1――日本経済はコロナ前の水準を上回っているものの、牽引役は政府消費
実質GDPの成長に最も寄与しているのは政府消費(政府最終消費支出)であり、直近の寄与度は+2.4%ptである。政府消費はコロナ禍の間も、足元においても増加傾向を続けており、日本経済を牽引している。
その次にプラスの寄与をしているのは民間企業設備投資であり、2022年4-6月期にコロナ前比でプラス転化した。その後は人手不足による供給制約や物価上昇の影響もあり、寄与が大きく拡大しない状況がしばらく続いた。ただ、2025年に入る頃から徐々に存在感が高まってきており(直近の寄与度は+1.0%pt)、今後は成長の牽引役となっていくかどうかが注目される。
上記2つ以外は、どの需要項目もコロナ前比マイナスにとどまっている。民間消費(民間最終消費支出)は、2023年1-3月期にプラス転化へあと一歩のところまで近づいたが、その後は物価上昇が本格化したことで再びマイナス寄与が拡大した。設備投資と同様、2025年に入る頃から物価上昇の鈍化もあり回復が強まったが、直近の寄与度は▲0.1%ptとマイナスにとどまっている。今後については、春闘の高い賃上げは継続している一方、中東情勢の影響により既に消費者マインドが大きく低下しており、物価上昇の再加速も見込まれる中で、再び下押し圧力に晒されることが懸念される。
日本経済は民需の回復力が弱く、仮に政府消費の支えがなかったならば、実質GDPはコロナ前の水準を今でも下回った状態にある。本稿では、内閣府「国民経済計算」(SNA)の年次推計のデータを用いて、日本経済を支える政府消費について、その中身がどういったものであるのかを見てみたい。
1 後述するように、本稿では内閣府「国民経済計算」の年次推計のデータを用いて、コロナ禍からの回復の牽引役である政府最終消費支出について、増加の内訳を見ていく。このデータが年度次であるため、コロナ前との比較をするに当たり、起点を2018年度とした。なお、2019年度については、消費税率引上げやコロナ禍の影響が含まれることで、実質GDPは2018年度比▲0.9%となっている一方、政府消費は2018年度比+2.4%(GDPへの寄与+0.5%pt)となっている。
2――実質政府消費を押し上げているのは高齢化による医療・介護給付費の増加と物件費の増加
物価上昇の影響を考慮した実質値であるため、単価要因(診療報酬などの公定価格の引上げ)以外の要因を主として増加していると考えられる。つまり、給付を受ける高齢者の人数全体が増えることや、高齢者の中でもより年齢の高い人の割合が多くなる結果1人当たりの医療・介護費用が増加することといった、高齢化の進行を反映した要因である3。
図2に戻ると、次に寄与度が大きいのは「中間投入」+5.3%pt(実質GDPへの寄与度は+1.0%pt)であり、政府の活動に伴う様々な物件費である。政府は一般行政、外交、防衛、警察、教育などの様々な「サービス」を産出し家計や企業に提供していると捉えられるが、政府の産出物は市場で取引されるわけではなく市場価格がないため、費用の積上げで産出を計測することになっている。そのため、政府がサービス産出の過程で民間部門に支払った中間コストがGDPの一部として表れている。
それ以外の政府サービス産出費用については、「固定資本減耗」が寄与度+1.5%ptとなっている(実質GDPへの寄与度は+0.3%pt)。これは過去の公共投資によって形成した固定資産について、サービス産出活動の中で生じる物的劣化・陳腐化などから生じる減耗分を評価した額である。「雇用者報酬」については寄与度▲0.1%ptであり、公務員の給与等は総額ベース・物価対比で見て減少している。
2 実質化は、政府最終消費支出のうち政府現実最終消費(政府集合消費支出)と現物社会移転(政府個別消費支出)を分けて行った。年次推計では、政府最終消費支出と政府現実最終消費の名目額と実質額が公表されているため、これを用いて残差として現物社会移転の名目額と実質額を算出し、その比として現物社会移転のデフレーターを計算した。現物社会移転には市場産出の購入と非市場産出があるが、市場産出の購入が性質別項目として表章されているのに対し、非市場産出については性質別・目的別の各項目の中に溶け込んでいるため、該当すると思われる項目を個別に抽出した。具体的には、市場産出の購入以外の各性質別項目(中間投入、雇用者報酬等)について、目的別項目のうち「保健」、「娯楽・文化・宗教」、「教育」、「社会保護」(ただし、それらの下の細分類のうち「R&D」、「その他」等のいくつかの項目を除く)を非市場産出とした。
