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桜島と霧島の地下に1000立方キロの巨大マグマ 九州大学らが描く「縁のマグマ」という新しい火山像

桜島と霧島。九州南部を代表するこの二つの活火山の地下に、これまで考えられていたよりもはるかに大きなマグマの貯留域が広がっている可能性が示されました。九州大学や東京科学大学などの研究グループが2026年に発表した一連の研究は、その規模をおよそ「1000立方キロメートル級」と見積もっています。さらにこの研究は、私たちが地表の観測で捉えてきた「マグマだまり」が、実はこの巨大な貯留域の本体ではなく、その「縁」にあたるごく一部にすぎないという、火山の見方そのものを問い直す描像を提案しました。本稿では、この研究が何を明らかにし、私たちの火山理解と防災にどのような意味を持つのかを、できるだけかみ砕いて整理していきます。

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1. 何が報じられたのか 九州南部の地下に潜む巨大マグマ貯留域

ニュースの見出しだけを読むと、「九州南部の地下に巨大なマグマだまりが見つかった」という、いささか不安をあおる話に聞こえるかもしれません。しかし研究の中身を丁寧にたどると、伝えられている内容はもう少し複雑で、そして科学的にずっと興味深いものです。

研究グループが明らかにしたのは、桜島火山と霧島火山という九州南部の代表的な活火山の地下に、共通して「電気を流しやすい巨大な領域」が存在するということでした。地下の岩石は、温度が高く、水分やマグマを多く含むほど電気を通しやすくなります。逆に、冷えて固まった硬い岩盤は電気を通しにくくなります。研究グループは、この性質を手がかりに地下を調べ、桜島と霧島のそれぞれの足元に、電気をよく通す広大な領域が広がっていることを突き止めました。

その規模は、推定でおよそ1000立方キロメートルに達します。1立方キロメートルは、縦・横・高さがそれぞれ1キロメートルの巨大な立方体です。それが1000個分というスケール感は、日常の感覚をはるかに超えています。研究グループは、この領域を「巨大で長寿命なマグマの貯留域」と解釈しました。

ここで重要なのは、この貯留域の全体が、いつでも噴火に使えるどろどろの液体マグマで満たされているわけではない、という点です。研究では、この領域は「結晶化が進んだ」状態にあると考えられています。つまり、すでにかなりの部分が固まりかけた、シャーベットのような状態のマグマの集合体だということです。火山学では、こうした結晶と少量の液体が混じり合った状態を「マッシュ」と呼ぶことがあります。地下にあるのは、すぐにあふれ出す液体の池ではなく、長い時間をかけてゆっくり蓄えられてきた、半ば固まった巨大な貯蔵庫だと考えるのが、今回の研究の出発点です。

なぜ、こうした地下の貯蔵庫の姿を知ることが大切なのでしょうか。火山の噴火は、地下のマグマがどこに、どれだけ、どのような状態で存在しているかによって、その規模も様式も大きく左右されます。地表で起きる現象だけを追いかけていても、その背後にあるマグマの全体像が見えなければ、火山という対象を本当に理解したことにはなりません。今回の研究は、これまで地表からの観測ではつかみきれなかった「地下の本体」に、初めて具体的な形を与えようとした試みです。その意味で、これは一つのニュースであると同時に、火山研究の長い歩みの中の重要な一歩でもあります。

2. 研究を担ったのは誰か 九州大学・東京科学大学らの共同チーム

今回の成果は、特定の一機関による単独研究ではなく、複数の大学と研究機関がそれぞれの専門性を持ち寄った共同研究によるものです。

中心となったのは、東京科学大学の総合研究院 多元レジリエンス研究センターに所属する神田径准教授、そして九州大学の大学院理学研究院附属 地震火山観測研究センターに所属する相澤広記准教授です。これに、東京大学地震研究所の小山崇夫准教授と上嶋誠教授、京都大学の宇津木充准教授、東京大学先端科学技術研究センターの角野浩史教授らが加わりました。火山の地下構造を電磁気的に探る専門家、地殻変動を解析する専門家、地下から噴き出すガスを化学的に分析する専門家などが、それぞれの観測データを突き合わせて一つの描像をつくり上げた点に、この研究の厚みがあります。

研究成果は、二編の国際学術論文として発表されました。一編は、霧島火山の地下構造を扱った論文で、2026年3月9日に学術誌「Earth, Planets and Space」に掲載されました。もう一編は、桜島火山の地下を扱った論文で、2026年4月10日に学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載されています。両論文とも、九州大学の相澤准教授が筆頭著者を務めました。

