AI企業が「受託」を始めた日。エンジニア、PM、デザイナーはどうこの先生きのこるか
本を出すので、それにまつわる最近の悩みや心配ごとなど。
OpenAIやAnthropicが、いよいよ現場に降りてきた。
OpenAIが開発会社を立ち上げた。企業の中に入り込むエンジニア(Forward Deployed Engineer)を送り、AIを業務の中核に組み込む会社だ。AIコンサル・エンジニアリング会社も買収する予定で、約150人のエンジニアやコンサルが最初から参加するらしい。
https://openai.com/index/openai-launches-the-deployment-company/
Anthropicも同じ方向に動いている。Blackstone、Hellman & Friedman、Goldman Sachsと組んで、Claudeを企業の中核業務に入れるためのAIサービス会社を作る。Anthropic側のApplied AIエンジニアも、その会社のエンジニアチームと一緒に動く。
要するに、モデルを作る会社が、APIを売るだけではなくなってきた。
「どうぞAIを使ってください」から、「私たちが御社をAIマスターにします」になってきているのだ。
新しい産業を作るより、すでに儲かっている産業を取りにいく
AIがあると、何でも新しく作れるような気がする。新しいサービス、新しいプロダクト、新しい産業、新しい働き方。もちろん、それはある。
でも、冷静に考えると、新しい産業を作るのはめちゃくちゃ大変だ。AIがあっても、顧客は急に増えないし、法律も急に変わらない。大企業の稟議は相変わらず遅いし、現場の人は急に新しいツールを好きになったりしない。経営者も、AIがあるからといって急にリスクを取るわけではない。
プロダクトを作るのと、産業を作るのは別のゲームなのだ。
となるとAI企業から見るて、もっと合理的な登山ルートがある。
それは、すでに成立している産業に入る。すでにお金が流れている業務に入る。すでに予算がある会社に入る。
そのほうが遥かに早い。
金融、セキュリティ、法務、会計、開発運用、カスタマーサポート、医療事務、バックオフィス。こういうところは、地味だけど固い。固いというのは、すでに誰かが困っていて、すでに誰かが払っていて、すでに誰かが儲けているということだ。
AIでまったく新しい市場を作るより、すでにある市場の利益率を変える。そのほうが、たぶん再現性が高い。
ビッグテック達は、ものすごい設備投資をすでにしてしまった。そしてさらなる投資を正当化するために、マネタイズを確実にしなければならない局面にある。OpenAIやAnthropicの全方位のマネタイズや事業戦略の裏には、そのような焦りがあると考えている。
コンビニのプライベートブランドみたいなことが起きる
この動きは、どことなくコンビニのプライベートブランド戦略に近いと思っている。
最初、コンビニは棚を貸す。いろんなメーカーの商品を置いて、どれが売れるかを見る。どの価格帯が強いか、どの地域で何が動くか、どの棚が利益率高いかを見る。
で、わかったところから自社ブランドを出す。
全部を自分で作るわけではない。OEMも使うし、メーカーの知見も使う。でも、棚と顧客接点とデータを持っている側が、儲かるカテゴリを順番に自社化していく。
AIでも、たぶん同じことが起きるだろう。
最初はAPIを出す。開発者やスタートアップやSIerやコンサルに使ってもらう。大企業にはPoCをやってもらう。その過程で、どの業界で本当に金が動くかが見える。どの業務でAIが効くかが見える。どの会社が払うかが見える。どの導入パターンが再利用できるかが見える。
そしたら、そこに自分たちで入る。直接やることもあれば、合弁を作ることもある。買収もするだろうし、パートナーも組むだろう。FDEを送り込んで現場の業務を吸い上げ、再利用できるところをプロダクト化する。
これは、AI企業からするとかなり自然な動きだと思う。
受託業界はどうなるか
ここからは予想。外したらスマヌ。でも、だいたいこうなるかなと。
日本だと、まず大手がビッグテックと組む動きをする。NTT、ソフトバンク、KDDI、NEC、富士通、日立、SCSK、TIS、アクセンチュア、デロイト、PwC、ベイカレントあたりは、ビッグテックやAI企業と組んで、国内版のForward Deployment会社みたいなものを作りにいくと思う。
単独で勝てるなら単独でやればいい。でも、モデル、計算資源、最新の導入ノウハウ、海外事例、資本力で勝てないなら、組むほうが合理的になる。ビッグテック側も、国内の基幹産業に食い込むためにはそのほうがはやいからだ。
問題は、椅子の数が少ないことだ。OpenAIやAnthropic、Google、Microsoft、Amazon、Meta、NVIDIAと深く組める椅子は限られている。結果として、組めた大手SIと、組めなかった大手SIの間には、かなり大きな差が出る。
