現場から

荷物は来るのか… アマゾン配達員を追い詰める「重要なお知らせ」

比嘉太一

 通販大手「アマゾン」が配達員に突きつけた報酬減額への「同意」。関東地方に住む男性(38)は復活交渉を試みたが、逆に荷物を激しく減らされた。実質的な「兵糧攻め」で、生活のために泣く泣く同意せざるを得なかった。巨大企業の末端で何が起きているのか――。記者が密着した。

 4月上旬の朝。関東地方のある住宅の玄関先に、2トントラックがやってきた。

 置かれたのは、腰ほどの高さのある直方体のバッグ。中を開けると、笑顔の口元を模したロゴが見えた。「アマゾン」の荷物だ。

 バッグを前に、この住宅に住む男性はつぶやいた。「今日は40個ですね。少ないです」

 バッグから様々な大きさの段ボール箱や紙袋を取り出す。スマートフォンでバッグの表面にあるQRコードをスキャンすると、荷物40個の配達先を示す赤いピンが地図上に現れた。

 軽ワンボックス車の後部座席や荷台に荷物を積んでいく。いったん自宅に戻り、別の仕事を終えてから出発。時計は正午過ぎだった。

 自分の都合に合わせて配達できる――。それがアマゾンの「Hubデリバリー」の働き方だ。

 配達員の自宅にアマゾン側から荷物が配られるため、集配所に行く手間がない。配達範囲が自宅を中心に半径1.5キロメートルと狭いのも、男性にとっては魅力的だ。

 ダッシュボードに固定したスマホの地図を見ながら、細い路地を走る。エレベーターのない団地では、荷物を抱えて階段を駆け上がる。届けた後はスマホで荷物の写真を撮影し、アプリで配達先の客に写真を送った。

 業務が終わったのは午後1時半。仕事をしたのは、わずか1時間あまりだったことになる。

 荷物を一つ運ぶと得られる報酬は125円なので、稼いだお金は5千円だ。「時給に換算すると、かなり効率が良いんです」

「180個」から激減した荷物

 それでも180個を運んでいた以前に比べると、絶対量が足りない。そんな状況が5カ月も続いている。

記事の最後で、アマゾン側から報酬減額の同意を余儀なくされ、追い込まれているドライバーの様子を動画で紹介しています

それでも頼るしかない

 それでも、この仕事に頼るしかない。月収の8割をアマゾンに依存しているからだ。

 2013年ごろからアパレル品の輸入・販売業を営んでいる。しかし競合他社が急増し、2年ほど前から事業が低迷。2人の子どもを抱え、「カツカツの中で、どうにかしなければと焦っていた」。

 そんな中、SNSで見つけた求人が、Hubデリバリー。「子どもたちの送り迎えや学校行事にも出られるようになった」と喜んでいた。

 しかし昨年末から、突然荷物が減った。

 アマゾン側の担当者に電話で理由を尋ねると、「配送センターから配達員の自宅へ荷物を届けるトラックを減らしている」などと説明された。配送コストの問題という。

 生活水準を維持するには1日110個の荷物が必要だが、平均で30個前後まで減った。連絡もなく「ゼロ」だった日も。もちろん、報酬もない。

追い打ちの「減額通告」

 追い打ちをかけたのが、1月中旬にアマゾン側から届いた「重要なお知らせ」というタイトルのメールだった。

 荷物1個あたりの報酬を125円から100円にするという、事実上の「減額通告」。4月上旬までに同意しなければ契約が終了になるという。

 2月下旬に始まったアメリカとイスラエルによるイラン攻撃の影響で、男性が住むエリアではガソリン代が一時200円近くに迫った。2~3日に1回の給油で、攻撃前と比べて1回あたり1千円ほど負担が増していた。