3 医療費の増加要因としては、高齢化要因を含む「人口要因」の他に、技術革新などで医療が高度化し、それとともに高額化する影響などもあると考えられる。財務省によると、医療費全体の伸びが2000年以降、年当たり+2.1%で、うち人口要因は+1.2%であるため、人口要因以外の影響が+0.9%程度ということになる。人口要因以外の影響の中で、高度化に対応するものとしては「新規医薬品等の保険収載」、「過去の改定で収載された高額・高度な医療へのシフト」が挙げられている。他方、SNAで見ると、介護等も含めた現物社会移転のデフレーターは足元で大きくは上昇していない(2024年度の2018年度比は+1.7%であり、政府現実最終消費デフレーターが+12.8%であるのと比べても低い)。
3――中間投入への寄与は防衛が大きい
保健の内訳を見ると、コロナ禍の時期に増加しているのは大半が「公衆衛生サービス」であり、ワクチン購入費用が主な要因と考えられる。ただし、新型コロナのワクチンは当初は海外から購入していたため、その分はGDPの需要項目のうち輸入にも計上され、GDP全体には影響しない7。
経済業務については、2020~22年度にかけて寄与が大きくなっているのは「運輸」と「その他の産業」であり、後者の寄与度は2022年度に+0.5%ptと経済業務の中で半分程度に達した。その他の産業には、金額は示されていないが「流通・保管・倉庫業」、「ホテル及びレストラン」、「観光」が含まれる。正確なところは不明だが、官公庁においてコロナ対応業務が増加し、コロナ禍が明けるにつれ寄与が縮小したものとみられる。なお、直近2024年度にかけては、運輸やその他の産業に代わって「鉱業、製造業、建設」が増加し、寄与の半分程度(+0.3%pt)を占めている。
国と地方については、図2の現物社会移転(市場算出の購入)以外の部分にほぼ相当する。国と地方の寄与度は、2024年度は等しいが、2020~22年度にかけては地方の方が大きい。図4で見た保健(主に公衆衛生サービス)や経済業務の拡大は主に地方だったとみられ、例えば保健所の業務増大などが影響している可能性がある。地方についてはSNA年次推計の基礎資料となる総務省「地方財政統計年報」を確認したところ、2022年度までに物件費が大幅に増加しており、主要因は「委託料」の増加である9。コロナ対応は地方自治体の職員だけで完結できたわけではなく、民間企業も多くの業務を受託し、対応に当たっていた様子が窺える。
なお、コロナ禍等における政府の対応という観点では、政府消費や公共投資以外の政府の支出により経済が下支えされていた側面もある。付加価値であるGDPの変動に直接的に結び付くのは政府消費、公共投資、公的在庫であるが、政府支出の中にはGDPには直接現れない移転支出もある。一般政府の移転支出について、実質値が得られないためGDP比の累積変化を見ると(図7)、例えば「その他の経常移転」は、2020年度に家計への1人10万円の特別定額給付金や、企業への最大200万円の持続化給付金などにより大幅に増加した。これらは、一部は家計の貯蓄や企業の運転資金に回りつつ、一部は民間消費や民間企業設備投資の下支えに回ったと考えられる。規模は相対的に小さいが、コロナ禍では「資本移転」も増加しており、ここには企業への投資補助金が含まれる(具体的に何が寄与しているかは明らかでないが、例えば2020年度3次補正予算で造成された2兆円のグリーンイノベーション基金による事業も含まれる10)。コロナ禍以降では「補助金」11が増加しているが、これは現在も続けられているガソリン代や電気・ガス料金の抑制への補助金とみられ、価格低下を通じて民間消費の下支えとなっている。
4 1回限り使用される弾薬類については、購入時に公的在庫変動の増加として計上され、使用時に公的在庫変動の減少と政府最終消費支出の増加が記録される(使用時においては需要項目間の振替になることからGDP全体には影響しない)。