組めた側は、最新モデル、導入ノウハウ、事例、評価手法、人材採用、ブランドで有利になる。独占禁止法に触れない範囲でも、実質的な差はかなり出ると思う。
組めなかった側はどうなるか。買収されるか、下請けになるか、ニッチに閉じるか、少しずつ縮むか。しかも、時間が経てば経つほど、買収価値は下がるかもしれない。AI導入のベストプラクティスが標準化されていけば、「その会社を買わないとわからない知見」は減っていくからだ。
つまり、買われるなら早いほうが高い。あとになるほど、データだけ、顧客だけ、人材だけ、みたいに分解される。
その後に、契約5年見直しとかで、組んだビッグSIも盤石じゃないかもしれない。
生々しく、そういう資本のゲームになりそう。
「ドメイン知識があるから大丈夫」は本当か
「でも、うちは細かい業務ドメイン知識があるから大丈夫」
「リアルのウェットな関係性があるから大丈夫」
「ラストワンマイルは人間の仕事だから大丈夫」
こういった意見は短期ではかなり正しいとは思う。
細かいドメイン知識は強い。現場の例外処理を知っている人は強い。業界の慣習や暗黙知、顧客との関係性は、簡単にはAIに入らない。
ただ、それはプレイヤー視点では、だ。
資本の視点から見ると、別の手がある。買えばいい。
ドメイン知識を持っている会社を買い、現場を観察し、業務を棚卸しし、暗黙知を形式知にし、データ化し、モデルを注入する。ウェットな関係性がある会社も同じだ。買って、役員を送り、業務を整理し、API化し、AIエージェントから呼び出せるようにする。
「ラストワンマイルは人間の仕事です」
では、そのラストワンマイルの会社を買ってAPI接続し、AIエージェントの外部スキルにします、という話になる。
配送、営業、現地対応、行政手続き、医療、介護、教育、建設、店舗運営。AIにできない仕事は、AIに接続される仕事になる。ここも楽観しすぎると危ないのではないか。
AIに置き換わらない仕事が残る、というより、AIから呼び出される人間モジュールになる。そういう感じのほうが近い。
人類に残される最後の仕事、土下座さえも「保険金ヘッジ」と「AIエージェント間示談」というアプローチで、透明化される可能性は高い。
会社は残る。でも職位は残らないかもしれない
ここがちょっと怖いところ。
細かいソリューションは、会社単位では生き残るかもしれない。でも、職位単位では残らないかもしれない。
ある業界特化の業務支援会社があるとする。その会社には顧客がいて、データがあって、現場知識があって、業界特有の例外処理がある。それは価値がある。だから買われるかもしれないし、大手AI連合の外部モジュールとして残るかもしれない。
でも、その会社にいるすべてのエンジニア、PM、デザイナー、CS、営業が、そのまま必要かというと、たぶん違う。
最初は必要だ。業務を理解するために、移行するために、教師データを作るために、例外処理を整理するために、顧客の不安をなだめるために。でも、自動更新システムができあがったらどうなるか。
自動でベストプラクティスを調べ、自動で業務フローを更新し、自動でUIを変え、自動でドキュメントを書き、自動でコードを書き、自動で検証し、自動でデプロイする。そういう製品が出た瞬間に、発注は減る。
いままでは、業務が変わるたびに要件定義をして、見積もりをして、開発会社に発注して、数か月かけて改修していた。でも将来は、「この業界の最新ベストプラクティスに合わせて」「来月の法改正に対応して」「現場の負荷が増えないようにして」くらいで終わるかもしれない。
たんにスイッチをオンにするだけ。
たんに設定を変えるだけ。
たんにAIが自動適応するだけ。
いまは大丈夫でも、自動適応製品が出た瞬間に、発注側はそっちを買う。
受託が忙しい時期は、たぶんしばらく続く。でも、それは需要増ではなく、終わりの前の移行需要かもしれない。
ソブリンAIは希望か
最後の希望として、ソブリンAIがある。
国策として国内AIを使おう。データ主権を守ろう。安全保障上、海外AIに依存しすぎるのは危ない。これはもちろん正しい。
ただ、これも万能ではないと思っている。
ソブリンAIでも、資本集約は起きる。海外のビッグテックに集約されないだけで、国内の大企業、通信会社、SIer、政府系ファンド、金融機関に集約される。つまり、中小の受託会社や個人の職位が守られるとは限らない。集約の単位がグローバルから国内に変わるだけ、という可能性がある。
さらに、もっといやなシナリオもある。
「安全保障された劣位AI」は念のため持っておく。でも、日々の経済活動では、高性能な海外AIを使う。
