グノーシア用語が「わかった」になる元ネタ調査集
ロジック底辺の私でも
セツの「わかった?」に
「(言葉の意味は)わかった」と言いたいだけの自分用まとめです。
考察の一助になれば幸いです。
以下、グノーシアのストーリーについてのネタバレを含みます。
(最終更新日:2024/08/18)
グノーシス
参考:グノーシスとは - コトバンク、グノーシス主義 - Wikipedia
(理解不足が否めないため余力ができたらきちんと調べ直します…。私が読み違えていると言うご指摘や、良い情報源等あればコメントで頂けますと幸いです)
紀元1世紀頃、キリスト教の興りと同時期に生じキリスト教の一派から広まった思想・宗教観*1。
Wikipediaでは「自己の本質と真の神についての認識に到達することを求める思想」と説明されており、「反宇宙的二元論」が様々なグノーシス主義の共通点として挙げられています。
「反宇宙的二元論」の「反宇宙的」とは、この宇宙が完璧ではないのはこの宇宙が「悪」であるからだということ。
この考えに色々な「二元論」が付随しているわけです。
- 悪の宇宙(この宇宙)があるなら善の宇宙もある
- 悪の世界を作ったのは偽の神であるから真の神も存在する
- 悪の世界は物質で構成される。真の世界はイデアーで構成される
- 物質で構成される肉体は偽の存在。イデアーで構成される霊が真の存在
| 善 | 悪 |
|---|---|
| (きっとある)善の宇宙 | (この不完全な)悪の宇宙 |
| (↑を創った)真の神 | (↑を創った)偽の神 |
| (善の世界を構成する)イデアー | (悪の世界を構成する)物質 |
| (↑で構成される)霊は真の存在 | (↑で構成される)肉体は偽の存在 |
こうして見てみると、セツが教えてくれるAC主義の解説に大体当てはまっていますね。
グノーシス主義のシンボルマークは学派にもよるのですが十字に丸*2。
Kurt Rudolph の "Die Gnosis" 『グノーシス―古代末期の一宗教の本質と歴史』によると蛇に関する意匠も多いんだとか。オフィス派はウロボロス(尻尾を咥えた蛇の図柄)のようです。
タイトル文字の"O"、セーブスロットのSQのイラスト(グラフィック担当 ことりさんのこちらのTweetではっきり見ることができます )、読み込み時の画面などでゲーム中にたびたび登場しています。
銀の鍵も十字に丸とよく似た形です。じっくり見ると、2匹の蛇で構成されたウロボロスの○、十字に加えて4時の方向から10時の方向に斜めの一直線が入っています。ウロボロスといえば永劫回帰、ループのイメージですので銀の鍵のデザインに非常にしっくりきますね。2匹の蛇というのも、セツとプレイヤーというループする2人を連想させます。
読み込み画面と銀の鍵の図柄は、シンボルマークを囲むようにギリシャ語で
「疑うな。畏れるな。そして知れ。全ては知ることで救われる」*3と書かれています。
グノーシスは古代ギリシア語で「認識・知識」を意味する、ということを意識した言葉なのでしょうか。*4
銀の鍵
H. P. Lovecraft 著の "The Silver Key"(『銀の鍵』) と "Through the Gates of the Silver Key"(『銀の鍵の門を越えて』)などに登場する、クトゥルフ神話のアーティファクトです。
クトゥルフ神話での銀の鍵は古代地球で作られた5インチ(12センチ)近い銀でできた鍵で、全体はアラベスク模様に覆われており、時空を超えてあらゆる場所に行くことができます。クトゥルフ神話の体系では主神アザトースに次ぎ外なる神の副王である、ヨグ=ソトースに会いに行ける「鍵」でもあります。
ヨグ=ソトースは全ての時間軸および空間に隣接するとされ、「存在」「実体」「空虚(void)」「全にして一」「一にして全」などと描写されます。
AC主義
Greg Egan の "Distress" 『万物理論』に「AC主義」という言葉が登場します。後述しますが、同小説内で「汎性」も登場しますので、グノーシスのインスパイア元の1つかと思われます。
"Distress" におけるAC主義の「AC」は "Anthrocosmologist" 「人間宇宙論者」であり、だれかの考えた宇宙論が既に存在している宇宙の説明として正しいのではなく、宇宙はだれかが考え説明することによって意味を成すとする考えです。
この宇宙を説明する「だれか」への向き合い方(ただの人間か、妨害できないある種の絶対的存在なのか、いたら困るか、等々)によって派閥が分かれています。
狂える神々
夕里子が言及したプレイヤーに干渉していた存在です。
お前という存在への認知が、歪んでいるからです。狂える神々の干渉によって
狂える神々といえばクトゥルフの神話存在をイメージしてしまうのですが、『グノーシア』ではグノーシス主義における悪の神をイメージしていると考えた方が順当でしょうか。このゲームにはクトゥルフのエッセンスもグノーシス主義のエッセンスも織り込まれているので、両者を混ぜたような感じなのかも。
因みにこの台詞の前に、夕里子が以下のような発言をしています。
彼方の星々が、よく見えるでしょう
そして星々はお前を見ている
こちらは Friedrich Wilhelm Nietzsche の "Jenseits von Gut und Böse" (『善悪の彼岸』)146節の言葉 "Wer mit Ungeheuern kämpft, mag zusehn, dass er nicht dabei zum Ungeheuer wird. Und wenn du lange in einen Abgrund blickst, blickt der Abgrund auch in dich hinein."「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」を意識していると思われます。