そして2026年5月、東京科学大学や九州大学、京都大学などがそろってプレスリリースを公表しました。そのタイトルは「火山噴火を駆動する巨大マグマ貯留域の『縁』のマグマ」というものです。副題には「桜島火山・霧島火山の地下構造から提案するマグマ供給系の新しい描像」とあります。「九州南部の火山群の地下に巨大なマグマだまりか」という報道は、この一連の発表を受けたものです。

研究を率いた相澤准教授が九州大学に所属していること、そして観測の現場が九州南部であることから、報道では「九州大学など」という言い方が用いられています。実態としては、日本の火山研究を担う複数の主要機関が連携した、規模の大きな共同プロジェクトの成果だと理解するのが正確です。

3. 地下を「電気の通りやすさ」で透視する MT法電磁探査という手法

今回の研究を理解するうえで欠かせないのが、地下を調べた手法そのものです。研究グループが主に用いたのは「MT法電磁探査」と呼ばれる方法でした。MTは「マグネトテルリック」の略で、日本語では地磁気地電流法とも呼ばれます。

私たちは地下を直接見ることができません。掘削でわかるのはせいぜい数キロメートルの深さまでで、その下に何があるかは、間接的な手がかりから推定するしかありません。MT法は、その推定を「電気の通りやすさ」という物差しで行う技術です。

地球には、太陽活動や雷などに由来する自然の電磁場が、たえず降り注いでいます。この自然の電磁場は地下に染み込み、地中の岩石を伝わっていきます。このとき、岩石が電気を通しやすければ電磁場の伝わり方は変わり、通しにくければまた違った伝わり方をします。研究者は地表に多数の観測装置を並べ、磁場と電場の時間変化を精密に記録します。そして、観測されたデータを解析することで、地下のどこに電気を通しやすい場所があり、どこに通しにくい場所があるのかを、立体的な地図として描き出すのです。

ここで鍵になるのが、マグマや高温の流体は電気を通しやすいという性質です。冷えて固まった岩盤は電気を通しにくく、専門用語では「高比抵抗」と表現されます。一方、マグマや熱水を多く含む高温の領域は電気を通しやすく、「低比抵抗」と表現されます。つまりMT法で地下に大きな低比抵抗の領域が見つかれば、そこにマグマや高温流体が潜んでいる可能性が高い、ということになります。

研究グループは、桜島と霧島のそれぞれで、多数の観測点を高い密度で配置した広帯域のMT観測を実施しました。観測点を密に置くほど、地下構造を細かく解像できます。こうして得られた三次元の比抵抗構造の中に、くだんの1000立方キロメートル級の低比抵抗領域が浮かび上がってきたのです。

桜島の研究では、MT法に加えて、地表の電位差を測る「自己電位」の観測や、地下から噴き出すガスに含まれるヘリウム同位体の分析も組み合わされました。ヘリウムには、地球の深部マントルに由来するものと、地殻の岩石に由来するものがあり、その比率を調べると、噴き出したガスがどれくらい深いところから来たのかを推し量ることができます。複数の独立した手法が同じ方向を指し示したことで、解釈の確からしさが高められています。

地下深部の構造をこれほど明瞭に描き出せたことには、観測の密度が大きく寄与しています。観測点をまばらにしか置かなければ、地下の像はぼやけ、小さな構造は埋もれてしまいます。研究グループは桜島と霧島のそれぞれで観測点を高い密度で配置し、しかも幅広い周波数帯の信号を扱える広帯域の観測を行いました。MT法では、ゆっくり変化する低い周波数の信号ほど深いところまで届き、速く変化する高い周波数の信号は浅いところの情報を運びます。広帯域の観測は、浅い地殻から深い地殻までを一続きの像として捉えることを可能にします。地殻を縦に貫くマグマ供給系を論じられたのは、この観測設計があってこそでした。

4. 桜島の地下に見えたもの 1000立方キロという桁違いの規模

では、桜島の足元には具体的に何が見えたのでしょうか。

桜島は、鹿児島湾の北部に開いた巨大なくぼ地である姶良カルデラの南の縁に位置する火山です。20世紀以降、ほぼ絶え間なく噴火を繰り返してきた、日本でもっとも活発な火山の一つとして知られています。この桜島の地下を、MT法をはじめとする複数の手法で調べたところ、深さおよそ10キロメートルから20キロメートルにかけて、電気を非常に通しやすい巨大な領域が広がっていることがわかりました。

これが、1000立方キロメートル級の貯留域です。従来、桜島のマグマ供給を担うものとしては、姶良カルデラの地下、深さおよそ10キロメートル付近にマグマの蓄積を示す圧力源があると考えられてきました。地殻変動の観測から、この付近にマグマがたまり続けていることが長年指摘されてきたのです。今回の研究は、その圧力源を含むかたちで、それよりはるかに広い範囲に低比抵抗の領域が連続していることを示しました。

