トランプ氏の「裏切り者狩り」 消える異論、試される異端の共和現職
トランプ米大統領が11月の中間選挙で目指すのは、民主党への勝利だけではない。共和党内を自らに忠実な人物で固めることだ。党内の予備選で「裏切り者」には刺客を送り、徹底攻撃する。19日のケンタッキー州共和党予備選は、「トランプ党」へと変質しつつある共和党に、なお異論の余地が残されているかを測る試金石となりそうだ。
標的となっているのは同州選出のトーマス・マッシー下院議員(55)だ。
16日に地元で開かれた集会を訪ねると、共和党員のレジーナ・ギリアムさん(65)はマッシー氏をこう評価した。
「イエスマンに立ち向かう」現職に自ら刺客擁立
「彼はトランプ氏やそのイエスマンたちに立ち向かう道徳的勇気を持っている」
ギリアムさんは長年のマッシー氏支持者だが、危機感を抱いて初めて集会に参加したという。
ギリアムさんはこれまで、トランプ氏が立候補するたび自宅に看板を掲げ、2024年大統領選でも投票した。だが「州民の代弁者であるマッシー氏への中傷を始めた時、もう支持しないと決めた」。民主党を支持することは決してないが、仮にトランプ氏が再び立候補することがあれば投票用紙に「キリストこそが王だ、と書く」という。
マッシー下院議員はトランプ氏を支える「MAGA(米国を再び偉大に)」運動が登場する前から、小さな政府や保守的価値観を掲げてきた。名門マサチューセッツ工科大学(MIT)出身のエンジニアで、12年に初当選。対外援助や海外での軍事介入に一貫して反対し、共和党右派の一角を占めたリバタリアン(自由至上主義)系保守の流れをくむ。財政赤字削減を訴え、襟元には米国の債務残高を示す「債務時計」のバッジをつけている。
マッシー氏は下院の採決で、9割方共和党の方針に沿って投票してきたが、一部の投票では信念を優先した。トランプ氏肝いりの大型減税法に「財政赤字が拡大する」として反対した数少ない共和党議員の一人だ。また、トランプ氏が嫌がってきた「エプスタイン文書」の公開を民主党議員と協力して主導。イランへの軍事行動を制限する戦争権限決議案も提出した。
こうした姿勢は選挙区を越えて共感を呼び、マッシー氏の集会にはテキサス、バージニア、ミズーリなどから丸一日かけて車を走らせてきた支持者や選挙ボランティアの姿もあった。リバタリアンや反戦、反エリート志向の保守派にとって、マッシー氏は象徴的な存在になっている。
ただ、その行動はトランプ氏の怒りを買っている。SNSでは連日、「弱腰で情けない名ばかり共和党員」「史上最悪の共和党下院議員」「全く無能な負け犬」などと激しい攻撃を受けている。
予備選でのマッシー氏の対立候補には、元海軍特殊部隊(SEAL)で農業を営むエド・ガルレイン氏(68)をトランプ氏自ら擁立。3月にはイラン情勢のさなかに地元入りして応援する力の入れようで、世論調査では小差の争いだ。
マッシー氏本人は「反トランプ」と位置づけられることを嫌う。集会後の取材に「トランプ支持とマッシー支持は両立できる」と強調。「(トランプ氏は)自分と国の利益になると思えば、私が再選した後には協力し、尊重してくれるだろう」と期待を込める。
マッシー氏の発言からは、共和党への危機感もにじむ。
「党が画一的な思考や、一切の異論も許さないことを望むなら、中間選挙で多数派を失うだろう。個人情報の保護や、海外での戦争に巻き込まれないことを期待した人たちが離れてしまう」
大統領支持の地元で「戦争は人気」 イランは語らず
ただ、マッシー氏はイランへの軍事攻撃についての訴えは慎重で、「ケンタッキーでは戦争は人気がある。大統領を支持することだと見なされるから。だから私は選挙運動でその点は強調しない」という。
かつて共和党右派には、海外介入への懐疑や小さな政府を重視する潮流が根強く存在した。だが、トランプ氏が党を支配するいま、そうした思想の一貫性よりも大統領個人への忠誠が優先されつつあるようだ。
トランプ氏は「裏切り」を忘れない。16日にあったルイジアナ州の共和党予備選では、21年にトランプ氏弾劾(だんがい)裁判で有罪票を投じたビル・キャシディ上院議員が、トランプ氏の支持を受けた候補に大敗した。2期目には政権寄りの投票行動を重ねて関係修復を試みたが、かなわなかった。トランプ氏は「彼の政治生命が終わったのを見るのは実に愉快だ!」とSNSに投稿した。
弾劾に賛成票を投じた現職共和党上院議員で残るのは、キャシディ氏のほか、アラスカ州のリサ・マコウスキー氏とメーン州のスーザン・コリンズ氏だけ。改選を迎えるコリンズ氏は民主党の左派新顔と世論調査で拮抗(きっこう)し、苦戦が予想されている。
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