言ってるんだろうか。
「で、処女喪失、どれくらい痛かった?」
「せ、先輩はたまにストレートすぎます! それに、実はまだ処女のままです……」
「え? どういうこと? あんなに長くラブホにいたのに?」
「そ、それが……。最後までには至ってません」
「じゃあ何してたの?」
「く、口とか胸とか手とか、色々と……」
女の子は彼氏とのあれこれを友達に共有するって聞くけど、これもそういうものなのだろうか。
それとも、この二人が特殊なだけなのか。
とにかく、当事者としてはいたたまれない。
せめて俺のいないところでやってほしい、というのが本音だった。
しかし、そんな俺の気持ちを聞き入れる気はないらしく、愛理は問い詰めるように聞いてきた。
「蓮くん、理由を聞いてもいいかしら」
「いや、いくらなんでも最低限の避妊はしなきゃだろ。だからピルを飲んで効果が出始めてからにしようって言ったんだよ」
アレをつけようかとそれとなく聞いてみたが、和花から断られた。
自分にとっての初体験であるのと同じように、俺にも結月とは叶わなかった初めての生を経験させてあげたいから、と。
おそらく和花は、お互いに初めてだということに、彼女なりのロマンを抱いていたのだろう。
愛理が少し不満そうに言った。
「私たちは別に今すぐ妊娠しても構わないけど?」
「そうよ、蓮! あ、赤ちゃんは若いうちに産んだ方がむしろ楽だって、大人たちが言ってた!」
「若いって言っても、今は若すぎだろ。せめて赤ちゃんは卒業してからにしよう。別に嫌だってわけじゃないからさ。それに二人とも考えてる進路とかあるだろ」
特に和花は前にも内申点を気にかけていたから、進学を念頭に置いているはずだ。
「進路? まあ、考えてはいるけど」
「だろ? この際だから話しておこう。俺はとりあえず大学に進学するつもりだけど、二人は?」
「蓮くんの奴隷」「蓮のペット」
「……和花、進学するつもりなかったっけ?」
「前はそうだったけど、今は別に? 正直、蓮は私よりずっといい大学に行くんでしょ。私一人で蓮のいない大学に行くくらいなら、ただ蓮の家で待ってる方がいい」
「そうね。帰りを待つお嫁さんみたいに。まあ、蓮くんがどうしてもって言うなら、絶対に蓮くんと同じ大学っていう条件付きで行く気はあるけど」
つまり、この二人はこれからの人生を、丸ごと俺に預けようとしている。
嬉しくないわけじゃない。
けれど正直、ちょっと重い……。
「とにかく蓮くん、ピルを飲んで効果が出たら、すぐに最後までしてくれるのよね?」
「まあ、そうだな」
「中にたっぷり?」
「……そのつもりだけど、飲んだフリだけはやめてくれよ」
「じゃあ、蓮くんがピルを直接毎日飲ませてくれるのはどう? 蓮くんも安心できるし、私たちは私たちで蓮くんに妊娠機能まで管理されてるみたいで気持ちいいし」
「……」
奴隷ヒロイン志望なのだからある意味当然かもしれないが、本当に愛理はドMだと感じた。
「あと、口と胸と手が解禁されたのは確かなのよね?」
「解禁って」
「ふふ、じゃあこれでもうやっとできるわね。蓮くん、明日の朝期待してて。ちゃんとスッキリと起こしてあげるから」
「……」
むしろ余計に疲れる朝になるんじゃないかと思うんだけど。
だが正直、そういうプレイに興味があったのも事実で、俺はただ口をぎゅっとつぐむしかなかった。
「先輩、わ、私もそれやってみたいです。蓮を朝起こすの……」
「じゃあ、一日おきに交代でしよう」
「ちょっと待って、毎日する気かよまさか?」
「「当然でしょ」」
全然当然だと思わないんだけど。
恐る恐る二人に尋ねた。
「……どうして?」
「だって蓮の性欲、私たちが全部処理してあげるつもりだから」
「そうよ。正直、蓮くんが他の女の動画や写真を見て自家発電するの、少しやきもち焼いちゃうし」
「そうそう、一人で見て一人でするのは禁止! 見るならいっそ私たちと一緒に見ながら、その……。私たちが蓮を気持ちよくしてあげるから」
「蓮くんは普通の男の子たちと違って女の子が二人ついて発散させてあげるんだから、自家発電はなるべく控えてね?」
やはりどう考えても、主人は俺じゃなくてこの二人なんじゃないか。
目に見えない貞操帯をはめられた気分だった。
「あ、そうだ蓮くん。ちょっと真面目な話があるの」
いや、ここまでの会話だって、十分すぎるほど真面目だったと思うんだけど……。
「
「……は?」
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