爪切りが定期おトク便
魚釣りに出かけた。
別に趣味が魚釣りです、というわけではない。人類が忘れてしまったハンティングの血が急に活発になり、身近でハンティングできるものはなんだろう、と考えた結果「魚釣り」ということになった。なぜ急にハンティングの血が活発になったかはわからない。季節的なものかもしれないし、星回りのせいかもしれない。
釣竿を持って海に出かけた。
海である必要はなかったけれど、ハンティングしたものを食べたいと思うと、川よりは海がいいかと思ったのだ。もし釣れれば、その日の晩御飯は魚料理で食卓は埋め尽くされる予定だった。
海以外の選択肢もあった。
最近はM38星雲あたりで、コスモヒラマサが爆釣と聞いたし、スペ東では、「宇宙マグロ二夜連続」も放送されていたので、アンドロメダ海雲にマグロを作りにでかけてもよかった。釣り情報のサイトを見ていたら、土星の輪の周りでユニバースバスも連れているそうだ。ただあの辺りのユニバースバスは外来種で、あまり美味しくないと聞いたので選択肢からは外した。
また最近はギャラクシージギングも流行っていると聞く。各社がギャラクシージギング用のコスモスルアーを販売している。あまりに釣れすぎて宇宙の生態系の秩序を乱すみたいな議論も生まれているのは誰もがご存知だろう。
なぜ急に宇宙の話を書いているかと言えば、暇だったからだ。私のハンティング心は溢れんばかりに、というか溢れていたのだけれど、海の魚は賢いようで、釣り竿はピクリとも動かなかった。ルアーを投げる私の腕が疲れてピクピクしただけだった。
私だけではなく、周りの釣り人たちも釣れていないようだったので、私の釣りの腕の問題ではなく、海に魚がいなかったようだ。海には魚がいると考えがちだけれど、そんなことはないのだ。
基本的に海に魚はいない。
たまに釣りに出かけるのだけれど、一つの真実だ。海には魚はいないのだ。もちろん川にもいない。なぜなら釣れないから。全然釣れないのだ。魚は幻の存在なのだ。我々は魚という存在は知っている。ただそれは知っているだけで、存在しないのだ。
ツチノコと一緒だ。
我々はツチノコの存在を知っている。形も知っている。蛇の腹部分を平たくしたものだ。ただ存在はしない。なぜなら誰も捕まえたことがないからだ。ただいると信じてツチノコを探している人たちもいる。魚と一緒。誰も釣ったことがないのだ。私だけではなく、周りも釣れていないから。存在しないのだ。
そうか、魚はツチノコと一緒なのか、と思いながら、海風でベトベトになった髪を撫でながら空を見ていた。もはや海すら見ていないのだ。釣れないから、海を見たくない。あとスーパーで魚を売っているから存在はするのではないか、とも考えられるが、それは除外するものとした。
つまり暇で、空を見ていたので、先に書いたような「宇宙マグロ二夜連続」みたいなことを考えていたのだ。他に考えることもないからだろう。別に面白くはない。暇は碌なことがないということだ。
あとスマホを見ていたら、Amazonで爪切りが「定期おトク便」で売っていた。3カ月毎に爪切りが届くらしい。爪切りってそんなに頻繁に買い替えるものなのだろうか。もはや爪ではない幻を切っているのかもしれない。
問題は爪は存在を確認できることだ。
私も指を見たのだけれど、間違いなく爪は存在した。ただそれは私が爪を思っているだけで、「定期おトク便」の爪切りは私がまだ存在を確認できていない爪を切るのかもしれない。すると3カ月で爪切りの歯はボロボロになるのだ。
そんなことを考えていたら、夕方になり釣りは終わった。結局、釣竿がしなることは一度もなかった。身体中が海風や海水でベトベトになっただけだ。それは幻ではない。間違いなくベトベトだったから。



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