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譴責処分、D評価の有効性(令和2年6月11日静岡地裁)

概要

大学の准教授である原告が、大学から受けた譴責処分および平成28年度教員評価におけるD評価をめぐり、学校法人を相手に争った事案。
原告は、科研費の間接経費譲渡申出書について、学長から再三提出を求められたにもかかわらず提出しなかったため、平成29年12月、職務命令違反等を理由に譴責処分を受けた。また、平成28年度の教員評価では、自己評価表の記載内容、学内で発生した他教員との接触事故に関する事情聴取への対応、科研費関係書類の未提出などが問題とされ、最も低いD評価とされた。原告は、間接経費の使途に不正の疑いがあるとして調査を求める目的で申出書を提出しなかったものであり、処分は不当であると主張した。また、D評価の新設を含む評価規程・給与規程の改正は、昇給をなくす不利益変更であり、原告を狙い撃ちしたものだとして、B評価または少なくともC評価を受ける地位の確認と、昇給差額分の支払を求めた。さらに、懲戒処分が学園報に掲載されたことにより名誉を毀損されたとして、慰謝料も請求した。

結論

棄却

要旨

懲戒処分について、裁判所は、原告が平成27年度・平成28年度の科研費間接経費譲渡申出書を提出しなかったことは、大学の科研費取扱規程および服務規程上の職務命令遵守義務に違反すると判断しました。学長は複数回にわたり提出を指示しており、それにもかかわらず原告が提出しなかった以上、服務規程上の学園諸規程違反および職務上の命令・指示違反に該当するとされました。処分内容も、懲戒処分の中で最も軽い譴責であり、客観的合理性と社会通念上の相当性を有すると評価されています。

原告は、間接経費の使途に不正疑惑があり、その調査を促すために提出を拒んだと主張しました。しかし裁判所は、不正を疑わせる具体的事情は認められないとしました。仮に原告が不正調査を求める目的を有していたとしても、大学には内部通報制度が整備されていたため、規程上提出すべき書類を提出しないという方法は相当ではないと判断しました。つまり、公益目的を主張しても、職務命令違反や規程違反が当然に正当化されるわけではない、という見解です。

懲戒処分を学園報に掲載した点についても、不法行為は成立しないとされました。裁判所は、掲載内容が、実際に存在した懲戒事案と処分内容を記載したものであり、大学内部の秩序維持に関する公共性のある事項であると判断しました。また、法令・規程違反の防止や管理監督の徹底を促す目的があり、公益目的も認められるとしました。そのため、掲載によって原告の社会的評価が低下するとしても、摘示事実が真実であり、違法性はないと判断されました。

D評価の前提となった評価規程・給与規程の改正について、裁判所は、D評価の新設は昇給号給をゼロとする点で労働条件の不利益変更に当たり得るとしつつも、労働契約法10条の要件を満たすため有効と判断しました。理由として、D評価は例外的な評価であり、減給ではなく昇給停止にとどまること、教員全体でみればA評価以上の比率が増え、評価制度全体として不利益が大きいとはいえないこと、少子化等を背景に教員評価制度を見直す必要性があったこと、2回の説明会、3回の協議会、過半数代表者を通じた意見聴取など、相当程度の説明・協議が行われていたことが重視されています。

D評価そのものについても、裁判所は人事評価について使用者に広い裁量があるとしたうえで、本件D評価は裁量権の逸脱・濫用には当たらないと判断しました。原告は研究面では一定の成果を上げていましたが、大学教員の評価は研究・教育だけでなく、大学運営、服務態度、協調性、職務命令への対応なども含む多面的評価であるとされました。原告の自己評価表におけるSWOT分析には、大学の不正使用等を断定的に記載するなど、自己の課題分析として適切とはいえない部分がありました。また、他教員との接触事故について、大学が安全配慮義務や秩序維持の観点から事情聴取を求めたにもかかわらず、原告が再三応じなかった点も重視されました。これらに加えて、科研費関係書類の未提出もあったため、D評価は不合理ではないとされました。

本件で特に重要なのは、懲戒処分と人事評価は目的を異にするため、同じ事情が双方で考慮されても、直ちに二重処罰にはならないと判断された点です。懲戒は企業秩序維持のための制裁であり、人事評価は職務遂行状況や資質・能力を総合的に評価する制度です。そのため、服務規律違反や職務命令違反を人事評価上のマイナス要素として考慮すること自体は許されるとされています。

被告側が勝訴したとはいえ、実務上注意すべき点もあります。第一に、D評価のような不利益性のある評価区分を新設する場合は、労働条件の不利益変更と評価され得るため、変更の必要性、内容の相当性、説明・協議の経過、周知の有無を丁寧に残しておく必要があります。本件では説明会、協議会、意見聴取、回答資料が残っていたことが有利に働いています。

第二に、懲戒処分を行う場合は、根拠規程、違反事実、職務命令の内容、督促経過、弁明機会の付与を明確に記録しておくことが重要です。本件でも、複数回の提出指示、提出期限、弁明機会の通知、欠席・無回答の経過が整理されていたため、処分の相当性が認められました。

第三に、処分内容を学内報等で公表する場合は、必要以上に詳細な表現や感情的表現を避け、目的を再発防止・秩序維持に限定し、掲載範囲・記載内容を慎重に検討すべきです。本件では違法性が否定されましたが、氏名・所属まで掲載しているため、事案によっては名誉毀損やプライバシー侵害の問題が生じ得ます。公表規程や取扱要領を整備し、必要最小限の記載にとどめる運用が安全です。

第四に、内部通報や不正疑惑の申告があった場合には、たとえ主張が不合理に見える場合でも、受付・検討・回答の過程を記録しておくことが重要です。通報制度が存在しているだけでは足りず、利用方法の周知や、申告があった場合の対応経過を説明できる状態にしておくべきです。今回は原告の不正疑惑が認められませんでしたが、使用者側が調査を全く放置したように見えると、別の評価を受ける可能性があります。

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