これは自分が相対するものに呑まれないよう気をつけろ、というような意味合い*5ですが、「深淵」というワードの関連からかクトゥルフ神話関連の創作でも割と見る言葉です。
汎性
『万物理論』の「汎性」
「汎性」という言葉は Greg Egan の "Distress" 『万物理論』にも登場します。
"Distress" では "asex" とされ、出生時に持っていた身体的性別の特徴を後天的に消した人たちとして説明されています。身体的性別 "sex" に打消しの接頭辞 "a" が付いて "asex" という命名なわけですね。
グノーシアでも「男女の身体的特徴を排除している場合が多い」との記述があり概ね同じものと見てよさそうです。
"Distress" における汎性の三人称は、日本語では「汎」、英語では ve, vis, ver です。身体的性別の特徴を消すための手術はある作中人物が16歳で行っており、これは一般的には早い年齢であり手術ができる国を探して実施したとされています。
現実世界と「汎性」*6
英語版だとプレイヤー登録画面ではnon-binary*7、
キャラクターのステータス画面では N/A(Not Applicable 該当無し)となっています。non-binary については日本においてはノンバイナリーよりXジェンダーの方が通りが良かった印象がありますので、以下Xジェンダーのことにも触れつつ書いていきます。
プレイヤー登録画面における汎性の説明文を見ると、現実の non-binary 及びXジェンダーとは以下のような違いがあります。
・後天的に選べる
→現代では、所謂「心の性別」は先天的なものとする考え方も多いです。*8
・無性とも呼ばれる
→non-binary およびXジェンダーは「その他」の性の呼称であり、中性、流動性のある性、無性等々様々な性が纏まっているカテゴリのようなものです。
・男女の身体的特徴を排除している場合が多い
→non-binary という言葉はバイナリでない=男女の二元論に当てはまらない
という成り立ちを持ち、
Xジェンダーという呼称はどちらかというと
ジェンダー≒社会的性別あるいは精神的な性別に重きを置いた成り立ちの言葉であることから
双方とも身体的特徴の排除に関してはあまり問われないことが多いという印象です。
手術で性器など性別を意識させる身体の部位を切除される方もいますが
そうでない方もたくさんいます。
また、汎性と恋愛の関係性もゲーム内の汎性と現実の non-binary 及びXジェンダーとの差異ですね。
ゲーム中では汎性のキャラクターたちが汎性を理由に恋愛は分からないと言いう場面や、他キャラクターからも汎性は恋愛をしないという共通認識があるような描写があります。また、プレイヤーが汎性であるとゲーム上恋愛イベントが起こらないようになっています。
現実ではXジェンダーあるいは non-binary であれば必ず恋愛関係や性的な関係を望まない、というわけではありません。男女と同様に生活スタイルや人生観によって望む人望まない人がそれぞれいます。実際問題として、自身の性自認を尊重してくれる相手でないとそういった関係性を持てないとか、性的な関係を持つ時は自身の身体的性別との乖離を実感するために辛いという人もおり、シスジェンダー(生まれたときの性別と性自認が一致している人々)より少ない印象はあります。ただ、ゲーム中の汎性のようにほぼあり得ないほど少ないというわけではないです。
恋愛・性愛の関係を望まない恋愛・性的指向という点ではアロマンティックやアセクシャルの要素も入っていると思われます。*9
*1:キリスト教に関わる範囲が「グノーシス主義」、それ以外も含めたものが広義の「グノーシス」と一応定められていますが、同義語として使われることも多いとか
*2:2023年時点までのWikipediaにはあったのですが2024年に消えており、シンボルに関する明確なソースが見つけられておりません……。
*3:おそらく「μή φόβος μή ύπόπτενε ή γνώσις σώζει τον κόσμον」でしょうか?筆者はギリシャ語を全く知らず画像と機械翻訳等であたりを付けています。
*4:この言葉が何かの引用である可能性を考えて調査もしましたが、元ネタらしきものは見つけられずオリジナルの言葉と判断しました。何かご存じの方がいらっしゃればコメント頂けますと幸いです。
*5:「ミイラ取りがミイラになる」と同義と説明されているのをよく見ます
*6:お願い: 記事のタイトルこそ「元ネタ調査集」ではありますが、 特に汎性に関してはあくまで『グノーシア』作中の性別であり、現代の現実の性別のどれかと全く一緒と言いたいわけではありません。
人間のパーソナリティに深く関わるデリケートな部分でもあるため汎性に関しては特に、
ここで紹介した現実の性別や恋愛・性的指向と混同・同一視をすることが無いようお願いいたします。
*7:英語版だと項目名が「SEX」であり身体的性別っぽく読める気がするので、単に「non-binary」だと汎化の施術がまだの場合に名乗って良いの?となる気もします
*8:近年では社会経験により作られる部分も多いとされることが増えてきているように感じます。もちろん実際に先天的な性自認もありますが、先天的なものと主張されるようになった理由の1つとして「性別を『矯正』しようとする人々を避けるため」というものがあります。筆者としては、その自認が先天的か否かにかかわらず当事者の思いは最大限尊重されるべきという考えです。
*9:プレイヤーが汎性の時に恋愛イベントが起こらないことだけで言うのであれば、恋愛イベントが起こりうるキャラクターたちがみんな異性愛者だったという方がすっきり理解できる気はします