5 図1の公共投資は公的企業設備と公的住宅も含んでおり、図5の一般政府のみの公共投資と範囲の違いがあることに留意。また、実質化は一般政府の総固定資本形成のデフレーターで行った。
6 防衛装備品のうち国内機械受注を巡る動向については拙稿「機械受注から見た防衛力強化」(2026年4月13日)も参照。https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=85208?site=nli
7 ワクチンの接種費用については、接種時点で現物社会移転(市場産出の購入)に計上され、政府最終消費支出を増加させる。
8 図2、図3の現物社会移転と若干ながら差が生じるのはほぼ全て地方政府分である。生活保護法や障害者総合支援法等に基づく医療費負担、子どもの医療費助成等の地方公共団体単独実施に係る医療費負担など公費負担医療給付分と考えられる。
9 物件費(2019年度以前は「賃金」を除く)が2022年度に2018年度比+50.3%増加し、うち委託料の寄与度が+40.7%pt。
10 同基金は中央政府内の国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に造成されており、NEDOから企業に支出がなされた段階で一般政府から企業への資本移転として記録される。なお、造成後に2022年度2次補正で 3000億円、2023年度当初で4564億円を積み増し、基金の総額は2兆7564億円となっている。
11 ここで言う「補助金」に該当するには、(1)市場生産者の経常費用を賄うために交付される、(2)財貨・サービスの市場価格を低下させる、という要件があり、投資支援の補助金については前述の資本移転に分類される。
4――政府消費等による経済の押上げは今後も続くが、中長期的には民需主導の回復が重要
今後も、日本の人口動態において高齢化の進行はしばらく止まらないことから、医療・介護給付によるGDPの押上げは継続すると見込まれる。防衛についても、政府消費の寄与が今後も実質ベースで拡大するかは定かでないが、公共投資については防衛装備品の過去の契約分の納入が進むことで今後に押上げ効果が本格化してくる可能性がある。また、2026年は安保三文書の改定が予定されていることから、仮に防衛費対GDP比の目標が2%超に引き上げられるなら、それによって次期の防衛力整備計画の期間中に政府消費や公共投資が更に拡大する。こうしたことから、防衛力強化による公共投資を含めたGDP押上げも、少なくとも当面は続くと考えられる。高齢化と防衛という要因が日本のGDPを押し上げる構造はこれからも続きそうである。
他方、民間における消費や設備投資の需要について、これまでの回復は力強いとは言えず、今後についても中東情勢の影響などから下振れリスクが存在している。しかし、民需が力強さを欠いたまま、高齢化要因や政府の物件費の増加を主たる牽引役として拡大する経済は、中長期で見て持続可能性があるとは言えない。医療・介護保険の給付費は現役世代の所得から支払われる税・社会保険料により賄われる部分が大きく、給付と負担のバランスを欠けば家計消費を抑制する。防衛を始めとする各種の政府サービスについても、原資は少なくとも長期的には税収の裏付け、その背後に民間の経済活動が生み出す付加価値の裏付けが必要であり、民需が低迷したままで政府消費だけを際限なく拡大できるわけではない。
民間消費・投資の持続的な成長に向け、まずは中東の混乱の早期収束と、一段のインフレの回避が望まれる。それとともに、物価上昇に負けない賃上げの継続、省力化投資・DX投資等を通じた生産性向上、そうした投資や労働移動の円滑化も通じた供給制約の克服などが重要と考える。また、高市内閣が進めようとしている危機管理投資・成長投資については、政府自身の固定資本形成以外の投資補助金やその他の移転支出はGDPには直接現れない支出となる(あるいは投資減税もGDPには表れない)。こうした官の投資は、企業が元より予定しているような既存の設備投資計画への単なる資金補助で終わるのではなく、投資による成長期待を生み、民間投資の持続的な増加につながるような効果的なものとすることが重要と考える。