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ケモ耳/Novel by 餡入りもち

ケモ耳

3,466 character(s)6 mins

ゆのすけさんのケモ耳カチューシャ概念に後押しされて書きました。元の概念的に少し違う……というかちょっと書きやすいほうに逃げちゃいましたがどうか読んでくださいますと幸いです。

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ケモ耳

 「あ、あの、隣に引っ越してきました、櫻歌ミコと申します!よろしくお願いします!あとこれ!りんごです!良ければ!」

 ピンクのパーカーを来た私よりも少し年下に見える彼女は、開口一番この言葉を一気に話した。仕事帰りのドア前で呼び止められびっくりしたがかわいい子だった。

 「えーと、挨拶ありがとうございます、私は■■小夜です。お隣同士よろしくお願いしますね。」

 ありきたりな言葉を紡ぎながら少し考える。今時挨拶に来るって珍しいし律儀な子だなと。数年前に越してきてから私は結局やっていない。ミコという子の反対のお隣は二回変わったみたいだが挨拶はなかった。わざわざあいさつに来た理由を聞こうとしたが、テンションが異様に高いように感じたミコちゃんが矢継ぎ早にこのマンションにした理由を語るので聞けなかった。その日はミコちゃんの話を聞いてまた話そうねと約束して家に帰った。



 次の日、休み前ということで定時前に滑り込んできたメールや案件を片付けていたらすっかり遅くなっていた。いつもより空いている電車に揺られ、休み用の買い物を終え、家に着くころにはすっかり遅くなっていた。買い物袋をキッチンに置き、いつも通りに片付けて、袋からお酒とたばこを取り出してベランダに出た。
狭いベランダだが、折り畳みの机といすを雑に設置することで、気持ちの良い酒場に代わる。この時期は本当に夜風の涼しさが心地いい。お酒を飲みながら音楽を聴き、時折こっそりたばこをふかすのがこの時期の晴れた休日前のひそかな趣味だった。
 いつも通り缶チューハイと梅酒、缶詰をあけ、気持ちよくタバコをふかしていると隣の部屋から物音がした。慌ててヘッドホンを外すと、仕切りからノック音が聞こえた。

 「小夜、今いいか」

 昨日聞いた声と違い低い声だったがまぎれもなくミコちゃんの声だった。少し迷ったがお酒が背中を押す。

 「えーと……いいですよ。」
 「ありがとう」

 茶色い耳が仕切りから現れる。茶色い耳…?そう思うと顔が現れ、ひょいっと手すりの上にミコちゃんが乗り、こちらにやってきた。

 「あ、あぶな……い!?!?!?」
 「……席あるか?」



 ミコちゃんが机の反対に座っている。黒いシャツだった。おまけに耳……?もあった。椅子を出してきて何度も目をこすったが耳はそのままだった。

 「そりゃびっくりするよな」
 「……そうですね。初めて見ました。」
 「あー……えーと、俺は第二。ミコだが、ミコではない。二重人格の片側だ。そして俺たちは狼だ。……だが間違っても取って食ったりはしないぞ?」
 「そ、そうなんですね……。」
 「信じてないって顔だな。まぁいい。今回話に来たのは別の目的だからな。ひとまず落ち着いてくれ。」
 「は、はぁ……」
 「あ、たばこはいいが離れて吸ってくれよ。ミコは煙草が苦手だからな」
「ご、ご丁寧にどうも……」

いまいち状況を呑み込めないので一服する。紫煙をのみこみ、蛍光灯に彩られた景色に煙を吐いて頭を整理する。そして隣にいる子を眺める。……確かにミコさんだが、ミコさんではないように見える。あまりに落ち着きすぎている。「これたべてもいいか?」「……カルパス?大丈夫ですよ。」「ありがとう」きっと嘘は言っていないのだろう。二重人格……狼……不思議な子だ。物語から抜け出してきたかのような存在だ。髪が白いだけの、多分一般的な社会人の私とは違う。猫耳も何もないヒトだ。どうしたものか……まぁ悪い子ではなさそうだし話は聞いてみようかな。何が来ても多分最終的には大丈夫だろう。……多分。

「落ち着いたか?」
「ありがとう。あ、第二ちゃんの前ではタメでもいい?」
「いいぜ。そっちのほうが話しやすくて助かる。」
「じゃ失礼して。えっとそれで目的って何?」

