◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」
「すぐ戻って来て!」。2013年4月1日午前。学校で水道の蛇口が開けられ、室内が水浸しになった事件の取材に向かっていた。電話の上司はテンションが高い。「上毛新聞が長嶋、松井2人の国民栄誉賞をスクープした」。「今日はエープリルフールですね。そんなジョークは…」と返すと「本当なんだよ、大変だ」と通話は切れた。
今ほどSNSは発達しておらず、ネットにも記事はなかった。その日の午後、菅義偉官房長官(当時)は国民栄誉賞授与を正式に発表した。長嶋茂雄さん、松井秀喜さんのダブル受賞は誰も予想していないサプライズだった。5月5日に東京ドームで行われた授与式。安倍晋三首相(当時)が球審を務め、松井さんは投手、打席の長嶋さんは左手一本でバットを振った。
6月3日。長嶋さんの訃報(ふほう)を受け、菅さんに取材を依頼した。話を聞きに行った後輩記者によると、菅さんは長嶋さんらと一緒に撮った記念写真を傍らに置き、思いを語ったという。「これからも日本野球界を見守り続けていただきたい」。このような取材に応じるのは異例だ。
野球少年だった菅さんは中学時代「1番、サード」だった。郷里の秋田から修学旅行で訪れた後楽園球場で、初めてミスターを見たという。「長嶋さんだけは特別なんですよね」。後日、お礼がてら持参した6月4日付のスポーツ報知を眺めて秘書は言った。「これまで(菅さんが)〇〇ファンという話を聞いたことがなかった」。少年時代のキラキラした記憶は残る。元首相も例外ではなかった。
◆久保 阿礼(くぼ・あれい)2003年入社。スポーツ担当をへて07年から芸能社会担当。









