第216話 カッコつけ
「……なので次回からは、予定していた実験を進めていきますね」
「何かしらの変化が見られると良いね」
チカチカさんの話は、
迷い蛾は本物の
そのうちダンジョン内植物に含まれる魔力の多寡を計れたりするかもしれない。
「この後も色んな場所を回りますよね? それならついでに、中村さんにお願いされていたものが完成したので、渡しておいてもらえませんか?」
そういってチカチカさんは、木片に巻かれた糸をこちらへ寄越した。
「了解、任せて。……えっと、これでどれくらいの長さ?」
「そうですね……。大体50メートルくらいでしょうか。一本のままだと細すぎて、あまりに使い勝手が悪そうだったので、何本かを
中村さんからのお願いとは、迷い蛾の糸を使って『釣り糸』を作ってほしいというものだった。先日京都から大量の竹が届けられたため、竹竿をはじめとした、手作りの釣り道具を揃えてみようという計画だ。
「ちなみに売ると幾らくらいになりそう?」
「んー、希少性と耐久性。あとは私の人件費を鑑みて……。そうですね、50メートルで5万円くらいでしょうか?」
「たっっっか! 消耗品に使う金額じゃなくなってくるな」
「もしそう思うなら、自分で迷い蛾を捕まえてきて、飼育小屋を建て、毎日のお世話をして、それから糸を紡ぎ出せば良いだけですよ」
「いやまあ確かに手間だけど……。にしても結構掛かるなあ。この糸で下着を作ったら、どれだけ高級品になっちゃうの」
「自動車を買えるくらい……ですかね。だからしばらくは、身内限定になると思いますよ」
「そんな高級パンツ、履くだけで漏らしちゃいそうだな……」
「釣り糸に使う方がどうかしてますよ。魚なんてわざわざ釣らずに、網で捕まえた方が早いじゃないですか」
「いやいや、それは違うでしょ。水面に浮かぶウキを静かに見つめ、己を自然に溶け込ませる精神的な遣り取りは、他の何物にも代え難いよ?」
「非効率的です」
「うっ…………」
それっぽく語るもバッサリ否定されてしまったが、チカチカさんの考えは
静岡ダンジョンの地底湖でも釣りをしている人を見かけたし、彼らに向けて『最高級ダンジョン用釣り道具』を売ってみるのも悪くない。
釣り人とは、より良い道具を目にすると冷静な判断力を失うと聞くからな……。
◻︎◻︎◻︎
各所を巡り終えて本殿に戻ってきた。
村のレストランで食事にするつもりだったが、一般の冒険者が大勢詰めかけていたため、料理だけを受け取って場所を移ることに。
「……あれ? みんな居るじゃん」
「どこにいても人の目があるとかで、勝手に集まってきたのだ」
「あー、今日は視察の人もいるし特にそうか」
お正月の出来事以来、八宮ダンジョンに訪れる冒険者は数を増した。
これまでならすぐに諦める冒険者も多かったのだが、『誰しもが活躍できるように』と色々な策を講じたおかげで、国内でも飛び抜けた定着率を叩き出している。
三八村から発せられる土木工事の仕事は、初心者以外の冒険者からも人気があり、仕事を通じて気の合う仲間を探すための、ちょっとした出会いの場としても利用されているそうだ。
やはり、知り合った直後に魔物退治へ出かけるのにはどうしても不安が伴う。しかし一度でも共に仕事をこなしたなら、多少は互いの
「ああそうだ伊吹」
「土なら食わんぞ?」
「いやそんな事を言うつもりはないんだけど……」
「……すまん、早まった」
「ええっと俺、次の週末はお休みにするから」
「んー? どっか出掛けんの?」
「出掛ける……と言えばそうだけど、行き先は八宮ダンジョンだし」
浅井がお休みするらしい。その日は特に予定も入っていないので、休むこと自体に問題はないが、行き先がダンジョンとはどういう事だろうか。
「同じ中学の同級生たちがさ、ダンジョンの中を案内してくれーって頼んできたんだよ」
「あぁ、そういう話ね。なら玉毛族の覗き宿でも案内してあげなよ」
「んなとこ案内しねーよ!」
かなり刺激的な場所だと思うが、流石にダメか。
「あー……。それでさ、物置の装備って適当に借りてってもイイ?」
