今朝のNHK日曜討論「どうなる?エネルギーと日本経済、石油確保は?物価高は?」。日本の課題がとてもよく分かるのと同時に、高市首相のように「嫌中」や憲法改悪に前のめりになっている場合では全くなく、そもそも「戦争などできない国」なので、実は憲法9条こそが日本の命綱であることもとてもよく分かります。(以下、NHK日曜討論の要旨を紹介します)
◆ホルムズ海峡封鎖、長期化なら世界経済を直撃
非常に厳しい状況が続くと考えられる。ホルムズ海峡の閉鎖から2か月余り、世界の石油供給の2割、液化天然ガス供給の2割が止まり、原油価格は高騰している。ホルムズ海峡封鎖という根本問題が改善されなければ事態は長期化し、世界にとっても日本にとっても相当厳しい状況が続くだろう。
ホルムズ海峡を通る石油・エネルギーの供給先には地域的偏在があり、日本を含むアジア地域が特に大きな影響を受け、実体経済への悪影響が強まりつつある。日本政府は短期的には石油を確保したとしているが、状況が長引けば安定的な確保が可能か疑問が残る。日本側の設備の問題もある。
中東の石油は割安なうえ品質が他地域と異なり、日本は中東産の品質に合わせた設備を整えてきた。中東以外の石油に切り替えるにはコストがかかり、事態が長引けば大きな打撃となる。
◆オイルショック時より深刻──実質賃金回復の出鼻をくじく
仮にホルムズ海峡が正常に戻ったとしても、石油製品の供給不足や価格上昇はすぐには収まらない。ナフサや石油関連製品の供給不足という点では、オイルショック時よりも今回の方が潜在的には深刻である。今年に入ってようやく賃上げが物価上昇に追いつき、実質賃金がプラスに転じてきたところであった。
世界経済について見ると、原油の純輸出国にとっては原油高騰は所得増となり経済にプラスに作用する面もあるが、いずれの国でもガソリン価格上昇により消費は落ち込む。特に深刻なのはホルムズ海峡経由の原油に依存する日本を含むアジア諸国である。原油高騰に加え、最悪の場合は原油・ナフサの調達自体が困難となり、急激な景気悪化と深刻なスタグフレーションのリスクを抱える。今回の危機は、日本を含むアジアにおける深刻な危機として捉えるべきだ。
◆第1次石油危機の4倍──石油・LNG同時途絶の衝撃
今回失われている石油供給量は2000万バレルで、世界供給量の20%にあたる。第1次石油危機時は500万バレル弱であったから、桁違いの水準であり、今回のホルムズ海峡封鎖による供給損失は圧倒的に大きく深刻だ。加えて、石油供給の途絶と同時にLNGの供給も止まっている。石油とガスの双方が大規模に停止するのは初めてのことであり、事態は深刻である。
◆経済規模36倍に成長したアジアを直撃する
この間、世界経済の中心はアジア経済へと移ってきた。1980年から2025年までに、世界経済全体の規模は10倍に拡大したが、アジア経済の規模は36倍となっている。そのアジア地域が今回の石油危機の直撃を受けており、長期化すれば、アジアはもとより世界不況のような事態も見えてくることになる。
◆「6割確保」の脆さ──紅海ルートも紛争次第
日本政府は代替ルートでの原油調達を現時点で6割程度確保できたとしているが、これは確実なものではない。世界的に原油の争奪戦が起きているなかで、安定的な調達が可能かは見通せない。とりわけ代替調達のかなりの部分はサウジアラビアの原油を紅海経由で輸入しているが、紛争が拡大すれば一気に止まってしまう。供給は非常に制約を受けているのである。これが続けば石油備蓄も尽き、各種製品の在庫もなくなり、極めて深刻な供給不足に陥る。経済は急激に縮小し、物価は大きく上昇し、深刻なスタグフレーションに陥る可能性がある。
◆ナフサから注射器まで──暮らしに広がる原油高