イメージしやすいように言い換えると、これまで「桜島のマグマだまり」と呼ばれてきたものは、地下に点在する局所的なふくらみのようなものでした。しかし今回見えてきたのは、その局所的なふくらみをすっぽり包み込むような、桁違いに大きな貯蔵庫の存在です。桜島という一つの火山の真下だけにとどまらず、横にも深さ方向にも広く連続する構造として捉えられたことが、研究の大きな成果でした。

繰り返しになりますが、この1000立方キロメートルの全体が液体マグマだということではありません。研究グループの解釈では、この貯留域は結晶化がかなり進んだ状態にあります。固体に近い結晶の集合体の中に、液体のマグマが部分的に含まれている。そういう半固体の巨大なかたまりが、桜島の地下に横たわっているという描像です。

なぜ桜島の足元に、これほど大きなマグマの貯蔵庫が形づくられたのでしょうか。その背景には、九州南部という土地の成り立ちがあります。九州南部の地下では、海のプレートが日本列島の下に沈み込んでおり、その動きにともなって地下深くでマグマが生み出され続けています。さらにこの地域は、地殻が東西に引き伸ばされる力を受けており、引き伸ばされて薄くなった場所に、マグマが上がってきやすいと考えられています。鹿児島湾そのものが、こうした地殻の引き伸ばしによって生まれた細長いくぼ地です。長い地質時代をかけて、この一帯にマグマが集まり、蓄えられ続けてきた。今回見つかった巨大貯留域は、その長い営みが現在に残した姿だと言えます。

5. 霧島の地下に見えたもの 新燃岳とつながる低比抵抗領域

桜島から北東におよそ30キロメートル離れたところに、霧島火山があります。霧島は単独の山ではなく、新燃岳や御鉢、韓国岳、硫黄山といった多数の火口や山体が集まった、複雑な火山群です。2011年には新燃岳が爆発的な噴火を起こし、近年も活発な活動が続いてきました。

研究グループは、この霧島火山の地下についても、桜島と同じ高密度のMT観測を実施しました。その結果、霧島の地下にも、桜島とよく似た巨大な低比抵抗領域が存在することが明らかになりました。地殻を縦に貫くように広がるこの構造は、論文の表現を借りれば「地殻を横断するマグマ供給系」と呼べるものです。

注目すべきは、霧島で活発な噴火活動を見せてきた新燃岳が、この巨大な低比抵抗領域の南の端にあたる位置に重なっていたことです。新燃岳は霧島火山群の中でもとりわけ活動的な火口ですが、その活動が、足元に広がる巨大な貯留域の中心ではなく、あくまでその端に対応していたのです。この観察は、後で述べる「縁のマグマ」という考え方の重要な根拠になりました。

桜島と霧島は、地理的には離れた別々の火山です。噴火の様式も、歴史も、地形も異なります。それにもかかわらず、地下を電気の通りやすさという物差しで眺めてみると、両者は驚くほどよく似た構造を持っていました。どちらの火山の下にも、巨大で長寿命のマグマ貯留域があり、地表で観測される活発な活動はその「端」に対応している。この共通性こそが、研究グループに「これは個々の火山の偶然ではなく、九州南部の火山に共通する仕組みなのではないか」という見通しを与えました。

霧島火山の地下構造を扱った論文のタイトルには、「地殻を横断するマグマ供給系」という意味の表現が使われています。これは、マグマの通り道が地殻の浅い部分だけにとどまるのではなく、深い部分から浅い部分までを縦に貫いて連続しているという見方を示しています。マグマだまりを、地下のある一点に浮かぶ孤立した袋として描くのではなく、深部から地表近くまでをつなぐひとつながりの系として捉える。霧島の研究は、この連続した供給系の姿を、電気の通りやすさという物差しで具体的に描き出した点に意義があります。

6. マグマだまりの常識が変わる 二階層モデルという新しい考え方

ここから先が、この研究のもっとも核心的な部分です。

これまで、火山の地下のしくみは、わりあい素朴なイメージで語られてきました。地下のどこかにマグマだまりがあり、そこにマグマがたまっていき、いっぱいになると上昇して噴火する。テレビの解説図などでもおなじみの、ふくらんだ風船から細い管が地表に伸びているような図です。この描像は直感的でわかりやすく、多くの場面で役に立ってきました。

しかし今回の研究は、このイメージを大きく書き換えます。研究グループが提案したのは、火山の地下のマグマ供給系を、性質の異なる二つの階層に分けて理解しようという考え方です。これを二階層モデルと呼ぶことにします。

