「共同通信はクソ!」と叫ぶ前に知っておいてほしいこと(補足あり)
フィギュア選手の坂本花織さんの結婚を伝えた共同通信さん(以下共同)の記事の評判が最悪です。
見出しにも記事にもフルネームなし。記事もわずか1行。
はてブには、「どの坂本?」「カスメディアすぎる」「誤認で目先のクリック数増やそうとしている」「無能しかいないの?」などが並んでいます。ボロクソです。確かにそのとおりの感想を持ってしまいます。
ただ、ちょっと待ってください。これにはワケがあります。
わたしは共同の内部の人間ではありませんが、配信を受ける側で働いた経験があります。
そもそも、共同通信は通信社です。世間的にはどこまで意識されているんでしょうか。通信社は加盟する新聞社やテレビ局など、メディアに記事を配信するのが一義的な役割です。一般ユーザーに情報を届けるのは余技。あくまで二の次です。
で、共同の速報はこちらで一覧が見られるんですが、すべて1−2行程度です。業界的にはFLASHとか番外、なんて呼ばれ方もするのですが、これらの記事は、加盟社にこれからこんな記事を送りますよ、という予告です。加盟社はこの予告を受けて、紙面のスペースを開けたり、自社取材の手配をします。
速報記事はそのような目的があり、決して「PV目的の釣り」「手抜き」「メディアの劣化」などではありません。なんならネットの登場以前からこのスタイルで加盟社に速報しています。
過去にも似たような騒動がありました。
「ノーベル文学賞は外国人に」と報じた共同の速報に「誰が受賞したんだよ」「さすがに雑すぎ」などのツッコミが殺到しました。
ただ、この配信を受けることで、加盟社は、日本人が受賞した場合に備えた号外や紙面の特別展開の態勢を解除することができるのです。
「せめて受賞者の名前くらい書けよ」とも思うのですが、例えば受賞者の発表が「アメリカのPeter Smithさん」だったとして、ピーター・スミスさんと書いていいのか、あるいはペテルさんなのか、アメリカの、とあるけど国籍は実は違う国だったりしないのか、ハンガリー人だったらスミス・ピーターと書くべきではないのか、などなど、確認すべきことはたくさんあります。それらの確認を後回しにして「外国人」と報じることには合理性があります。
と、ここまで書いておいて、それはそれとして、何度も騒動起きてるんだから、共同もうちょっとうまい情報の出し方してくれよ、はものすごく感じます。「共同の速報はプロ向けだから〜」といっても、そんなの知らんがな、ネットに出すなら甘えんな、の指摘もそのとおりでしょう。長文記事がアップされ次第リダイレクトするとか、更新履歴付きで情報を追加していくとか、やり方はありそうなものなのですが、やはり余技にそこまで力は割かないということなのでしょうか。
ここまでは共同側の問題でしたが、配信を受けるニュースポータル、アプリ側にも「共同の1行速報にばかり注目が集まってしまう」問題があります。なにしろ1行速報は圧倒的に早く報じられるので、後から背景や焦点が加わった詳報が出ても、もはや世間の興味は次の話題に。結果、ネットでは1行の記事ばかり読まされ、理解が深まることなく刺激だけが与え続けられる、という状況です。アルゴリズムやアテンション・エコノミーの弊害ですね。うまい解決法が見つかるといいのですが。ではこのくらいで。
(以下15日補足)
なんか急にはてブ入っててびびった。
コメントに対していくつか補足を。
「全部読んでも坂本をフルネームで書かない理由がわからない」
↓
問題になった記事が出る前に「フィギュアの坂本花織選手の引退会見が始まった」と当然伝えているので、加盟社は「いま現在、会見している坂本は坂本花織のことだ」という前提・文脈を共有しています。加盟社は困らない。一般ユーザーはお客さんじゃないので…。
「誤解を招くのは分かりきっているんだから、ネットに放流するのなら配慮した形にすべき」
↓
これは本当にそうですし、批判されるべきです。改善されるのが一番いい。ただ、本文でも書いたように、何しろ一般ユーザーはお客さんではないので、どこまで改善が見込めるか。「共同を見れば全てわかるので、新聞やテレビは見なくていい」となっては共同的には本末転倒です。
「ならば誤解を招く1行速報はネットに出すな」
↓
これはこれで一つの答えではあります。実際、以前は共同は速報を自らネットには出していませんでした。(加盟社の地方紙サイトなんかでは速報をアップしているところはありました)
ただ、「じゃあ速報出すのやめます」となると、
・ネットの情報空間にとって大きな後退になる
・プロとアマチュアの間の情報格差が拡大する
の、2つの問題が発生します。そんなに早く知る必要はない、という向きもあるでしょうが、新しい情報をいち早く知りたがるのは人間の本能です。
というわけで、
背景を理解することで、共同の誤解を招く速報を目にした時、
「PV狙いの悪質な釣り!メディアの劣化!」
と騒がず、
「これは本来は加盟社向けのの速報。詳報を待って判断しよう(それにしてもこの記事は誤解招くな)」
というリテラシーを持った人が増えるといいなあ、というのが本稿の趣旨でした。
最後まで読んでいただいてありがとうございます!


目から鱗! 大切な情報をありがとうございます🙏 共同通信の存在価値を知ることができて良かった‼️