NAT's blog

ゲームをプレイしていて思ったことや気付いたことをまとめていきます

【読書感想文】Thisコミュニケーション

◎ あらすじ

20世紀後半に突如として現れた「イペリット」と呼ばれる異形の生命体によって、人類は滅びようとしていた。

イペリットは文明を破壊しガスを撒き散らして、地上のほとんどを人類の住めない場所にしてしまった。

わずかに生き残った人々は、ガスの届かない高地や地下などでの局地的な生活を余儀なくされた。

元軍人のデルウハは、食料を求めて高地をさまよっていたところ研究所を発見、さらに研究所に住んでいる「ハントレス」と呼ばれる少女たちと出会う。

ハントレスは生身でイペリットと対等に戦闘ができるほどの身体能力を持つが、戦術という点では全くの素人だった。

そこでデルウハはハントレスたちの指揮官となり、イペリットと戦う。

一日三食の食事を対価として。

 

 

◎ 好きなシーン:最終回の美しさ

この作品の一番好きなシーンは、やはり最終回だ。

よみがデルウハの手を握って語りかけるシーン。

”こんなこと…人に訊いたことがないし…多分この先誰にも訊かない…。”

”でも一生に一回あんたにだけは訊きたい…訊かなくちゃ私を保てない……。”

”私のこと……私達のこと、愛してくれてた?”

よみの言葉を聞いたデルウハは、よみの手を握り返す。

この反応を見たよみたちは立ち上がり、イペリットを駆逐すべく飛び立っていく……。

 

しかし、デルウハがよみの手を握り返したのは、死ぬ間際の肉体の電気信号的な反射であり、デルウハが意思をもって握り返したのではない。

よみたちはデルウハが自分たちを愛してくれていたと「勘違い」したまま飛び立っていったのである。

この流れが最高に美しい。

このシーンでは、よみは自身の問いかけに対して ”Yes” というデルウハの返答を求めているのだと思う。

さらに、よみ自身、おそらく他のハントレスたちも、は「デルウハが私たちのことを愛してくれていた」と心の奥で信じている。

それでも確信が欲しい。

「愛していた」とデルウハ本人から言ってほしいのだ。

 

コミュニケーションとは本質的に一方通行である。

どれだけ言葉を交わしても、態度を汲み取っても、他人を100%理解することは不可能だからだ。

”分かってたことだけど、私達のやってることって、うまくいってるかどうか証拠が出るわけじゃないのがつらいわ。”

”ちょっと笑顔が優しくなったかなとか、食べ物をくれたとかで、そうなのかもってフワッと思うだけで…。”

だからこそ、「通じた」と感じられた瞬間は尊い

よみたちはデルウハが手を握り返してくれたとき、通じたと確信している。

しかし、仮にデルウハの意識があったとしたら、よみの問いかけには心の底から ”No” と答えるだろう。

どこまで行ってもコミュニケーションというものは勘違いや拡大解釈でしかない。

だがそれで良いのだ。

デルウハがよみたちのことを何とも思っていなくても、よみたちの視点ではデルウハが今までにしてくれた行動は間違いなく愛なのである。

 

◎ 好きなキャラ:にこ

作品を通じて成長していくキャラが好きなので、にこはかなり好きだ。

初期はただ皮肉屋で不真面目な性格が目立っていたが、それは自身のメンタルの不安定さの裏返しだった。

この不安定さは二度の出来事によって取り除かれる。

 

一度目はバッティングを練習する回。

練習をサボっていたにこをわざわざ探しに来てくれたよみと、アクシデントが起こり落下してしまうにこを助けてくれた他のハントレスたち。

にこの場所を知っていたのが、一番他人に興味の無さそうなみちというのも良い。

ここでにこは、他のハントレスたちを信用するようになる。

"他人だって人間だろ、家族だけが人間関係を作る相手じゃない。"

その後の食事シーンでは悪態をつきながらも、デルウハたちとの輪から外れようとはしない。

 

二度目はデルウハが世界を救うと宣言した回。

ここでデルウハを信用する。

このシーンから、以前からにこは心中にかなり熱い感情を抱えていたことが伺える。

ただ、人類の再興は絶望的という風潮と、にこの皮肉屋な性分のせいで、その感情を周囲に発露できていなかったのではないか。

そこでデルウハが世界を救う、と(にこから見れば)大真面目に発言したおかげで、同じ志を持った仲間を見つけたとデルウハを信用するようになった。

”…でも正直お前もちょっとは憧れてんだろ?”

”自分のそういうとこ否定するために他人の似た要素バカにすんのやめた方がいいぞ。”

にこが殺せなかった子どもの人付きイペリットをデルウハが殺したのも「自分ができないことをやってくれた」という信頼を得るポイントになっている。

直後に現れた吉永を殴ったのは、にこの内面を代弁してくれたデルウハを茶化すような振る舞いが気に食わなかったのだろう。

 

この二度の出来事で、にこは大きく成長する。

以前は親からの愛情を執拗に欲していたが、終盤であっさりと切り捨てる。

デルウハがハントレスたちを殺していたという事実を知ったときの反応も、バッティング練習後とデルウハが壊れる直前とで全く異なる。

時間と空間の説明を実はしっかり聞いてたのもにこらしい。

読み返す度に新しい発見がある、味わい深いキャラだと思った。

 

◎ デルウハ以外の大人たちの情けなさ

作中にはデルウハ以外に多くの大人が登場するが、誰もが相手を思いやっているようで自分のことしか考えていない。

大人たちの言動には乖離がある。

コメディ色マシマシでこれらの情けない大人たちが描かれているが、このギャグはデルウハが適切なツッコミを逐一入れているから成り立つ。

”今言う?しかもちょっと俺のせいにしてない?”

”大人なんだからちゃんと組織のために自分の意見くらい曲げろ?”

”それはにこからしたらただの自分に興味がないハゲだろうがよ!脳内の美談を基準に現実と関わるなバカ!”

デルウハのキレキレのツッコミが冴える。

大人たちは自身の基準によみたちを当てはめて、相手を100%理解していると思い込んでいる。

先述の通り、コミュニケーションは一方通行的なものであり、他人と100%分かり合えることはない。

さらに、時間経過によって考え方や価値観も変わっていく。

だから常に歩み寄り続け、自身の中のその人の像を更新し続ける努力が必要だ。

大人たちには、この歩み寄りが足りなかった。

デルウハの行動理念は一日三食の食事であり、作中を通じて変わらないし、よみたちを愛してはいないと本人は言う。

しかし誰よりも誠実によみたちと向き合い、コミュニケーションを紡いできた。

デルウハにとっては、よみたちとのコミュニケーションは自身の本懐を果たすための道具でしかなかったが、その道具がどれほどよみたちを救ったか。

それもこの作品の味だと思う。

 

◎ まとめ

本作品はコミュニケーションに焦点を置いて描かれている作品だが、それだけではない。

戦闘シーンも見どころ抜群、終盤に至ってはミステリー要素すら詰め込んでくる。

全12巻で比較的サクッと読める、しかも最終回の爽快感は格別......。

と、全体的に非常に満足度の高い作品だった。

好きな漫画トップ5には入る。

それと散々言われてるとは思うのでここに書くか迷ったが、やっぱり"this"と"dis"をかけてて上手いタイトルだな~と思った。

作者様がXで投稿しているDLC漫画も非常に面白いので、読んでない方はぜひ!