第一の階層は、長寿命で巨大なマグマ貯留域です。今回見つかった1000立方キロメートル級の低比抵抗領域が、これにあたります。この階層は、結晶化が進んだ半固体のマグマが、きわめて長い時間をかけてゆっくりと蓄えられてきた、いわば火山システムの根幹です。動きは遅く、人間が観測する数年や数十年というスケールでは、ほとんど変化が見えません。研究グループは、この巨大な階層こそが、ごくまれに起こる規模の大きな噴火、すなわちカルデラをつくるような巨大噴火のときに本格的に活動するものだと位置づけました。

第二の階層は、短寿命で小規模なマグマ貯留域です。これは、巨大貯留域の端のあたりに、いわば一時的に形成される、より小さなマグマのたまりです。寿命は短く、位置や形も時間とともに移り変わります。そして、私たちがふだん目にする桜島や新燃岳の通常規模の噴火は、この第二の階層が担っていると考えられます。

つまり、火山の地下には「巨大でゆっくり動く根幹」と「小さくすばやく動く先端」という、性質のまったく異なる二つの仕組みが共存している。一枚の風船ではなく、巨大な貯蔵庫とその端に生まれる小さなふくらみ、という二重構造で火山を捉え直す。これが二階層モデルの骨子です。

この二階層という考え方は、火山の時間スケールを整理するうえでも役立ちます。巨大貯留域は、数千年から数万年という地質学的な時間をかけて、ゆっくりと姿を変えていきます。一方、縁にできる小規模なマグマだまりは、数年から数十年という、人間が直接観測できる時間スケールで膨らんだり縮んだりします。同じ「マグマだまり」という言葉でくくられてきたものの中に、まったく違う時間の流れを生きる二つの存在があった。二階層モデルは、その時間スケールの違いを明確に切り分けることで、火山現象をより正確に語る言葉を私たちに与えてくれます。

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7. 「縁のマグマ」という描像 噴火を起こすのは巨大貯留域の端だった

二階層モデルをさらに具体的にしたのが、プレスリリースのタイトルにもなった「縁のマグマ」という言葉です。

研究グループが提案したのは、噴火のときに地表へ向かって上昇していくマグマは、巨大な貯留域の全体から一様に供給されるのではない、という見方でした。1000立方キロメートルの貯留域がまるごと持ち上がって噴き出すのではなく、その縁辺部、つまり端っこの部分を通って、ごく一部のマグマだけが地表へと上っていく。これが「縁のマグマ」という描像です。

なぜ縁なのか。直感的には、こう考えると理解しやすくなります。巨大貯留域の中心部は、結晶化が進んで固く、流れにくい状態にあります。シャーベットでいえば、中心ほどしっかり凍っていて動きにくい。一方、貯留域の縁の部分は、周囲の岩盤との境界にあたり、温度や圧力の条件が中心とは違います。新しいマグマが供給されたり、揮発性の成分が集まったりして、流れやすい液体のマグマが部分的に生まれやすい。その流れやすくなった縁の一部が、割れ目を伝って地表へと上昇し、噴火を引き起こす。

この描像が正しいとすると、私たちがこれまで「火山の噴火」として観測してきた現象の多くは、地下にある巨大なマグマシステムそのものの動きではなく、その縁辺部に生じるごく一部分の活動だった、ということになります。研究グループはこれを「人間の時間スケールで観測される噴火現象の多くは、巨大系そのものではなく、その縁辺部のごく一部の活動として理解できる」と表現しました。

巨大な氷山の大部分が水面下に隠れているように、火山活動の本体もまた、地下深くに静かに横たわっている。地表で私たちが目にする噴火は、その本体のほんの一角が顔を出したものにすぎない。「縁のマグマ」という言葉は、そうした火山観のシフトを言い当てた、印象的なキーワードだと言えます。

この描像は、私たちの身近な経験にもなぞらえることができます。冬の朝、大きな水たまりにうっすら張った氷を思い浮かべてみてください。氷の中心はしっかり凍っていて動きませんが、岸との境目にあたる縁の部分は、地面の熱や水の出入りの影響を受けて、薄く、もろく、変化しやすい状態にあります。割れて水がしみ出してくるとすれば、それは硬い中心ではなく、条件の変わりやすい縁からです。火山の巨大貯留域も、これと似た性質を持っているのかもしれません。固い中心ではなく、条件の整いやすい縁にこそ、地表へ抜ける道が生まれる。「縁のマグマ」という言葉には、そうした自然の理にかなったイメージが込められています。