たしかにデータを抜かれるリスクがある。疑似植民地化するリスクがある。それでも、経済成長、研究開発、企業競争力、軍事、行政効率を考えると、使わないより使ったほうが圧倒的に成果がでるからだ。
そうなると、「ソブリン大事」と言いながら、現実には強いAIに寄っていく。
これは望ましい未来というより、起こりうる未来として見ておいたほうがいい、という話だ。
じゃあ、どうこの先生きのこるか
ここまで書くと、だいぶ暗い。
でも、別に「終わりです」という話ではない。たぶん、仕事の場所が変わる。
エンジニア、PM、デザイナーが生き残る方向は、「AIでできない作業」を探すことではないと思う。それは時間稼ぎにはなる。でも、AIでできない仕事は減るし、AIでできない仕事も外部モジュール化される。
それより大事なのは、AIを含んだシステム全体の責任に近づくことだと思う。
現場の業務を、AIが扱える構造に翻訳する。顧客の困りごとを、AI導入ではなく事業変化として捉える。AIと人間の分担を設計する。間違ったときの責任線を設計する。法務、UX、ブランド、セキュリティ、収益性のバランスを見る。現場の抵抗や不安も含めて、変化を着地させる。
こういう仕事は残る。というか、むしろ増えると思う。10年ぐらいは。
エンジニアは、コードを書く人から、業務を計算可能にする人へ。PMは、要件をまとめる人から、変化の順番を設計する人へ。デザイナーは、画面を作る人から、人間がAIを信頼し、監督し、修正できる関係を作る人へ。
このへんに移動できる人は強い。
あと、もうひとつ大事なのは、自分自身を自動更新することだ。AIに仕事を奪われるかどうかより、昨日の自分の仕事を今日の自分がAIで奪えるかどうか。毎週少しずつ、自分の作業をAIに渡し、浮いた時間で顧客、意思決定、業務、資本に近づいていく。
ここが分岐点になる気がしている。
職位を守るより、資本を積む
会社の勝ち負けは、これからかなり動く。
買われる会社もある。組める会社もある。組めない会社もある。伸びる会社もあれば、沈む会社もある。
その中で、個人が守るべきものは、職位ではなく資本だと思う。
ここでいう資本は、単にお金の話だけではない。AI、業務、事業、組織、デザイン、技術を横断して学び続ける人的資本。信頼できる顧客や仲間、専門家、経営者、現場との社会関係資本。そして、再編が起きてもすぐに不利な選択をしなくてよいだけの金融資本。
この3つを積んでおく。
会社にしがみつくより、移動可能性を上げる。職位を守るより、どの再編の中でも価値が残る場所に寄っていく。
たぶん、これがかなり大事になる。
AIで何ができるか、ではない
最近は、こういう世界観の中で、クライアントとモニョモニョ考えることが増えている。
AIをどう導入するか、という相談に見えて、実際にはもっと大きい。どの業務を変えるか。どの会社と組むか。どの領域を守り、どの領域を捨てるか。どの人材を残し、どの資本を積むか。
AI導入の話をしているようで、実際には「自分たちは産業地図のどこに再配置されるのか」という話をしている。
自社は棚を持つ側なのか、棚に置かれる側なのか。PB化する側なのか、PB化される側なのか。AIを呼び出す側なのか、AIに呼び出される外部モジュールなのか。
そういうメタなレイヤーでの、ポジショニングゲームを制さないとならない。
AIで何ができるか、ではない。
AIが入ったあとの産業地図で、自分たちはどこに立つのか。
この問いに早く向き合った人と会社から、次の居場所を作っていくのだと思う。
⋯というような時代に、この先生どうきのこるか?色々と議論した本が来週でるよ。よかったら買ってちょ。
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いただいたサポートは、コロナでオフィスいけてないので、コロナあけにnoteチームにピザおごったり、サービス設計の参考書籍代にします。



とても考えさせられる記事でした📝 AIを使いこなして、AIで奪われる側から脱却する。AIの進化が相当早いので、AIシフトのマインドが追いつかない人たちは危機感を持つ日はそう遠くないって思いました。 僕はAIでいかに楽するかを真剣に考えているけれど、ゾクゾクしましたぁ😱 また学ばせてください…
コンビニの新製品の話 有名な話だったらすみません。 静岡や山梨がテストマーケットとして選ばれることが多いらしく。富士山の辺では新しいものが買えるんだそうです… 全然関係ない話しちゃってすみません🙇♂️
深津さん、こんにちは。記事を拝見しました。「AIに置き換わらない仕事が残る、というより、AIから呼び出される人間モジュールになる」という一節で、ずっと言語化できなかった違和感の輪郭が見えた気がしました。「自分の仕事は大丈夫」と言いたい気持ちと、「本当にそうか」という不安の間で揺れてい…
予約しました!本楽しみです