磐越自動車道バス事故で、高校生はなぜ亡くなったのか。工学的視点から検証し、対応策を提案します。
去る5月6日の午前7時ごろ、磐越自動車道上り線磐梯熱海IC手前の緩い右カーブでマイクロバスが路外にはみ出し、ガードレールに衝突して高校生1名が亡くなるという事故が発生しました。その後の報道によりますと、マイクロバスはレンタカーで、ドライバーも大型二種免許を所持していないなど、運用に問題があったことがわかってきました。その方面に関してはそちらの専門家にお任せし、ここではなぜ死亡事故に至ったのかを工学的に検証し、対応策を提案します。
■シートベルト着用の有無で結果は違ったか
第一報では「車外に投げ出された生徒が死亡」となっていたので、シートベルト非着用による車外放出かと思ったのですが、亡くなった生徒は反対車線まで飛ばされていたとのこと。それほどの遠心力が作用したなら、バスはスピンモードになっていたはずですが、現場にスリップ痕は無く、バスは真っ直ぐ停車していたため、その可能性は低いと考えました。
不審に思ったのは、折れ曲がったガードレールがバスの後部から車内に侵入しているように見えたこと。しかしほどなく、ガードレールは車体を貫通して後方に抜けていたことがわかりました。そうなると亡くなった生徒さんは、車体を貫通してきたガードレールに突き飛ばされて裂傷を負い、そのまま車外にはじき出されたと考えたほうが自然です(後に明らかになりました)。すなわち、今回の事故の死亡原因に、シートベルト装着の有無は影響しなかったと考えられます(もちろん着用は徹底するべきで、それは日頃から家庭教育で行いましょう)。
■バスの衝突安全構造は機能しなかったのか
「バスの衝突安全構造は機能しなかったのか」と思うかたもいるかも知れません。しかし、残念ながら機能しませんでした。自動車の前面衝突安全構造というのは、対車両への追突や正面衝突を想定して設計されています。ですから「相手車両を広い面で受け止め、荷重を分散させる」というコンセプトが適用され、今回のような幅の狭い構造物に衝突することは想定されません。車体には前後を貫く形でフレームが配置されていますが、衝突する障害物の位置がフレームと一致しない限り、衝突安全構造は機能しないと言って良いでしょう(このことは2012年に関越自動車道で起きた防音壁侵入事故の際にもブログで指摘しました)。
また、当該車両は日野自動車の「リエッセ」のようですが、衝突軽減ブレーキや車線逸脱警報装置が装着される以前のモデルと思われます。ただし装着されていたとしても、レーダー波を反射しにくい樹脂製クッションドラムや、幅の狭いガードレールに反応したかどうかは不明です。
■ガードレールはどんなふうに生徒を車外にはじき出したか
では、バスが衝突した後、ガードレールはどのような挙動を示して生徒さんに衝突したのでしょうか。図を用いて説明しましょう。
バスの左前方から侵入したガードレールは、フロントサスペンションの隙間を通って(あるいは破壊して)、キャビンの床下に侵入します。バスは床面をなるべく平らにしたいことから、床はタイヤ直径よりわずかに低い程度に設計します。ですから、その高さのまま床下を進んでいれば、恐らく死者は出なかったでしょう。ところがガードレールは、あるところから急に上に向きを変え、最後部の座席に座っていた生徒さんの方向に向かってしまいます。なぜそうなったのかというと、リヤアクスル(後車軸)の存在です。
マイクロバスは一般に、2WD仕様は後輪を駆動する方式を採用しています。ですから後車軸には、後輪を駆動するためのアクスルケースが車体を横断しています。アクスルケースは車重と乗員の重量を支えなければなりませんから、非常に頑丈にできています。ですから侵入したガードレールはアクスルケースと衝突し、上方向に曲がったと考えられます。その結果、最後部の座席を直撃してしまったと考えるのが合理的です(その後、ガードレールは車体に巻き付くように折れ曲がっていますが、これは後続車が衝突したためでしょう)。
こうした車体構造はマイクロバスでは一般的なので、設計に瑕疵があったわけではありませんし、対策のしようもありません。「不運だった」としか言い様のない事故です。
■むしろ問題視すべきは、ガードレールの構造
今回の事故で僕が指摘したいのは、ガードレールの構造です。ガードレールは本来、路外に逸脱しそうになった車両を押しとどめるのが役割であり、それが凶器となって死亡事故を起こすことなど、あってはなりません。そうなってしまった理由のひとつに、事故現場の特殊性があります。当該事故現場は、冬期にはチェーン着脱場になる場所の末端部で、着脱場に出入りするために、ガードレールが外されたままになっていたのです。
これも「タイミング的に不運だった」と言えるかも知れませんが、問題は残置される側のガードレールの末端形状です。街中で見かけるガードレールと同様に、先端にカールしたカバーが取り付けてあるだけでした。これがもし、出入り口に沿って曲げられたガードレールであったなら、バスが衝突しても突き刺さることはなかったでしょう。
特に現場付近は緩い右カーブになっています。曲率半径は大きいので、スピードの出し過ぎで曲がりきれなくなるほどではないと思いますが、不注意で左に逸れてしまう可能性は考えられます。また、運行管理に問題はなくとも、ドライバーの体調急変で、適切なハンドル操作ができなくなる可能性もあります。ですからガードレールの構造も、それを想定した形にしておくのが望ましいはず。構造の改善で安全性が高まるなら、やっておかない手はないでしょう。
同様な場所は、全国ほかにもあるかも知れません。高速道路会社は該当しそうな設備を総点検し、問題がありそうな場所があれば、早急に対策することを望みます。
5月9日追記:冬期に撤去するガードレールは下流側の1枚を残し、最後のポールを支点にチェーン着脱場側に回転させて固定できるようにすれば、最小限の費用で安全確保ができるのではないかと思います。
5月11日訂正:当初の記事では、エンジンは後方に搭載と書いてしまいましたが、当該車両は「キャブオーバー型」といって、運転席の下にエンジンを搭載していました。お詫びして訂正いたします。なお、それによってガードレールの侵入挙動が変わることはないと思われます。