8. GNSSが見ていたのは本体ではなく「縁」だった

「縁のマグマ」という描像は、火山の監視のあり方にも、静かだが大きな問いを投げかけます。

現在、日本の火山は、さまざまな手段で常時監視されています。その中でも中心的な役割を果たしているのが、GNSSによる地殻変動の観測です。GNSSは、衛星測位システムの総称で、カーナビやスマートフォンの位置情報にも使われている技術です。火山では、これを使って地面のわずかな動きをミリメートル単位で測ります。地下のマグマだまりにマグマがたまると、その圧力で地面はわずかに膨らみます。逆にマグマが抜ければ地面は縮みます。この膨張と収縮のパターンを解析することで、地下のどこに、どれくらいのマグマがたまっているのかを推定するのです。

桜島では、姶良カルデラの地下、深さおよそ10キロメートル付近に、マグマの蓄積を示す圧力源があると、地殻変動観測から長年指摘されてきました。桜島の南岳や昭和火口の直下、深さ数キロメートルほどのところにも、噴火に直接かかわる小さな圧力源があると考えられてきました。霧島でも、2011年の新燃岳噴火の前後で、えびの岳の付近の地下、深さおよそ8キロメートルから10キロメートルにマグマだまりがあると推定されています。

今回の研究が明らかにしたのは、こうしてGNSSなどで捉えられてきた圧力源、つまり「マグマだまり」と呼ばれてきたものが、巨大な低比抵抗領域の中心ではなく、その端のほうに位置していた、という事実でした。地殻変動として地表に現れる膨張や収縮の信号は、巨大貯留域の本体の動きではなく、その縁に生じる小規模で短寿命のマグマだまりの動きを映し出していたのです。

これは、決して従来の監視が間違っていたという話ではありません。GNSSによる地殻変動観測は、通常規模の噴火を予測するうえで、これからも不可欠な手段であり続けます。縁のマグマこそが通常噴火を担う以上、その縁の動きを精密に捉えるGNSSは、まさに見るべきものを見ています。

ただし、今回の研究は一つの注意点を浮き彫りにしました。それは、地表の地殻変動だけを見ていると、その背後にある巨大なマグマシステムの存在には気づきにくい、ということです。巨大貯留域は動きが遅く、数年スケールの観測ではほとんど信号を出しません。だからこそ、地殻変動が静かであることが、そのまま地下が安全であることを意味するとは限らない。地表の信号がどの深さの、どの規模の貯留域の動きを反映しているのかを、複数の手法で診断していく姿勢が、これまで以上に求められることになります。

9. 2011年の新燃岳噴火を新理論で読み直す

抽象的な議論が続いたので、具体的な事例で「縁のマグマ」を確かめてみましょう。格好の題材が、2011年の霧島・新燃岳の噴火です。

2011年1月、新燃岳は本格的なマグマ噴火を起こしました。火口に溶岩がたまり、爆発的な噴火を繰り返し、九州南部の広い範囲に火山灰を降らせたこの噴火は、多くの人の記憶に残っています。この噴火の前後で、地殻変動が詳しく観測されていました。噴火の前には、えびの岳の付近の地下にあるマグマだまりが膨張し、噴火と同時にそのマグマだまりが収縮したことが、観測データから確かめられています。マグマがたまって地面が膨らみ、噴火でマグマが抜けて地面が縮む。圧力源モデルの教科書どおりの振る舞いです。

今回の研究で霧島の地下構造が三次元的に描き出されたことで、この2011年噴火の意味を新しい角度から読み直せるようになりました。膨張し、そして収縮した地殻変動源、つまり噴火に直接かかわったマグマだまりは、巨大な低比抵抗領域の端の部分に位置していたのです。

これは「縁のマグマ」という描像を、実際の噴火で裏づける重要な事例です。2011年の新燃岳噴火は、霧島の地下にある巨大な貯留域の本体が丸ごと動いたわけではありませんでした。そうではなく、その貯留域の縁辺部にできた、より小さく、より動きやすいマグマのたまりが上昇して起きた噴火だった。研究グループの二階層モデルでいえば、これはまさに第二の階層、短寿命で小規模なマグマ貯留域が引き起こした「通常規模の噴火」の典型例ということになります。

桜島についても同じ見方が適用できます。桜島が20世紀以降ずっと続けてきた頻繁な噴火は、姶良カルデラの地下にある巨大貯留域そのものの噴火ではなく、その縁にあたる場所に生まれた小規模なマグマだまりが担ってきた活動だと解釈できます。私たちが「桜島の噴火」「新燃岳の噴火」として日常的に見てきたものは、二階層モデルの「縁」の側のドラマだったのです。

