受刑者の選挙権制限の違憲性 「法への服従」と矛盾する 安藤馨さん
■「憲法季評」安藤馨・一橋大学教授(法哲学)
公職選挙法には受刑者が選挙権を有しないとする規定が置かれているが、高松地裁はこの規定を成年者による普通選挙を定めた憲法15条に違反し違憲とする判決を今年3月末に下した。
最高裁判例では選挙権の制限は「自ら選挙の公正を害する行為をしたもの等」を除き原則として許されないとされる。この「等」を巡り、先行する類似の訴訟でのこれまでの合憲判決では、社会から隔離された施設で処遇する必要があると判断された受刑者は、それだけ社会生活に必要な規範意識が欠如していると考えられ、それゆえ公正かつ民主的であるべき選挙に参加する適性がない、などとされてきた。これについては、同等の他害行為を行ったが責任能力がないために無罪となった者には権利制限がない、社会からの隔離の必要性が消滅したと認められる仮釈放中の受刑者には当てはまらない、といった難点が思い浮かぶが、ここでは受刑者と選挙権の問題を法への服従の観点から考えてみたい。
公選法は選挙違反で有罪が確定した者の公民権を停止することも定めている。選挙権の制限はいかなる場合でも非民主的であるには違いないのに、選挙犯罪の場合にはそれに対する措置として選挙権の制限がふさわしいと考えられるのはなぜだろうか。私に思いつくのは、選挙犯罪によって歪(ゆが)められた不公正で非民主的な選挙の結果に他者を服従させようとした者は、自身もそのように扱われてしかるべきである、すなわち、自身が有権者から排除されているという点において非民主的な選挙の結果に従わせられてしかるべきである、という同害報復的な論拠である。しかしながら、選挙犯罪については仮にこれでよいとしても、一般受刑者にはこの論拠は適用できない。
次のような議論はどうだろうか。民主的な選挙権の行使は、その結果(として構成される立法府の決定たる法)に他の人々を服従させようという意志を前提としている。したがって、選挙権を行使しながら法に服従する気のない(=規範意識の欠如した)者は、自分では受容しない服従を他者には不公正にも要求するものであって、その参加が選挙の公正を害するがゆえに、選挙権を認めるべきでない、というわけである。一見するとそれなりに筋が通っているようにも思われるが、選挙権と法への服従の関係については、次のような問題を考える必要がある。
いったん受刑者の問題を離れて、選挙権を有しない未成年者の法的地位の問題について考えよう。少年犯罪に対する国家の実力行使(保護処分・刑事処分)は成人に対するものよりも制限されているが、通常は、少年における理性や自律的選択能力の未熟にその根拠が求められる。だが、年齢とある程度相関しているとはいえ、これらの能力を十全に備えた未成年者もいれば、それらが未発達な成年者もいる。年齢はこれらの能力の代理変数・指標としては(それもよりによって刑事処分という国家の実力行使の基準に用いられるものとしては)適切でない。能力という真の変数の丁寧な考慮を欠く、年齢による刑事処分の制限は、同じく端的に年齢によって定まる何かによらずには十全には説明できないのである。
そこで、未成年者に選挙権がないことが未成年者に対する刑事処分の制限の根拠なのだ、とする説が唱えられている。多くの犯罪は、法がそれを禁じていようがいまいが道徳的不正でもあって、それを犯すものは非難に値する。しかし、犯罪には「(選挙を通じた)民主的決定によって定められた法なのに服従しない」という法への服従義務に対する違反も存在する。選挙権を有しない未成年者にはこの後者の道徳的義務が存在しないために、必然的に後者については非難に値せず、その分だけ、非難としての刑事処分が成年のそれに比して軽減されなければならない、というのである。これは選挙権の年齢引き下げと少年法改正が連動して行われた事実とも符合する。
能力と処遇の関連がどうであれ、選挙権が法への服従義務の基盤であることは確かであり(選挙権を有しない二級市民に一級市民と同等の法服従を要求することは不公正であろう)、この点は仮に受刑者が選挙権の制限を受けることが正当だとしても変わらない。
そうだとすれば、服役期間中に選挙権を有していない受刑者は選挙権を基盤とする限りで服従義務を欠いている(拘禁刑は継続的実力行使であって開始時のみならず継続的に正当化を要求する)。さらに、受刑者が自らを受刑者たらしめている刑事政策の正当性に対する異議申し立ての機会を奪われているという点で政治犯と同様の構造があることにも注意しておきたい。
こうしてみると、選挙権なき受刑者の処遇は(同等能力の)未成年が犯した場合と同様に制限されなければならないはずである。そのような制限を受け入れないのであれば、受刑者に選挙権を賦与することが行刑の正当性にとっての必要条件である。受刑者は二級市民ではなく一級市民であってこそ服役の義務を十全に負い得る。未成年者に対する処遇を超える分の刑罰は、法に服従しないことの不公正さを既に罰しているのであって、選挙権の剝奪(はくだつ)は端的に不正かつ過剰である。
冒頭で触れた違憲判決に関して、高松市選挙管理委員会は最高裁に上告した。続く違憲判決を期待したい。
安藤馨さん
あんどう・かおる 1982年生まれ。一橋大学教授。専門は法哲学。著書に「統治と功利」、共著に「法哲学と法哲学の対話」など。
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