第二ちゃんが改めてまじめな顔になる。思わず唾をのむ。

「ミコと仲良くしてほしいんだ」
「……それだけ?」

深刻そうな、私と違う願いを話すのではないかと少し意気込んでいたところだったので拍子抜けしておもわずツッコミを入れてしまった。だが第二ちゃんは大真面目な顔をして続ける。

「それだけだが、ミコには一大事なんだ」
「ミコは人見知りなうえに狼だ。昼に勇気を出して尋ねたが反応がなく、泣き寝入りした隙を見て私がこうして話しに来たくらいだ。」
「なるほどね」

度数の低いお酒が切れたので焼酎を水割りして一気に飲む。私にもそんな経験があったなと思いながら焼酎の味を口の中で転がす。薄い味とアルコールの刺激が口を貫いて、のどを熱いものが駆け抜けていく。気落ちした部分を押し流した気になる。

「そっか……仕事ってこと伝えてないもんね。」
「こうして会いに来るまで俺も確信を持てなかったから許してやってくれ。」
「ミコにはこっちから話して誤解を解いておく」
「手間をかけてごめんね」

思わず口をついて謝罪が飛び出す。意に介さない様子だったが、その状況に私のほうが共感して少し前のめりになっていた。

「それで……私が話しかけに行ったほうがいい?」
「そうして欲しい。」
「そっか……」

「おっと、ミコが起きそうだ。明日でいいから、会いに来てくれ。それじゃまたな!」

そう告げた第二ちゃんは仕切りを飛び越えて帰っていった。
……夢?いや食べていったカルパスの袋を集めた山と普段出さない椅子がそこにある。触ってみると少し暖かかった。どうしたものだろうか。本当のことだとしたら、すぐに行ったほうがいいだろうか。明日にすると起きる時間も不安定になるしミコちゃんにいつ会えるかわからない。それよりは酔っていても今この気持ちで会いに行ったほうがいいのではないか。人間関係は不安な時ほど時間の速さが大切だ。不安は疑いや自責につながる。さて、会いに行くとしてどうしようか。このまま会いに行ってもいいが……。

「第二ちゃん!どうだった!?」

前に聞いた通りのミコちゃんの声だった。窓が開いているらしい。

「やっぱり仕事だったみたいだ。小夜は悪くない」

さっき目の前にいた低いミコちゃんの声が続ける。人格がきれいに二人に別れているようだった。心理には詳しくないがミコちゃんの精神状態は長い間相当悪かったのかもしれない。そもそもミコちゃんは小学生くらいの年に見える。そんな子が一人暮らしをするって、狼であること以上に何かありそうだ。

「そっか……やっぱりそうだよね。ミコなんで思いつかなかったんだろ……」
 「大丈夫だ。ミコは悪くないし小夜も悪くない。間が悪かっただけだ。」
 「でも、ちょっと怨んじゃった……。ミコは悪い子……。」
 
 小さなつぶやきは風の音にかき消される。まずい。どうしようか。とりあえずコップの焼酎を飲み干して、部屋に戻る。さすがにと羽織ものを引っ越しの段ボールの山をあさっていると、猫耳カチューシャが出てきた。邪魔だとよけて羽織ものを取り出しカギをとりあえず持つ。そこで改めてカチューシャが目に入る。
つらかったころのいつだったかに買って、白猫に扮していた時のものだった。猫耳があるとなにか心の隙間が埋まるような、満たされるような気持ちになって落ち着いたため、こうしてもってきてしまったものだった。思わず手に取り、迷わず着け境目を髪の毛の間にうずめる。ねこの女の子になる。こういう時小夜はどうするか。とにかく話に行く。もう後悔したくないから。



ピンポーン

……なんだろ。この時間に。

ピンポーン

今はいいや。〈いやミコ、出てくれ。〉なんで?〈なんでもだ。〉第二ちゃんがそういうなら……。重い扉を開ける。

「こんばんは!小夜です!」
「小夜さん!?こ、こんな時間にどうしたの!?」
「小夜はミコちゃんに会いたくなってきたんです!良ければちょっと上がっていってもいいですか?」
「いいけど……。というかその猫耳は?」
「耳……?小夜はねこなので!」
「ふふっ……なにそれ……小夜さんはヒトじゃん。まさかミコのために?」
「さ、小夜はねこの女の子さよよ!」
「ふふふ。ありがとう……。いいよあがって。」
「ありがとう!」

小夜はようやくねことして仲間を見つけられました。リンゴの好きなオオカミの女の子です。明るくてこの子なら何でも話せるように思えるまっすぐな子です。これからもよろしくお願いしますね。ミコさん。第二ちゃん。

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