この読み替えは、過去の噴火記録を見直す作業にも新しい意味を与えます。これまで蓄積されてきた桜島や霧島の噴火の観測データは、二階層モデルという枠組みを通してもう一度眺め直すことで、縁のマグマがどのように生まれ、どのように上昇し、どのように噴火へと至ったのかという過程を、より立体的に再構成できる可能性があります。過去のデータが古びるのではなく、新しい理論によって新たな価値を持つ。これも、すぐれた研究がもたらす効果の一つです。

10. 姶良カルデラと破局噴火 1000立方キロが意味するもの

ここで、多くの人がもっとも気にかける論点に正面から向き合いましょう。1000立方キロメートルという規模は、過去の巨大噴火、いわゆるカルデラ噴火や破局噴火と、どう関係するのでしょうか。

九州南部は、世界的に見ても巨大噴火の痕跡が集中している地域です。桜島が縁に位置する姶良カルデラは、およそ3万年前に、想像を絶する規模の巨大噴火を起こしてできた地形です。このとき噴出した火砕流や火山灰は、九州の広い範囲を厚く覆い、その堆積物は遠く東北地方でも確認されています。鹿児島県の南の海には、およそ7300年前に巨大噴火を起こした鬼界カルデラがあり、このときの火山灰も西日本一帯に降り積もりました。薩摩半島の南には阿多カルデラもあります。九州南部の地下には、こうした桁外れの噴火を起こしうるマグマのシステムが、たしかに存在してきたのです。

今回見つかった1000立方キロメートル級の貯留域は、こうした過去の巨大噴火の起源となったマグマのリザーバー、つまり貯蔵庫に対応するものだと考えられます。過去のカルデラ噴火で実際に地表へ噴き出した量は、噴火ごとに大きく異なりますが、姶良カルデラの噴火では数百立方キロメートル規模、鬼界カルデラの噴火でも百立方キロメートルを超える量が放出されたと見積もられています。それだけの量を一度に噴き出すには、地下にそれを上回る巨大なマグマの蓄えがなければなりません。今回の研究は、その「蓄え」にあたる構造を、現代の観測技術で直接的に描き出したという意味を持ちます。

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言い換えれば、九州南部の地下に巨大なマグマシステムが存在すること自体は、過去の地形や地層からすでに強く示唆されていました。今回の研究の新しさは、その存在を「地下のどこに、どれくらいの広がりで」あるのかという形で、電気の通りやすさという物理量にもとづいて可視化した点にあります。漠然と「あるはずだ」と考えられてきたものに、具体的な深さと形が与えられたのです。

もう一つ付け加えておきたいのは、こうした巨大噴火に関する研究が、原子力施設の安全評価をはじめとする、社会の長期的な意思決定にもかかわっているという点です。火山の長期評価では、過去にどれほどの規模の噴火が、どのような間隔で起きてきたのか、そしてその噴火の源となったマグマシステムが現在どこにあるのかを、できるだけ正確に把握する必要があります。今回のように、巨大マグマ貯留域の位置と広がりを物理的な観測から描き出す研究は、そうした長期評価の科学的な基盤を、一段と確かなものにしていきます。

11. すぐに巨大噴火が起きるわけではない 誤解を避けるために

ここはとても大切なところなので、はっきりと書いておきます。今回の研究は、「九州南部で巨大噴火が近い」と告げるものではありません。

理由はいくつかあります。第一に、見つかった巨大貯留域は、結晶化が進んだ状態にあると解釈されています。すぐに噴火できるさらさらの液体マグマで満たされた池ではなく、大部分が固まりかけた、流れにくいマッシュ状のかたまりです。こうした半固体のマグマが、ふたたび大量の液体マグマへと姿を変え、地表まで一気に上昇するには、新たな熱の供給など、特別な条件がそろう必要があります。それは、ごく長い時間スケールでまれに起こる出来事です。

第二に、巨大貯留域は動きが非常に遅いという性質があります。長寿命であるということは、裏を返せば、変化に長い時間がかかるということです。数年や数十年という人間の時間スケールで、急にこの巨大システムの本体が動き出すとは考えにくい。今回の研究自体、地表の地殻変動で見えているのは縁の小さなマグマだまりであって、巨大貯留域の本体は静かに横たわっていることを示しています。

第三に、巨大なマグマ貯留域が存在することと、それが近い将来に噴火することは、まったく別の問題です。九州南部の地下にこうした構造があること自体は、過去の地質からも予想されていたことであり、今回それが具体的に可視化されたからといって、噴火のリスクが急に高まったわけではありません。