原油を精製してナフサなどの石油製品が作られる。ナフサはエチレン、プロピレンなどの物質に作り替えられた後、食品トレーやペットボトルなどのプラスチック、ポリエステルやナイロンといった衣料素材、医療用の注射器や点滴バッグなどの製品に加工される。原油高の影響は、実に多くの商品に幅広く及ぶ。
◆値上げは二段階でやってくる
商品やサービスの値段は、二つの要因で上昇していく。一つは、ガソリン代や電気・ガス代の直接的な高騰であり、これは秋以降に本格化する。もう一つは、幅広い商品に使われる包装材から、商品を製造する工場の稼働エネルギー、物流コスト、店舗運営費まで、実に幅広い領域への波及である。こちらは夏秋以降、半年ほどかけて本格的な価格上昇となって表れる。
◆「目詰まり対策」では追いつかない構造問題
日本政府はいわゆる「目詰まり」や偏りへの対策を様々な業種で講じているとしているが、原油不足は構造的な問題であり、一方に対応すれば別の場所で問題が生じる形となり、収束しない。原油価格の上昇や原油調達の困難化を企業が見越し、たとえば化学工業ではすでに3月から生産調整を行っている。原油から作られるナフサ、ナフサから作られるエチレンなども生産を絞り、エチレンなどを温存している。川下の、私たちが日常的に使う石油関連製品の供給不足は、これから本格化する。現時点では在庫があるためそこまでには至っていないが、すでにゴミ袋、ラップ、医療用機器など様々な分野で不足と価格上昇が発生しており、時間の経過とともに範囲は拡大していく。政府が目詰まりをきめ細かくチェックしてすべて解消することは不可能に近い。需要の抑制策なども本来は必要になってくる。
◆肥料を介して食卓へ──遅れてやってくる農業危機
農業への影響も深刻だ。米や野菜の生産に用いられる化学肥料には天然ガス由来の尿素が使われているが、その国際価格の上昇幅は実は原油よりはるかに大きい。ホルムズ海峡を通る尿素などの化学肥料の割合は、世界全体の5割近くを占める。この影響は石油化学に比べてやや遅れて表れるが、需要総体が減るわけではないため、食料品価格は2026年後半から2027年にかけて世界的に上昇してくる。ブラジルなどがホルムズ海峡経由の肥料を大量に使用しており、大豆やトウモロコシへの影響を経由して、最終的には日本の食料・食品価格にも影響してくる。
◆産業用の3分の1は食料生産に直結する
日本の場合、石油製品消費量の半分程度が運輸用、3分の1程度が産業用である。産業用のなかでは農業、林業、水産業の使用量が多い。これらは国内の食料生産・供給に関わる産業であり、輸入食料だけでなく、国内食料生産の面でも大きな影響が出る。
◆食料自給率38%、国産でも逃れられない
食料品価格は、原材料コストやパッケージにナフサ由来のものを使用するため全体的に上昇しており、今後半年ほどかけてさらに上がっていく。日本の食料自給率は38%で、もともと海外動向の影響を受けやすい構造であるうえ、パッケージ面でも影響を受けやすい。加えて、生産が国内であっても、前述のとおり肥料などを海外に依存しているため、やはり影響を免れない。現在、食費をかなり切り詰めている家庭が多いが、ここも打撃を受けるため、個人消費の改善が難しくなっている。
◆家計負担、年間5万円超──実質賃金は再び下落へ
ナフサ関連・石油関連製品の価格上昇に食料品価格の上昇が加わると、年間の家計負担額は4万7000円から5万3000円程度となる。残念ながら家計には大きな負担となり、今年に入って上昇した実質賃金が再び下落し続けるという、消費者にとってかなりの打撃になる。身の回りのものすべての値段が今後上がっていくことは避けられない。仮に原油価格が下がったとしても、値上げの動きは半年ほど続き、年内は物価上昇の波及が拡大する。
◆備蓄が支える「平常」──緩やかな節約呼びかけを
