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ナフサやエチレンの
複雑な供給網
中東情勢どう影響?
原油から最終製品まで

中東情勢の緊迫化で、原油やナフサの安定調達が課題になっている。身の回りにある多くの最終製品の出発原料となるだけに、事態の長期化は供給網の維持や製品価格に大きく影響を与える。川上から川下に至るまでの流れを解説する。

ナフサ由来の中間材料は
数千種類以上

石油精製の工程、石油化学の工程、中間材料を経て様々な製品が作られる一連の流れを示した図解。原油を蒸留・精製することによってナフサなどが生産される。石油化学の工程では「石油化学用ナフサ」を分解・精製することによってエチレン・プロピレン・ブタジエンが、抽出することによってベンゼン・トルエン・キシレンなどが精製される。

原油精製の過程で得られるのがナフサだ。ナフサを熱分解すると基礎化学品が生成され、化学反応を経て中間材料となる。中間材料は用途に応じて仕様もわかれることが多く、数千種類以上あるともいわれる。最終製品に至る供給網は、川下に進むにつれ細分化する複雑な構造になっている。

ナフサどうやって作る?
何になる?

製油所で分離

タンカーで運ばれてきた原油は石油を精製する製油所に運ばれる。国内には19カ所の製油所があり、多くは海岸沿いに立地し海外から運ばれてきた原油を直接降ろせる。加熱炉であたため、蒸留塔(トッパー)へ送られる。

加熱炉で約350度に加熱された原油は、蒸留塔で沸点の違いを利用して様々な石油製品に分離する。ナフサはガソリンとともに30~180度の温度範囲で精製され、原油の約10%がナフサになる。

エチレン生産設備でナフサを熱分解

ナフサは国内での原油精製から得られる国産ナフサと、輸入ナフサの大きく2つに分かれる。液体状のナフサをエチレン生産設備の分解炉で約800度に加熱すると熱分解反応を起こしてエチレンなどのガスに分解される。

分解した後で蒸留などの工程を経て分離し、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの石油化学基礎製品が作られる。

エチレン

塩化ビニール、ポリエチレン、ポリスチレンなどの原料で、ナフサを分解した後の約3割がエチレンとなる。

製品例:ポリ袋、水道管・排水管、灯油タンク

プロピレン

ポリプロピレン、アクリロニトリル、フェノールなどの原料で、ナフサ分解後の約2割がプロピレンとなる。

製品例:家電製品、マスク、自動車部品

ブタジエン

ブタジエンはナフサ由来が中心で、合成ゴムやABS樹脂などの原料となる。

製品例:タイヤ、キャリーバッグ、ゴム手袋

ベンゼン、トルエン、キシレン

炭素が輪のようにつながった安定な構造をもつ「芳香族」と呼ばれ、ポリエステル繊維、溶剤などの原料となる。

製品例:合成洗剤、塗料、シャツ

ナフサ調達は
海外に依存

ナフサの8割は中東由来

国内のナフサの総需要(25年)は3347万キロリットル。そのうち国内での原油精製由来の国産が4割、中東からの輸入が4割超、中東外からの輸入が2割弱だ。国産ナフサの原料となる原油でも9割を中東に依存しており、実質的な中東依存度は8割にのぼる。

ウクライナ危機以降
中東比率が増加

2016202220256080100%中東からの輸入
2016202220250102030輸入国数
貿易統計

中東以外からでは韓国や、ペルー、米国から輸入している。輸入ナフサに占める中東割合は2022年のウクライナ危機を境に5~6割から7割以上に上昇している。輸入先の国の数も減ってきており、調達先の集中が進んでいる。

米国などからの輸入増で補塡

2025年推計2026年4月以降推計020406080100%国産維持見込み中東輸入減少中東外輸入2〜3倍へ増加見込み

対策として取り組まれているのは、原油の国家備蓄の放出と、中東外からのナフサ調達だ。米国を中心にアルジェリア、オーストラリアなどから調達し、1カ月あたりの中東外地域からの輸入量は4月は倍増、5月以降は3倍程度を見込む。ただイラン軍事衝突前と同水準の調達総量を確保するのは難しく、国内のエチレン生産設備の多くは減産することで稼働維持を図っている。

エチレン生産設備は国内に12基

運営企業地域
三菱ケミカルG(8%)茨城
三井化学(16%)大阪千葉
三菱ケミカルG・旭化成(8%)岡山
出光興産(16%)千葉山口
ENEOS(15%)神奈川に2基
丸善石油化学(8%)千葉
丸善石化・住友化学(11%)千葉
東ソー(8%)三重
レゾナックHD(10%)大分
カッコ内は国内生産能力に占める割合

エチレン生産設備はナフサクラッカーとも呼ばれる。国内には12基あり、年間の生産能力は616万トンだ。化学や石油精製企業が運営し、各コンビナートの中核設備だ。米国などではエタンを原料に基礎化学品を製造することもあるが、日本の設備の主原料はナフサだ。コスト面では劣るが、エチレンだけでなくプロピレン、ベンゼンなど多品種を生産できる強みがある。

安定調達に課題、
長期化で最終製品の
値上げ不可避

中東外からのナフサの調達を進めているが、多くは長期契約ではなく単発で買うスポット購入だ。今回のような緊急事態の場合に一時的な補塡としては有効策だが、中長期的な安定調達とは言いがたい。かつナフサの相場高騰で、スポット購入の価格も2倍などに上がっておりコストもかさむ。

原料価格急騰、
自助努力で回収難しく

2025/01/012026/04/2105001,000ドル/トン
アジア指標となる東京オープンスペックの価格

高いナフサを調達していることで、避けられないのは値上げだ。原料価格が急激に上がり、自助努力で吸収することは難しい。すでに食品や薬の錠剤の包装に使われるプラスチックや、不織布の原料や繊維、建材に使われる塩化ビニール樹脂などで値上げが相次いでおり、最終製品への価格転嫁も進む見込みだ。

川中・川下へ徐々に波及

企業名値上げ内容
クレハ家庭用食品保存袋を25~35%以上値上げへ
男前豆腐店包材コスト上昇で全製品の出荷価格を6月から引き上げ
日本ミシュランタイヤ国内市販用タイヤの出荷価格を平均3~5%引き上げ
Jーオイルミルズキャノーラ油など家庭用食用油を6月1日納品分から11~16%値上げへ

値上げは化学品など原料段階から始まり、徐々に供給網の川中、川下へ波及している。家庭用の食品向け密閉保存袋や食用油、包材コスト上昇で豆腐など身近な製品で値段が上がる見込みだ。

安定供給網構築が今後の鍵に

ホルムズ海峡の事実上封鎖で、いかに身の回りの製品が石油、ナフサに依存しているかが顕在化した。日本は過去の教訓を生かし石油としての国家備蓄はしてきたが、ナフサとしての備蓄はされてこなかった。地政学リスクも踏まえて、いかに安定な供給網を構築できるかが今後の課題となる。

出所の表記がないイラストや図解は石油化学工業協会の資料を基に作成。工程などのイラストはイメージ