研究の意義は、危機をあおることではなく、火山という対象をより正確に理解するための土台を提供したことにあります。巨大噴火がいつ、どのような条件で起こりうるのかを冷静に評価するためには、まずその巨大なマグマシステムが地下のどこに、どんな形で存在しているのかを知る必要があります。今回の研究は、その第一歩として、これまで見えていなかった「本体」の輪郭を描き出したのです。過度に恐れる必要はありませんが、九州南部がそうした火山と長くつき合っていく地域であることを、あらためて落ち着いて受け止める機会だと言えます。

12. 防災と観測網への示唆 何を、どの深さで見張るべきか

今回の研究は、火山防災の実務に対しても、いくつかの具体的な示唆を与えています。

一つ目は、地殻変動の信号をどう読むか、という解釈の問題です。GNSSや傾斜計が捉える地面の膨張や収縮は、縁にある小規模なマグマだまりの動きを映しています。したがって、これからの監視では、その縁のマグマだまりが、背後にある巨大貯留域とどの程度つながっているのか、新たなマグマの供給が活発になっていないか、といった点に注意を払うことが重要になります。地面が膨らんだ、縮んだという事実だけでなく、その変化がどの深さの、どの規模の貯留域に由来するのかを診断する視点が求められます。

二つ目は、複数の手法を組み合わせることの大切さです。今回の研究そのものが、MT法電磁探査、GNSSによる地殻変動観測、ヘリウム同位体の分析、自己電位の観測といった、性質の異なる複数の手法を突き合わせることで成り立ちました。一つの手法だけでは、見えるものに限りがあります。電気の通りやすさを見るMT法は、地震波や重力の観測だけでは区別がつきにくかった「マグマなのか、高温の流体なのか、ただの厚い堆積層なのか」という問いに、別の角度から答えを与えてくれます。火山を多面的に診断する観測網の重要性が、この研究を通じて改めて確認されました。

三つ目は、長い時間スケールで観測を続けることの意味です。巨大貯留域の変化は、人間の一生よりもはるかに長い時間をかけてゆっくり進みます。そのわずかな変化を捉えるには、数十年から百年という単位で、観測を途切れさせずに継続していく必要があります。一度きりの調査では見えないものが、長期の観測の積み重ねによって初めて姿を現します。今回のような高密度のMT観測を定期的に繰り返し、地下構造の移り変わりを追いかけていくことが、これからの火山研究の課題になります。

13. 九州全体に広がる「共通構造」の可能性

桜島と霧島という二つの離れた火山が、よく似た地下構造を持っていた。この事実は、研究グループに、もう一歩踏み込んだ問いを抱かせました。それは、この「巨大貯留域とその縁」という構造が、九州南部の二つの火山に限った話なのか、それとももっと広い範囲に共通する仕組みなのか、という問いです。

九州には、桜島や霧島のほかにも、阿蘇山や九重山、鶴見岳といった活火山が点在しています。これらの火山についても、これまでに電気の通りやすさをもとにした地下構造の研究が、それぞれに進められてきました。そうした先行研究を見渡すと、九州の火山には、山体の北側、つまり日本列島の内陸側にあたる方向に、大きなマグマの貯留域が広がっているという共通の傾向が見えてきます。

今回、桜島と霧島で巨大な低比抵抗領域が確認されたことは、この「九州の火山に共通する大きな構造」という見方を補強するものでした。個々の火山が、それぞれ独立した小さなマグマだまりを足元に持っているのではなく、九州という弧状列島の地下に広がる大きなマグマシステムから、共通して供給を受けているのではないか。桜島も霧島も、そして九州のほかの火山も、その大きなシステムの「出口」や「縁」にあたる場所なのではないか。研究はそうした可能性を示唆しています。

この見方が正しいとすれば、私たちは火山防災の考え方を、少し広げる必要があります。これまでの火山監視は、桜島は桜島、霧島は霧島、阿蘇は阿蘇というように、一つひとつの火山を個別の対象として見るのが基本でした。それは今後も大切な視点であり続けますが、それと同時に、九州南部の火山群をひとつのつながったシステムとして俯瞰する視点も、合わせ持っていく価値がありそうです。一つの火山の地下で起きている変化が、地下深くでつながった隣の火山と無関係だとは限らない。そうした問いを立てられるようになったこと自体が、今回の研究がもたらした視野の広がりです。

もちろん、九州の火山がひとつの大きなシステムでつながっているという見方は、まだ仮説の段階にあります。それを確かめるには、九州各地の火山で同じような高密度の観測を積み重ね、地下構造の像をつなぎ合わせていく地道な作業が必要です。今回の桜島と霧島の研究は、その大きな絵を描くための、確かな二つのピースを与えてくれたと位置づけられます。残りのピースがそろっていくにつれて、九州の地下に広がるマグマシステムの全体像が、少しずつ輪郭を現していくことになるでしょう。