海外では政府が需要抑制を呼びかけているが、日本政府は現時点では慎重な姿勢である。代替ルートでの原油・ナフサ調達がかなり進んでおり供給面で問題はないため、節約を呼びかける必要はないとしている。節約呼びかけによる経済活動へのマイナス影響を懸念しているのである。しかし、現在普通に生活できているのは石油備蓄の放出に支えられているからであり、これは健全な状態ではない。従来通りの生活を続けること自体に無理がある。その意味で、無駄な部分を節約することが必要だ。長期的にも脱炭素を踏まえ、従来よりも石油を使わない方向で、電力発電においても石油を節約する形での節電を進めていく必要がある。日本政府はこの時点で、緩やかな形で節電・節約を呼びかけることがやはり必要だ。それを行わなければ、将来より厳しい時代が待っている。その厳しい事態をできるだけ後退させるためにも、いまの時点から緩やかに節約を呼びかける政策が必要である。
◆過度に恐れず、しかし正しく恐れる──備蓄が稼いだ時間を活かせ
過度に不安になる必要はないが、正しく恐れなければならない状況である。一方で、先行きが見通せないことが不安を生むため、情報を的確かつタイムリーに発信していくことが必要だ。日本は石油備蓄によってせっかく稼げた時間を有効に活用し、その間に石油需要を徐々に抑制していくこと、そして、先の石油危機の後に省エネで活路を見出したように、今回もそうした取り組みにつなげられるよう時間を使っていくことが必要である。
◆平時に強く有事に弱い日本のものづくり
日本はエネルギー調達のみならず、製造業においても限られた安定的なサプライヤーから部品を調達し、それを巧みに製造して質の高い製品を輸出するモデルであった。ところが、地政学リスクや自然災害でサプライチェーンが壊れた途端に製品が作れなくなる。他地域からの部品では対応できない。日本は平時には強いが有事には弱い。ここに日本のものづくりの弱点があり、エネルギーも同様だ。今後は調達先の分散化と、有事の際に他地域から輸入しても製品を作れる柔軟な生産設備体制の構築が重要となる。
◆脱石油こそ最大の安全保障──再エネは国内で生み出せる
今回の教訓として、エネルギー効率は高まったものの、依然として石油依存度が高い経済であるという日本の弱点が浮かび上がった。脱炭素、脱石油を進めていくべきである。すなわち、再生可能エネルギーを用いてエネルギーを作り出すということだ。再生可能エネルギーは国内で生み出せるため、地政学リスクが発生した際にも遮断されない。脱炭素、脱石油こそが今回の大きな教訓である。
◆補助金から構造投資へ──省エネ住宅・EV・公共交通
家計が恒久的にエネルギーコストを下げられるような構造的投資が必要だ。現在のガソリン代補助金は、短期的に家計のショックを和らげるうえで大きな役割を果たしているとは思うが、たとえばその財源を、次世代の省エネ住宅、電気自動車、公共交通機関の整備の効率化といった分野に振り向け、強化する時期に来ている。
◆中国が大きなシェア持つクリーンエネルギー部門──多角的協力で安全保障を
クリーンエネルギーの分野では、サプライチェーンにおいて中国が非常に大きなシェアを持っているのが現実だ。再生可能エネルギー、EV、バッテリーなど多くの分野で中国のプレゼンスは極めて高い。それを支えるレアアースについても、中国の競争力は極めて高い。したがって、この問題も総合的に考慮しながら、日本としてエネルギー安全保障をどう強化するかを考えなければならない。それを進めていくうえで、アメリカとの協力、アジアとの協力、そして多角的な協力を進めなければ日本は厳しい状況に陥る。政府、民間の双方にぜひ努力していただきたい。
(文責=井上伸、画像はChatGPTが生成したものです)