地方衰退の一番の原因は「人口減少」ではない…山口の超富裕層が「住民税43億円」をまるっと抱えて移住した理由
■地方都市が抱える“脆弱性”とは 東京には「世界都市としての東京」という物語がある。京都には「千年の都」という物語がある。福岡には「アジアへのゲートウェイ」という物語がある。では、周南市には何があるか。「コンビナートの街」。それ以上の物語を、この街は持っていない。 物語とは何か。それは、その場所に住む意味を与えてくれる「なぜ」への回答である。人間は、パンのみにて生くるにあらず。給与明細の数字だけでは、人は定住しない。特に若い世代は、自分の人生に「意味」を求める。その意味を提供できない街から、人は去る。至極当然の帰結だ。 改めて、ジェームスさんの移住がもたらした数字の意味を考えたい。 数人の転入で予算が6.7倍になるということは、逆に言えば、数人の転出で財政が壊滅的打撃を受けるということだ。これは健全な財政構造とは言えない。そして、この事実は別のことも示している。「一人の重み」だ。 大都市では、一人の住民が転入しても転出しても、財政への影響は微々たるものだ。だが小規模自治体では、一人の決断が、街の運命を左右する。これは恐ろしいことでもあるが、同時に希望でもある。ジェームスさんはこう言う。 「変化を起こすのに、大勢は必要ない。本気の『一人』がいればいい」 問題は、その「本気の一人」が現れたとき、行政がその熱量を受け止める器を持っているかだ。ジェームスさんが周南市時代に経験したのは、まさにその器の不在だった。 ■市民政策が「なんとなく」で決まっていく 周南市が2003年に合併した際、ジェームスさんは賛成派として動いた。「規模のメリットを活かし、より広域的なビジョンを描けるはずだ」と。その期待は、純粋だった。だが純粋であるがゆえに、現実の壁にぶつかることになる。 合併から20年以上がたった今、ジェームスさんが目の当たりにした現実は期待とは程遠かった。都市計画も、教育政策も、産業誘致も、環境問題も、すべてが「なんとなく」で決められていく。とくに経済分野においては専門人材がいないに等しかった。 「市議会議員は29人いるが、正直言って問題はいろいろとある」 辛辣だが、これは全国の地方議会が抱える構造的な病巣を射抜いている。総務省の調査によれば、地方議会議員のなり手不足は深刻の一途を辿り、全国の議長の6割以上がその危機を認識している。なり手がいないのだから、専門性など期待しようもない。国の補助金メニューに載っているものを粛々と消化する――それが多くの地方議会の実態だ。 私がここで強調したいのは、これが「怠惰」の問題ではないということだ。ジェームスさんもこう補足する。「市会議員はそこそこの給与がもらえる。だから生活のために市会議員になる人も中にはいる。『街づくりに想いがないのでは』と市民から厳しい目で見られている議員も一定数いるのが事実です。彼らが無能だとは言わない。ただ、彼らに『2050年の都市ビジョン』を描く専門性を期待するのは、そもそも無理がある」