14. まとめ 火山を一体のシステムとして捉え直す

長くなったので、要点を整理します。

九州大学や東京科学大学などの研究グループは、MT法電磁探査をはじめとする複数の手法を使って、桜島火山と霧島火山の地下を調べました。その結果、両火山の地下に共通して、推定でおよそ1000立方キロメートルに達する巨大な低比抵抗領域、すなわち巨大で長寿命のマグマ貯留域が存在することを明らかにしました。この成果は2026年に二編の国際学術論文として発表され、同年5月にプレスリリースとして公表されています。

研究のもっとも重要な提案は、火山の地下のマグマ供給系を二つの階層に分けて理解しようという、二階層モデルです。一つは、長寿命で巨大な、巨大噴火のときに活動する貯留域。もう一つは、その縁に生じる短寿命で小規模な、通常規模の噴火を担う貯留域です。そして、噴火のときに地表へ向かうマグマは、巨大貯留域の全体からではなく、その「縁」を通って上昇する。GNSSなどで観測されてきた地殻変動源は、この縁のマグマだまりに対応していました。2011年の新燃岳噴火は、その縁のマグマが起こした噴火の実例として読み解くことができます。

この研究が描いたのは、火山についての見方そのものの転換でした。私たちが地表で目にする噴火は、地下にある巨大なマグマシステムの、ほんの一角が顔を出したものにすぎない。氷山の大部分が水面下に隠れているように、火山活動の本体は、長い時間をかけて静かに地下に蓄えられている。だからこそ、地表が静かであることと地下が安全であることは同じではなく、複数の手法で多面的に、そして長期にわたって火山を見つめ続けることが欠かせません。

同時に、強調しておきたいのは、この研究が「巨大噴火が近い」と告げるものではない、ということです。見つかった貯留域は結晶化が進んだ流れにくい状態にあり、その本体が急に動き出すとは考えにくい。研究の価値は、危機をあおることではなく、九州南部の火山を一体のシステムとして冷静に捉え直すための、確かな土台を築いたことにあります。

桜島の噴煙を眺めるとき、私たちはこれまで、目の前の一つの山を見ていました。これからは、その足元に静かに横たわる巨大なシステムと、九州南部の地下で隣の火山ともつながっているかもしれない大きな構造を、想像のうちに重ねて見ることになります。火山と長くつき合っていくこの地域にとって、それは恐れのためではなく、正しく知り、落ち着いて備えるための、新しい一歩だと言えるでしょう。


参考文献・出典

  1. 東京科学大学 プレスリリース「火山噴火を駆動する巨大マグマ貯留域の『縁』のマグマ 桜島火山・霧島火山の地下構造から提案するマグマ供給系の新しい描像」(2026年5月7日公開)
    https://www.isct.ac.jp/ja/news/p1k3tb16lade

  2. 京都大学 研究成果「火山噴火を駆動する巨大マグマ貯留域の『縁』のマグマ」(2026年4月30日)
    https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2026-04-30-2

  3. 九州大学 研究成果紹介
    https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/1465/

  4. Koki Aizawa, Dan Muramatsu, Kaori Tsukamoto, Yoshiko Teguri, Takao Koyama, Mitsuru Utsugi, Wataru Kanda, Tasuku Inomata, Hiromichi Shigematsu, Hiroshi Shimizu (2026). Trans-crustal magma plumbing system of Kirishima Volcanic Complex as inferred from dense broadband magnetotelluric observations. Earth, Planets and Space, 78, 43. DOI: 10.1186/s40623-026-02390-2

  5. K. Aizawa, T. Koyama, H. Hase, M. Uyeshima, H. Sumino (2026). Magma and Volatile Pathways Beneath Sakurajima Volcano From Self-Potential, Helium Isotopes, and Broadband Magnetotellurics. Geophysical Research Letters, 53, 8, e2025GL120131. DOI: 10.1029/2025GL120131

  6. 文部科学省 地震調査研究推進本部関連資料「霧島山の現状の評価及び調査研究方策」(2011年新燃岳噴火に伴う地殻変動の解析、えびの岳直下のマグマだまり深さの推定を含む)

  7. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター 関連ニュース(2026年5月7日)
    https://unit.aist.go.jp/georesenv/explogeo/news/news_20260507.html

  8. 東京大学地震研究所 火山活動に関する観測研究資料(姶良カルデラおよび桜島の圧力源解析に関する先行研究)

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桜島と霧島の地下に1000立方キロの巨大マグマ 九州大学らが描く「縁のマグマ」という新しい火山像|宮野宏樹
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