 自身のX(旧ツイッター)に思わず、こう投稿した。「泣きたい」

 メールで協議を求めたが、アマゾン側からは「今回の変更は法的に問題なく適正です」などとする返事が来るばかり。

 同じく報酬が「減額」となった多くの配達員がSNSで訴えたり、公正取引委員会に相談したりしていた。

 その影響もあってか、3月下旬には報酬単価の変更時期を2カ月近く先延ばしにする通知がアマゾン側から送られてきたが、不安は消えない。

 荷物の量がもとに戻らないのは、新しい報酬体系に自分がサインしないから「干されて」いるのではないか。契約を拒み続ければ、完全に荷物が来なくなるのではないか……。

 状況を知ってほしくて取材に応じたが、「身元が特定されれば、荷物をさらに減らされるかもしれない」と、匿名を条件とした。

苦渋の同意だった

 男性は最終的に、報酬の減額に「同意」する判断を下した。「守るべき家族の生活がある以上、仕事を失うわけにはいかない」と考えた。

 同意後、しばらくして荷物の量が増えた。約80個の荷物を配達する日もあるという。「同意したから荷物が増えた可能性は否めない。ただ、希望している『1日120個』には満たない」と声を落とす。

 弁当を運ぶ仕事も始めたが、「時給」はアマゾンほど良くなく、完全に代替はできない。

 「アマゾンという巨大プラットフォームに稼ぎを依存しすぎたのかもしれない。不利な条件をつきつけられても、太刀打ちできない」

 配達する荷物が来るかわからない、という恐怖にさらされる日々は続く。

【動画】アマゾン側から報酬減額の同意を余儀なくされ、追い込まれているドライバーに記者が密着した=比嘉太一撮影

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この記事を書いた人
比嘉太一
東京社会部|ジェンダー/メディア
専門・関心分野
事件・事故、沖縄、働き方、外食業界、調査報道
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    長島美紀
    国際NGOプラン・インターナショナル
    視点いまなら試し読み

    日本国内ではアマゾン利用者が約6,700万人にのぼり、巨大な配送網を支えている配達員も全国で数万人規模と推定されています。さらに、アマゾン独自の配送網は国土交通省の統計にも十分反映されていないとされ、実態が見えにくい構造になっています。 その中で、報酬単価の変更について「地域ごとの運営コストなどを加味した」という説明だけでは、現場で働く人たちの不安は解消されないのではないでしょうか。 巨大プラットフォームだからこそ、効率性だけでなく、配達員が継続して安心して働ける環境への配慮や透明性も求められると思います。

    2026年5月18日 08:59
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    首藤若菜
    立教大学教授=労働経済学
    視点

    プラットフォーム型労働は、時間や場所に縛られない「自由な働き方」として語られることが少なくありません。しかしこの記事からは、その柔軟さの裏側で、需要変動やコスト負担のリスクが個人に集中している実態が見えてきます。 形式上は個人事業主であっても、実際には荷物量や報酬単価をプラットフォーム側が決定しており、対等な交渉関係にあるとは言い難い状況です。荷物がゼロの日があっても補償はなく、需要変動のリスクは個人側に委ねられています。これは、契約は存在しても労働時間や収入が保証されない、イギリスの Zero-hour contract にも通じる面があります。 「時給換算すると、かなり効率が良い」との発言もありますが、一見、短時間で多く稼げるように見えても、待機時間、荷物ゼロの日、ガソリン代や車両維持費などのリスクやコストは個人側が負担しています。 ただ、この記事を読んで、「嫌なら辞めればいい」と思われる人もいるかもしれません。従来の自営業者であれば、常連客や店舗、地域での信用といった「自分の資産」を蓄積することができました。しかし、プラットフォーム労働では顧客との関係や評価データは企業側が握っており、自営業的でありながらも、働いても自分の商売が育ちにくい特徴があります。 欧米でも、こうした働き方が増えるなか、働く者の保護や取引の透明性を強化する仕組みが整備されてきました。日本でも、柔軟な働き方の利点は活かしつつ、最低限のルール整備をどう進めるのかが問われていると思います。

    2026年5月18日 12:17

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