“AI堕ち”とボコボコに叩かれたイラストレーター「七瀬葵」…それでも「コミケから生成AIの創作物を排除しちゃダメ」と語る理由
コミケからAIを排除するのはダメ
――昨年、一部の人たちの間で、コミケから生成AIを排除すべきという意見も出ていました。コミケで超大手サークルだった七瀬先生から見て、どう思いますか。 七瀬:コミケの理念は、どんな表現であっても受け入れ、自由に発表できるお祭りの場をみんなで作ろうというものだと思います。「これはいけない」「これはいい」と選別するとそれがだんだんエスカレートして、しまいには二次創作はダメだとか、エロと健全で分けよう、という話になりかねません。 手で描いたものじゃないからダメだ、嫌だ、と言いたくなる気持ちはわかります。しかし、生成AIはテクノロジーに過ぎません。それだけをコミケで禁止しだすと、嫌いなものは何でも排除しようと言い出す人が出てくるかもしれない。それが行き過ぎると、5年、10年後にコミケが分裂してしまう可能性もないとはいえません。 最近、一部にコミケを“絵師の祭典”と勘違いしている人もいるようですが、小説を書いている人も、旅行記を出している人も、アクセサリーを作っている人も参加しています。ごった煮で何でもありなのがコミケの大らかさであり、魅力です。先人たちはそれを理解して表現の場を守ってきたのに、好き嫌いを理由に理念を変えようとするのは困ります。
ベテランほど生成AIに寛容?
――SNSでは、生成AIに肯定的な考えを示すベテラン漫画家を“老害”と呼ぶ人もいます。若い人たちほど反発しているように思いますが、なぜだと考えますか。 七瀬:今の若い人たちのほとんどは、デジタルネイティブです。最初からデジタルで絵を描き始め、デジタルの環境で一生懸命絵を練習して、やっと上手に描けるようになったのでしょう。そのタイミングで生成AIが出現したわけです。自分が努力してきたものが潰されると思うと、嫌で仕方ないのではないでしょうか。 私は初めて同人誌即売会に出たときから、アナログで絵を描いてきました。ところが、1990年代後半にデジタル化の流れがきて、それまで培ったアナログの技術から転換し、デジタルをゼロから学び直さなければいけませんでした。このように、テクノロジーが変革するときは、足元からひっくり返るのが当たり前なのです。 若い人たちはまだ、変革を味わったことがないかもしれません。私はそうした変化を何度も経験しているので、生成AIに対しても「ああ、またか」と思っています。とはいえ、大きな変革だとは思いますから、抵抗があって当たり前でしょう。何年間も培ってきた技術が突然意味がないものにされたら、無力感が生まれるのは当然かもしれません。 ――産業革命で機械化が進んだときは多くの職人が仕事を失いましたが、それと同じ感覚を味わっているのかもしれませんね。 七瀬:環境の変化に適応できないクリエイターは、自然と淘汰されていくことでしょう。新しいものに対応するよう努力しないと席がなくなるという経験も私は味わってきましたし、実際に周りがそうなるのを見てきました。だからこそ、クリエイターはいろいろなものに興味をもち、首を突っ込むべき。新しい技術を見て、「これはまずい」などと言っているようでは、凡人クラスだと思いますね。