「構わないけど、友達に貸し出すの?」
「いや違う。……ほら俺の装備って性能重視じゃん? だから今回は見た目重視の装備で行こうかなーって……さ」
つまりは格好をつけたいという訳か。久々に会う友達の前で蛮族スタイルはNGだと。
「どうせ誰も使わないだろうし、好きに使ってくれていいよ。……でもカッコつけたいんだったら、黒コートと二刀流のアレがいいんじゃね?」
「剣なんて全く扱えんし、二刀流を振り回したら自分を斬りつけそうで怖いわ」
「あれはシマシマさんが考えた、おすすめセットなのになあ……」
性能はともかく見た目の厨二っぷりでは、あの二刀流セットが群を抜いているだけに残念だ。
「こないだ私が作った法衣セットはダメなんですか?」
いつの間にか現れたチカチカさんが、とんがり邪教団の制服を勧めた。
「あんなの怪しすぎるだろ! 同級生に警戒されちゃうよ」
「あーそうだ。カッコつけが目的ならさ、竜一郎さんに跨って登場するとかは? ドラゴンライダーなんてカッコよさの頂点だろ?」
「うむ、私は全然構わないぞ。浅井くんの合図で森を焼き尽くす演出なんてどうだろう」
「いやいやいや、カッコいいけど! そりゃ確かにカッコいいけど、不必要に目立っちゃうから!」
ドラゴンを従えているポジションといえば、ほぼ主人公と同義だというのに、なんとも勿体ないな。
「やっぱ主人公プレイといえば、ハーレム系は外せないんじゃないです? 私とマッキー、チカにエロい格好をさせて
突然過激な意見を携えて来たのはシマシマさんだ。気付くとどんどん人が集まってきている。
「いや俺は別に主人公を気取りたい訳じゃないからね!? それにエロい格好って何なん?」
「そんなのビキニアーマーに決まってるじゃないですか! 常識ですよ?」
常識らしい。
「ねぇシマ。あれって金属製じゃないと許されないの? 革製でいいならすぐに作れそうだけど」
「理想としては金属かなあ。でも革製のビキニアーマーもアリっちゃアリ」
「胸元をどう盛り上げるかが課題かなあ。私とマッキーは全然だから、出来る限り大盛りに見せたいよね……」
意外にもチカチカさんまでもが前向きにビキニアーマーを検討している。すぐ後ろにいるマキマキさんは、先ほどから一言も発していないが、己の胸元をグイグイと寄せていた。
「いやいやいやいや、ビキニアーマーの女の子を侍らせるなんて無理だって。『お前ダンジョンで何しちゃってんの』って人格を疑われっから!」
ここに深谷さんは居ないというのに、浅井は随分と紳士的だ。ビキニアーマー姿の下級生を引き連れる機会なんてそうそうある事じゃないのに。
「ところで案内する先は決まってるんですか?」
今更な質問がチカチカさんから飛ぶ。
「んー、今んとこ海エリアに行こうかなって考えてるんだよね。見通しがいいし、カニ系のモンスターならその場で茹でりゃ食えるし、誰にでも楽しんでもらえるかなーって」
「おぉ……悪くないプランですね」
多少強い魔物が現れようとも、海エリアのように遮蔽物がない場所の方が仲間は守りやすい。浅井の投石頼りにダンジョンを進むなら悪くない選択に思う。
「あっ、そういえば塩の在庫が少ないって吉田が言ってたな。……いい機会だし俺たちも海へ行くのもアリか」
「えー!? 伊吹たちも来るつもり?」
「もちろん無関係を装って、浅井たちから離れて行動するつもりだけど……何か問題ありそう?」
「いやさー……。俺が同級生の前でイキったりするシーンを見られたくないなって……」
「イキっちゃうんだ……」
旧友といるところを見られたくない気持ちは何となく分かる。今のコミュニティと話し言葉が違っていたり、昔のあだ名で呼ばれているところを見られるのは何だか恥ずかしいものだ。
よし。
イキる浅井を横目に見ながら、海釣りでもするか。
◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎
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